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第十二章 星の降るような夜に




第十二章 星の降るような夜に





「アレク。良くやったわね。結構楽しそうだったわよ」

 開口一番、クリスが言った。

「何が楽しそうだ。ったく、訳解らんことばかりで大変だったぜ」

 アレクは壁際まで歩いていってそこによっかかった。

「クリスさん。レナガンバしたですぅ」

 レナはクリスに一生懸命訴えている。

 きっと誉めてほしいのだろう。

「うん、レナちゃん頑張ってたもんね」

 クリスはレナを誉めた。

「いいコンビでしたよ」

 ジョンまで…。

「ねぇ、アレク。これからどっか食べに行かない?」

 クリスが聞いてきた。

「こんな時間にまだ開いているのか?」

 アレクは、夜遅くまで店が開いているのは酒場くらいしかしらない。

 現地時間で七時半くらいか…。

「あいてるわよ。それに私達まだ晩御飯食べて無いし」

「ねぇ、盛り上がっているわねぇあんた達。私も行きたいなぁ…。あ、そうだ。あなた達の願い事を叶えてあげるわ。勝ったわけだしね。但し一人一つだけよ」

 マリィは、これじゃあいつまでたってもきりが無いと判断したのかきりだした。

「あ、そうですぅ。レナ、願い事叶えてもらいに来たんですぅ」

 レナは、そう言うとあれこれと自分の世界に入ってしまった。

「出来る限りってどれくらいなの?」

 クリスが聞いた。

「そぉねぇ。出来ないのって死人を生き返らせるって事くらいかなぁ…」

 マリィは少し考え込みながら言った。

「みんな考え込んでいるみたいなので、私からでいいですか?」

 ジョンが前に出た。

 …人類滅亡とかだったらやめてくれよ。

「私自身は特にございませんが、アレクさんの罠のはまりやすさをどうにかしてもらえませんか?あれはとても見苦しくて私の美学に反します」

「わかったわ。私もアレは見苦しかったしね。じゃあいくよぉ」

 マリィは、アレクに向かって口早に呪文を唱える。

 一瞬、アレクは光に包まれる。

「ん?なんともないが…?」

 アレクは自分の手のひらを見た。

「もう、これであなたは罠に引っかからないわよ」

「そうか…。ジョン、お前は良かったのか?」

「ええ、べつに間抜けな罠に引っかかって死んでしまうような人間はヒーローにはなれないのですよ。アレク殿」

「オレは、普通の人間だよ。ヒーローなんかにしないでくれ」

 クリスはマリィに向かって言った。

「私達の仲間になってくれない?」

「そんなのでいいのぉ?でも私ここからあまり長く出てられないわよ。それにアレクに渡した召還道具でいつでも会えるよぉ。だから別の願い事にして」

「じゃあ、私も魔法が使いたいっ!!」

「いいわよぉ」

 マリィは、呪文を唱えた。

「一体どんな魔法なの?」

「守護系みたいだから、回復魔法とかプロテクトとか使えるわよぉ。あとクリスちゃんは強い精神力があるから鍛えれば強大な魔法も使えるようになるよ」

「ありがとう!これで私も魔法が使えるのね」

 クリスは、試しにアレクに魔法を使ってみた。

「あ、少し楽になった」

 クリスは喜んでレナとはしゃいでいる。

「私も、魔法が使えるようになったのね。これで冒険に出ても安心ね」

「レナは、ずっとアレクさんと一緒に居たいんですぅ」

 レナは、アレクの腕にしがみつく。

「レナ、少し考え直せ。そんなのは願い事じゃなくても実現してるだろうが」

 アレクは、いつでもレナがいると思うとゾッとした。

「解ったですぅ。じゃあレナ、ガンバしちゃうですぅ!!」

「ねえ、レナちゃ〜ん。それ、願い事じゃないよぉ」

 マリィは、レナに言った。

 そもそも、解っているのだろうか?

「じゃあレナ、アレクさんのお嫁さんになるですぅ」

「やめろぉ、オレにだって相手を選ぶ権利があるんだぜ」

「もちろん、アレクさんはレナを選ぶですぅ♪」

「何でだ?オレはまだまだ修行しなきゃならないから、当分は結婚なんてするつもりはないぞ」

 アレクは、必死に弁明する。

「そぉねぇ。人の気持ちまでぇ変えちゃうのはぁ、あまり気分がよくないねぇ」

 マリィは、飽くまで他人事のように言う。

「ぶぅ、じゃあレナ、もっともっとかわいくなるですぅ」 レナは、全てを否定されたので、怒って頬を膨らませた。

「レナちゃんは、今のままでも充分かわいいと思うけどなぁ」

「かわいくなるですぅ!」

 マリィは、レナの迫力に押されて、解ったよぉと、言いながら魔法を唱えた。

 あ、でも変化はないらしい。

 そうだよなぁ、レナはかわいすぎるし、強すぎるし、精神年齢低すぎだもんなぁ。これ以上かわいくなったらそれこそ最終兵器なんだろうな。

「ゴメン、レナちゃんこれ以上かわいくできないよぉ」

 マリィは、謝った。

「じゃあ、レナが一番かわいいんですぅ!」

 と、何も解っていないレナは、嬉しそうに走り回った。

「後は、アレク君だけだねぇ」

「オレか、人を生き返らせる以外なら何でも出来るって言ったよなぁ?」

「大体はねぇ」

「じゃあ、こいつを元の姿に戻してくれないか?」

 アレクは、荷物に止まっていたユーリィを掴んでマリィの前に差し出した。

「う〜ん、変化の魔法がかかっているねぇ。まぁ、出来ない事はないよぉ」

 マリィは、Vサインをしながらウインクをした。

 任せてって事かな?

「アレクぅ、ラッキーだったねぇ。私に会って正解だったよぉ。これぇ、かなり特殊な魔法がかかっているのぉ。私じゃないけど魔女がやった奴だねぇ」

「よく解るな。何で解ったんだ?」

「変化の魔法はぁ、普通の魔法使いでもぉ、使えるんだけどぉ。少なくとも十年以上はたっているよぉ」

「ああ、そのとおりだ」

 アレクは、マリィの感知力に驚いていた。

 マリィは、少し長めに呪文を唱え、一面が煙に包まれた。

「けむりでなんも見えない」

 クリスの声が聞こえた。

「雰囲気よ、雰囲気ぃ」

 マリィが言った。

「この煙大丈夫か?」

 アレクは心配をした。

「害はないよぉ」

 その時、レナが煙の中から体当たりをして来た。

「ぐふぉ!!」

 アレクは、派手に吹っ飛んだ。

「アレクさん大丈夫ですぅ?」

 レナは、アレクを吹っ飛ばした事に気がついたのか、アレクの元に駆け寄った。

 声だけを頼りに…。

 アレクは気絶こそしなかったものの、うめいている。

「レナ、頼むからあまり走り回らないでくれよ」

 レナは、アレクを抱え起こした。

「ゴメンですぅ」

 アレクは、何も言わずレナを睨んだ。

「アレクさん、本当に大丈夫ですぅ?」

 レナは、アレクが何も答えなかったので、心配して顔を覗き込む。

「…ああ」

 黙っていたら、レナの質問攻めにあうと思ったので生返事をした。

「レナ、今度から気をつけますから、アレクさんレナのこと嫌いにならないで欲しいですぅ」

 レナは、少しだけ涙を浮かべながら言った。

 アレクは、何と答えていいか返事に詰まってしまった。

 かわいい、かわいすぎるよぅ…。

 何かしらないが、罪悪感を感じてしまったのだ。

「…解った。落ち着けレナ。オレが悪かった。嫌いにならないでやるよ」

 アレクは、これ以上事が大きくなるのを恐れて、レナをなだめた。

 レナがオレに対して暴走したら命は確実に落とすから…。

「アレクさん、大好きですぅ」

 レナは、アレクに抱きついた。

「やめろ、重い」

 アレクは、形だけの抵抗をした。

 いくら、抵抗してもレナにはかなわないからだ。

「アレクぅ、そんなとこでべたべたしてないでこっちに来なよぉ」

 マリィが誘いに来てくれた。

「マリィ、助かったよ。レナ、行こうぜ」

 アレク、まだ抱きついたままのレナに向かっていった。

「はいですぅ」

 レナは、かなりご機嫌のようだ。

 アレクが立ち上がっても、まだ腕を組んでいる。

 少しはこっちの気持ちも考えて欲しいなぁ。


 煙がどんどん消えてきて、辺りが完全に見まわせるようになった頃、中に見知らぬ女が気を失って倒れていた。

 アレクは、その女の表情にユーリィの面影を見ていた。

「ユーリィ…?」

 アレクは、駆け寄って揺すってみる。

「…ん、んん?」

 女は目を覚ました。

「ユーリィ、ユーリィなのか?」

 アレクは、今目覚めたばかりの女に問い詰めた。

「…そうよ。あなたは…」

「アレクだよ。解るか?」

 アレクは静かに訊いた。

 レナ達は、後ろでアレクとユーリィのやりとりを黙って見ていた。

「アレク、助けてくれたのね?」

 何もかも思い出したのだろう。

 ユーリィは泣き出してしまった。

「ああ、何もかもが終わったんだ」

 アレクは目に涙を溜めていた。

「アレクさん、なんか複雑ですぅ」

 レナは、アレクの横まで行って隣に座り込んだ。

「感動の再会って奴だねぇ、私も粋なことするわぁ」

 マリィは、横で一人うんうんとうなずいている。

「ジョン、アレクって凄い過去を持っていたんだね」

 クリスも感動している。

「アレクさんは女たらしですね」

 ジョンは、一人つまらなそうにその場に立っていた。

「そう?」

「クリスさん、こっちに来てですぅ」

 レナが小声で呼びかけた。

 クリスは、足音を立てないように静かに近づいた。

 そして、レナの横に座り込む。

「どうするですぅ?」

 レナは、アレクを指差して言った。

「レナちゃん。しばらくそっとしておいてあげましょうよ。じきに戻ってくるわよ」

 クリスは、レナの肩を叩いた。

「はいっ、そうするですぅ」

 小声で返事をした。


「アレク、正気に戻ってきてよ」

 ユーリィは、いつの間にか泣き止んで放心状態のアレクを揺さぶる。

「はっ、オレは何をやっていたんだ。ねぇ、ユーリィ。これからどうしようか?」

 アレクは我に返ると同時にユーリィに話かけた。

「ねぇ、アレク。あなたの周りに私の知らない人達がいるんだけど?」

 つまり、紹介して欲しいということだろう。

「ああ、こいつらはこの街の住人だよ。物好きでオレについてきたんだ」

 アレクは、簡潔に紹介をした。

 後は、自分で名乗るだろうと思ったのだ。

「あ、わ、わ、わ、私、レナですぅ…」

 アレクの知り合いだと思ったレナは、何故か緊張して言葉がうまく出てこない。

「…?どうしたの私が怖いの?」

「緊張してるんだよ。レナにしては珍しく」

「私はクリスよ。アレクとの関係は、冒険仲間ってとこ。ちなみにレナちゃんはアレクの彼女ね」

「そ、そうですぅ!」

 どうもレナの様子がおかしい。

「なんでやねん」

 アレクは、突っ込みを入れた。

「彼女ぉ?アレク、成長したわね」

「なにいってんだよ。レナが勝手に言ってるだけさ。オレは誰のものでもない。オレのものだからな」

 アレクは、少し動揺していた。

 ユーリィは、それを聞いて安心したようだ。

「じゃあ、私の番ね。私はユリア・ライティ。アレクが呼んでるとおりユーリィでいいわ。私はアレクと幼馴染なのよ」

 それを聞いた二人は驚いていた。

「幼馴染なの?」

「幼馴染ですぅ?」

 そして、同時に言った。

 つまり、昔のアレクを知っているのだ。

「ユーリィ。恥ずかしいからオレの過去については話さないでくれよ」

 アレクは、少し照れながら言った。

 アレクにとってはユーリィは、姉みたいなものなのだ。

「解ったわ。黙っててあげる」

 ユーリィは、悪戯っぽい視線でアレクを見る。

 これは、隙があればいつでも喋るよという意思表示なのだ。

 アレクは、ため息をついた。

 これから、本当にどうなるのだろう。

 それとも、今までが長い序章でこれからもっと苦難の日々が始まってしまうのだろうか?

「アレク、ここは何処なの?ティモスの町じゃないみたいだけど…」

「ここは、地図にも載ってない街、ドルジナ。オレ自身も今日現地入りしたばかりだよ」

「ユリアさん。これから、レナのことよろしくお願いするですぅ」

 レナは、手を差し出した。

「…レナちゃん。よろしくね」

 ユーリィは、レナと握手を交わした。

「よぉし、みんなでご飯食べに行こうぜ。今日はオレのおごりだ!」

 すると、一人考え事していたマリィが、口を開いた。

「私も行ってもいいかなぁ?たまには外に出るのもいいと思ったのぉ」

「あなたは?」

 ユーリィが聞いた。

「彼女はマリィ。ユーリィを元の姿に戻したのも彼女のおかげなんだ」

「そうなの?あなたは、私の命の恩人なのね。どうもありがとうございました」

 ユーリィが頭を下げて礼を言った。

「どういたしましてぇ。これから楽しくなるわよぉ」

 マリィは、気分を良くしていた。

「そういえばジョンがいないわ」

 クリスが辺りを見回した。

「あいつのことだ。またすぐにどっかから現れてくるに違いない」

 アレクは、居ない奴はほっとくつもりだった。

「そぉね。いいわよね。いないんだから」

 クリスもあっさりと同意する。

「ねぇ、アレクさん。何処のお店に行くつもりなんですぅ?」

「あいていれば何処だっていいぜ」

 アレクは、もはや上機嫌で気前がいい。

「何よ。お店くらい私が案内してあげるわよ」

「アレク、ずいぶんと楽しそうな仲間達じゃないの」

「ああ、楽しそうでノー天気で、緊迫感を感じさせなくさせるどうしようもないオレの仲間たちだよ」

 アレクは、星空を見上げた。

 今日は、星の降る夜だったのだ。

 そして、夜のドルジナの街に彼らの声が響き渡ったことは言うまでも無い。





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