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その7 女の子扱いされたのがちょっと新鮮


「ここが冒険者ギルドだよ」


 町の中央にある大きな建物の前で立ち止まる少女の二人組。

 突然元気が無くなったボクに、カレンはあれやこれや話しかけてくれて、カレンの胸を見てようやく気分も落ち着いてきた頃に目的地に到着したようだ。


 冒険者ギルド……ですか。


「そう冒険者ギルド、冒険者の町にある冒険者ギルド。あ、わかるよみのりんの気持ち、なんせ本当に冒険する人から引き篭もりまで、何でもかんでも冒険者でまとめちゃったからね、この施設もそれに合わせたみたいだね。ニート相談窓口とか、寂しいお年寄りの世間話コーナーとかもあるよ」


 なんか、もう冒険者と違うよね。ただの寄合所なんじゃないのこれ。

 改めて冒険者ギルドを見上げる。


 最初に冒険者ギルドと聞いた時は、木造の小屋みたいのを勝手に想像してたんだけど、石造りのでっかい建物で真ん中にドーンと無駄にでかい扉があった。

 扉は三メートルくらいはあるだろうか。


 この扉をギギギギと壮大に開け、中に入っていく冒険者みのりん! 一斉に振り向く冒険者達!

 うん、想像したらかなり腰が引けた。


 でもよく見ると、扉の中の小さな扉が普段の出入り口みたいだ。


 なるほど、何か有事の際には、このデカ扉が開いて対応するようにできてるんだ、なんだかカッコいいぞ。


「張り切って立派に作りすぎて、開け閉めがめんどくさいからちっこいの作ったんだって。一回お年寄りが腰をやっちゃってクレームも来たみたいだよ」


 なんかもう力の抜けるエピソードやめて頂けませんか。


 それにしても立派な建物すぎて臆してきた。

『さあ中に入りましょう』とカレンが扉を開けてくれるのを待つ。さあどうぞ! いつでもいいですよ!


「私の案内はここまでだね。あそこの扉から入って真っ直ぐ進むと受付があるから、そこのお姉さんに新しく来た転生者だと伝えれば、後は色々手続きしてくれるよ」

「え……」


 一緒に中に入ってくれないの? と不安そうにすがりつく目に、ボクの心情を悟ったのか。


「ごめんねみのりん、私も一緒に行ってあげたいんだけど……」


 冒険者ギルドという仰々しいものだけに何か入れない事情が……


「早くお肉屋さんに行かないと、このお肉の鮮度が落ちちゃうから」


 ギルドとは全く関係のない理由だった。


 カレンの手を握って『一緒に行ってよ~』とダダをこねたいのは山々だったが、自分から女の子の手を握るなんて大冒険はまだ早いのだ。


 恐らくお肉屋さんのある方向へと走っていくカレンを見送ると、意を決して扉を開け中に入ろうとし――


「うわー!」


 扉を開けて中に入ろうとした瞬間、目の前にいてぶつかりそうになった男の人が大きな悲鳴を上げた。


 普通悲鳴をあげるならこっちでしょうに失礼な、でかい図体して女の子にぶつかりそうになったくらいで声を上げないでくれませんか、悲鳴にびっくりして硬直しちゃったじゃないですか。


「馬鹿野郎! こんな所を、お、女がウロチョロしてんじゃねえよ!」


 スレンダーだが筋肉を自慢しそうな体型の金髪の冒険者だ。


 怒鳴られて胸を押さえて『ひぃ』となってしまった。何この自分の仕草。

 女呼ばわりされたのがちょっと新鮮……とか言ってる場合じゃない。


「ぶ、ぶつかりそうになったのはお互い様でしょう」

「なんだとこの女! 可愛い顔しやがって! ああ……可愛いなあ」


 ななな?


「ちくしょう……可愛いなあ……ちくしょう」


 何この人。

 うん、避けて通ったほうが良さそうですね。

 くわばらくわばら。


「すまんねお嬢ちゃん、こいつを許してやってくれ」


 ボクが関わり合いになるのは真っ平ごめんですよという顔で横を通り過ぎようとすると、隣で様子を見ていた人が話しかけてきた。


 お嬢ちゃんと呼ばれるのもちょっと新鮮。

 おそらく彼の友人と思われる口ヒゲのオジサンは続ける。


「この男はマンクと言ってな、職業はモンクだ」


 なるほどモンクね。

 格闘戦の鬼だからこの筋肉か、道理で修行僧みたいな姿なんだ。ただ服はちゃんと着て欲しい、何でお腹の筋肉までこっちが見ないといけないのか。


「モンクのマンクだね」

 思わず呟いた。


「そうマンクのモンク、いや逆だわ、ま、どうでもええわ、とにかくそいつは職業柄女性には触れられんのよ」


「可愛いなあ……そう、触れたが最後、エナジーとレベルがごっそり低下するんだよ、このマンクのモンク様はな! エッヘン!」


 なんだかワケがわからない事になってるなこの人。さっきボクを殴りそうな勢いなのに、数メートル離れて腰が引けてたのもそれが原因か。 

 凶暴な犬に咆えられたみたいな態度されて、ちょっと傷ついてたんだぞ。


 まあ、もうどうでもいいですけどね、ほらボクのこの目を見てください。

 まるで珍獣でも見るような、女の子の冷ややかな目ですよ。


 ボクだって、今まで伊達にこの目を食らい続けてきたわけじゃありませんからね。

 さあ、この心を削り取る目光線を存分に食らうがいい!


「はあ、可愛いなあ……ホントに可愛いなあ……」


 だめだ全然効いてないわ、ボクもまだまだ女の子初心者だ。精進しよう。


「俺様は女の子が大好きなのに、女の子に触れない不幸な男なんだよ」


 それならどうしてそんな職業を選んだんだよ! と、トホホ~としょげたマンクに、心の中でつっこみを入れ受付に向かって進んでいく。


「おい待て逃げるのか! 勝負はまだ終ってないぞ! もう少しあんたの周りの空気を吸わせてくれよ!」


 というマンクの叫びは完全無視である。


次回 「受付で登録したらボクのLVがアレだった」

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