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その2 女の子になっちゃった、この胸があの憧れの……★


 そこはどこからどう見ても森。木と草しかないんだもん、森というしかないよね。


 気が付いた時ボクが座っていたのは、森の中のちょっと開けた広場といった場所のど真ん中だ。周りは木々に囲まれ視界は良くない。


 木と草と空以外何も見当たらない。ただ、ボクが座っている広場な感じの草っぱらが不自然に円形になっていて、何かの劇場なんだろうかとすら思える。


 座ったままで色々周囲を見回していたら、カサカサと自分の足に草が当たる感覚がある、しかも太モモだ。


 確かさっきまで上下共に学校指定の田舎丸出しの赤いジャージを着ていたはずだったんだけど、下を穿いていないような違和感とスースー感で自分の足を見た。


 まず目に入ったのはスカートだ、そしてスカートから伸びる細くて白い足。

 スカートを穿いている事にまずびっくりだが、その白い足が妙に艶かしい。


 何だこれは! まるで女の子の足だよ!


 パンパンパン!

「いたたたたた」


 興奮して強く叩きすぎてしまった。自分の足で間違い無さそうで困る。

 強く叩いて痛かったのでさすってみる、きめ細やかですべすべ。


 髪もふわふわと腰くらいまで伸びてて、しかも青いときてるじゃないか。


 すごい青だよ青! ウィッグじゃないよね! 地毛だよね!


 ギュギュギュー!


「いたたたたた」

 興奮して力いっぱい引っ張ってしまった。


 思わず以前からやってみたかった、自分の髪の毛の先で鼻コチョコチョをしてみる。


「くしゅん!」

「あうー」

 ずずず。


 スカートで生足むき出しのせいか、くしゃみをしたら鼻水が出て少しブルっと震えた。

 よく見れば上に着ているのも肩丸出しじゃないか、さっきから足を叩いたり髪の毛を引っ張ったりしているのも、むき出しの女の子の腕なのだ。


 それにしても随分短いなこのスカートは。ミニスカートかな、と思わずめくってしまい白いパンツが見えて慌てて隠す。


 穿いていたのは女の子の下着だった。とてもとてもやばいものを見てしまった、心臓がバクバク言い出したぞ。なんだあのリボンは意味がわからない。


 ボクが女の子の下着を穿いてるなんて緊急事態だぞ、どうしよう、脱ぐか。

 いやいやまてまて、脱いだらもっと恐ろしい事になる。とりあえず落ち着け、対処を誤ったら死に繋がる事態だ、スーハースーハー。


 慌ててスカートを直した時に腰から何かが落ちたので拾ってみる。

 それは小さな冊子で、これは初期装備なのかと開いて読んでみた。


 ――アドベンランドへようこそ あなたはこの世界19万2524人目の転生者です。

 現在のあなたは初期装備です まずはその辺の町に行きましょう おわり――

 

 えーと、この手抜きな取り説の事は忘れてしまおう。

 アドベンチャーとランドを足したみたいな手抜きな名前も覚えなくてもいいよね。


 どうやら初期装備の小冊子により確定した、ボクは自分の記憶を持ったまま異世界に転生したのだ。


 しかも女の子として転生してしまったようなのだ。

 ミニスカートを穿いて。

 女の子の下着を穿いて。


『男性』か『女性』かを選ぶ際のタッチパネルでの、必殺の秘儀〝同時押し〟で右手の人差し指が勝ったんだろうな。

 混沌を司る我が右手が原因か、いけない右手め。


 こんな異世界じゃ男の方が良かったのでは? と思ってしまうけど、何となく心がはやるのは(いな)めない。


 そう! 心がはやるのは否めない!


 そうか女の子か。


 女の子といったら何か、頭の中で〝おっぱい〟という言葉が燦然(さんぜん)と輝いているがちょっと落ち着こうか。

 とにかく深呼吸だ。ボクははやる気持ちを押さえ込んだ。


 成長した姿で異世界に転生したという事は何かしらの能力があるに違いない、とんでもないチート能力とかおっぱいとか。

 とにかく確かめるしかないのである、チート能力はこの際ひとまず置いといて、最初に確かめるべき問題があるのではないか。


 女性コミュ障のボクは、恥ずかしくて女の子の顔が見れずに視線を落としてばかりいた。

 視線の先でいつも優しくボクを出迎えてくれたのはおっぱい。


 そんなボクだからこそおっぱいに親近感と憧れを持つようになるのは不思議な事ではなかったはずだ。

 自分の胸にそのおっぱいがある、もはやこれがチート能力だと言っても過言ではないだろう。

 

 さっきパンツを見ただけで心臓バクバクになったのに、女の子のおっぱいに触った時点でボクは気絶してしまうだろう、そのくらい耐性が無いのだ。

 しかし科学の探求の為には自分を犠牲にしても仕方が無いのである。


 ドキドキしながら自分の胸にゆっくりと手を置く、あの憧れに憧れ、夢にまで見たおっぱいの弾力がボクの手に跳ね返って――


 こなかった。


 ペタン。


 この場面で絶対に聞きたくなかった擬音。


「ない、ないよ? おっぱいは初期装備じゃないの?」


 涙目になりながら自分の胸をポンポンと叩く。

 いや、全く無いわけではない、男の胸とは違って、ほんのり、もうしわけ程度に、いわゆるちっぱいとかロリパイとかつるぺたに学術上で分類される山があるのはある。


 もしここに誰かが通りかかったら、草むらにうずくまって泣いている少女を目撃した事だろう。

 少女はやがて起き上がり胸の前で拳を握った、気を取り直したのだ。


「今はロリっ娘だけど、この身体には将来性があるはず! あははははは!」


 森の広場のど真ん中で繰り広げられる、悲哀に泣き崩れその後の復活劇。ここは劇場なのだ、観客が一人も居ないから恥ずかしくなんかないぞ。


 悲劇のヒロインになって浸っていると、後方からなにやらガサガサと音が聞こえた、恐らく劇場の外の森だろう。


「え? 観客来ちゃったの?」


 と慌てて立ち上がって、無理矢理笑顔を作りながら振り向くとそこに――


 お客さんのモンスターがいた。


挿絵(By みてみん)


次回 「初のモンスター登場 あれ? ボク戦えるん?」

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