表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/14

第九章 うれしけりゃとんでゆけよ




第九章 うれしけりゃとんでゆけよ





「ようこそ。私は魔法使いのリーツです」

 リーツと名乗ったその女は、軽く会釈をした。

 何か上品な感じがする女性だ。

「レナですぅ。よろしくお願いするですぅ」

 それに対しレナは、間の抜けた挨拶で軽くお辞儀をした。

「あなたが相手?かわいらしいわね」

「そうですぅ?ありがとうですぅ」

 その反応を見てアレクは思わずびっくりしてしまった。

「なんか、レナが礼儀正しくなってる…」

「そんな事言わないでですぅ。レナはいつだって礼儀正しいですぅ!」

 その様子を見ていたリーツは、軽く微笑んだ。

「私、見習いだけどたいていの魔法は使えるのよ」

「い〜なぁ、私も使えるようになりたいなぁ」

 クリスは羨ましそうに見ている。

「さぁ、でも魔法って素質が無いとダメだから……」

「ぶぅ、レナは早くして欲しいですぅ!」

 レナが頬を膨らませている。

「ごめんね。でもここまで来たのは三組目かしら?でもここを通りぬけられた人はいないわよ」

「じゃあ、レナ達が一番乗りするですぅ」

 いつも以上に乗り気なレナはどうやら、勝つ事しか考えて無いみたいだ。

「そうだといいわね」

 リーツは同情としか思えないセリフを言った。

「レナ行くですぅ!」

 レナはそういうとリーツ目掛けて突進した。

 しかし、リーツは戸惑いせず呪文を唱える。

 いくら人間とはいえ魔法が使えると使えないでは精神的に大差が出る。

 つまり、『魔法が使えるから安全だ』という意識が強く、大体が冷静でいられると言う事だ。

 それに対してレナは、ただ何も考えずに突進しているだけとしか言いようが無い。

「小火炎!!」

 リーツの手の内側からピンポン玉くらいの大きさの炎が発生し、それをレナに向けて放った。

 この位の炎なら火傷を負う程度で済むはずだ。

 しかし、レナにその炎が見えないのかそのままのスピードで突進してくる。

 そして、レナは炎を思いっきりくらってしまった。

「あ、熱いですぅ。熱いですよぉ〜〜」

 するとレナは部屋を駆け回りはじめた。

「い、いかん。レナが暴走し始めたぞ。そうだ、確か水が入ってるはず」

 アレクは、荷物を探り始めた。

「あれじゃあ、誰にも止められないわね。アレク、レナちゃんがこっちに突っ込んできたよ。避けなきゃ危ないって」

「えっ!?ボケてもないのに」

「何意味不明な事言ってるのよ。ほら、避けなきゃ」

 クリスが横で言ってるのにも関わらずアレクは荷物を探っていた。

「クゥェッ!?」

 外の光のせいで中からユーリィが飛び出してきた。

「あ、ユーリィ?」

 アレクはユーリィを肩に止め、再び荷物を探り始めた。

「あった、これだ!!」

 アレクは急いで荷物の中から一つの皮袋を取りだし、紐を解いて中身をレナに向かってかけた。

「ふぅ、消火完了!」

 アレクは汗を拭う真似をした。

「残念ね。魔法の炎は水じゃ消えないのよ」

 リーツはため息をついた。

「クゥ?」

「な、なんだってっ!?」

 そういえば、レナの動きが止まっていない。

「あぁ〜〜〜、どいてですぅ〜〜」

 避ける間も無く、アレクは弾き飛ばされた。

「ぐふぉっ!!」

 壁にぶつかりアレクは座りこんだ。

 レナは、そのまま壁を突き破る事は無かったが、そのまま部屋を走りまわってる。

「これじゃあ、なにもできないじゃない」

 リーツは、その様子を面白そうに眺めている。

「でも炎は消えたみたいだけど」

「本人は気付いて無いみたいですね」

 ジョンは、そういうと片足を出してレナを転ばせた。

「火、消えましたよ」

「え?そうですぅ?」

 レナは、さっさと起きあがりパンパンと手で服をはらった。

「レナちゃん。走り回らないで落ちついて考えないとダメだよ」

「あう〜、ゴメンですぅ」

「ほらっ、ガンバってねっ!」

「はぁい、レナ、同じ失敗、二度と繰り返さないですぅ!!」

 レナは、自分に言い聞かせた。

 リーツの方へと向き直り、戦う体制に入った。

「大丈夫?アレク」

「ああ、しかしもう少しで失神するとこだったぞ」

 アレクは、腰の辺りを押さえ座ったままで答える。

 壁にぶつかった衝撃で強打したのだろう。

 かなり痛いが立ちあがれないほどでない。

 ユーリィはビックリして飛んでいったがまた、アレクの肩に止まる。

「レナは暴走すると危ないからね」

「ああ。力を制御出来る封印がありゃいいんだろうけど、多分あのままじゃ性格も変わらないんだろうな」

 アレクは無駄だと思っているので、思いついた事を言った。

「でもこの先も結構役に立つわよ」

「この先も?じゃあオレはしばらくこの街にいなきゃならないのかよ」

「違うわよ。この先の冒険とかでよ」

「よく考えたほうがいいぜ。この街を出たら二度と帰って来れないかも知れないんだぜ」

「それも然りね。でも大丈夫。私の冒険に対する気持ちはそれより大きいの。だから私は冒険志願者ね」

「冒険志願者ねぇ……」

「冒険ですか。私も昔はやりました。海賊を沈めたり、火山噴火促進のためのプロジェクトを進めたりしたんですよ」

「それ、冒険なのか?」

「それでもいいじゃない。私ね、宝探しやりたい。それこそ冒険っ!て感じがするんだものね」

「ところが、そううまくはいかないんだな。短くても十日かかったから。それに宝っていうくらいだから隠す時だってみつから無いように工夫するだろうし」

「だからこそやりがいがあるってものじゃない。夢は大きく持たなきゃね?」

「クリス、あんたぁ立派な冒険者になれるかもな。この街から出る時はなんか道しるべでもつけとくといいぜ」

「へっ?」

「オレだって故郷に帰りたいって思う事がある」

「そうなの?」

「ああ、オレはこの街の存在を知らなかったんだぜ?それにここまで来るのに12日はかかった。道しるべでもつけなきゃ道に迷っちまうだろうが」

「そうね。でもどうやって?」

「塗料とか」

「なるほどね」

「私なんかはそんなことする必要が無いですけどね」

「お前はいい。どうせどこからでも現れるんだろうが」

「ジョンは、気配で解るらしいわよ」

「殺気とか?」

「いえ、温度で」

「は?」

「人間には、体温があるんですよ。私はそれを感知する事ができます」

「ほう、人がまったくいない時はどうやって感知するのかな」

「その時はその時で考えますよ」

「まあ、いいじゃない」

「でも、レナはどっからでも現れると言うより、オレの場所を勘で突き止めてきそうだ」

「あなたの彼女ですからね。それくらいできないと」

「だから、違うと言ってるだろうが」


「レナ、ガンバしてアレクさんに褒めてもらうですぅ♪」

 レナはいつになくやる気だ。

「あなた、仲間をふっ飛ばしたわよ。気付かなかったの?」

「え、レナふっとばして無いですぅ」

 レナは気付いていなかった。

「ふふ、まあいいわ。続けましょう」

「ねぇ、コレ使ってもいいですぅ?」

 レナは、さっき手に入れたボールを出して見せた。

「別にいいけど?」

 リーツは不思議がった。

 実はこのボールはただのボールではなかった。

 ファンリが改造して作ったボール形爆弾なのだ。

 レナは、さっき導火線があるのを見つけたのでコレを使ってみようと思ったわけだ。

「え〜と、火を点けて…投げる…危ないですぅ!!」

 レナはリーツに向かって投げた。

「げっ、ほんとに危ないわね」

 レナの投げたボールは、かなりの豪速球だった。

 リーツは、とりあえず防壁を張った。

「甘いですぅ!」

 リーツは、ただ魔法で戦っているのでリーツ自身はあまり素早くなかった。

 レナは普段の行動が遅い割りに、瞬間的に脅威のスピードで行動する事がある。

 それは、レナが本気になった時見られる現象で、別名レナダッシュと呼ばれるのだ。

 そして、それはめったにみれるものではないらしい。

 ボールは、防壁に当たったと同時に大量の煙を噴出した。

「こんなことするのは、ファンリね」

 レナは、瞬時にリーツの背後に回りこんだ。

 リーツは、煙で前が見えず、レナには気付いていない。

「えと、両腕をつかむですぅ」

 レナは、普通に攻撃をする事が出来ない。

 ましてや悪気の無い相手に攻撃するなんて絶対しない。

 両腕をつかまれたリーツは、突然の出来事にビックリした。

「えっ、何?」

「リーツさん、降参してですぅ」

 レナは腕をつかんだままで言った。

「あなた、腕をつかむ以外の事は出来ないの?」

 リーツは抵抗せずに言った。

「出来るですぅ!!」

 リーツはさっと腕を薙ぎ払おうとしたが、レナの怪力の前になすすべも無い。

「嘘、外れない…」

「へっへ〜ん。レナを甘く見るなですぅ」

 レナは、鼻を高くした。

「でも、あなた肝心な事忘れて無い?」

 リーツは飽くまで冷静だ。

「大丈夫ですぅ。レナ、ガンバしてるですぅ」

 リーツはため息をついた。

「私が、この状態で魔法が使えないと思ってるの?」

 リーツは呪文を唱える。

「小火炎!」

 レナは避けた。

「二度と同じ手には引っかからないですぅ」

 レナは両手を腰に当てて優越感に浸ってる。

「あら、避けちゃうと仲間達が危ないわよ」

 リーツが意地悪く笑った。

「えっ!?」

 レナは咄嗟にアレク達の方を向いた。

「あ、アレクさぁ〜ん。危ないですぅ!」

 レナはアレクの方に駆け出していった。

「解ってるよ。バカお前は危ないからこっちにくんなよ」

 アレクはレナを見てあわてている。

 クリスが見えない結界をはっているのだ。

「避けてですぅ」

 レナは見えない結界に気付かず、そのまま突っ込んできたのだからたまらない。

 クリスの張った結界が、徐々にこっちに押されているのだ。

「なんて力なの…?」

 クリスは、潰されないように頑張っている。

「クリス。結界を解け」

「え?なんで」

「いいからはやく」

 クリスは、結界を解いた。

 すると、レナがパタッっと倒れた。

 急に力をさえぎってた物が無くなったからだ。

 アレク達もしゃがんだ。

 リーツの放った炎は、元いたところの頭の部分の壁に当たって消滅した。

「痛いですぅ」

 レナは、さっと起きあがった。

「大丈夫か?レナ」

 アレクは大丈夫だと思いつつ駆け寄る。

「大丈夫ですぅ。それよりもレナ、どうしたらいいんですぅ?」

「どうしたらいいって言われても…。そうだなとりあえず参ったと言わせればいい」

 アレクはリーツを指した。

「解ったですぅ。レナ、ガンバですぅ」

 レナは深呼吸をした。

「レナちゃん、投げちゃえ〜〜♪」

 クリスが言った。

「は、はいですぅっ!!!」

 レナはニコッと笑った。

 そんなんでいいのか?

「さて、次は何にしようかな?」

 リーツは、全く動じず次の作戦を練っている。

 レナは再びリーツの元へと掛けていった。

「リーツさん。次はレナの番ですぅ!」

 レナは、リーツの片腕を掴んだ。

「だから無駄だって……」

 そして、そのままの勢いをつけてリーツを上にふっ飛ばした。

「とりゃ――――――――――――!!」

 リーツは、天井にぶつかる寸前に呪文を唱え、なんとか直撃を避けた。

「く……なかなかやるわね…。さすがの私もやられるところだったわ」

 リーツはよろけながらも体制を整える。

「レナは勝つまでやるですぅ!」

 レナの目は真剣そのものだ。

「レナちゃ〜ん。投げて投げて投げまくっちゃえっ!!」

 クリスがジェスチャー入りで応援する。

「はいっ。レナ、投げて投げて投げまくっちゃうですぅ♪」

 こうなったらレナに怖い物は無い。

「あの相手もかわいそうだ。レナの体力は人間のそれをはるかに超えているからな」

 アレクは心の奥底から同情をした。

「小火炎×2!」

「レナには効かないですぅ♪」

 レナは軽やかに避けながらリーツに近づく。

「行くですぅ。うれしけりゃとんでゆけ〜〜〜〜ですぅ!!」

 レナは腕をつかんで壁に向かって投げ飛ばした。

「確か、オレが最初にレナにあった時もこんな風に暗殺者を投げてきたんだよな。オレはあれで気絶したんだな」

 アレクは、一人でしみじみと納得した。

「でもさ、アレって便利だよね。だってさ、逃がしたく無い人が逃げ出した時に気絶させちゃえばいいんだもん」

「酷いやり方するねぇ。少しは平和的に考えようぜ」


「ぐっ……。私は…負けないわよ」

 リーツは壁に寄りかかりながら言った。

「まだですぅ?」

 レナはリーツの前に座って微笑んだ。

 この時、リーツの目にはレナが悪魔に見えたと言う。

「吹雪っ!」

 リーツは呪文を唱え、レナを遠ざけた。

 このままでは負けてしまう。

 なんとしてもこの化け物を倒さなければ…。

「うわぁぁ、冷たいですぅ」

 レナは腕で顔を覆ってる。

 リーツは執念で起きあがった。

「はぁ、はぁ、はぁ。しょ、小火炎!」

 リーツは最後の力を振り絞った。

 レナは油断してたせいか、それをまともにくらってしまった。

「わ、うわぁ、熱いですぅ〜」

 レナは、また掛けまわり始めた。

 リーツはそれを見るとフッと笑い、そのまま力尽きて倒れた。

「げげっ、またレナが暴走してるよ」

 アレクは、レナがこっちへ突っ込んでこないように避けながら言った。

「でもしばらくしたら消えるんでしょう?」

 クリスは冷静だ。

「そうですよ。突っ込んでくるとしてもアレクさんの所だけですよ」

「をいっ。それじゃあオレがやばいじゃないか」

「ほら、もう消えた」

 クリスが指差した。

「まったくしょうがないですね」

 すかさず、ジョンが足を引っ掛けてレナを転ばせた。

「あ、ゴメンですぅ。レナ、ガンバしてるですぅ」

 レナは、再び向き直った。

「レナ…もう終わったよ」

 アレクが言った。

「えっ?ほんとですぅ?」

 レナは、倒れこんでいるリーツの顔を覗きこんだ。

「鍵ってこれですぅ?」

 レナはどこからともなく鍵を取り出した。

「ああ、そうだな。しかし、レナは相手の弱点を効果的についてたようなきがしたけどなぁ」

「うん、魔法使いって以外と体力ないんだね」

「はい、アレクさん。次どうぞですぅ」

 レナはアレクに鍵を手渡した。

「サンキュー、レナ。さあ次はなんだろ?」

 アレクは次の部屋の鍵を受け取ると、鍵を開けた。

「もうすぐ山場に来るのね」

 クリスはなんだか嬉しそうだ。

「クリスさんもとんでゆくですぅ?」

 レナが聞いた。

「遠慮するわ」


「リーツを倒したの?」

「はい。やはりあの女ただものではないようです。ここは一つ本気で戦った方がいいのかと」

 魔女は高笑いをした。

「ははは、本気なのぉ?笑わせないでよぉ。私この重々しい雰囲気飽きちゃったぁ。これからはさっぱりいきましょうねぇ」

「だ、大丈夫ですか?」

 もう一人の方が、精神が崩壊したのではないかと思い、心配している。

「いえ、そんなこと……」

「じゃあ、あんたもぉ、イメージチェンジよぉ。解ったぁ?」

 魔女は、もう一人の方の人を睨みつけた。

 魔法で、部屋の中を明るくする。

「は、はい」

「さぁ、楽しませてもらっちゃおっとぉ」

 魔女は軽やかにステップを踏みながら部屋を出ていった。

「本当に大丈夫かな?」

 もう一人の方が心配してドアの隙間から様子を窺っていた。




 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ