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とある男女の恋模様  作者: はから
第一章 とある男女の恋模様
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とある男のサービス残業

 

 水曜日。

 会社として定時退社日が指定されている。

 週に1回は残業しないで定時で帰りましょう、という施策だ。

 最近は労働時間も制限されており、昔みたいに深夜まで残業ということはなく、月の残業時間も一定時間までと定められている。

 激務と言われる建設業界だが、我社でも残業削減に意欲的に取り組んでいる。

 

 定時時間に退社する…帰宅するわけではない。

 楽しみ方は人それぞれだ。

 趣味に時間を費やす人もいれば早く帰宅して家庭サービスをする人。

 自分の目の前に座る人は定時ダッシュで飲むということにしているようだが…。












 「お疲れ様です」


 「おう」


 会社から歩いて数分の小料理屋には萩田さんと自分の二人。

 先日の検査報告書も梅田が問題なくまとめ、今日は何事もなく帰宅する予定だったのが運悪く萩田さんに捕まった。


 新村の件を報告するために萩田さんを捕まえようとするも逃げられた。

 萩田さんの席にいけば打合せだと逃げられ…。

 喫煙室に行けば入替りで喫煙所から逃げられ…。

 さては狙ってたな…。

 奥さんに部下と飲むと言って飲む口実に使われたんだろう。

 

 「芝ちゃんのやつは悪かったな」


 「リス子も勉強になったようなので。何事も経験じゃないですかね」


 「リス子なぁ…。報告書も上手く書けるようになったもんだ」


 「チューターがいいですからね」


 「へっ、言いよるわ」


 萩田さんたち課長たちが良く利用するお高い雰囲気の小料理屋だ。

 自分も数回しか暖簾を潜っていない。

 萩田さんたちはボトルをキープするくらい足繁く通っているようだ。

 萩田さん?そのボトル部長の名前書いてありますけど?

 え?すっぽかした部長が悪いって…。ええ…。


 「新村の件はどうやった?」


 「ありがちなやつですよ」


 梅田から聞いたことを萩田さんに報告した。

 終業後に居酒屋で報告って…残業じゃないか!

 違法労働だ!と叫びたい気持ちだ。

 足立ちゃんたちは女子会だー!って嬉しそうだったなぁ…。

 俺も暮林さんと飲みに行きたかったなぁ…。


 「どうしたらええと思う?」


 「施工管理部は忙しいですからね。

 中田さんや大島さん辺りの余裕のある方をチューターにしたほうのが正解な気がしますが…。

 山下さんと細谷さんをチューターから外すのも手かと。

 あと2か月でチューターも終了ですし、波風立てないように現状維持ですかね」


 「でもなぁ」


 「山下さんと細谷さんたち次世代の育成が必要ですかね」


 「ようわかっとるの」


 大手と言われる羽島建設。

 だが内情は若い世代が育ってきていないのも問題になっている。

 技術力や知識のある萩田さんたち世代が、もう10年もすると定年退職で一斉にいないくなってしまう。

 技術を売りにしてきた我社としては技術力の低下だけは避けたい。

 

 大手病という企業病が故の問題だ。

 数年前に社長が交代してからはかなり風通しはよくなったと思う。

 社長号令の下、多くの改革が行われた。

 今まで30代の中堅方が勤めていたチューターが20代後半の社員に変わったのはその影響だ。

 

 「後進を育てられんかったんわ俺らの責任だ」


 「山中さんや水野さん。うちで言えば石田さんだってできる人材だと思います」


 「山中も水野も石田も仕事はできる奴らだがなぁ…。俺らが育てらんかったんわ会社を引っ張っていく存在なんだわ」


 「管理職ですか」


 「いや、経営層だな」


 たしかに課長の萩田さん、部長の楠田さん、支社長の金沢さんは強いリーダーシップで社員を引っ張っている。

 先程仕事ができると挙げた3人の中堅社員では遠く及ばない。

 それを俺に言われてもなぁ…。

 平社員に言われても困るというのが本音だ。


 「前社長の木村さんと現社長の吉永さんが改革を始めたがなぁ…。たしかに人材は育った。だがな、どうしてもマニュアル人間みてーなのが多くなっちまってなぁ…」


 「枠に囚われない人材が必要だと」


 「そういうこっちゃ」


 中々重い話をしてくれる…。

 出世欲のなくなった自分に言われてもどうしようもない。

 マニュアル人間?

 ということは俺はミッション人間なのか!?

 たしかに運転免許はミッションを取ったけど…。


 「まっ、新村のことはあとはこっちに任せとけ」


 「お願いします」


 「新入社員の時のお前に比べれば可愛いもんよ」


 「若気の至りでしたね…」


 20代前半は勢いに任せて色々やらかした。

 色々なところに噛みついた。

 萩田さんにも噛みついた。

 噛みついたら逆に噛み砕かれたが…。



 「毎晩毎晩仕事が終わったら中洲で遊んどった遊び人がなぁ…」


 「悪い遊びを教えたのは萩田さんだった気がしますが?」


 「濡れ衣もいいとこやわ」


 「大名で浦川さんに土下座してヤラせてください!って嘘の噂を広めたのは誰だでしたかねぇ…!」


 「浦川も満更じゃなかったじゃないけ」


 「とんでもない嘘を広めてくれましたねぇ…」


 九州支社時代に中洲のBARに入り浸っていた。

 仕事終わりにBARでまったりし、眠くなれば帰宅して寝る。

 見知らぬ土地で知り合いもいなかったから寂しかったんだ…多分。


 

 「遊び人が今やチキンボーイになるとはなぁ」


 「節度ある付き合いができるようになったといってもらいたいですね」


 「竹も早う結婚せぇ」


 「相手がいません」


 「……お見合い組んだろか?」


 「遠慮しておきます…」


 恋愛を忘れた干物男に結婚なんて無理!

 結婚したいけど相手いないからなぁ…。


 萩田さんに真面目にお願いすればお見合い組んでくれそうだけど…。

 今は暮林さんと仲良くなりたい。


 あー、今週も暮林さんと飲みに行きたい。



 

 

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