第二章 暗殺者 出現
第二章 暗殺者 出現
あれから、街へ繰り出した三人だったが、何時の間にかジョンの姿が消えていた。
「一つ聞いていいか?」
アレクが聞いた。
「ええ、いいわよ」
「ここでは、こうゆうお金は使えないよな?」
アレクは、そう言ってポケットの中から数枚の硬貨を出して見せた。
無論、クリスはその硬貨を見た事が無かったので、
「使えないんじゃない?」と言った。
「そうだよな。じゃあ、まずは質屋だ」
「使えないんじゃしょうがないわね。私がここのお金と交換してあげようか?」
クリスが、ポケットを探りながら言った。
「別にいいよ。どっちにしろオレが持ってるお金とここのお金の価値の違いなんて解らないだろうから」
アレクは断った。
「けちぃ。でもまあいいか。質屋はこの近くにあるわよ」
人通りの少ない道をまっすぐ二、三分歩いたところにそれはあった。
<レイ質屋>と書かれた看板の店を見つけ、その店の中に入って行った。
店の中には、四十過ぎの男がカウンターに座っていた。
店の主人だろうか?
「いらっしゃい。おやっ、クリスじゃないか。隣にいるのは彼氏かい?変わった格好しているけど…」
主人が言った。
「惜しいわね。ちょっと違うわよ」
クリスは少し嬉しそうだ。
「オレ、そんなに若く見えますか?」
アレクが聞いた。
「クリスと同い年じゃないのか?」
「違いますよ。これを質入しようと思うんだけどいくらになる?」
そう言ってアレクは純金のネックレスを渡した。
主人は、それを受け取り眼鏡で子細に点検する。
「二万九千でどうです?」
主人が聞いた。
二万九千と言えば、アレクのいたところでは結構高い値である。
「クリス、二万九千ってどれ位だ?」
「そうねぇ、結構高いんじゃない?ねぇ、タケト。三万にならないかしら?」
タケトとは主人の名らしい。
「そうだねぇ。クリスがそう言うんなら三万でいいよ。ところであんたドルジナの住人じゃないね」
主人は、アレクにお金と質札を渡した。
「ああ、オレはラインニール国から来た。しかし、ここじゃあ向こうのお金は使えないみたいだな」
「なら、そのお金も交換してやろうか?」
主人が興味ありげに言った。
「いや、いいよ。自分の国に帰った時質屋の無いところについたら困るからな」
アレクは苦笑した。
ラインニール国の小さな町や村には質屋が無いのが普通なのだ。
「あんたも大変だね」
主人はアレクを気遣った。
「ありがとね、タケト」
クリスはさっとお礼をいった。
「じゃあ、またな主人」
「また来いよ」
主人は手を振って見送った。
「クリス。もしかして、常連?」
あの馴れ馴れしさからアレクはそう思ったらしい。
「ん〜。時々遊びに行くくらいね。タケトの話が面白いから聞きに行くの。彼は昔旅の商人だったんだって」
クリスが説明した。
「そうか、それでオレについて行きたいと思うわけだな」
アレクは少し納得した様子。
「もちろんそうだけど、やっぱり楽しく生きたいと思うの」
「別にそれが悪いとは思わないけど、結構大変だぜ。いつ死ぬか解んないし…」
アレクは後ろ手を組んだ。
「まあ、それも運命だと諦めれば、この退屈な生活よりはマシだと思うわよ」
「退屈…。そうなんだ」
その後、近くの公園で腰を下ろした。
「あれくさん。ヒマ人ですね」
ふと顔を見上げるとそこにはジョンがいた。
「…。なぁジョン。そろそろ場所を教えてくれないか」
いい加減痺れを切らせたアレクが、ジョンに向かって言った。
「ドルジナの人間なら誰でも知ってますよ。この街の地図をあげます。これで大丈夫ですね?」
ジョンは市販の地図を手渡した。
「ありがとう、助かるよ」
アレクは礼を言った。
「おやぁ、こんなところにいたのかなぁ?」
ふと後ろで、アレクにとって聞き覚えがある声がした。
「ちっ、こんなところまできやがったか」
アレクは舌打ちをしてその場から離れた。
「わざわざこんなところまで来てあげたんだから、礼くらい言って欲しいなぁ」
「誰が言うか。二人とも奴から離れろ!」
アレクはあわてて言った。
しかし、二人は突然何を言われたのかさっぱり解らず、その場に座ったまま動かない。
「昼間っから勝負するのも何ですから、この子を借りて行きますね。日没までに私のところに来てくださいね。まあ、その時があなたの最後ですから……楽しみにしてますね」
そう言ってクリスを小脇に抱えて、さっと逃げて行った。
「素早い奴だ。しかもジョンと喋り方一緒だな」
アレクは、逃げて行った方を見ながら言った。
「とんでもございません。私はあんなのとは違いますよ」
ジョンは首を振って否定した。
「それよりも助けに行かないと。でもあいつ暗殺者の癖に一度も成功したことの無いバカだからな」
アレクはバカにしたように言った。
「間抜けですね」
「まぁ、仕方ないさ。最初の標的がオレだからな」
「じゃあ、探しに行きますか?」
「探すって、心当たりあるのか?」
一応聞いてみた。
「無い事はないんですが、これは最後の手段なのでやめましょう」
ジョンは考えながら言った。
「じゃあ、自分で探すしかないのか…」
アレクは溜め息をついた。
「じゃあ、私はこっちの方を探します」
ジョンはそう言ってうしろの方に進んで行った。
「ジョンならすぐ見つけそうな気がするんだけどな」
アレクはつぶやいた。
「そうだ。ユーリィ、ちょっと上から探してくれないか?」
上から探した方が見つけやすいと思ったのだろう。
ユーリィは、一声鳴くと上へと飛んで行った。
「どう?」
「クェ」
どうやら、見つからなかったらしい…。
だとすれば、この近くに身を潜めているはず。
アレクは、あの暗殺者の好む場所を知っている。
あいつは、格好だけなので実力は無に等しい。
だから、相手にしなくても、殺されることはまず無いと言っていい。
あの暗殺者は、廃墟とか路地裏みたいな人が出入りしない場所を好み、そこへと誘き出す。
つまり、人前で殺すという芸当が出来ない奴なのだ。
そして、その場所はすぐに見つかった。
五分ほど歩いた場所に廃ビルがあった。
もう何年も人が出入りして無い感じがして、その入り口には1枚の紙切れが落ちていた。
まだ、日は沈んではいない。
アレクは紙切れを拾った。
「さあ、ゲームの始まりです。私は、ここの最上階にいます。気をつけてくださいね。罠が仕掛けてありますので。………………D」
Dとは、あの暗殺者のことだろう。
ジョンを探しに行く時間など無いな。
「人も殺せない暗殺者が笑わせやがって…」
アレクは毒づくと中へと入って行った。
基本的に暗殺者は、標的を確実に仕留めるまで相手を変えることは無いという。
暗殺者連合の暗殺者にとって失敗は自分の死を意味するのだ。
だが、暗殺者が失敗を認めず、しつこく狙って来ることがある。
つまり、暗殺者に殺されたり暗殺者を殺したり暗殺者が諦めたりしない限り、ずうっと狙ってきて当然なのだ。
「ねぇ、私縛られて動けないんだけど…」
クリスは暗殺者に言った。
遠まわしに解いてと言っているのと同じである。
「それは、無礼なことをしましたね。私とてこんな手荒な真似はしたくなかったのです。さっき、アレクがこの建物の中に入って来ました。もうすぐここに来ますよ。面白いショーが見れますよね」
「あなたがやられるのを、私がここで見てるのね」
クリスは、アレクが負けるとは毛頭思っていない。
暗殺者は、一瞬言葉を失ったが「私がやられるわけありませんよね」と否定した。
これも、相手を殺すまで負けを認めない暗殺者的な考えだ。
「無理しないほうがいいんじゃない?アレクが相手じゃ、命がいくつあっても足りないわよ」
クリスが忠告した。
そのころアレクは罠に引っかかっていた。
「くそ〜。小賢しい真似を!」
アレクは、床に仕掛けられていたロープを起き上がってからショートソードで切った。
そしたら、ガラガラっと音がした。
「やべっ、またか」
アレクには盗賊技能というのがほとんど無いに等しい。
だから、罠と言うのは苦手なのだ。
アレクは軽く念じ、見えない結界を作った。
これで落下物とかそれくらいのものならなんとか防げるだろう。
「あいつも本気で殺す気だったら、さっさと殺せって言うんだよ」
アレクは溜め息をついた。
つまり回りくどいことをするなと言いたいのだろう。
アレクは、そのまま結界を保ちながら階段を上った。
すると、階段の上から何かが転がってきた。
「ま、まじかよ…」
アレクは、急いで階段から駆け下りた。
かなり大きな岩が階段から転がってきた。
アレクは、それをギリギリで避けた。
岩は、階段から少し先に言ったとこで止まった。
「危ねぇ、いくらオレでもこんなに大きな岩は防ぎきれないな」
アレクは目を丸くして言った。
再び階段を上りはじめる。
今度は何も起こらない。
「ふ〜タダじゃおかねぇぞ。こんちくしょう」
アレクは、少し頭に来ていた。
それから少ししてアレクが暗殺者のところについた。
「どうしました?アレクさん。どうも疲れているみたいですね」
暗殺者が同情したような口調で言った。
「アレク、助けに来てくれたのね」
クリスは嬉しそうだ。
どうもこの状況に寄っているようだ。
「勘違いするな。そして貴様もいい加減にしろよ」
アレクがけんか口調で言った。
「それは、私に勝ってから言ったらどうですね?」
暗殺者は調子に乗っている。
「アレク〜、ガンバって。そして私を助けて」
クリスは、あくまでこの状況を楽しんでいるようだった。
アレクは、ロングソードを手に取り構えた。
「何処からでもかかって来な!」
アレクは挑発した。
「それじゃあ、遠慮なく行きますね」
暗殺者は短刀を持ち、アレクに襲いかかってきた。
アレクは、さっと横に避けて剣を振り上げ、暗殺者の持っている短刀を弾き飛ばす。
「流石は、私の標的。簡単にはやられてくれませんよね」
暗殺者は息を飲んだ。
アレクは溜め息をついた。
「お前も暗殺者なら、正面から勝負を挑まないで後ろから気付かれずに刺し殺す位してみろよ。単なるバカだぜお前」
アレクはあきれていた。
しかし、この暗殺者は曲がったことがあまり好きでなく、後ろから刺し殺すなどと言う手段を好ましいことだとは思っていないらしかった。
「いいじゃないですか。これが私のやり方なんですね」
本当に変わった奴だ。
暗殺者はすかさず次の武器を手に取った。
そして、それをアレクに突き刺した。
アレクはすでに避けている。
何故アレクが結界を張らずに避けたりしたのかと言うと、罠に引っかかったりして精神力が残りわずかしかないからだ。
アレクは、暗殺者を足掛けして倒した。
一応、暗殺者はどんな状況でも攻撃は出来るモノだと言うことをアレクは知っていたので、暗殺者に迂闊に近づくことはしなかった。
アレクは、暗殺者が倒れている隙にクリスの縄を解いた。
「危ないから隅にいろよ。決してここから出ないでくれよ。まだ、罠があるかもしれないから…」
アレクがクリスにそう促した。
そうしている間にも暗殺者は次の攻撃に出ていた。
なんとナイフを手裏剣代わりに投げてきたのだ。
すんでのところでアレクは避ける。
「ずいぶん余裕がありますよね」
「余裕なんて無いさ。もうオレはくたくただぜ」
アレクは苦笑した。
アレクは壁に刺さったナイフを抜き取った。
ナイフの先端になにかが塗ってあったが、アレクにはそれがしびれ薬だと言うことが即座に解った。
アレクは、それを暗殺者に向かって投げ返した。
それは、暗殺者の足をかすめた。
「しまった」
おもわず、暗殺者は声を上げた。
「悪いな。また今度遊んでやるからな。それよりも暗殺者なんか辞めてまともな職についた方がいいぜ」
アレクは、暗殺者をからかった。
「甘いなアレク。自分が持ってる毒の解毒剤を持って無いと思うんですか?それにあらかじめ飲んでおけばその毒に対する抵抗力がつくんですよね」
暗殺者が小馬鹿にした笑みを浮かべた。
「あっそう、それがどうしたの?」
アレクは、意地悪そうに言った。
「うっ、まさか………」
「多分合ってるよ、そのまさかで」
アレクは、さっきナイフを投げ返す前に塗ってあった毒を拭き取り、自分が持っていた毒を塗っておいたのだ。
「まったく、無駄な体力使っちまった」
アレクは腕を回した。
「凄いアレクってやっぱり強いのね」
クリスが掛け寄ってきた。
「とりあえず、こいつをどうするかだ」
アレクは暗殺者を見下ろしながら言った。
暗殺者は、意識は有るものの体が痺れて動くことが出来ない。
しかし、暗殺者の目は『まだ、負けてませんよね』という感じでアレクを睨み付けていた。
「じゃあ、縛って警察にでも持っていきましょうよ」
クリスは、縄で縛られたことを根に持ってるみたいだ。
「そうだな、このまま放置しておくとまたすぐにくるからな…」
そういって、アレクはさっきクリスを縛ってた縄を持ってきて暗殺者を縛った。
「お手柄ね、アレク」
クリスは嬉しそうだ。
「警察に持ってくなんて考えたことも無かったぜ」
アレクは苦笑した。
「この街では、これが普通よ」
クリスも苦笑した。
「そうなのか。でも、面倒なんだよな。警察署の前に『私は悪人です』と張り紙して、放置しておこうか。その方がラクだし…」
アレクが提案した。
「良いんじゃない、それで」
「じゃあ、気付かれないうちに運ぶとするか」
アレクは、暗殺者を持ち上げたが何を思ったのかそれを置いた。
「意外に重い」
アレクは、汗を拭う真似をした。
「をい」
クリスは突っ込みをいれた。
「仕方ない、引っ張って行くか」
アレクはそう言って、ロープの先をもって歩き出した。
「あっ、おいてかないで」
クリスは、慌てて後を追った。




