第四章 いざ魔女の屋敷へ
第四章 いざ魔女の屋敷へ
「暗いな…」
アレクは、灯りを点けた。
今彼らは山道の入り口つまり街の外れにいる。
魔女の屋敷に行くには、この山道を登って行く必要がある。
しかし、街道とは違い、道は真っ暗な上に灯りは一つも無い。
山に住む物好きはこの街にはいないから灯りの必要はまったくないのだ。
「一度、上の方からドルジナの夜景を見下ろして見たかったんですぅ」
レナは、やけに張りきっていた。
「ドルジナの夜景は綺麗よ」
「夜景か、平和だな」
アレクは、疲れたように言った。
「何辛気臭いこと言ってるのよ?楽しく生きましょうよ」
「そうですぅ。病は気からっていうですぅ」
レナがこっちを向いた。
「楽観的なのはいいが、オレは病気でも何でもないぞ」
アレクは頭を振った。
「ねぇ、アレク。私達の灯りは?」
クリスが聞いた。
「そうだな…。二つしかないな。この小型ので充分だろう。これでも十時間は持つからな」
アレクは、灯りをともしてそれをクリスに渡した。
「レナの分は無いんですぅ?」
レナは、クリスの灯りを見ている。
「あいにく、二つしかないんだ。我慢してくれないか?」
アレクは、自分の分を手渡そうかと思ったが、危なっかしいので止めた。
もともと、一人旅をしていたのだからたくさん持っているはずが無い。
買わない限り…。
「レナちゃん、何なら私のを持つ?」
「はいどうもありがとうですぅ。レナは、目が悪いんですぅ」
レナは、そう言って灯りを受け取った。
「そうか、レナは目が悪いのか。どうりで人間と物が区別できない訳だよ」
アレクは、一人納得をした。
ほかにも原因があると思われるのだが…。
「おい、クリス。ここはどうみても一本道だよな?」
「ええ、それはもう」
「よし、じゃあ行くぞ」
ユーリィは、夜目が効かないので荷物の中に眠らせてある。
「わ〜い、レナも楽しみですぅ!!」
レナは、やたらと張りきっている。
「そういえば、ジョンの奴とうとう出てこなかったな。すっかり忘れてたけど」
アレクは、今思い出したように言った。
「ジョンは、一番おいしいところを持っていこうとするわ。だから今はいないのよ」
「おいしい?レナ、もっとジュース持ってきたほうがよかったですぅ」
「別にいいよ。そんなに遠くないはずだから」
「夜行けば、のどが渇くって距離でもないわ」
「そうですぅ…」
アレクはこの時、こいつらといると、緊張感が無くなってくのを感じた。
それが、よい事なのか悪い事なのかは、アレク自身解らなかったが…。
少なくとも、戦いに行くという感じはまったく無く、遠足にという感じだった。
「ねぇ、ただ歩いてるだけじゃつまらないから何かしない?」
クリスが提案した。
「わ〜い。レナも賛成ですぅ!」
有無をいわさずレナは、賛同した。
「何をするんだよ」
アレクは、そんなことして何になるんだと思った。
「そうねぇ?クリスと仲間達の冒険予告編。確か、龍を倒しに行く話しなんだけど…」
「あの龍は強かったんですぅ!」
レナは、すかさず続ける。
「なんだよそれは?クリスと仲間達っいうのは?」
「私と、アレクと、レナね。後はとある村で出会う事になっている少年のマイキーよ」
「その出会うってことになっているってもう決まってる事なのか?」
ゾッとしたアレクは思わず聞き返した。
「そうね、アレクは強いからそう簡単には死ねないわよ。だって最後には魔王と戦わなきゃならないから…」
「まぁ!?魔王さんをアレクさんが倒すんですぅ!??じゃあ、レナは歴史の証人なんですぅ」
レナは、驚いた。
「そういうことね」
「ちょっと待てよ。オレは、この世界に魔王がいるなんてこと聞いた事無いんだが……」
アレクが言った。
「そうよね。だって魔王はまだ活動してないから、その存在を知ってるのはごく少数なのよ」
クリスは、何処か遠いところを見ていた。
「魔王さんはやっぱり強いんですぅ?」
「それはもう、魔王っていうくらいだし……」
「ところで、魔王とやらが存在してたら、そいつを倒すのはオレの使命なのか?」
「それは……」
「ねぇ」
「ねぇ」
クリスとレナが、『ねぇ』のところだけハモらせた。
アレク以外に誰がいるの?アレクが倒さない限りこの世に平和なんてものは訪れたりしないわよ」
「……別に他にもたくさん強い奴が居るだろうが」
このときアレクは知らなかったが、クリスの話しのほぼ七割くらいは真実ならしい…。
しかし、先の出来事なのでアレクが知るはずも無いが…。
「甘いわね。そんなのじゃ面白くないじゃない。それに名声が得られるわよ」
クリスは、力説をした。
「楽しけれりゃいいのか?オレの生き様って。魔王を倒すのって楽しいのか?」
アレクは苦笑した。
「レナはとっても楽しいと思うですぅ!」
レナは、とっても楽しそうだ。
「そうね。苦労は付き物よね。ま、私達のバックアップがあれば怖いものは無いわよ」
「た、確かにある意味怖いものは無いな…」
「そうでしょう?」
「レナも怖いものはないですぅ」
「私だって無いわよ」
クリスもまけじと、対抗する。
「オレは、別に怖いものなんてあっても構わないと思うけど…」
「あ、見て欲しいですぅ!ドルジナの夜景が見えるですぅ」
レナは、嬉しそうに指を指した。
「あ、ほんとうだ」
クリスも、つられてそっちの方を見る。
「夜景か…。ふぅ」
アレクは、ため息をついた。
「少し、休憩しない?」
クリスは、アレクの方を見て聞いた。
「休憩したいですぅ」
レナは、いつのまにかアレクの顔を覗きこんでいた。
アレクは、驚いて顔をそむける。
「解ったよ、少しだけだかんな」
「うわぁ〜〜〜い!!」
レナは、喜んだ。
「あ、アレは私の家よ」
「え〜と、レナの家は……アレですぅ!!」
レナとクリスは、夜景の中から自分の家を探し出す事に夢中だった。
アレクは夜景に見入ることなく、その場に立ち尽くしていた。
「ねぇ、アレク。ほら、アレが私の家よ」
クリスがこっちを見て言った。
「ほう、あれか。こっちから見ると大きさなんてまったく解らないもんだな」
アレクは、感心していた。
「確かにね」
「星の降るような夜ですぅ。レナうっとりしちゃうですぅ!」
「をいっ!うっとりすんな」
「流れ星でも流れないかな?」
クリスは、空を見上げた。
「そう簡単にって…アッ!」
アレクは、空を指した。
見事な流れ星た。
「わあ、さっ願い事しなきゃ」
クリスは、目を閉じた。
「ねぇ、アレクさん。流れ星って何処へ行くんですぅ?」
「さぁな。着の赴くままに何処か遠いところに行くんだろうな」
「じゃあ、レナ達も流れ星のようなものですぅ!」
「まあ、そういうことになるかもな」
「お〜い、そろそろ行くぞ!」
いい加減しびれを切らしたアレクが、切り出した。
「もうちょっとだけ」
「もういい、先に行く」
アレクは、そういうと一人で歩き出してしまった。
別に待つ必要なんて無いんだからな…。
「待ってよアレク♪手柄を一人占めしようとするなんて酷いじゃない?」
「そうですぅ。レナもてがらが欲しいですぅ」
あわてて、後から二人は追いかけてきた。
「手柄が欲しいんだったらいくらでもくれてやるよ。オレは、手柄が欲しくてやっているわけじゃないんでね」
「アレクったら面白いわね。手柄のためじゃなかったら何のためにやってるの?」
「さあ、何のためだろうか…」
「そう簡単には言ってくれないのね」
「てがらって食べ物なんですぅ?」
クリスは驚いた。
「何でそうなるの?」
「いきなり突拍子もない事言うなよ。それともレナ、お前お腹空いてるのか?」
すると、図星だったのかレナが驚いた。
「えっ!?何で解ったですぅ?」
「でなけりゃ、手柄が食べ物だなんて誰もいわないよ。……クリス、何か無いか?」
アレクは呆れていた。
「私?チョコくらいしかないけど」
「じゃあ、それでいいよ。レナにあげて。彼女はお腹が空くとおかしなこと言いだすから。大変なことになる前に」
アレクは、皮肉を込めて言ったが、当の本人には意味が通じず、ただニコニコしているだけだ。
「はい。ねぇ、レナちゃんって歳いくつなの?」
この行動ぶりから見ても絶対年下としか思えない。しかも精神年齢はさらに下だろう。
「歳ですぅ?レナは二十歳なんですぅ!」
「は、二十歳ぃ?オレより年上なのか?」
アレクは目を丸くした。
絶対におかしいぞ。
当のレナは、クリスに貰ったチョコを割って食べている。
「恐るべきレナ。で、そういうアレクはいくつなのよ?」
「オレは、十七だよ」
「これ、甘くておいしいですぅ」
「私は、十五で一番年下なわけね」
「そうだな、レナが二十歳なのは意外だったけど……」
「アレクさんも、食べるですぅ?」
レナはひとかけのチョコを、片手に構えていた。
アレクが口を開けたとたんに中に放り込むつもりらしい。
「オレは、いら……!?」
いらないと言おうとしたが、それより先にチョコを放り込まれてしまった。
「アレクさん、おいしいですぅ?」
レナが嬉しそうにじーっとこっちを見つめている。
別にアレクは、甘いものが嫌いなわけではなかったが、ここのところ食べ過ぎていたので控えているだけなのだが…。
「あっ、うまい!?」
「ねっ!?レナ、今度コレ買うですぅ!!」
「オレも、買う!」
アレクは、そう言った後苦笑した。
もう、レナが全て食べてしまったようだ。
「ああっ、私それまだ一口も食べてなかったのに…」
今思い出したようにあわててクリスが言った。
「また買えばいいじゃないか」
「しょうがないわね」
ちょっと不服そうな感じの答え方だ。
「クリスさん、レナが買ってくるですぅ。だってレナが全部食べてしまったんですぅ…」
レナは、申し訳なさそうに言った。
「礼儀正しいな」
「ありがとう、レナちゃん。今度一緒に買いに行きましょうね」
「うわぁ〜い。レナ、甘いの大好きですぅ!」
レナははしゃいだ。
「おい、レナ危ない!はしゃいでいると落ちるぜ」
暗いから解りにくかったが道はほとんど崖のような感じになっていて、うっかり足を踏み外すと崖へ転落してしまう。
そんなことになってしまったら、怪我はおろか、命さへ危うい。
「落ちる?」
思わずクリスが聞いた。
「ほら、そこ崖になっているだろう?レナは目が悪いって言うんだからなおさら危ないだろうが…」
「きゃっ!?」
言ってるそばからレナは足を踏み外した。
しかし落ちかけたとき、運良く手をつく事が出来たので、片手でぶら下がった状態になっている。
「いわんこっちゃない…」
呆れた顔でアレクが言う。
「そんな事言ってないで、早く助けないと本当に落ちちゃうわよ!」
クリスは少し冷静さを失っている。
「そうですぅ。早く助けて欲しいですぅ!!」
レナは、情けない声をあげてはいるものの、まだ随分と余裕があるように見える。
なんせ、レナは笑顔を絶やしていない。
「まだ大丈夫だろう。おい、クリス。オレがレナの手を引っ張って持ち上げるから、後ろからオレを引っ張れよ!」
アレクは指示した。
「オッケー。後ろから引っ張ればいいのね」
クリスは、親指を立てた。
アレクは、両手でレナの腕をつかんだ。
「準備はいいか?」
「いつでもいいわよ」
「せ〜〜のっ!!」
せ〜〜のっ!!の声でレナの身体が少しずつ上へ上がっていく。
「あぁ〜〜〜〜〜〜!!腕がちぎれちゃいそうですぅ!!」
レナが半泣き状態で叫ぶ。
「おい、こら暴れるな!!オレが手を放したら真っ逆さまだぞ、解ってるのか!?」
アレクは注意したが、レナはパニック状態でさらに暴れつづけている。
「早くして欲しいですぅ!!!」
「早くして欲しけりゃ、大人しくしろよ」
アレクは、さらに引き上げる手に力を込めた。
「あとちょっとよ!!」
クリスが励ます。
「おりゃああ!!これでどうだ!!」
レナが引き上げられると同時に、アレクは後ろに倒れてしまった。
どうやら、勢いあまったらしい。
「ちっ、勢いつけすぎちまったみたいだな」
すぐに起きあがってアレクは言った。
「アレクさん、ゴメンですぅ」
レナはすぐにアレクに謝った。
「レナ、人の忠告はちゃんと聞けよな」
「でも助かって良かったじゃない。それにもう少しよ」
クリスは、辺りを見まわしてから言った。
「本来なら見捨てるとこだったよ」
「そんなぁ、アレクさん。レナを見捨てないで欲しいですぅ!!」
レナがすかさず抗議の声を上げる。
「冗談だよ。オレは人を見捨てるなんてできないからね。そんな事したら目覚めが悪いだろう」
「そうですぅ!!」
「このお調子者。ちょっとは立場をわきまえやがれ!!」
アレクは、レナに軽く蹴りをくらわせた。
「うわぁ〜アレクさん、ゴメンですぅ…」
レナは、頭を抱えた。
「アレクも結構楽しそうにやってるじゃない」
「面白いものか。どんどん自分が情けなくなっていくよ」
「何処が情けないの?私には充分立派に見えるんですけどねぇ?」
「そうですぅ!情けないなんて情けない事言わないで欲しいですぅ!レナがいるじゃないですぅ!!」
お前等のせいだとアレクは言おうと思ったが、言っても無駄もしくは余計ややこしくなるだけなのでやめた。
「ああ、そうだなぁ。オレはいい仲間に恵まれてるんだな。情けないなんて取り消しだよな、レナ」
アレクは半ばやけになっている。
「ほぇ?」
レナは急に振られ、返事に困ったがすぐに意味を理解したようだ。
「そ、そうですぅ。アレクさんは情けなくないですぅ。なんてったって人望があるですぅ!」
「人望?」
「そういえば、確かに人望はあるよね」
クリスは少し考えてから言った。
アレクはいままで人望があると言われた事が無かったので、少しだけ嬉しかったようだ。
「あんまり誉めるなよ。後でがっかりしても知らないからな」
「アレク、照れてる」
暗くて、表情こそ読み取れないもののクリスにはアレクが照れている事が解った。
それを聞いたレナは、アレクの顔を覗きこむ。
「…………?」
アレクは、レナの顔を視界に捉え、思わず見つめそうになるがすぐに顔を背ける。
「ホントですぅ!アレクさんの顔、赤いですぅ」
「そんな事確かめなくてもいい、そして、レナ。オレの顔を間近で覗きこむなよ。頼むからさ……」
「え〜!?何でですぅ?」
飽くまでとぼけたレナが言った。
「アレク、別にいいじゃない。害があるわけじゃないんだし…」
クリスがからかった。
ここであると言ったら、アレクはレナに弱いということになってしまう。
「別に害は無いかもしれないけど、急に視界に入ってきたりすると驚くんだよ!」
アレクが叫んだ。
「やっぱり、照れるからでしょう?」
「いや、違うってば…」
レナの顔を見るとどうしても魅入ってしまう。しかも、間近で見つめられるとまともな判断が出来なくなる。
これをどうしろと言うのだ?
無理に決まっている。
「まあいいわ。そういう事にしといてあげる」
クリスは、人をからかうのがうまい。
「あのな〜」
「アレクさんは、照れ屋さんなんですぅ」
「違うって言ってるだろうが!」
アレクは、声を上げて叫んだが、レナもクリスもまったく動じなかった。
「ほら、あの建物よ」
クリスは、前方にうっすら見える建物を指差した。
「ほう、あれか。夜でも灯りが付いてないみたいだな」
「留守みたいですぅ」
レナが言った。
「そうじゃないだろう。でも、魔女の目撃証言が無いからはじめからいないって事も考えられるけどな」
「いいえアレク、それは違うわ。魔女は絶対ここにいるわよ」
クリスは、断言した。
「まあ、雰囲気はあるし、あながちいないとは思えないな」
「そうですぅ。魔女さんも、こんなに夜遅くに出かけたり何かしないですぅ!!」
「それは、違うだろう。大体魔女が何処に出かけるんだよ?」
アレクは、レナに詰め寄った。
「え〜と、街に買い物に行ったり、お友達の家に遊びに行くんですぅ」
レナは、考えながら言った。
「まあ、それはあるかもね」
クリスも同感だ。
そして、一分ほど歩いて、その屋敷の前に到着した。
それは、3階建てでクリスの屋敷よりは一回りも二回りも小さく見えた。
屋敷の周りを回ってみたがやっぱり灯りらしきものは一つも点いていなかった。
中にも人がいる気配すらない。
「まるで、私達空き巣ね」
「それを言っちゃお終いだよ。空き巣なんかじゃないさ」
「ちゃんとノックしてから入れば大丈夫なんですぅ!!」
「ちょっと待てよ。鍵は開いているのか?」
鍵が開いてないと中には入れ無いのでアレクは、クリスに訊いた。
「鍵なんて最初から付いて無いわよ」
一度行った事があるクリスが言った。
「無用心だなって、こんなとこ誰も来ないよな」
「確かに不便なんですぅ」
「じゃあ、乗りこむとするか。なぁクリス。中は全部見たのか?」
アレクは、クリスに訊いた。
「一階はね。後は見てないわよ」
「そうか、じゃあ、入るぞ」
アレクは、ドアを開けた。




