閑話:とある仕事人の必殺
皆さん、初めてまして。
羽島建設 中部支社 営業部の田中です。
え?誰だって?
梅田さんたちの同期で2年目の田中です。
影は薄いですが…。
僕が水曜日に帰ろうとしていると、施設管理部の楠田部長と萩田課長が慌てていました。
何事だろう?と聞き耳を立てていると、紅葉くんが倒れたと聞こえました。
紅葉くんが倒れた…?
は?なんで?
意味がわからない。
あの紅葉くんが倒れるなんて…。
無事なのか…と不安になりました。
翌日の話では、問題はなかったとのこと。
よかった。
相手は橋本組さんの久坂…?
アイツか…!
大学の同級生だったアイツか!
大学でも迷惑をかけていたが、社会人になっても変わらないやつめ…。
紅葉くんは僕の尊敬する先輩です。
紅葉くんマジリスペクト。
本社での新入社員研修が終わり、僕は中部支社に配属となりました。
三重県出身の僕としては実家が近く、嬉しい限りでした。
三重県の大学を出ているので、名古屋にはあまり縁がありませんでしたが…。
梅田さん、高橋さん、新村くん、中野くん、僕の5人が中部支社に配属されました。
梅田さんと高橋さんは仲が良く、新村くんと中野くんも同部署ということで仲良くなっていました。
僕は影が薄く、いつも4人の後をつけるように男でした。
営業部ですが、新規事業ではなく、既存のお客様にリフォームなどを提案する営業3課所属です。
あまり人と喋るのは得意ではないのですが…。
そこは社会人として、割り切って頑張りました。
チューターの水野さんからも、「田中やるじゃん。エースになれるぞ」と言われて悪い気はしなかったですね。
でも、配属当初は悩みました。
水野さんも忙しく、中々時間が取れないことが多かったです。
いくら新人研修を終えたと言っても、まだ実務をこなしていない新兵です。
右も左もわからなず、水野さんの後だけをついて回る日々。
自分に営業は合ってないんじゃ?と思って、休憩室で休憩しながらジュースを飲んでいたその時でした。
「お、新入社員の田中くんじゃん。元気にやってるか?」
「は、はぁ…」
「元気出せよ。悩み事あるなら聞くぞ」
施設管理部の竹科さんでした。
梅田さんが、紅葉ちゃんと言って、大目玉食らった竹科さんです。
上げた髪に髭…。
たしかに怖い…。
でも…、僕みたいな存在に声をかけてくれる優しい先輩でした。
「営業って…難しいですね」
「何が難しいんだ?」
「その…、僕…。あまり人と話すのが得意じゃなくて…」
「うーん…、営業は人付き合いがあるからなぁ…」
「だから僕には合ってないのかなぁ…って」
「よし。前を向こう」
「え…?」
「先ずは前を向こう。下ばっかり向いてると気持ちも下向きになるぞ。前を向け」
竹科さんは僕の後ろに立って、僕を真っすぐに伸ばしました。
「姿勢はよし。あとは…」
「…」
「笑え」
「え…」
「しけた面すんなよー。お客様んとこに行くんだから」
「はぁ…」
「営業ってさ。スゴイと思うんだよね。会社の自分とお客様のとこの自分を使い分けてるじゃん?俺には無理だなぁ…。でも、あの二面性っていうの?カッコイイと思うぞ」
「…」
「悩むのはいい。だけど学びを止めるな。新入社員なんだから間違って当たり前だ。でも、同じことを二度聞くのはダメだぞ。梅田なんてなぁ…」
初めて褒めてもらったと思います。
僕は失敗を恐れて何もしてなかった。
竹科さんが言うことは僕の心に響きました。
それから心を入れ替えて仕事をすることで、おのずと結果もついてきました。
ある日、また休憩室で休憩していると、竹科さんが入ってきました。
「おう、元気か」
「はい!」
「おー…、元気になってるやん。いい顔してるぞ」
嬉しい。
竹科さんに褒められるのが嬉しい。
「田中くんって帰宅した後とか休日って何してるの?」
「そうですね。ゲームしたり小説読んだりですね」
「ほー、何呼んでるの?」
あ…やってしまった。
僕が呼んでいるのは所謂ラノベというジャンルだ。
竹科さんのようなイケメンには程遠い世界だ…。
「その…」
「うんうん」
「ラノベですね」
言ってしまった。
学生時代に同じことをいってひかれたこともある…。
竹科さんもひくだろうなぁ…。
「ラノベ?いいじゃん。何読むの?」
あれ?大丈夫?
話をすると、竹科さんもラノベを読むようでした。
イケメンなのに、色々知ってるだなぁ…。
それから、色々と話をし、お互い知っているタイトルなどで盛り上がったりしました。
それから、竹科さんのことを紅葉くんと呼ぶようにしました。
業務上では竹科さんですが、会話をするときは紅葉くんです。
紅葉くんは聞き上手で、口下手な僕でもすらすらと言葉が出てきます。
こういう男の人のことを本当のイケメンっていうんだろうなぁ…。
紅葉くんは僕の目標であり、尊敬する先輩です。
「俺や」
「おう、久しぶりやな」
俺は久しぶりに地元のツレに連絡を取った。
「マグロにちょうどいいのがいるんやが」
「ええやん。うちで買うで」
「やらかして首回らんようになっとるでな。金貸す言うて近づけばアホやからすぐや」
久坂ぁ…。
許さんでぇ…。
俺の先輩に何してくれてんねん。
キッチリ支払ってもらうでぇ…。
ケツの毛まで毟ったらぁ…!
その後、久坂を見た者はいない。
噂によると借金が返せなくなり、マグロ漁船に乗っていたらしい。
真相は闇の中。
補足です!
田中くん
田舎の悪い人を纏めていたなんとか長でした。
大学でアニメにハマってオタクにジョブチェンジした男の子です。
水野さんに一時期田中さんって呼ばれていました。
何をしたのかは希望があれば閑話として挙げます!
久坂?
そんな男は知らんですね。
知ってます?
遠洋漁業とかでたまに人がいなくなることがあるんですよ。




