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第十一章 もしも願いが叶うなら




第十一章 もしも願いが叶うなら





「あれっ、ここは何処だ?」

 アレクは頭をさすりながら起き上がった。

 どうやらだだっ広い草原の一本の木の下で寝ていたようだ。

 となりには、レナがスースーと寝息を立てて寝ていた。

 レナって寝顔もかわいいな…。

 あれ?レナの着ている服装が違う…。

 アレクは自分の服装も見た。

「なんだこりゃ?」

 どう考えたても、アレクの着ている服も見たことが無いものだった。

 しかもちゃんとモニターされているから怖い。

 しかし、アレクにそれが解るはずもない。

「おい、レナ。起きろよ」

 アレクは、レナを揺さぶり起こした。

「ふぇ?あっ、アレクしゃん…。どうしたんれしゅう?」

 レナは、寝ぼけた目をこすりながら返事をした。

 寝ぼけていると言葉まで退化してしまうらしい。

「寝ぼけているヒマなんて無いぞ。ここはマリィ創り出した世界なんだ。こんなわけわからない格好なんかしてるということは、何が起こるか解らないって言うことなんだぞ」

 レナは、まだ事態を把握しきれてないらしい。

「え?アレクさん。何を着ているんですぅ?」

「解らないさ」

 レナは首を傾げていた。

「えっと、それは確か学校の制服ですぅ」

「ほう、レナは知っているみたいだな」

「北ドルジナ高校の制服ですぅ。レナの言ってた学校ですぅ」

「学校の制服…。で何を探すんだろう?」

「ん〜?制服着ているってことは、学校に行けばいいんじゃないですぅ?」

「そうだな。じゃ行こうぜ」

 アレクとレナは他に思いつかなかったので取りあえず学校へ行くことにした。

「レナ、学校行くの久しぶりですぅ♪」

「オレは初めてだけど…」

 アレクは少し緊張気味だ。

「大丈夫ですぅ。レナがいるじゃないですぅ!!」

 レナは、アレクの腕にしがみついた。

「んでさ、学校て一体何をするところなんだ?」

「お勉強をするところですぅ」

 レナは一言で説明した。

「勉強ねぇ…。よくわかんないけど…」

 少し歩いたところに、大きな建物が見えてきた。

「アレが学校ですぅ!」

 レナが指をさす。

「入っても大丈夫かな?」

 馴れない雰囲気に、アレクはいまだに緊張している。

「大丈夫ですぅ。だってここは現実ではないですぅ」

「まあ、たしかに…」

「ここで、上履きに履き替えるんですぅ」

「上履き?」

「自分の下駄箱に入ってるんですぅ」

 アレクは自分の下駄箱を探した。

 その中にアレクと書かれた下駄箱があった。

「へぇ、これかぁ」

 アレクは下駄箱を開けた。

 中には、上履きの他に一通の手紙が入っていた。

「なんだこりゃ?」

 アレクはその手紙を手に取った。

 裏にはマリィの文字が…。

「アレクさん、マリィさんってあの魔女さんの事ですぅ」

「ああ、でもなんだろう…ヒントかな?」

 アレクは手紙を開けて読む。

『アレクさん、大好きです付き合ってください…。ははは、冗談だよ。ビックリした?君はこの世界に手間取っているみたいだね。私は校内にいるから早く見つけてね』

「校内かぁ…。これだけの建物だったらすぐ見つかるな」


 アレクと、レナは手がかりを見つけることも無く放課後を迎えてしまった。

 教室には二人以外残っていない。

「レナ、何をすればいいか解らないですぅ」

「確かに、ただ闇雲に探すだけじゃな」

 アレクは、なんかヒントでもないかと辺りを見渡すが何かが出てくるわけでも無い。

「取りあえず片っ端から探していくですぅ」

「よし。行くか」

「あ、アレクさん。大変ですぅ!!」

 気がつくと、アレクの目の前にはいかにもガラの悪そうな高校生五人に囲まれていた。

「昼間っから、いちゃついてんじゃねーよ」

 いかにも目をつけられてしまったという状況だ。

 そのうちの一人が、レナを軽々しく持ち上げられてしまった。

 マリィめ、またなにか仕組んでるな…。

「別にいちゃついてなんかないぜ。まあ、どうしてもというのなら相手になってやる」

 アレクは構えた。

「ああ、そうさせてもらうよ」

 アレクは面倒だからまとめてふっとばそうかと思ったけど、指輪をして無いことに気づいたので一人づつ相手することにした。

 アレクは、威勢だけは良さそうな奴の腹を一撃して動けなくした。

 一人はうずくまり、しばらく立ちあがりそうになかった。

 野生の敵を相手にしているアレクが、弱い人間を相手にしかしてない奴に負けるはずがないのだ。

 そして、二人目、三人目、四人目を一撃で倒した。

 残るは後一人だ。

「さあ、逃げるか?」

 アレクは相手にプレッシャーを与える。

「くそ、今度はただじゃ済まさないからな」

 と、負けゼリフを残し、さっさとレナをおいて立ち去ってしまった。

 残った四人はまだ、うずくまりながら唸っている。

「アレクさんカッコイイですぅ!!」

 レナは黄色い声をあげた。

 アレクは、レナが軽々しく持ち上げられたので、不審に思って訊いた。

「レナお前、わざと持ち上げられただろう?さてはなにか企んでいるな?」

「アレクさんが、カッコイイからレナは、花を持たせてあげたんですぅ」

 そんなことだろうと思った。

「別にマリィの設定に無理にそわなくてもいいんだぜ?」

 アレクは、これもマリィが仕組んだということが解っていた。

「え、そうなんですぅ?」

「当たり前だよ。これはあいつを探さないといけないんだぜ?お遊びじゃないんだ」

 アレクは、ケッと悪態をついた。

「レナは、アレクさんと一緒ならずっとここにいてもいいですぅ」

 レナはアレクの腕にしがみついた。

「やめろ、重い」

 アレクは腕を振り解こうとしたが、やはり無理のようである。

 こんな細いからだの何処にそんな力があるんだろう?

 アレクは不思議に思ったが、考えたとこで答えが出そうに無いので考えるのを止めた。

「別にいいじゃないですぅ。アレクさん照れてないでいいですぅ!!」

 レナは全く聞く耳を持たない。

「もういいからさっさと探しに行こうぜ」

 アレクは、これいじょう言っても無駄だと悟ったのか、話題を切り換えた。

「はいっ、レナ、ガンバしちゃうですぅ!!」

「よしっ。片っ端から探すぞ」


「取りあえず人の声が聞こえてくるところからだな」

 アレクは注意深く聞き耳を立てた。

「アレクさん、美術室とかだったら人がいるですぅ」

 レナは声を潜めていった。

 レナは何も考えて無いと思ったが、少しは状況というものが解っているようだ。

「そうか…。じゃあそこからいってみよう」

 アレクも声を潜めた。

 美術室は、階段を一つ上に昇ったところにあった。

「失礼するですぅ」

 レナは、ニッコリと愛想笑いをしながら美術室に入っていった。

 アレクは中に入らずに外から中の様子を窺っていたが、レナはアレクの腕をつかんでいたのでそのまま引きずられて中へ入れられてしまった。

「あのぉ、マリィさんいるですぅ?」

 中には、十人ほどの美術部員がいた。

 顧問はいないみたいだ。

「レナちゃん。マリィはここにはいないよ」

 そのうちの一人が答えてくれた。

「レナ、マリィが何部か聞き出してくれないか?」

 アレクは、レナに耳打ちをした。

「はいっ。あの、マリィさんは何部ですぅ?」

「マリィは昨日までここにいたんだけど、化学部に転部したみたいよ」

「よっしゃーですぅ。アレクさん化学部にゴーですぅ!!」

 レナはこぶしを握り締めていってしまった。

「ねぇ?またマリィはなにかしたの?」

 一人が聞いた。

 どうやら普段からいい噂がないらしい。

「いや、特には無いよ」

 アレクは、そういうとそそくさと美術室を退散した。


 理科室が近づくにつれ、どんどんと怪しい煙が濃くなっていくのが解った。 

「レナ、この煙を吸っちゃダメだ。布か何かで口元を押さえろ」

 マリィの奴、一体何を企んでいるんだ。

「解ったですぅ。アレクさん」

 レナはハンカチで口を押さえた。

 こんなに煙が発生しててよく誰も何も言わないな。

 そして、理科室にたどり着いた。

 中から、あの例の口調が聞こえてくる。

「ここにいるな」

 レナと目が合った。

「アレクさん。せーのっ、で突入ですぅ!!」

 レナは、カウントを開始した。

「三、二、一、せーのっ、行くですぅ!!」

 合図とともにアレクは、思いっきりドアを蹴飛ばした。

「そこまでだ。さぁ、マリィは何処だ?」

 アレクは押し入り強盗のような口調で中の人達を脅した。

 煙たくて良く見えないが、実際この煙を出しているのってマリィじゃないのか?

「大丈夫ですぅ。さあマリィさん、帰るですぅ」

 アレクもレナの後を追う。

 そして、煙が発生しているところにたどりついた。

 マリィは、そこで薬の調合をしていた。

「これでいいのか?」

 アレクは、マリィの肩をポンッと叩いた。

「あれぇ、とうとう見つかっちゃったみたいだねぇ…。おめでとぉ。これで、かくれんぼもおしまい。いやぁ、こんなに早くみつかるとは思わなかったよぉ。じゃあ、帰ろうかぁ」

 マリィは呪文を唱えた。

「レナ、ガンバしたですぅ」

「なんだかオチもいまいち」

 アレクはため息をついた。

 周りの景色が変わっていく…。

 これで全てが終わったんだな。

 アレクは、静かに目を閉じた。




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