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第七章 生兵法は大成功のもと?




第七章 生兵法は大成功のもと?





「さすがに、ここには罠は無いみたいだ」

 アレクはホッとして、胸をなでおろした。

 階段を上がったところは、八メートル四方の壁に囲まれていて、ドアが一つある。

 そのドアの鍵穴からかすかに光が漏れている。

「誰かいるのかしら、外から見た時は、明かりは一つも点いていなかったはずだけど?」

「開けた途端に中から脅かそうと考えてるかも知れませんね」

「流石にそれはやらないだろう」

「少し休もうよ。ここなら安全でしょ」

 クリスが提案する。

「ああ、ここに来てからまだ誰にも会ってないな」

「そういえばそうね。きっともうじき現れるわよ」

「ここでは、何が起こるんでしょうね」

「ちょっとはましなのがでてくるんじゃないですか?」

 クリスは、壁にもたれかかりながら座った。

「あ、アレクさん。これ、返しておくですぅ」

 レナは、そう言って指輪を返そうとしたが、

「クリスに渡しといてくれ。今のオレじゃあ使えないから…」

「え、いいの?もらっちゃって」

 クリスは嬉しそうに顔をこっちへ向ける。

「預けるだけだよ。これさえあれば自分の身くらいは守れるだろう」

「ん?」

「自分の身は自分で守る。これは、冒険をする上での鉄則だ。仲間がいるならともかく、一人の時は助けてくれる人なんていないからな。最後に頼れるのは自分しかいないって事を良く覚えて置けよ。オレだって完璧じゃないんだぜ」

「ん〜、解ったような解んないような…」

「いつか解る時がくるさ」

「レナは大丈夫ですぅ?」

「レナはもうちょっと主体性を持ったほうがいいんじゃないか?」

 レナは首を傾げた。

「しゅたいせいってなんですぅ?」

 アレクはため息をついた。

「自分の考えを持てって事だよ」

「レナはちゃんと自分で考えてるですぅ…」

「そうかな。んじゃそろそろ行こうぜ」

「アレク殿はせっかちぢゃのぅ。年寄りにもうちょっと気を使って欲しいんぢゃが……」

「誰が年寄りだ?どう見たってお前は二十後半くらいにしか見えないが」

「ほんのジョークですよ。みなさんの気を紛らわそうとしただけですよ」

 その時、レナがドアを開けた。

「眩しい?」

「うっ……?」

 ドアを開けたために部屋の向こうから光が漏れてきたのだ。

 しかも、夜であるのに関わらず、昼のような明るさなのだ。

「魔法?」

「ようきはったな。ワシが相手じゃ」

 部屋の中には、一人の見知らぬ男が仁王立ちをしていた。

 何処か言葉遣いに訛りがあってがたいのいいその男は背が低く見える。

「貴様、なにじんだ?」

「じゃあかしいわい。さっさとこの部屋に入りぃや!!」

 がたいがいいというよりは少年ラグビーの選手みたいだ。

 部屋の中に入ると、堪えきれ無くなったのかクリスが吹き出した。

「はっはっはっ。あなたその言葉遣いどうにかならないの。おかしいわよ」

「レナは別に普通だと思うですぅ」

「おかしゅうない。三階は戦いの間。ワシに勝たんと次へは進めんで」

 レナは、みんなが入った後きちっとドアを閉めていた。

「次ぃ!?って何人いるんだよ」

「ワシ含めて三人や」

「三人倒したらどうなるんだよ」

「いないからわかられへん。ルールは簡単勝負は一対一の時間無制限。ルール無用の戦いや。殺してはならないと言うのが唯一のルールやな」

「あいつ弱そうだな」

 アレクが言うと、クリスが名乗り出た。

「じゃあ私にやらせて。いいでしょう?」

「殺されないならいいか。よしクリス。お前の力を見せてやれ」

「ちなみにゆうておくが、全員負けたらここから帰られへんからな」

 クリスはよっしゃと腕まくりをして、前へと進み出た。

「一番。クリスいっきまぁ〜す!!」

「お、女やて〜?ワシもなめられたもんやな」

 男は二本のドリンク剤をクリスに投げて渡した。

「何コレ?」

 不審に思いクリスは訊く。

「緑のラベルのは、一定の時間筋力を三倍にする薬。青のラベルのは、死なない限り体力を全快に出来る薬や。これはハンデやから、飲んだらええねん」

 クリスはしばらく手渡されたドリンクを見つめていたが向き直ってから訊いた。

「あなたは何も飲まないんでしょう?」

「もちろん何も飲まへん」

「じゃあ、私も飲まない」

 クリスは、二本のドリンクをアレクに向かって軽く投げた。

「持っとけって事か?」

「そうよ。何かの役には立つでしょう?」

「ええんやな。ワシは強いで」

 そういうと男は構えた。

「私はもっと強いわよ!」

 クリスは、構えずに立っていた。

「そこのあんちゃん。合図頼んまっせ!」

 男は、アレクの方を向いて言った。

「あ、オレか。えっとレディー・ゴーっ!!」

 合図と共に男は走り出した。

 しかし、男の走る速さは普通の人と変わらない。いや、それよりも全然遅い。

「たぁっ」

 男は高く飛びあがった。

 2メートルはいっただろう。

 そのままクリスに向かって飛び蹴りをする。

 クリスは当たるすれすれで交わした。

「何、避けられただと?」

 クリスはため息をついた。

「そんなに弱いのにハンデをつけようとしてたなんて笑っちゃうわね」

 クリスは男を足払いをして倒した。

「これでもハンデをつけてるんやで。くっくっくっくっ」

「き、気持ち悪いわね…」

 クリスは足で踏みつけた。

「これで私の勝……」

「クリス、危ないっ!!」

 アレクが叫んだ。

「えっ?」

「くっくっくっ」

 男は相変わらず笑っている。

「奴から離れろ」

 男は起きあがった。

 クリスは、そのまま動かなかったので少しよろめいた。

「やっぱこれじゃあ動けへんわ」

 男はおもむろに服……いや張りぼてを脱ぎ出した。

「そう思うんだったら、最初から脱いどきなさいよ」

「そないなこというなや。ワシだって段取りっちゅうもんがあるんじゃ」

 ドサリ

 服が落ちたその音から察するに、それはかなり重いものだと推測出来る。

「普段からそんなの着てて悲しくならないの?」

「これはワシの封印やし、脱ぐ事を許されてへん。ちょいと悲しいわ」

「私だったら着ないわね。あなたも好きにすればいいじゃない」

「そないなことできへんわ。いくで」

 男は地面を蹴り、クリス目掛けて飛んでいった。

「は、早い。これがあなたの力なのね。でも早いだけじゃ私には勝てないわよ」

 クリスは少し横に避けて拳を横に出して止めておく。

 これで相手の勢いで拳に当たったら痛いんじゃないかっていうせこい作戦だ。

 いくらなんでもそれは避けちゃうだろうとアレクは思ったが、予想に反してそのまま突っ込んできた。

「痛っ!?」

 クリスは、そのまま逆の手で地面に叩き付けようと体の向きを変えようとした刹那、男は見えないくらいの速さでクリスの背後に回り、逆にクリスを叩きつけた。

「いったいわね。私は女の子なのよ。少しは手加減してくれたっていいじゃない!!」

 クリスはさっと起きあがって抗議した。

「お前がやろうとしたことをやっただけや。それに手加減の必要も無さそうやし」

 男の目にとまっているのはあの指輪だ。

「え、どういう事?」

「その指輪は、『魔人兵器』のひとつ『守護の指輪』やな。やけど使える人間はごくわずかしかおらへんはずや。あんたそれ、使えるんやろ?」

「もちろん使えるわよ。でも私上手く制御出来ないから滅多に使うわけにはいかないのよ」

「そうか、そないなことか」

 男は高く飛んだ。

「アレクさん。まじんへいきってでんなものですぅ?」

「さぁ?オレも初耳だよ。でも何かありそうだな」

「他にもあるんですぅ?」

「え?なにが?」

「まじんへいきですぅ。きっとこの世界のあちこちにあるんですぅ」

「そうかもな」


「飛んでばっかりだったらぶっ飛ばしちゃうわよ。ねぇ?」

 クリスは冷静に男に左手―――――指輪をはめてある方―――――を男に向けた。

 そして、軽く念じる。

「吹っ飛べ〜〜っ!!」

 念じる事によって出来た見えない結界を男に向けて飛ばす。

「ぐぁ〜〜」

 男は見えない力で天井に吹っ飛ばされた。

 そして、地面に落ちてきた。

 天井にはくっきりと人型がついている。

「あっ、制御できたみたい」

 男はさっさと起きあがった。

「今のは効いたで…。やっぱりアレはワシでも避けらへんわ」

 男はやけに嬉しがってる。

「やけに体力があるみたいね。どうしたら先へ行かせてくれるかしら?」

「ワシが参ったと言うまでや」

 男はさっきより張り切っている。

「じゃあ私が言わせてあげるわ」

「よっしゃ、かかってこいや」

 男は兆発をした。


「肉弾戦で戦うつもりか?クリスは大丈夫だろうか?」

「大丈夫っ!レナがいるじゃないですぅ!」

「これは、クリスとあいつの戦いだろう。レナには関係無いじゃ無いか」

「私はですね。クリス様が負けても大丈夫なように自爆装置をつけておきました」

「なにぃ!?何処に仕掛けたんだよ」

「私の足に…」

「今すぐに外せっ!!」

 ジョンはすそをめくって見せる。

 そこには何やら黒い物体が見える。

「仕方ありませんね。アレクさんがそう言うのなら外して差し上げましょう」

「よくそんなものがつけられるな。誤発したらどうすんだよ?」

 ジョンはそれを外す作業をしながら答えた。

「それはもうこの辺りが変わり果てた姿になってしまうのでしょうね」

「変わり果てた姿って、みんなが女装して歩くんですぅ?」

 レナは唐突も無く言った。

「それも怖いけど、絶対にあり得ないな」

「いや、アレクさん。とある村では文化交流の一環として女装祭りが行われているところがありますよ」

「凄いですぅ。レナ、見てみたいですぅ!!」

「そうか?オレは直ちにその祭り自体取りやめるべきだと思うぞ。誰が考えたんだんだ?んなもん」

「第十五代目村長のトーホさんの提案だったと聞いてますよ」

「他にも、面白い祭りとかあるんですぅ?」

「もちろんありますよ。例えば豊作を祈って高いところから下にいる生贄をめがけて大きな岩を落とすんですよ。大体生贄の人は無事では済まないですが、未だに死者がいないんです。凄い事ですね」

「生贄はどうやって選ばれるんだ?」

「やっぱり村長が決めるんでしょうね」

「レナも生贄やってみたいですぅ」

「きっと楽しいと思いますよ」

「楽しいのか?」

「楽しいですぅ。アレクさんもトライしてみたらいいと思うですぅ」

 戦いを見てるどころか、三人は話に夢中になってて戦ってる事を忘れているようだった。


 クリスは走って近づいた。

「おちびちゃん。いくわよ」

 そして、近い位置からジャンプして蹴りの体制に入るが男は構えもせずに立っている。

 蹴りをそのまま食らうつもりなの?

 しかし、クリスは動きを止めずにそのままの勢いで男を蹴り飛ばす。

 男は少し後ずさりするもののすぐに体制を取り戻す。

 すかさず後ろ回し蹴りを食らわす。

「ぐはぁ」

「まだまだ行くわよ」

 クリスは左手でパンチを繰り出した。

 男はそれを片手で受けとめた。

「ただやられるだけやと思ったら大間違いやで」

「私もそう思うわ。でもここを通りたいから、悪いけど全力でいかせてもらうわ」

「ワシも本気で行くで」

 男は手をつかんだまま、反対の手で鳩尾を狙う。

 クリスは、軽く念じて結界で男を吹き飛ばそうとする。

 そして男の攻撃を食らう前に男を吹き飛ばした。

「ワシには勝てん。参った」

「ん?今参ったって言ったの?」

 クリスは飛ばされて座りこんでいる男に聞いた。

「そうや。次に進みなはれ。ワシのようにはいかんから気ぃ付けな」

「なんか嬉しい」

 男は、クリスに向かって鍵を投げた。

 クリスはそれを片手でキャッチする。

「ありがとう。あなた名前は?」

「ワシか、ワシはネル。あんた、なかなか強かったで」

 ネルは、ガッツポーズをとる。

「私はクリスよ。またいつで相手をしてあげるわ。…お〜い勝ったよ〜♪」

 クリスはアレク達の方を見て言った。

「やったな」

「クリスさん凄いですぅ!!ないすふぁいとですぅ!!」

「まあ、私にかかればこんなものよ」

 クリスは得意げな表情を見せながら、次の部屋の鍵を見せびらかした。

「クリス様。次は私にお任せください」

「じゃあ、次はジョンね」

 クリスはジョンに鍵を手渡した。

「ネル?だっけ」

「そうや」

「あなた、ドルジナ人なの?」

「ワシはこの辺の人間やない。海の向こうから来たんや」

「解ったわ。じゃあ先へ行かせてもらうね」

 クリスは手を差し伸べた。

 ネルは一瞬と惑ったがすぐに握手だと気付き手を差し出した。

「あんたほんまにスッキリや…」

 軽く握手を交わし、クリスがみんなのところへかけて行った。

 ジョンが丁度鍵を開けたところだった。

「さあ、行きましょうか?」

「ああ」

「いいわよ」

「次に進めるんですぅ?」

 ドアは音も無く開いて、アレク達は次の部屋に入っていった。


「ネルが倒された」

 水晶玉を見ている人影が言った。

「そうですか。でもまだ二人控えてます。奴等でも苦戦を強いられるでしょうな」

「でなければすでにここについているはずだからな」

「しかし、あのレナとかいう女は要注意が必要です。あの女、人間とは思えぬ怪力の持ち主、我々とて歯が立たぬやもしれません」

 そばでたっている方の人は、焦りの色を隠しきれないでいた。

「私は伊達ではない。魔法が使える。私は魔女なのだから…」

 魔女は笑いもせず水晶玉を、いやアレク達の様子を見つづけていた。




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