表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Killing syndrome  作者: 兎鬼
1章 日常
5/26

殺し屋 シャドウの日常②


ね?酷くない?

邪魔者扱いというか、もはや地球上の邪魔者扱いされてませんでしたか、僕。

いくらオタクでも非人間扱いまでする事ないのに。


拳を握り、目に闘志を宿し意を決する。

全国の立場を恵まれず蔑まれるオタクたちの人権回復のために何か行動を起こそう。

うんうん、こんなのおかしいですもん。


「ま、決意しても行動に移せるだけの行動力がないから非人間扱いされ続けてるですけどね」


しかもインベーダー攻略パートがクリアできない悔しさで、結局ゲームは止めれず。

その上オフィス内をさまよい歩いた挙句、防音設備の行き届いたボスの執務室の掃除用具入れに落ち着いている。

これでは人権など回復するわけないですね。


食事もさっきここで済ませました。

もはや防音で暗くて狭いとか、僕を捕まえるためのトラップなんじゃないですかね。

まてよ、ホークアイのやつがこの施設にいることを考えると、安易に笑えませんね。


そうそう、選択肢でした。

回想挟みつつ考えてみたんですが、答え出ないのでCで行きましょう。

失敗したらまたインベーダーします。


「やった水族館!わたし水族館大好きなんだ!」


キタコレ!

マジ僕、シミュレーションゲーム界の神ですね。

嬉しさのあまり、ワールドカップで日本に点数が入った時の渋谷の若者ばりに、執務室の中を走り回りそうになりましたが、そこは舌なめずりだけで我慢。


実はさっきボスが帰ってきちゃったんですよ。

いま机で仕事してるんですよね。

え?お前は何してるんだって?

そんなのゲームに決まってます。いまは仕事じゃないんだからどこでゲームしたっていいじゃないですか。

それに、サーシャたんのための人生です。そんな細かいことなんて気にしない気にしませんよ。


それより、ついにデートだ!

気合い入れて会話選択肢選ばないと!

楽しみですねぇ。


嬉しさと、失敗したらまたインベーダーに戻る不安とが入り混じり、緊張が高まる。

これから先のハッピーな展開を想像するだけで、よだれが垂れそうになるが、そこは必死に抑える。

今のゲームでそんなことはないだろうが、よだれを垂らしてバグる事だって無くはない。

よだれを袖で拭おうとするが、手が震えている。変な選択肢を選びかねないから抑えなくては。


「それで、こちらからその依頼を受けるに相応しい人材を配備してほしいと?」


ん?なんですか?


ロッカー越しにボスが誰かと話している声が聞こえる。


黙って仕事をしていればいいものを、僕が人生の大事な局面だというのに、まったく。

それに、掃除用具入れは入り口側の部屋の端にあるので、デスクからは距離があるはずなのに、全部はっきり聞こえるとかどんな大声で話してるんですか。

仕事のこと思い出させるのやめてくださいよね。

ボスの耳障りな声で変な選択肢を選ばないように、今一度ゲームに集中しなければ。


外の音が聞こえないようにイヤホン装着。

そして、念押しで少しボリュームを上げる。


これで外の音は聞こえなくなるはず。

多少ボスの動向を察知できなくなりますが、ここで静かにゲームをしてる分には気づかれないでしょう。

さぁ気を取り直してゲームしますよー。


「バカにするんじゃねぇ。なぜこっちが、そっちの都合で人員を割かなきゃなんねぇんだ」


バカにするんじゃねぇ。

イヤホンしたのに、それでも聞こえるってどんな爆音で電話してんだ、あのおっさん。

ボリュームを上げた意味がないじゃないですか。

あぁもう気が散る。

集中集中、無視無視!


テキストを流しながらボスの声の対策をしているため、まったく内容が入ってこない。

これ以上邪魔をされるわけにはいかない。

自分の耳がイかれるのを覚悟し、さらにボリュームを上げる。

案の定サーシャたんの可愛い声が、針のように鼓膜に突き刺さる。


あぁ、脳みそ溶けそう。

こんなことホークアイに聞かれたら、お前の脳みそなんてもともと入ってないだろとか言われそう。

だめだ、僕がゲーム中にホークアイのことを考えるなんて。

早く先に進めよう。


流れてくる冷や汗を再び、Tシャツの袖で拭き、足元においた雪コーで糖分補給。


よし、サーシャたん待っててくださいねぇ。


「シャドウくん、きょうは水族館に連れてきてく……」


「おもしれぇじゃねぇか。確かにそんなやべえ仕事を受けれるのはウチだけだな」


おもしろくないわ!

サーシャたんの声聞こえなかっただろうが!

テキストもあるから読めますけど、そう言う問題じゃないんですよ!

その辺のアンプくらい音量出てるんじゃないですか?防音だからって調子乗んなよ!


イヤホンをつけ爆音でゲームをしているのにもかかわらず、ボスの声はさらにそれを上回るボリュームで聞こえてくる。

これ以上ボリュームは上がらないし、気の持ちようでなんとかするしかない。


いや、気の持ちようでなんとかなるか!

考えまでおかしくなってきてますよ。


気づいたら、額から冷や汗がだらだらと流れ、呼吸も荒くなっている。

体が限界だ。

だが、ここで引くわけにはいかない。

ボスの声と全力で戦いますよ。


そして意を決して、ゲーム選択肢に集中。


「シャドウくん、私のことどう思ってるの?」


ヤベー、気付いたらめっちゃいいとこ来てるー。

衝撃すぎて棒読みになっちゃいましたよ。


ボスの爆声を気にしないように工夫しながら、テキストを流してたら、どんな急展開ですか。

間の話まったく聞いてなかった。

ここでミスったらこのヒロインとのエンディングは致命的ですよ。

さっきまでどんな会話してたんですか。


「あんたの予想しているだろう通り、頭はシャドウにやらせる。だが他の人員はこっちの好きにやらせてもらうぜ」


無視無視。

こうなったら本当にボスの声なんか聞いてる暇ないですね。

えっと、選択肢は、


A:何言ってんだ、昔から変わらない友達に決まってるだろ


B:実は俺、もうお前を友達として見れなくなってるんだ。


C:ついに本性を現したな。お前の正体は宇宙から飛来した、機械生命体だ!


Cナニコレ。大事な局面でネタ選択肢入ってるんですけど。

選択肢が1つ減るのはありがたいですが、意味ありげなボケですね。

もしかして、専用のエンディングが用意されてるとか?……いや、ないない。あるわけないですし、ここから想像される展開なんてあって欲しくないですね。


選ぶ前にさっきまでの会話のログを見ないと。

会話なしで選択肢を選ぶなんてありえませんからね。


△+Rボタンを押しバックログを表示。

聞き逃した会話を1つずつ再生していく。

相変わらず鼓膜は限界のままだが、それ以上に夢のような展開にニヤニヤとよだれと涙が止まらない。(あとの2つは体が限界のやつ)


なるほど、これはムフフですね。

こんなけしからん展開だったのですか。

聞き逃してしまうなんて、僕としたことがですねまったく。


「まったく、あの人は。……おいシャドウ、いるんだろう。仕事の話だ、出てこい」


これなら間違いなくラブラブ選択肢のBで決まりですね。

ここまで苦労したから、序盤からラブラブ展開をさせてくれるというんですね。


「おい、シャドウ!聞いてんのかシャドウ!」


他のヒロインたちとのゴタゴタはありそうですが、それもハーレム系の醍醐味。

ワクワクしてきましたねぇ。えぇワクワクしてきましたよぉ!


ログを消し、選択肢を確認。

さぁカモーンあんどウェルカム桃色の学園生活!

ボタンをおすぞぉおお!


「おい、てめぇ……もういいや。シャードウくん、遊びましょお!!」


ドカーン


「うわっ」


急にロッカーに衝撃が走り、視界がクリアに。そして瞬間、僕の視界は360度縦回転。

そしてなぜか掃除用具入れの上から放り出され、ゴロゴロと執務室の絨毯の上を転がる。


柔らかい。いい絨毯引いてますね。

確か、ボスの趣味でしたっけ。

芸術的センスなんて全く無いくせに、どうせかっこいいからとか言って適当に買ってきたんでしょう。

全くなんというかボスらしいですね。いい意味で。


そんなことを悠長に考えつつ、受け身を取り、床に着地する。

1メートル以上は転がっただろうか。

状況確認のために、さっきまでいた場所を確認。


あぁ、なるほど。


そこには上半分だけがちぎり取られ、原型の分からなくなった掃除用具入れが転がっていた。その周りには、さっきまで箒だった木の破片や、バケツなどが広範囲に散らばり、僕が置いていたコーヒーがぶちまけられ、絨毯はシミになってしまっていた。

よく見れば上半分が見当たらない代わりに金属片も散らばっている。


上半分が衝撃で粉々になったから、上から投げ出されたんですね。

力の込め方間違ってたら僕も粉々になってましたね。まったく殺す気ですか。

ゲームに集中しすぎたせいでしょうか、それにゲームのボリュームを上げすぎて感覚器が麻痺していたのも原因かもしれませんね。

ボスの気配に全く気付かないなんて、僕もまだまだですね。

あれ、そういえば……!?


そこまで考えて、ふと思う。

僕のゲームは大丈夫だろうか?


さっきまで手に持っていたはずのゲームがどこにも無い。

もしかすると、掃除用具入れと一緒に粉々になってしまったのだろうか。

だが、僕が助かっていることを考えると、ゲームが無事な可能性も十分に残されている。


どこだ、どこにある?


必死に全身を隈なく探し、ポケットの中を探すも無い。

焦る頭を必死に回転させ、周囲を確認。


……あった!


ゲームは自分が受け身をとって着地した地点のすぐ横に転がっていた。

多分持ったまま受け身をとったのだろう。


僕、ナイスファイト。


「……ふぅ」


一旦安堵のため息をつく。

これさえあれば取り敢えずはなんとかなる。

しかし、まだ何かを忘れている気がする。

あたりを探すが何も無い。

そして、後ろを振り返り上を見上げると目が合った。


「よぉ、おはようシャドウ」


そういえばボスに叩き出されたところでした。

まさか足元でゲームを探してたなんて、僕も間抜けですねぇ。

しかし、ボスも忘れてましたけど、忘れてることってこれでしたかね。


「や、やぁ、あおはようございます、ボス」


精一杯の作り笑いをし、取り敢えず挨拶を返してみる。

ボスはバスターソードと言われるような身の丈ほどもある剣を肩に担ぎながら、刺すような鋭い眼光を僕に向けていた。

流石の僕も、その壮絶な雰囲気にうまく言葉を続けられない。


ボスは、2mほどもあるラグビー選手のように大柄な体格で、目の上にはいかにもな3本の古傷が刻まれている。そして髪は真っ赤に染められ、オールバックにセットされている。

服装はいつも黒のストライプのジャケットを適当に着崩し、前を開けている。下は今日は上に合わせ、ストライプのパンツを履いている。


いつも思いますけど、見てくれは完全にヤクザですね。

これで堅気の社長なんて信じられません。

それなのにあんなにオーラバリバリで、大剣もって僕より強いなんて、凄まれると怖くて仕方ありませんね、まったく。


明らかに何度もボスのことを無視したのが原因で余計に怒らせている。一般人だったら立っていられないどころか、失神しているかもしれない。それほどまでに切れの凄まじいオーラが部屋中に充満している。

このまま適当に受け答えしていたら間違いなく殺される。

そんな確信があった。


僕にコミュニケーションで上手くやれというのはちょっとハードルが高いですね。

でも殺されたくはないので、いざという時のために得物になりそうなものでも探しておきますか。今僕丸腰ですしね。

まったくこんな所で死ぬわけにはいきませんよ。

ん?死ぬ?


「あ!!ちょっと待ってください、大事な用が」


「あ?お、おう」


僕のあまりにも必死な形相に、さっきまで凄んでいたボスも気圧されて、思わず元の調子になっている。今なら許してもらえる可能性もあるかもしれない。

だが、そんなことはもうどうでもいい。僕が死のうがどうしようが関係ない。


忘れていたのはこれでした!

僕、今メインヒロインのエンディングがかかった重要な分岐点に立たされていたんでした!

ボスのせいでふっとんで、Bを選び損ねてしまっていましたが、せめてボスと話す前に、オートセーブがかかる前に選択肢だけはなんとしても選んでおかなければ。


おそるおそる、電源ボタンを押しスリープからゲームを起こす。

画面点灯。よし、液晶は割れていない。これならいけるぞ。

そしてロック画面を解除してゲームに戻る。選択肢はどうなった?


「ついに本性を現したな。お前の正体は宇宙から飛来した、機械生命体だ!」


あ、死んだ。これCだよね。バッドエンド確定のやつだよね。

あそこまで、苦労してたどり着いたデートモードの最後で、究極のインベーダー、ボスの襲撃を受け、シャドウ二等兵の恋路殉死。


「な、なぜわかった。貴様を利用してこの軍を我が手中に落とそうとしていたが、よもや読まれていたとはな」


ヒロインの目が赤く光り、僕の手をさっきまで握っていた綺麗な手がナイフ状に変形。反対の手はアサルトライフルのような形状に変化している。

シャドウ二等兵はヒロインから距離を取り大声で避難誘導をしつつ、携帯していたサバイバルナイフとハンドガンを構え迎撃を始める。


「みなさん、インベーダーです!速やかに避難してください!」


僕の任務は彼らを守り切りながら、サーシャを食い止めることだ。絶対にやりきってみせるぞ!


タッタラッター♪

シューティングモード、スタート!


プツン


僕はゲームの電源を落とし、泣いた。

体が限界に来ていたのもある。確かにそれもあるが、これだけは紛れもない、失望と絶望の悲しみの涙だった。

目尻からとめどなく涙がこぼれ落ちる。

ボスの足元でゲームで号泣。

そんな自分が少し悲しく思えたが、今はぶっちゃけそれどころではなかった。


「ごぉんなごどっでありまずがぁ〜」


ボスにすがりつき、みっともなくただ泣き尽くす。

だってこんなのは酷すぎる。

悪夢だ。まさかヒロインが実は侵略者で、自分が今まで倒してきたインベーダーの親玉だったなんて。

好感度を気にして、今までサーシャたんに気を遣ってきた自分がバカみたいじゃないか。しかし……


これは心と体が同時に限界を迎えたことが理由だろう。僕はここで驚くべき領域に達する。


あれ?サーシャたんってなんでインベーダーじゃいけないんだっけ。

サーシャたんが宇宙人でも愛は変わらないんじゃないのか?

宇宙人の嫁……いける!


宇宙人萌え。僕が今まで理解できなかった領域への到達。いわゆる性癖の拡大。新天地への到達であった。


僕は勢いよくその場で立ち上がると、両手を天高く掲げ、思いの丈を発する。


「機械萌え、あり!」


「いや、なに言ってるかわかんねぇよ」


常人には理解できないでしょう。僕だってさっきまで分からなかったんですから。

この世界にはね、メカ娘、モン娘萌えというものがあるのですよ!いやぁ、意外とありですね。

それなら僕の努力は無駄ではなかったということですよね!


キラキラとした目でボスを見つめる。

機嫌を直しつつあったのだ、きっと僕と喜びを分かち合ってくれるに違いない。

希望的観測だけど。


「で、このふざけた心の中劇場はこれで終わりでいいよな?お前、俺をゲームやるために置き去りにしてたってことで、いいんだろ?」


あ、はぐらかそうとして後半ふざけたのバレた。地獄行き決定ですね。

さっきから現実には悪魔がいるなとは思ってましたが、ゲームの世界にも天使はいないようです。


ボスは青春の汗をとめどなく流す僕を見つめ笑顔でポキポキと拳を鳴らす。

どうやら時間を引き延ばそうとした心情描写で、治ってきていた怒りに再び点火してしまったようだ。


「はい、じゃあぶっ殺しまーす。俺とも遊ぼうぜ」


バキバキ、ボカドカ……


「うぉぉ、たすけてくれぇ!」


ボスの容赦ない可愛がりを、ガードと受け身をしっかりしながら受ける。それでも全く凌ぎれない。顔と体にどんどん拳が炸裂する。骨は折れないように加減されているようだ。


この人本当に強いですね。てか、痛い。

また、新しい新天地開けるといいな。

はい、現実逃避です。


あ、そういえば後で違うエンディングも試したんですが、サーシャたんがインベーダーなのはこのエンディングだけのようです。

あー良かった。(棒読み)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ