その8 受付で登録したらボクのLvがアレだった
受付のテーブルの向こうには綺麗なお姉さんがいた。
金髪を編みこんで後ろに束ねた、仕事のできそうな眩しいお姉さんだ。
今までのボクなら、このような完璧そうな女性には近づくだけで腰が砕けそうになっていたのだが、今は違う。
違うはずだ、おいこら前へ出ろボクの足。
「こんにちは、何か御用でしょうか」
「ひいい」
慌てるな、お姉さんの顔を直視しようとするから失敗するのだ。
思い出せ、先ほどまでカレンと弾む会話を楽しんだボクにはもう隙は無いのだ、例え相手が受付のお姉さんとはいえ臆する事はないのである。
「あ……て……」
「ああ、転生者の方ですね? お待ちしていましたよ」
ほらすんなり会話が成立した。
ボクだって日々成長しているのだ、この胸だってどんどん成長してくれるに違いないはずだ。
「冒険者の町へようこそ。今日はお天気で森も過ごしやすくて良かったですね」
朗らかに微笑むお姉さんは大きな胸をしていた。
そう、胸を見ているのだ、恥ずかしくて顔をまともに見られないから視線を落としているんじゃないんだ、ボクはあえて胸を見る事を選択しているのだ。ホ、ホントだぞ。
まあ、これがおっぱいに憧れを抱く原因になったとも、女子にキモチ悪がられた原因になったとも言われるのだが。
「心配しなくても大丈夫ですよ、あなたもすぐに大きくなりますから、悲観に暮れる必要はないですよ」
お姉さんはそう言ってにっこり微笑みながら、後ろの棚から用紙を取り出してくる。慰められたショックでなんだか涙が出た。
「こちらが受け付け用紙です、ここにお名前を書いて下さい。ペンはこちらを使って下さいね」
えーと……
――おなまえ
真茅みのり
――あいしょう
みのりん
何の疑問も無く書いてしまったが、改めてつっこみを入れたいのをぐっと堪えていると。
「はい、みのりんさんですね。では、税金が二百ゴールドになります」
「へ……?」
ボクの呼び方にもつっこみたかったが、それよりも、いきなり全財産を寄こせと言われて狼狽した。
「どうしました、お支払い頂く税金ですが?」
なんだか笑顔のお姉さんの顔が能面に見える。
うう……
冒険者の町で一ヶ月は暮らせるという全財産を、震える手でお姉さんに渡す。どうすんのこれから、ご飯は?
『ぐう』
ご飯という単語は思い出すべきじゃなかった、思い出した途端にお腹が減ったじゃないか。
「税金はキッチリ支払って頂くのがこの世界のルールですからね、例えそれで文無しになってもルールは必ず守りましょう。厳守ですね」
鬼だ。
「それでも、みのりんさんは払えて良かったです。この前来た転生者は男性でしたが、百九九ゴールドしか無くて、着ているものを身ぐるみ剥がされましたから」
オジサン……カレンにボコボコにされた上に更にそんな目に。なんてついてない人なんだ。
「剥がしたのは私ですけどね」
お姉さんはにこやかに微笑む。
「私は相手が例えあなたのような女の子でも、キッチリ剥がしますから」
お姉さんの笑顔はどこまでも朗らかだ。
お尻を触ってもお触り代を取らずに許してくれたカレン。
彼女は命の恩人だ、後でお礼を言おうと固く心に誓う。
「では出てきた登録証で、みのりんさんのステータスを見ましょう」
そう言ったお姉さんが別の用紙を持っている、そこに書いてあるのだろうか。
「みのりんさんのステータスですが……えーとまずレベルは……」
はいはい、Lv1ですよね、来たばかりの駆け出しだしわかってますよ。
「マイナス1ですね」
ボクは固まった。
マ、マイナス? 〝ゼロ〟だと言われてズコ――っとやる前振りだったのにマイナス?
お姉さんも困惑気味だ。
『女の子でも身包み剥ぐ』と、にこやかに宣言した人の笑顔を困惑で歪ませるなんて、とてつもなくとんでもない事態なんじゃないんですか。
「ご、ごく稀にマイナスの方が来ちゃうんですよ……この前は、えーと、記録にありませんね」
や、やめて下さい、これ以上傷口を広げるのはやめて。
受付のお姉さんに困惑される者の身にもなって下さい。
「でも、ほら」
お姉さんがパンっと両手を叩いて言葉を続ける。
普通の女性の行動だが、ボクはその『パンっ』でビクンとなる、攻撃されたようなものだ。
「この周辺の森には最弱モンスターの〝やんばるトントン〟が豊富ですから、倒してお肉にしちゃえばすぐLvも上がりますよ、食費も浮いて二度おいしい」
そいつとは既に対戦してるけど、武器があれば何とかなるのだろうか。
鼻息で死に掛けたボクなのだ、そんじょそこらの駆け出し冒険者と同じにしてもらっては困る。
「Lvが低い内は少ない討伐数でも、すぐ経験値が上がってLvアップしますから大丈夫ですよ」
なるほど、遊んでたゲームでも最初は一、二体倒すだけですぐLvアップしていたっけ。ここは武器を揃えて作戦を練って頑張るしかないか。
文無しでも買える武器を探さないと、売ってくれるかな。
「そうですね、やんばるトントンを百体ほど倒せばLv0に上がりますよ」
ゴン。
受付の机の上に軽く気絶したボクの頭がぶつかった音である。
次回 「ボクの正体が判明。えーと泣いていい?」