第八章 常識ですか?
第八章 常識ですか?
「なぁんだ、誰もいないじゃない」
と辺りを見まわす。
さっきの部屋と同じく、明るくて広い中には何も無い。
ただ、アレク達の他に誰もいないはずなのに人の気配がする。
「いや、居るみたいだ」
「レナは、ここに居るですぅ」
「いや、レナのことじゃない。ほら、早く出て来いよ」
アレクは、気配のする方に向かって大声で言った。
「よく解ったね。わたしが二人目の相手、ファンリよ。言っておくけどネルのようにはいかないからね」
壁の一部がはらりとめくれ、中から女が出てきた。
「あれって、にんぽうって奴ですぅ?」
「にんぽう?初耳だな。それどういうのなんだ?」
「私にも教えてよ」
ファンリは、自分が出てきたのに注目しないアレク達を見て怒りを覚えた。
「わたしを無視しないでよ」
「ん?無視なんてしてないぞ。ただ解らない事は理解した方がいいに決まってるだろう」
「それは、そうだけど……」
「じゃあ、文句は言わないの」
「で、なんなの?」
「え〜っと、レナも解らないですぅ」
「そうか、まっ、いずれ解るだろう」
「終わったの?」
アレクがこっちに向き直ったのを見て言った。
あ〜あ、座りこんで地面になんか書いていじけちゃってるよ。
「ああ、でも相手はジョンだから」
「あれっ?ジョンがいないけど」
さっきまでは確かに横に居たはずなのに今は居ない。
「何言ってるんですか、私はここですよ」
その声が聞こえて来てから、ジョンは例のごとく天井から降ってきた。
本当に天井が好きだな。
「わ、わたしに対抗しているつもりなの?」
ファンリは、明らかに驚いていた。
「そんなつもりはありませんよ。これが私のやり方なのです」
「そうなの…。じゃあ始めるわよ、あなた達も巻き添えにならないように隅によっといたほうがいいんじゃない」
「敵ながら変わった奴だ」
「本当ね。二階の時なんて、命も危なくなるようなくらい罠が仕掛けてあったよね。ここじゃあ、観戦するだけじゃない」
「レナがいれば、何が起こったって大丈夫なんですぅ!ねぇ、アレクさん」
と、レナはアレクにくっつく。
くっつかれてアレクは顔をしかめたが、少し考えてから答えた。
「いや、レナがいても大丈夫じゃない事だってたくさんあるんだよ」
「え〜、そんなぁ…」
「そりゃ、世の中何が起こるか解らないからねぇ…」
「じゃあレナ、ガンバしちゃうですぅ!!」
「レナちゃんは健気だねぇ。アレク、レナを泣かすなよっ」
クリスがはやしたてる。
「いくらオレでもそこまで無神経な事はしないさ」
「レナ、大丈夫ですぅ!!泣かないですぅ。ぜぇ〜ったいにぃっ!!」
レナは珍しく力説する。
「ねぇ、アレク。レナってかわいいよね?」
「ん?なんでさ?」
アレクは唐突な質問に答えられない。
「か・わ・い・い・よ・ね・?」
クリスはゆっくりと同じ質問を繰り返す。
「そうだなぁ、かわいいといえばかわいいけどあまりべたべたして欲しくないな。動きづらいし、誤解されちゃうしな」
「そんな事言って、本当は照れてるだけじゃないのぉ?」
クリスが激しく追及する。
「アレクさん、照れなくてもいいんですぅ♪」
「照れて無いよ。レナもいい加減に離れなさい」
アレクは冷静に言い放つ。
「レナはアレクさんのものですぅ」
「ふぅ、熱いわねぇ…」
「この部屋は、ちょっと特殊なの。ある程度の衝撃は吸収するの。これがどういう意味か解る?」
「ええ、最近体重が増えたって嘆いているわけですね」
実は図星だったがファンリはなんとか冷静さを保った。
「違うわよ。つまりは多少はハデに暴れても大丈夫なの」
「そうですか。じゃあ、少しは楽しませてらえそうですね」
ファンリはクスッっと笑い、どこからともなく爆弾を取り出す。
なんとも恐ろしい光景だ。
「そうだといいんだけど……」
そして、それをジョンに向かって投げた。
しかし、ジョンはそれを器用に受けとってしまった。
「なるほど、これは衝撃によって爆発するタイプのものですね」
と、爆弾を仔細に点検をするジョン。
「なんでキャッチ出来るのよ!?」
「なんなら返しましょうか?」
ジョンは、名残惜しそうにそれを軽く投げて返す。
「い、いらないわよ」
ファンリは、思わず手を出して受け取ろうとするが、急いで手を引っ込めてさっと横へかわす。
そして、着弾と同時に軽い爆発が起こった。
「ちょっとぉ、なんでそんな事が平気で言えるわけ?それに一発くらいはやられてわたしを喜ばせてよ」
ここまでくると完全にジョンのペースだ。
「いやぁ、昔ドッジボールをやった事がありまして、面白かったですよ。地面に直径が1メートルくらいのクレーターが出来る爆弾を使用してましたから」
「恐ろしい事やってるのね」
「じゃあ、ちょうどいいところにその時使ってた爆弾があるのですが久々に使ってみましょうか?」
「それは、勘弁して欲しいわね」
そうはさせるかとファンリは、ジョンの足元目掛けてさっきと違う種類の爆弾を投げつけた。
爆発音とともに大量の煙がでて、ジョンの姿が見えなくなった。
ドサッ
と何かが倒れる音がした。
(おかしいわ。この程度の爆発で倒れるなんて……。しかし不気味な男ね。先が読めないじゃない。それに他の連中は話に夢中で爆発音にも気付いて無いの?一体どういう神経してるのかしら…)
煙がだんだん消えていきジョンのうつぶせに倒れてこんで居る姿が見えた。
「え?わたしの勝ちなの!?」
ジョンは微動だにしない。
「ゲホッ、ゲホッ。何があったの?」
「良く解らないけど、私の勝ちみたいね。次は誰かしら?」
「その前にジョンは?」
「ほらっ、そこに倒れて居るわよ」
クリスは倒れこんで居るジョンの背中の文字を見た。
「あ、アレ?何か書いてある…。え〜と『ジョン2号』…だって」
「じゃあ、次はレナの番ですぅ?」
表情が蒼ざめていくファンリ。
「偽者って事なの?」
「レナは、偽者じゃないですぅ。ねぇ、アレクさん」
「その前にジョンはまだ負けてないんだが…」
レナは首を傾げた。
「じゃあ、レナの番はまだですぅ?」
「そうみたいね」
クリスは、ジョンを起こしたが、それは丸太に服とかつらをつけただけの変わり身の術だった。
「ぶぅ」
レナはほっぺたをふくらませた。
「レナちゃん、怒っちゃダメよ」
クリスがなだめた。
「はぁ〜い。解ったですぅ!」
「レナは素直だなぁ」
アレクがつぶやいた。
「アレクさんに誉められたですぅ♪」
レナは一人で浮かれていた。
「ねぇ、早く出てきてよ。お願いだから」
ファンリはキョロキョロと辺りを見まわしている。
「何処を見て居るんですか?私はさっきからず〜っとココにいますよ。あなたの背後にねっ☆」
「えっ?はいご…??」
ファンリは恐る恐る後ろを振り向いた。
そこでは、ジョンが腕組をして立っていた。
「面白いでしょう。私、コレでも昔マジシャンだったこともあるんですよ」
丸太に着せてた服と同じ服を着て居る。
「ま、マジシャン?」
「あれ〜マジシャン。知らないんですか〜?」
ジョンがしらけた口調で言う。
「も、もちろん知ってるわよ」
「そうですよね。知ってますよねぇ?」
(…こいつ、何かするつもりだわ。わたしを落とし入れるための…)
ジョンは手に爆弾を持ちそれを点火した。
「よ〜く見ててくださいね」
ジョンは爆弾を手の内側にし、そして両手を前に出した見せた。
そこには爆弾は無かった。
「消えたっ!?」
「心配しなくても大丈夫ですよ。軽い奴ですから」
ジョンは薄笑いをした。
「何よ、何をしたのよ」
ファンリは恐怖におののいていた。
パァンとハデな音がした。
ファンリの背中が少し焦げていた。
「もういやぁ〜。私この人と戦いたく無〜い」
「じゃあ、降参って事ですね?」
ファンリは無言でうなだれ次の部屋の鍵を差し出した。
「ほんと、口ほどにもないですね」
ジョンは容赦なくいった。
そして、鍵を受け取った。
「あなた達は強いわ。訳解んないケド…。きっと最強のパーティね」
「それがウリなんですから」
「情けないわね」
「しかし、あんな戦い方されたら誰でもああなりますよ」
ため息をつく。
「控えは、あと一人ね」
「はい」
もはや口数も少なくなっていた。
それだけ相手を注意視する必要があったのだろう。
「アレクさん。いちゃいちゃしてないで次に行きますよ」
「いちゃいちゃしてないだろうが」
アレクが怒鳴る。
しかし、レナはちゃっかりとアレクの腕にしがみついているので説得力が無い。
「それほどでもありませんよ」
「じゃあ、次はレナの番ですぅ♪」
レナはとても嬉しそうだ。
「いよいよ最終兵器を使う時が来ましたか…」
ジョンがしみじみと言った。
「確かにそうとも言えるな」
アレクもジョンの意見に頷いている。
「最終兵器とは失礼じゃない?」
すかさずクリスが反論する。
「ん〜、そうでもないと思うんだけど…」
「せめて天然最終兵器と言って欲しかったわねぇ」
クリスは天然のところを強調した。
「どっちも似たような物じゃないですか」
ジョンがさっさと鍵を開け、一同は次の部屋へと進んでいった。




