その4 第一異世界人発見、ファーストコンタクトは女の子★
「な、何?」
ボクの目の前にちょっと顔を赤くした女の子が立っている。
「あ、ごめん、自分のお尻かと思って」
「え? 何を言っているの?」
謝ってから少女を見てオロオロしだしたボク……おおおお女の子だあああ。
女性専用コミュ障炸裂である。
モンスターが現われた時よりも数倍オロオロした、大ピンチである。
歳は十五、十六に見える。自分と同じか一個上くらいだろうか。
顔を見るのは恥ずかしいので視線を胸に落とす、視線の先でボクを優しく出迎えてくれたこの胸の感じは……十六歳だろうか。
彼女は黒い瞳、腰やお尻辺りまである長い黒髪のツインテールの少女で、上半身に簡単な赤い鎧とミニスカート姿、手にはキラリとロングソードが光っている。
「ああそうだよね、怖い目に遭って錯乱してるんだね、もう大丈夫だよ、〝やんばるトントン〟は倒したからね」
人懐っこそうに可愛い笑顔を向ける少女に赤面しながら、立ち上がって視線を恐々と〝やんばるトントン〟と言われたモンスターに向けると、そいつは胴体と下半身が真っ二つに分離していた。
「すご……」
「へへん、やんばるトントンは美味しいんだよ、ちょっとお肉に解体するから待っててね」
得意気に胸を張ったかと思うと、鼻歌交じりで手際よくお肉を捌きだす少女。
ちょっとまて、倒したモンスターの説明に今この子は『美味しい』と言わなかったか。
聞き間違いかな、というボクの疑問をよそにやがて目の前の少女はボクに語りかけた。
「やんばるトントンはこの辺じゃ最弱なんだけど、武器無しで戦うにはさすがに危険だよ? でもやんばるトントンがあんなに鼻息を荒くしたのは初めて見たよ、可愛い女の子で張り切ったのかな。この森にいる一番オーソドックスなヤツなんだよ」
ああ、良かった普通にモンスターの説明だ。
「ソーセージやハンバーグにすると美味しいんだよね! あ、焼豚も美味しいよね。煮込み用に豚足も持って行こうかな」
美味しいというのは聞き間違いじゃなかったようである。
もう焼豚とか豚足とか言っちゃってるし、それホントにモンスターですよね。
「それにしてもあなた危なかったよ、間に合って本当に良かった。あ、私はカレン! よろしくね! 十六歳だよ! えとあなたは?」
「みのり……みのりんと……呼んでくださ……十五です」
お肉を入れた袋を持って黒く綺麗な瞳でじっとボクの顔を覗き込む少女に、昔自分で付けた恥ずかしいあだ名まで言い出してキョドりまくる。
仕方が無いのだ真正面に女の子の顔があるのである、緊急事態なのだ、コミュ障炸裂なのである。
「みのりんは見たところ、あんまり装備も持って無いみたいだけど」
ボクの周りをぐるりとまわって、何の躊躇も無くカレンは〝みのりん〟と呼んできた。
「旅行者? 冒険者? それとも……やっぱり転生者?」
「そう……何故……わかったの?」
キョドって視線を落としカレンの胸を見ながら答える、やっぱり胸を見ると落ち着くわー。
「だって、私の目的はあなただもの」
狙われてた! なんだかちょっとエッチな気がして赤面する。
「私、この近くの冒険者の町にある冒険者ギルドの受付のお姉さんに、今日転生者が来るから迎えに行ってきてと依頼されて、この転生の森に来たんだもの」
カレンは手を広げて草の円の中でクルリと回った。
「そしてここは転生の森の中の転生劇場だよ。転生してくる人は大体この円の中に現れるんだよ。たまーにとんでもない所に出てきて探すのが大変な人もいてね、みのりんは素直に来てくれて助かっちゃった」
ああそいういう事か、やっぱり劇場で合ってたんだ、と納得しつつ不思議な事を言ってる事に気が付く。
「え? 転生……わかって?」
「うん、たまに転生者が来るよとギルドに通知が来るみたい」
どういうシステムなんだろうか。
彼女はちょっと不快そうな顔をして続けた。
「この前なんか変なオジサンでさ、いきなり私のお尻を触ってきたからボコボコにして川に放り込んでからギルドに連れてったんだ。もちろんお触り料金一ゴールド貰ったよ」
さっき自分もこの子のお尻を触った事を思い出し、サーッと青くなる。
「ご、ごめ……さっき」
「あー大丈夫大丈夫、あなたみたいな女の子になら触られたってなんともないよ、でもオジサンはダメゼッタイ、それにあなた怖くて錯乱してたんだよね」
たぶんそのオジサンも錯乱してたんだと思う……
「それじゃ、町へ行こうか、忘れ物無いよね」
よいしょとお肉満載の袋を担いだ少女を見てちょっと重そうだなと思った、半分くらい持ってあげた方がいいのかな。
「ボクも……手伝おうか」
「え? いいの? ちょっと待っててね! 残った分もお肉に解体しちゃうから。肩ロースとバラの部分が残っちゃってたんだよね!」
テキパキともう一つ出してきた袋にお肉を詰め始めるカレン。
あのカレンさん、そういう意味ではなかったのですが。
あと肩ロースとかバラとか言うのもやめて下さい、本当にモンスターですよねそれ。
「はい!」
と言われながら手渡された袋を抱える。
袋の大きさはカレンの半分くらい。半分持ってあげようというボクの目的は達成されたような気がするので、まあいいのか。
「みのりんありがとう!」
満面の笑みのカレンを見て小さな事はどうでもよくなった。
ああ、カレンの笑顔可愛いなあ――
ボクは彼女の胸を見つめながらそう思うのだった。