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第六章 罠に呪われし…




第六章 罠に呪われし…





「みなさん、遅かったですね」

 階段の上から、聞き覚えがある声が聞こえてきた。

「誰だ!?」

 カツンカツン

 上のほうから足音が近づいてくる。

「その声は、ジョンね」

 クリスは、上のほうの向かって言った。

「そういや、あいついなかったな…」

 アレクはつぶやいた。

 足音が止まり、長身の男がこっちを見下ろした。

「そうですよ、クリス様。私はあなた方が来るのが遅いのでここで少し昼寝をしていましたよ。そういえば、一人増えているみたいですがアレクさん、またナンパしたのですか?」

 ジョンが疲れた様に言った。

「馬鹿ヤロー!!オレがナンパなんてすると思っているのかよ!!」

「思ってる」

「当然」

「なんぱってなんですぅ?」

 レナが不思議そうに聞く。

「あなたの彼女は面白い人ですね。ちなみに『ナンパ』って言うのは男の人が女の人を引っ掛ける事ですね」

「転ばすんですぅ?」

「いえ、普通に言えば見知らぬ人を誘ってデートにでも行くのでしょうけど…」

「いっとくけどレナは、オレの彼女でも何でも無いからな」

「なにいってるんですぅ!!レナはアレクさんの彼女ですっ私がいれば怖い物なんてなんもないんですぅ!!」

 レナは、そう言ってアレクの腕にくっついた。

「ヒューヒュー。アレクもこれでスミに置けなくなったね」

 クリスが冷やかす。

「レナ、オレはあんたが怖いよ」

 アレクはいの間にか腕を組まれ、それを外そうとしたがレナの力が圧倒的に強くて外す事が出来ない。それどころかさらに力が強くなって行く気がする。

「頼むから離れてくれないか、動けないからさ」

 アレクが言った。

 本当はただ冷やかされたくなかったからなのだが…。

「あ、はいですぅ」

 レナは素直に離れた。

「ところでお前なんでそんなところにいるんだ?ここは通れないはずだが…」

「そんな細かい事、気になさらないでください。私だっていろいろと大変なんですから」

「クリスも何か言ってやれよ」

 オレが言って無駄だと悟ったアレクはクリスに応援を求めた。

「いつあんなんだから言ってもしょうがないわよ」

 クリスはさぞかし当然といった口調で言った。

「そうですよ。さ、早く行きましょう。女たらしのアレクさん」

「違うわっ!!」

 アレクは神経を逆なでされて叫んだ。

「落ちついてですぅ。アレクさん、気にしちゃダメなんですぅ」

「わかってるけどよぉ…」

「アレク、そんなんじゃ、この先持たないよ」

 先に階段を上がっていたクリスが言った。

「持つっ。じゃなきゃ、とっくにくたばってる」

「アレクさぁん。死なないで欲しいですぅ」

「………」

 アレクも後から急いで階段を駆け上がって行った。

「何これ、何も見えないじゃない…」

 クリスが驚いた声で言った。

「私の予想では罠が仕掛けられているものと思われます」

「こんなだだっぴろいところに仕掛けられたって避けられるのがオチさ」

「それはどうかな?」

「…ん?」

「例えば、ここを一歩前に足を踏み出すと…」

 すると、カチッと何かスイッチの入る音がした。


「久々に客人が来たようね。退屈しのぎに相手でもしてもらいましょうか」

 ほんの少しの光が差し込んでいるこの部屋の中で二つの影が会話をしていた。

 一人はイスに腰掛け水晶玉に映し出された姿を見ていた。

 もう一人は、側で立っていて同じく水晶玉を覗いている。

 どちらも暗くて影の形しか見えない。

「しかし、ここまでたどり着けないことには、我々に出番は無いだろう」

「たどりつけなければそれまでってことだ。そんな奴を相手にしたって面白くもなんともない」

 影は水晶玉から目を動かさずに言った。


「アレ?不発だったのかな、このスイッチは…」

 ジョンはわざとらしくセリフをいいながらその場で何回も足を踏んで見せた。

「なにが不発だ。あんたが仕掛けたんじゃないのか?」

 アレクはジョンを横目に前へと出た。

「あ、アレクさん。そこ危ないですぅ!!」

 レナが注意した時は時すでに遅し…。

「まさか…!?」

 上から何かが降ってきた。

 アレクはさっと横へ飛び退いた。

 彼はこれで避けたつもりだった。

 しかし、上を見てなかったせいかアレクは落下物のしたに避けていた。

 その瞬間、アレクの視界は真っ暗になる。

 アレクはその場に倒れこんだ。

「やっちまったか…」

「大丈夫?」

「大丈夫ですぅ?」

 レナと、クリスが心配して声を掛けた。

「何とか大丈夫。しかしタチの悪い罠だなぁ…」

「アレクさん、これくらいの罠なら注意すれば大丈夫だと思うですぅ」

「そうよね。アレクって極端に罠にはまりやすいっていうか、罠に呪われてるのよね」

「うるせーな。どーせオレは罠に呪われてますよーだ」

 アレクは上の物をどかすとそれを蹴飛ばした。

「ねっ、罠があるでしょう?」

「ねっ、じゃねぇ〜〜〜〜!!!これじゃあ、迂闊に進めないじゃないかっ!!」

「愚か者ですよ。何処に罠があるか注意しながら行けばいいんですよ。こういう罠はどっかに仕掛けが見えているのなのですよ」

 ジョンは、手近にあった小石を投げて見せた。

 その小石は、ゆっくりと半円を描きながらまっすぐ飛んでいった。

「あっ?」

 そして、音も無くきえた。

「ちょっと待っててくださいね」

「ん?」

 待つ事2〜3秒、小石の消えたあたりで矢が十本くらい飛び交っていた。

 暗くてよく見えなかったが、それは矢だと音で確認できた。

「オレには仕掛けも見えなかったが、ひょっとしてお前には『暗視』もできるのか?」

「いやだなぁ、『暗視』なんて出来る分けないじゃないですか。感ですよ。カ・ン」

「だってこんな暗い中じゃ見えるはずないものね。ねぇ、アレク。どうやって進む気?」

「まっすぐ進んでいったらいいと思うですぅ」

 レナが提案する。

 しかし、その提案の無謀さに本人は気付いてはいない。

「そんなことできるわきゃねぇだろう!!こんな灯りじゃ向こうの壁だって見えないんだからな」

 アレクは持っている灯りを掲げた。

「じゃあどうすんの?」

「壁伝いに行くのが手っ取り早いんだけど罠が張り巡らされていると考えていい。……まあたいして変わらないか」

「じゃあ、私が先頭に行くわ。次がアレク。その次がレナちゃん。でジョンね。」

「別に構わんが、灯りは先頭と最後の人が持ってたほうがいいな」

 クリスは灯りを持っていたのでジョンに灯りを渡そうと思ったがジョンは受け取らなかった。

「私は必要ありませんよ。それよりもあなたの彼女に渡したほうがいいんじゃないんですか?」

 アレクは、仕方なくレナに灯りを渡す。

「どうもありがとうですぅ。あれくさん、罠にはくれぐれも気をつけてくださいですぅ」

「ああ、解っているさ」

「アレクの言うとおり、壁伝いにいくからね。ちゃんとついてきてよ。じゃないとおいていくわよ」

 クリスが大きな声で言った。

「置いていかないでですぅ〜!!」

 レナが情けない声をあげる。

「大丈夫よ。ゆっくり行くから」

 クリスは、ゆっくりと進み始めた。

 五歩くらい進んだところでクリスが何か踏んだらしく立ち止まる。

「罠が作動するかもしれないから気をつけてね」

 そして、何事も無かったかのように歩き出す。

「罠が作動するかもしれないってどういうことだよ」

「何か踏んじゃったみたい。ほらっ、しゃがまないとぶつかっちゃうよ」

「えっ!?」

 その瞬間。クリスはアレクの手を引いてしゃがんだ。

 なんと、横から大きく丸い何かが飛んできた。

「なんですぅ?」

 それを、レナが片手で受けとめていた。

 もう片方は灯りをもっていたためだが…。

「なっ…。良く持てるな…」

 アレクは関心を通り越して飽きれている。

 きっと敵に回したら絶対に勝てないだろうと思った。

「それは持てるですぅ♪…これ、どうするですぅ?」

「その辺に転がしておいたら?」

 クリスが冗談交じりに言った。

「はい、解ったですぅ!転がしておけばいいんですね。よいしょですぅっ!!」

 レナは勢いをつけた。

「えいっ、ぼーりんぐですぅっ!!!」

 レナの放った玉は、ゴロゴロと重低音を響かせながらバキッっという音と共に外に転げ落ちたらしい。

 断定しなかったのは見えなかったからなのと、落ちた音が聞こえなかったからだ。

「ストライク…。たいした腕ですね」

 ジョンが感心したように言った。


「あいつは何者だ?あの重い鉄球をしかも勢いがついた奴を軽軽しく片手で止めたぞ。しかも転がした。魔法も使わずに…」

 そう言った陰に冷や汗が感じられる。

「所詮、彼らの中に魔法を使える奴は一人もいない。せいぜい楽しませてもらえればいい。今までの奴では物足りないしな」

 今までの奴―――――つまり街の行方不明者のことだろうか…。

「それはそうですけど…。何か嫌な予感がします。何か腑に落ちないようなことが起こりそうで」

 急に発言が弱気になったのを訝しがった。

「大丈夫だ。それでもお前なら一分と掛からず奴らを全滅させる事が出来るはず」

 自信を持たせるように言い聞かせる。

 それは、自分も弱気になってしまったのかもしれないと思ったからだ。


「ねぇ、走って行かない?私思ったんだけど、ここの罠って発動するまでに時間がかかるのよね。つまり発動する前に通りぬけてしまえば何も起こらないんじゃないかって私は思うわけ」

「全部がそうだといいんだがな」

 アレクは天井を見つめた。

「大丈夫。全部そうに決まってるわよ」

「走るの?走ったら危ないですぅ」

 レナが言った。

「平気よ。だって早く行きたいんだもん。じゃあ、せ〜ので行くからね。せ〜のっ!」

「あ、待てよ」

 クリスは走り出した。

 あわてて後を追う。

「そんなにあわてなくても死にはしないっていうのに…」

 角まで来ると、ここは安全だと思ってひとまず足を止める。

「はぁ、はぁ。ここまで来れば大丈夫ね」

「そうは思えんが、早く上に上がった方がよさそうだぜ」

 まだ、暗くて階段が見える位置にはいない。

 アレクは、階段なら安全だと思ったのだろう。

「レナも到着ですぅ」

「気のせいしれんが、なんか視界が狭くなってないか?」

「別に何も変わってるように見えないけど…」

「そっかぁ?」

「あっ、でもなんだか天井が近づいて来てるみたいですぅ」

 レナが、天井を指差した。

「何よ。これじゃあ潰されちゃうじゃない、大変だわ」

「もしかしたら、何処かのスイッチを押さないと上に行けないかも知れませんね」

 ジョンが飽くまで他人事のように言った。

「なんかあんまりやってほしくないわ、それ」

「それだったら、天井突き破っていった方が早いかもしれない」

 アレクが冗談まじりに言った。

「やってみちゃおうか?レナなら出来るですぅ!」

「いや、方法があるならそっちでやらないと気が済まないから遠慮しとく…」

「そんな悠長な事言ってられないんじゃ無いの?」

「あ、そうだ。とりあえず限界まで探してみよう」

「そうね」

 クリスは、再び進み始める。

 もう、天井は手を伸ばせば届く位置にある。

「ん?アレじゃないかしら」

 薄明るい中でかろうじて階段らしき物が見える。

 しかし、それを見つけたと同時に天井の落下速度が早くなった。

「これは、ど〜〜ゆ〜〜ことだ〜〜〜〜!?」

「走って行かないと潰されちゃうわよ」

 クリスはあわてた。

 しかし、それを言う時点でクリスは走り出していたが…。

 レナは、この状況にも関わらずゆっくりと歩いて来ている。

「お〜い、レナっ。早く来いよっ!!」

「え〜ん、足くじいちゃったですぅ。走れないですぅっ」

「ちっ、なるべく急いで来いよ。もうここもやばい、無駄かもしれないけど天井を支えるぞ」

 天井は直立して肩ぐらいまでの高さまで下がってきた。

「ラ、ラジャー!!」

 ジョンは一人階段でくつろいでいる。

 アレクとクリスは天井を支えているが無抵抗に押されてしまう。

「くっ……」

 天井の位置が止まった!?

「これはレナが一人で支えられますから、みなさんは先に行ってて欲しいですぅ!!」

 レナが珍しく大声で言った。

 さすがに両手で支えている。

「ホントに大丈夫か?」

「大丈夫ですぅ!!早くしてですぅっ!!」

「アレク。レナだったら大丈夫よ。私達がここにいたらレナが支える時間が増えるだけなのよ」

「そうか…。じゃあ行くぞ。…お〜いレナっっ。階段の所で待ってるから気をつけて来いよ」

「解ったですぅ。レナ、ガンバして行くですぅ」

 アレクとクリスは前傾の姿勢でなるべく早く歩いて行く。

「こっちですよ」

 ジョンは相変わらずくつろいでいる。

「お前、何くつろいでるんだよ?」

「やっぱり、こういった状況では自分の身を守るのが一番ではないかと」

 ジョンは顔色を変えずに言った。

「いいのか?お前のしもべはこんなんで」

 ジョンに言っても無駄だと判断したので、クリスに問う。

「いいのよ。彼はそのユニークな行動が受けて私のしもべになったんだから…」

 そして、二人は階段の安全地帯に入る。

 後は、レナだけである。

 しかし、天井の位置が変わっていないと言う事は、レナの支える力と天井が下がって行く力が互角ということなのだろう。

「あ、上がった」

 天井の高さが数センチ上がった。

 肩くらいの高さだ。

「なんて力だ」

 そして、また数センチ上がって行く…。

 それが三回くらいおこり、ついには頭の高さを超えた。

 そして、ゆっくりとレナが近づいてきた。

 灯りを腰の辺りにつけてたもんだから、最初、無気味に見えた。

 ほら、したから懐中電灯を当てると不気味に顔が青白くなるでしょう。

 アレと同じような感じだった。

「ほらっ、おばけですぅ♪なぁ〜んちゃってっ」

「をい、冗談はいいから早く来いよ」

 レナが安全地帯に入り、手を放したところで天井は一気に地面まで突っ込んだ。

「これって帰る時大変そうよ」

 クリスがそうつぶやいたのをアレクは聞き逃さなかった。

「そんときゃ、そんとき」

 しかし、この仕掛け天井も上からみると作りが単純で分厚い板の上に鎖で上に繋いであるだけだった。

「よしっ。これで残すは三階のみとなったわけだ」

「いやぁ、長い道のりでしたなぁ」

「お前が語るな!!」

「じゃあ、この勢いでさっさといっちゃおうよっ!!」

「そうですぅ!!」

 そして彼らは三階へと足を踏み入れたのだった。




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