その3 初のモンスター登場 あれ? ボク戦えるん?★
振り向いたボクの前にはモンスターが立っている。
この世界に来て始めて出合った存在だし、ファーストコンタクトは大切にしたいので、コミュニケーションは図りたい。
異文明同士の接触だ。
とりあえず手を振ってみるが反応なし。
うーむ、相手は見るからに『やあ、こんにちは』とは言いそうにないし、喋れるのかも怪しい。というかこれモンスターでいいんだよね?
目の前にいるのは、子豚のような姿の丸くて可愛いモンスターなのだ。
ただの動物なのではないのか、という気もしないではないのだが。
もし動物なら気恥ずかしい事になりそうなので、あえて声はかけなかった。
見た目は丸くて可愛いくて、女の子に『キャワイイ!』と叫び声をあげさせようと言う魂胆だろうが、そうはいかない。
問題はその大きさだ、こいつは……
でっかい熊くらいあったのだ。
もう、この大きさの時点で劇場の幕を下ろして帰って頂きたい、本日は終了いたしました。
女の子にカワイイカワイイ言われたいのなら大きさには気を付けるべきでしょう、身だしなみは大切ですよ、聞いてますか。
しかしボクの説教もものともせず、モンスターはガサガサと草を踏み越え、木々の間を抜けるとボクが上演している劇場へと侵入してきた。
観客だったら乱入者、役者だったら共演者、そのいずれにしてもボクはろくでもない事になりそうだ。
「え、えーと、ぶ、武器、初期装備の武器は?」
改めて自分が発する声の可愛さに驚きつつ、腰に差してあった武器と思しき得物を持って構える。
これは何だろう……長さは二、三十センチくらい。
伝説の剣、というわけではなさそうで、何かを発射できそうなギミックもなく、軽くてカサカサして懐かしい手触り。
そうそう、田舎住みのボクは小学生の時、公園だの校庭だの道だのに落ちてた木の棒を、こうやって持って振り回して帰ったっけ。
あー思い出すわー、この懐かしい感触で木の棒を思い出すわー。
改めて初期装備の武器を見る。
うん、これ、木の棒ですわ。
目が点になって裏を見たり匂いをかいだり、どこからどう見ても木の棒である。
「ん――? こんなので戦える?」
斜めに首を傾げたボクにジリジリと寄るモンスター、ジリジリと下がるボク。
こんなのが武器とか、もしかしてアイツめっちゃくちゃ弱いのではないだろうか?
うんそうだ、絶対そうに違いないと期待を込めて、改めて木の棒を握り直すとモンスターの正面に立ちはだかった。
ボクはこの世界に降り立った転生者だ、おっぱいこそ無かったが(う、涙目になる)チート能力を発現させる好機じゃないか!
先ほどまでボクが案外冷静にモンスターにつっこみを入れたりしていたのは、チート能力発動と言う期待があればこそなのだ。
「さあ来るがいい愚かなる挑戦者よ、ボクの力をその身の消滅によって知るがいい!」
「ぶきーーーっ」
雄たけびをあげるモンスター。
もの凄い鼻息だ。
どのくらいもの凄いかというと、鼻息を浴びたボクが木の葉のようにふっとんで木に命中、ヒットポイントが一気に0近くまで削られたくらい凄い。
ヒットポイントは特に数値化されてないが、なんとなく自分ではわかる、恐らくボクのヒットポイントは現在〝1〟だ。
首の皮一枚で繋がった状態である。
というか弱すぎでしょボク。
あいつ本人も攻撃したとは思ってないよ、あ、飛んで逃げやがったなって顔したぞ。
立ち上がろうとするが瀕死なのか足に力が入らない、モンスターがトドメを刺そうと駆け寄ってくる。
木の棒をなんとか杖にして身体を起こすと、ガッタガタの足を空回りさせてモンスターの一撃をギリギリで避けた。
モンスターは数メートル先で停止して、くるりとこちらに方向転換。再度突撃してくる。
「あわわわ」
腰が抜けたワンコみたいな状態で逃げ惑い、とうとう大きな木のところまで追い詰められてしまった。
転生して速攻でゲームオーバーである。
せっかく女の子に転生してこれからだというのに、おっぱいの成長も見られないなんて無念すぎるよ。
木の棒で戦おうなんてアホな事考えずに、さっさと逃げれば良かったんだよ、失敗した!
モンスターが襲いかかってくる!
今までの記憶が頭の中を駆け巡る、ああ、これが走馬灯というやつか。
と言っても、ボクはこの世界に生まれてまだ三十分くらいしか経っていないので、随分ショボい走馬灯もあったものである。
もうモンスターは目前だ、まるでスローモーションを見てるかのようにゆっくり飛び掛ってくる姿を、見開いた恐怖の目に焼き付けた。
「ああ! もうだめだ!」
モンスターの牙にかけられるその瞬間目を閉じ――
「ぶきーーーっ」
いまひとつ伝えられないが、それはそれは恐ろしい断末魔の叫びだった。
これは果たして自分が出した声なんだろうか。
ゆっくりと目を開けると、自分の目の前にお尻と太モモが立っているのが見える。
ボクは真っ二つにされて上半身と下半身が分離したのだろうか、思わずそのお尻を撫でてみる。
「きゃっ」
自分のお尻が可愛い悲鳴をあげた。