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Killing syndrome  作者: 兎鬼
1章 日常
4/26

殺し屋 シャドウの日常


9月13日(金)


僕の人生は2次元への投資のためにある。

執務室の掃除用具入れの中で、ゲームをしながら僕はそう確信した。


「シャドウくん今日はどこでデートする?」


ヒロインの、サーシャたん可愛いぃ!マジ天使すぎる!

あぁ僕はこの為に産まれ生きてきました!

お母さん、僕をゲームのある世界に産んでくれてありがとう。

今は亡き母に本気で感謝。


そしてサーシャたんの余りの可愛さに、溢れてくる涙をTシャツの袖で拭く。

ゲームをするのに涙は邪魔だ。画面見えなくなるし。

涙を拭くと目を閉じ、ひとつ深呼吸。


デート編にたどり着くまで、どれだけ苦労したことか。

異星人の進行が収まるまで、初期装備で迎撃。これが鬼のように難しい。

ここだけでコンティニューすること30回。

それが終わったと思ったら、今度はメカに乗った射撃訓練。

これはそれほどレベルは高くないものの、成績が悪いと、ヒロインの好感度だだ下がり。


バトルアクション恋愛シミュレーションシューティングって一体なんなんだ。

と最初は思ったものの、やってみるとこれが面白い!

この会社のギャルゲーは名作ぞろいですが、この『どきどきクライシス』通称『どきクラ』は飛び抜けた名作ですねぇ。


これまでの苦労を一通り思い出し、選択肢への心構えを整理する。

やばい、また涙出てきた。


涙が出てくる前に、確認しなければと意を決し、ようやく選択肢を確認する。


A:家

B:ショッピング

C:水族館


え?なにこれ。こんなの、もう決まってない?

これ正解はCの水族館のみでしょ。

Bのショッピングは友達として好感度は上がるものの恋人フラグが立ちにくい。

プレゼント路線で行くのもアリだが、失敗したときの好感度ダウンが恐ろしい。


一見正解のように見えるAの家デートはあきらかに地雷だよな。

がっつき過ぎて好感度どころか、そのヒロインとのエンディングすら危うくなるってやつだろ、きっと。


一方、Cの水族館ははこの手のゲームのど定番選択肢だよな。

この手のシミュレーションゲームをやりつくした僕にかかれば、選択肢の選び違えはあり得ないから、好感度は上がるだけのはず。


しかし待てよ。

このゲームの恐ろしいところはオートセーブだということ。

普通のゲームならあきらかに外れ選択肢でも、このゲームでは正解ってことも有り得る。

どうしたものか。


間違い選択肢を慎重に検討するも、答えは出ない。

一度ゲームをスリープモードにし、気持ちを落ち着けて考えることにする。


あぁ、しかし狭いところは落ち着くなぁ。


え?なんで掃除用具入れなんかでゲームしてるかって?

僕だってはじめからここでゲームをしてたわけじゃないんですよ?

さっきまでは居住区の廊下を歩きながらゲームをしていました。

でも、みなさん、歩きながらゲームをしている僕を邪魔者扱いするんですよねぇ。

もう酷い話で。聞いてくださいよ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


同日昼。

居住区、自室前。


キイィいい!またインベーダーにやられた!

そろそろ慣れてきたと思ったのに!

選択肢に行けそうでも、訓練に失敗したらはじめからインベーダー攻略しないといけないなんて鬼ですか!


僕は自室からゲームをしながら食堂に向かおうとして、あまりのゲーム難易度の高さに1歩も進めないまま立ち尽くしていました。


「よし、よし、そこだ、あと4機。よし、来たあと2機……」


もうすぐ終わる、あと2機、これを倒したら今度こそデートパートに行ってやるぞぉ。


僕は細心の注意を払い、弾幕を避け、効果的な弾薬を選択。

ここまで敵が減れば避けるのも楽々ですね。

あとはもう、このまま倒してしまえば……


「よぉシャドウ。なに1人でぶつぶつ言ってるんだ?」


ポンっと後ろから誰かに肩を叩かれ、びっくり。

だが負けない、負けないぞ。


「え?誰?ホークアイ?ちょっと待ってくださいね……のぉぉおおおお!!」


突然現れた旧友ホークアイに利き手の方の肩を叩かれ、検討も虚しく、地球防衛軍シャドウ二等兵殉死。

何よりも怖いインベーダーはホークアイ貴方ですか!

やっとここまで来たのに。


慣れてきたとはいえ、毎回苦労するインベーダー攻略がもう少しでクリアできそうなところで、失敗。

腕が脱力するのを感じる。

ゲームだけは落とさないように気をつけて、腕をだらんと下げがっかり感を猛烈アピール。

この男ワザとだ。がっかりしてんの見て反省しろぉ。


「ほぉぉおおくあいぃぃい!ちょっと貴方なんて事してくれてるんですかぁ!もう少しでクリアできそうだったのに……」


せっかく頑張ったのに。

そう思ったら涙が溢れて、


「悪い悪い、泣くなよ。まさかこんな所に立ってゲームしてるなんて思わなかったからさ」


「嘘つけこのやろー、あんた演算能力あるんだから、絶対狙って利き手の肩叩いただろ!バレてるんですよ!」


旧友ホークアイは、ずっと僕の相棒をしている仲間で、根暗な僕にも分け隔てなく話しかけてくれるいい奴です。

190cm超えのイケメンで、少し長めのの茶髪をおしゃれな七三分けにいつもセットしています。

清潔感狙いなんですかね、いつもスーツだし。


この人、いい奴なんですけど、こういういたずら好きな所があるんですよね。

ごめんて言っても全然思ってないし。

僕が苦労をしてたのを知っていて敢えて邪魔してきたに違いないのです。


ホークアイを伺うと、ケラケラと僕を馬鹿にするように笑いながら、様子を伺っている。

絶対また何かするつもりだ。


「はぁ、もういいです、食堂に行きます」


「いいのか?なんだよつまんねぇな」


やっぱりワザとだ。

僕はこれ以上ゲームを続けても妨害行為が続くと判断して、ホークアイにいじられないように、かねてから目標にしていた食堂に向かうことにしました。

ちょうどゲームの中の僕も殉職した所ですしね。

インベーダーホークアイによって。


「え、そういえば食堂?もう15時半過ぎなのにまだ昼食べてないのか?」


「なに言ってるんですか、今は12時30分ですよ。またからかおうとしても、その手にはのりませんからね」


時間でまでからかおうとするなんて、まったくホークアイはいたずら好きにもほどがありますね。

ちらっとホークアイの方を伺うと、今度はいたずら好きな視線ではなく、訝るような視線を向けている。


あれおかしいですね?そういえば、いつものホークアイなら、そんな地味なからかいなんてしてこないはず。

僕は不安になってゲームをスリープから起こし、スタンバイ画面で時間を確認。


時刻15時42分。


「言ったろ?食堂もとっくに閉まってるし、今行ってもお前の好きなもん何も無いんじゃないか?」


僕、部屋の前で3時間もゲームをしてたんですか?

まるで変質者じゃないですか!

僕の大好きなプリンが、ナポリタンが……。


「いや、お前元々変質者だろ」


「ですよね、知ってました!ていうか心の中に突っ込むのやめて!」


もう本当にこの場から逃げよう。

腹を抱えて笑うホークアイを尻目に、食堂を諦めコンビニへ方向転換

はぁ、仕方ない、菓子パンでも食べますかね。


2度のがっかりによって気分は最低。

もう今後ゲームをするときは、部屋に食料を備蓄して、部屋にこもってやろうと固く決意して、僕はその場を立ち去りました。


「そういえば、さっきのワザとだぞ!」


「知ってます、許しません」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


その後ハイライトでお送りします。


16時、コンビニ前。


「あと1体!うぉお死んだ!」


諦めきれずに、コンビニ前でゲーム中。


「なにあれ、キモ」


「見ないほうがいいよ、あれ絶対露出とかする変質者だよ」


「しないわ!!」


変質者でもそこまでじゃないですよ!

叫ぶ自分に怯え、逃げていく女子高生を見ながら、さらに続けて言おうとして思い至る。


虚しい。

やべ、涙出てきた。


「パン買って早く帰ろう」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


16時30分、交差点。


「何あれキモ」


「見ちゃダメだよ、襲われるよ」


信号待ちしている最中にゲームをしていると、ギャル風の女子高生2人に蔑まれました。


……僕、信号待ちしてるだけですよ?

僕、本来は愛すべきいじられキャラのはずなんですけど、マジで怯えるのやめてもらえません?


何も言いませんけど!!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


16時40分、オフィス入り口前。


「何あれ、取り敢えずキモ」


「ほんとだ、取り敢えずキモいね」


「取り敢えずキモいってどういう事ですか!」


オフィスの居住区に向かおうとして、今度は真面目そうなメガネの女子高生2人に蔑まれました。


「きゃーー」×2


意味のわからない蔑みに思わず突っ込んでしまい、悲鳴を上げられてしまいました。


取り敢えずキモいって、キモいはまだわかるけど何その、飲み会の取り敢えずビールみたいなノリ。

流石に3回もキモがられると、蔑まれ慣れてる僕でも心が持ちませんよ。


目尻の涙をTシャツの袖で拭い、ゲームをスリープモードにしてポケットにしまう。

しかし、ゲームを止めても心にぽっかり空いた穴は埋められるはずもなく、肩をガクッと落とすと、トボトボと部屋に向かうのでした。


そういえば1つ言い忘れてました。


「悲鳴はマジ捕まるやつだから、勘弁してください!」



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