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その9 ボクの正体が判明。えーと泣いていい?


「ひゃ……ひゃくた……? むり……」


 Lv0に上がるというワケのわからない言葉もさることながら、アレを百体……だと!?


 おでこをさすりながらカレンの言葉を思い出す。確か引き篭もりも冒険者だっけ。


 この町で引き篭もりが冒険者に組み込まれていると知った時、なんじゃそりゃと呆れたけど、ボクのような子の為にそうなっていたのかもしれない。

 世界は優しさで包まれていた。


「一人での討伐は絶望なので、パーティを組んで行くのをオススメします」


 絶望とか軽々しく言わないで下さい。誰がマイナス1なんかとパーティを組んでくれると思いますか。


「ち……因み……この前来た……オジサン……」


 ボクの前に来たという先輩転生者はどうやって冒険者をしているのだろうか、気になって尋ねてみる。


「あの方はLv1でしたね、やんばるトントンとは互角に戦える強さでしたが――」

「でした……が……?」


 な、何この嫌な予感。何で過去形、オジサンまさか……もう……


「いかんせん全裸のオッサンとパーティを組んでくれる人がいなくて、今は引き篭もっていますね」


 オ、オジサン――!


 彼は常にボクの一歩先を進んでいるようだ。

 もしかしたら将来の引き篭もり仲間になるかも知れないオジサン、そのうち会えたら引き篭もりの技を伝授してもらおう。


 お姉さんは用紙に目を落とすと、ボクのステータスの読み上げを再開。


「次にみのりんさんの種族ですが……えーと」


 人間の女の子、さすがにわかってますって。

 ちゃんと鏡で自分の姿を確認済みですよ、お陰で自分の姿にキョドりまくりでしたが。


「みのりんさんは男の娘(おとこのこ)ですね」

 

 固まったまま息を吹き返すのにたっぷり五分は費やした。

 今、なんと言いましたか……


「男の娘です、おとこのむすめと書いて男の娘です。種族:男の娘、男の娘目、男の娘科、職業:男の娘です」


 思わず白目を剥いて倒れそうになるのを、机の端を掴んで耐えた。

 何そのワケのわからない種族は。


「みのりんさんは、男の娘族の女の子ですね」


 なんですかその犬族の猫みたいなワケのわからなさは――!



「とてもとても凄いですね、男の娘はとてつもなくレアな種族なんですよ。男の娘なんて中々登録者でいませんよ、この前は、えーと、記録にありませんね」


「ちょ……ちょっと待……」


 涙目になった、そんなアホな種族いくらなんでも嫌すぎです。


「ほら……おっぱいあるし、ちょっとだけど……おっぱいあるし」


 ぶるぶる半泣きになりながら必死に自分の胸を精一杯突き出して、おっぱいがある事をお姉さんに訴える。よく見て下さいここに山があるでしょ、と。


「そりゃあ男の娘ですから、そのくらいの大きさのおっぱいはありますよ。あ、でもさっきすぐに大きくなりますと言ったのは撤回しますね、男の娘はずっとそのちっぱいとかロリパイとかつるぺたのままですから」 


 絶望――足もとの地面が崩れ去って奈落の底に落ちていくような感覚。


 おっぱいが成長しない! おっぱいの神様は、どうしてボクにそんな酷い仕打ちをするのか。

 ボクはそれなりにいい信者のはずなのに。


「でもほら、可愛いじゃないですか、ちっぱい。ロリパイは一部の男性達に需要がありますし、何より楽だからいいですよね、つるぺたは!」


 お姉さんはボクを慰めようとしている。

 しかしこれはダメだ、特に呼び方がだんだんと平らな方向にシフトしていっているじゃないか!


 やはり、富めるおっぱい上級民には、下々のおっぱい貧民の気持ちなんてわかるはずも無かったんだ。


 今まで外側から見ていて夢の楽園のように感じていたおっぱい世界にも、一般社会の縮図のような闇が存在していたなんて。

 夢も希望もあったもんじゃない。



 ちっぱいが可愛いとかどういう価値観ですか、意味不明な事を言わないでください。

 おっぱいは大きくてこそ夢を乗せていられるんです。ロリパイがどうやって夢を運ぶんですか、つるぺたに夢を乗せられますか、乗せたってつるっと落ちちゃうじゃないですか。意味が全然わかりません。


「すみません意味がわからないです。ああでもごめんなさい、みのりんさんがそんなに思い詰めていたなんて知らなかったものですから、そうですよね胸は夢を運ぶんですよね」


「ち……」とか、「お……」とかしか言っていないのに良く通じたものである。


「ま、まあまあ、でも男の娘は引く手あまたなんですよ。それだけの価値は十分以上にあるのです」

 キョトンとするボクにお姉さんは続ける。


「何しろ男子禁制の女の子の花園パーティにも潜り込めますし」

 不穏な言い方はやめて頂けませんか。


「女性厳禁の男性パーティにはモッテモテ、女王や姫として君臨できますよ」

 やめてください……嬉しくないです……


「魅了のスキルがあるのでモンスターも大興奮」

 色んな特典がありますよ、と言うお姉さんの言葉は涙目になったボクの耳にはもう入って来ない。


 あれか、あれだな、選択パネルの同時押しか、あの必殺技がいけなかったのか。

 ボクはなんという禁断の奥義を繰り出してしまったのだろうか。


 もうボクのおっぱいは寒い監獄の中に永遠に閉ざされた……ハハハ……遠い目になったボクは乾いた笑いしか出せなかった。


「男の……娘――だと!」


 その時、後ろからの殺気を感じて我に返った。


次回 「美味いじゃないかモンスター!」

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