第五章 手がかりを探せ
第五章 手がかりを探せ
屋敷に入り、二つの灯りを頼りに中を見まわした。
薄暗い部屋の中には、特に物などは置いてなかった。
きっと、誰かが荒らして持っていったりしたのだろう。
「それにしても、何も無いところだな」
「ここって、昼間意外と人が来てものとか持って行っちゃったのよ」
「よく、こんな山の中まで来るよな。まっ、ヒマ人が結構多いからな」
「そうね。でも二階に行けた人はいないみたいなの。二階に行くには何か必要かもしれないわね」
「合い言葉じゃないですぅ?」
レナが即答した。
「合い言葉ぁ?まさかんなわけはないだろう」
「でも、違うとしても一階の何処かに二階へ上がるための手がかりがあると思うわ」
そういうとクリスは、部屋の中を念入りに点検し始めた。
「なるほど。んじゃオレはあっちの部屋見てくるから」
アレクはそういって奥の部屋に行こうとすると後ろから声がした。
「レナはどうするですぅ?」
レナが、こっち向いて立って居る。
「……クリスと一緒に居ろよ」
アレクは、そういうと奥の部屋へと進んで行った。
ここは、魔女の屋敷だ。
二階に上がったものがいないと言う事は、二階に上がる階段の入り口のドアかなにかに、魔法の鍵でもかけられているのだろうか?
それとも、二階には魔女にとって一般人(一般人というのも変だが……)に見られちゃ困るものでもあるのだろうか?
魔女がいなくとも何かあるのはまず間違い無さそうだ。
アレクが、一人で考えを巡らせているといきなり正面から、レナがアレクの顔を覗きこんでいた。
アレクは一瞬怯んだが、すぐに冷静さを取り戻す。
「レナ。なんでお前がここにいるんだ?」
「クリスさんが、『アレクについてってあげなさい』って言ったんですぅ」
「クリスが?」
「はい、そうですぅ」
「あいつめ、何を考えているんだ」
アレクは、不服そうに言った。
「大丈夫ですぅ。レナがいるじゃないですぅ!」
レナは、どうもアレクが不満そうにしていると構いたくなるらしい。
「そういう問題じゃない!」
「怒らないでですぅ!ねっ」
と、レナがなだめる。
「ふぅ、しょうがないか。レナ、灯りはどうした?」
「クリスさんに渡したですぅ。灯り無いと暗いですぅ」
「どうでいいが、よく暗い中ここまで来れたな」
アレクがレナの方を向いた。
「その灯りを頼りに来たんですぅ」
レナは、アレクの持っている灯りを指した。
「へぇ〜。まったく侮れん奴だ」
アレクは、そう言うと壁に向き直る。
壁には、意味の無い落書きが大量に施されている。
「…それなりに人の出入りはあるようだな」
そして、しゃがんで床を調べてみる。
「アレクさん、コレなんですぅ?」
レナは、持っているものをアレクに手渡す。
「ん?なんだろう…」
アレクはそれを見た。
「ボールかなんかだろうな。まあいいや、その辺にでも置いとけば?」
「じゃあ、レナがもらうですぅ」
アレクは、軽く投げて渡した。
「ほい」
「ありがとうですぅ」
レナは丁寧にお礼を言った。
「この部屋にゃ、なにもないな。あっちの部屋に行こうか」
アレクはレナを従えて部屋を移動する。
「なんかないものか…」
アレクは考え事をしている。
その時、クリスが自信たっぷりの表情でこっちにやってきた。
「見つけたわよ。二階へ上がるための手がかりを…」
「そうか、どんな手がかりなんだ?」
「クリスさん、凄いですぅ。レナは何にも見つけてないですぅ」
レナが誉めると、クリスがえへんと咳払いをして言った。
「ま〜ぁね。私を甘く見ないでね。手がかりと言うのはコレよ」
そう言ってクリスは、一枚の紙切れを突き付けた。
そこには、
『
この屋敷の中をいくら捜しても二階へは上がれない。後は頭を使って考えなさい。
マリィ
』
と、書かれていた。
「ということは、屋敷の外を探せばいいんですぅ?」
「頭を使えだ?何考えてるんだか…」
「私は、レナちゃんが言った通り外に何かがあるんじゃないかと思うのよ。この屋敷の裏方にあるんじゃないかって」
クリスは、きっぱりと断言した。
「…そうだな。中捜してもラチ明かないし、ダメ元で行ってみるか」
「そうですぅ」
アレク達は外へ出て深呼吸をした。
「そういえばさ、二階行くドアを吹っ飛ばす事できないの?」
クリスが張り切って言った。
「オレには解らんが、多分あそこには魔法の防壁があると思う。となりゃ、オレのこれじゃ吹っ飛ばせないだろうな」
アレクは、そう言って自分の指輪を見た。
「魔法には効かないのね」
「基本的にこれで防ぐ事が出来るのは物理的なものだけだから、相手がスリープの魔法をかけてきたらこれじゃあ防げないわけ。だから魔法の防壁は物理的なものじゃないからこいつでふっとばすことが出来ないんだ」
アレクは、身振りを交えながら説明をした。
「まあ、解ったわ。大体の物はそれで防げるわけでしょう?」
「まっ、そういうこった」
「試してみたの?」
「何を?」
「だから、実際にそれをぶっ放したのかって聞いてるの」
「いや、まだやってない。一応コレは最終兵器だから……」
「そう、なら仕方ないわね。私がやるわ。貸して」
そう言ってクリスが手を差し出した。
「をい、冗談だろう?」
この女がやったら屋敷ごと吹っ飛ばす可能性がある。
「大丈夫よ。私ならアレごとだって吹っ飛ばせるわよ」
「全部ふっ飛ばしたら元も子も無いだろうが…」
「まあ、それでもいいじゃない」
クリスは、アレクの肩をポンッと叩いた。
「そうですぅ!!」
「よくねぇよ」
「冗談よ。ちゃんとドアだけを吹っ飛ばすから貸してよ、ね」
アレクは少し考えこむ…。
「…解った。但し、手加減しろよ?」
そういってアレクは、クリスに指輪を手渡した。
「あ、いいですぅ。レナも貸して欲しいですぅ!!」
レナは、指輪を見た瞬間に、それを欲しがる。
まったく聞き分けの無い子だ。
「断る」
アレクは即答する。
「そんな、あんまりですぅ…」
「いいじゃない、貸してあげれば?」
クリスも加勢する。
「わぁーたよ。貸せゃいいんだろう。貸せば」
「とりあえず、こんなとこで時間潰すわけにはいかないからな。さっさと行くぞ」
アレク達は、中に入り一階に一つだけある開かずの扉の前に来た。
「私の出番ね。どきどき」
クリスは深呼吸をした。
回りが、どんどん静まっていく…。
「せぇ〜のっ!!」
すると、クリスの周りに旋風が巻き起こる。
流石のアレクも手で顔を覆った。
しかし、レナは平然と立っているではないか。
何者なんだ…。
クリスが放った一撃でも、ドアを吹っ飛ばすことは出来なかった。
「何で?うちの壁は打ち破る事が出来たのに…」
クリスは、しきりに悔しがっている。
「よし、もう一回!」
クリスは意気込んで、再び深呼吸する。
「せ〜〜のっ!!!!!」
再び旋風が巻き起こるが、ドアはびくともしなかった。
「やっぱり無理か…」
クリスが汗を拭う真似をした。
「次はレナの番ですぅ!!」
ずっと、やりたそうに見ていたレナが言った。
「そうね。レナちゃんもやってごらん」
「はいっ!!レナ、ガンバしちゃうですぅ!」
レナは意気込んで、指輪を受け取った。
「クリスさん、一体コレどう使うんですぅ?」
「ん〜とね。神経を集中させるのよ」
言葉で説明するのが難しかったのか、クリスは首を捻った。
「こうですぅ?」
「アレじゃあ、無理だな」
アレクがつぶやいた。
「レナ、いくですぅ!!」
そして、レナは大きく息を吸った。
「せぇ〜のぉ!!」
アレクは顔を覆った。
「たぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
しかし、クリスのように旋風は起こらなかった。
「ダメか。んじゃ別の方法探すしかないな」
「外に手がかりとかないのかな?」
「またお外に行くんですぅ?」
「まあ、そういうこったな」
「落ち葉はあんまり無いみたいね」
クリスは、木を見上げた。
「しかし、壁を伝って上った方が早いと思うんだが…」
アレクは、屋敷の外壁を見た。
「ねぇ、アレクさん。こんなのが落ちてたですぅ!」
レナが、こっちこっちと手招きをしている。
「アレク、慕われてるじゃないの」
クリスがこっちを見た。
「勘弁してくれよ…。レナ、今行く」
アレクは、レナのところへかけて行った。
「これですぅ」
と言って座りながら箱を指差した。
アレクは、それを持ち振って見る。
カラカラと、音がした。
「何か入ってるな…。開けてみるか」
「どうやって開けるの?」
「叩き割る」
「レナが開けるですぅ!」
「ほい」
アレクは箱をレナに手渡す。
レナはそれを手刀で叩き割ってしまった。
ある意味凄い。
「わ〜〜い、割れたですぅ!!」
レナは子供のようにはしゃぎまわっている。
本当に二十歳なのだろうか…。
箱は見事に二つに割れていた。
「中身は…」
「また紙よ」
クリスは、その紙を黙読する。
「なんて書いてある?」
アレクは気になったので聞いた。
「んーとね。『全部見てるわよ頑張ってね。ここに入ってる玉を5つ集めてね。 by マリィ』だってさ」
「玉ってコレの事ですぅ?」
レナが、玉を差し出した。
「多分そうだと思うわ。あと4つね」
「なんかあっさりしてるな…」
「早く探すですぅ!」
レナは張り切っている。
「どうしたの?そんなにはりきって」
「だって、嬉しいんですぅ。なんだかわくわくしちゃうんですぅ!!アレクさんのおかげですぅ」
「オレはなんにもしてないぞ」
「そんなことないですぅ」
「もしかしてレナって一人暮しなの?」
「え、レナは一人暮しですぅ」
「つまり日々の生活に飽き飽きしてたとか?」
「楽しいですぅ。でもアレクさん達と一緒にいる時の方がもっと楽しいですぅ」
「二個目発見したわよ」
こんな調子で全部集めるのに5分と掛からなかった。
「コレで全部ね。他に指示が無いみたいだからこれを持ってけばいいのね」
「多分な。しかし何がしたいのかさっぱりワカンナイな」
「合い言葉じゃないですぅ?」
「それはいい!」
これでやっと二階へ上がれるわけだ。
二階へ上がるドアには、注意してみると、五つの丸い窪みがある。
「さっきこんな窪みあったっけ?」
「さあ、あったんじゃないか?」
「まあいいわ。玉を入れるよ」
クリスは玉を手に取った。
「別に順番は関係無いわよね…」
「ああ、好きにやってみ」
クリスは、玉を一つづつ窪みにはめ込んだ。
すると、どこからともなく声が聞こえてきた。
『おめでとう。三階まで来てね』
ドアが静かに開く。
「うーむ。なんだかなぁ…」
三人はドアを潜り抜けた。




