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その22 鬼が出ちゃった


「鬼族、鬼族出た、出ちゃった」


「まあ、大変! 何をポロリしちゃったの? 早く隠さないと」


 ポロリの話では無いんですよマーシャ。


 ボクは大慌てでおへそを隠しながら、カレンに詰め寄る。腰が抜けた状態だ。


 因みにボクの名誉の為に言っておくと、鬼族を見て腰を抜かしたわけじゃない。

 詰め寄った時に慌てたカレンに抱き締められたからである。


「あ、鬼族発見! みのりんをこんなにして悪い鬼は許さないよ!」

「わしらその子に何もしとらんがの」


「そうなんだ、勘違いかな? ごめんなさい」


 相変わらず素直なカレンだ、だがそこがいい。


「こんな所で隠密行動を取っていたとは、灯台下暗しだね! 誰も気が付かないわけだ」


 二人の頭に突き出た二本の角、見上げると店名は〝鬼族の海の家〟

 なんでこれで誰も気が付かなかったのか不思議である。店内でも普通に飲食してるお客さんがいるし、イカ焼きに並んでる人までいるのに。


「この町の領主さんから依頼が来てるよ、迷惑だって」

「私たち何もしてないでしょ、勝手にイカや魚を獲って、勝手に店出しているだけでさ」


 鬼っ娘が反論した。この子はボクたちと同い歳くらいだろうか、胸を見てみる、十五歳だ。

 あちこち癖毛がはねている赤いショートカットで、頭に角が二本。可愛らしい鬼の女の子だ。


 迷惑行為として問題になってるのは、恐らく漁業権に海の家の出店許可証がらみじゃないですか。


「漁業剣? 出店けか証? 何それ、爺ちゃん知ってる?」

「都会は複雑で困り者だのう、爺ちゃんはそんなの全然知らんかったわ」


 ここって都会なんですか……


「ねえみのりん、事情聴取はみんなに任せていいかな? 私はこれから大事な仕事があるんだもん」

「え? あ、はい。え? 仕事?」


 ボクに声をかけてタンポポが、隣の店〝野郎どもの荒波屋withフェアリーポニー〟に行く。

 仕事って、パーティメンバーとしてのあんたの仕事は、鬼族絡みの方じゃないのかとつっこみを入れようか迷っていたら。


「海坊主のオッサン、店の隅っこ貸してもらっていいかな、ついでにお皿も」

「誰が海坊主だよ、まあそこが開いてるから構わないぜ」


 店のオーナーに声をかけ何をするのだろうと見ていたら、ワカメの兜煮の販売を始めやがった!


「一杯一ゴールド、海の家の甘いスイーツにぴったりのしょっぱいスープいかがですか~」


 見たら店名もいつの間にか〝野郎どもの荒波屋withフェアリーポニーand田舎のワカメ屋〟になってる。


「どんどん俺の店がおかしくなっていくな……フッ」


 何もかも諦めきった感じのオーナーだったが、ついでに甘いスイーツも売れて行くのを見て、タンポポにグッジョブのサインを出したようだ。


「へー兜煮って、名前は聞いた事あったけど初めてよね」

「並んでみましょうよお姉さま」


 ミーシアとマーシャがワカメの兜煮に並んでる、貴族には珍しい食べ物なのかも。


『わん』


 シロまで並んでるけど、あなた海草食べるんですか。

 サクサクは店内で他のお客のオジサンと飲んでるし、鬼族の取調べはボクとカレンと魔王ちゃんの三人で行うか。強烈なライトとカツ丼が欲しいところだ。


「と、取調べを始めましょうか……」

「何でこの子おへそを押さえているの? 私たちカミナリ様じゃないんだから大丈夫だよ」


 へ? そうなんですか? おへそ食べない?


「食べないからほら、おへそ出して、おへそ見せて、おへそを丸出しにして!」


 何のプレイですか! あなたの目が怖いんですけど。


「だめだそんなのじゃ、強要すると益々隠すものよ。爺ちゃんにまかせてみろ」


 そう言いながらイカ焼きの熱風をボクに当てるのやめて頂けませんか、これはあれですか、太陽と北風のつもりですか。

 そんなものでボクがおへそを開放すると思ったら大間違いですけどね。どんな怪盗だってこの大金庫をこじ開ける事は不可能なのです。


「イカ焼き食べるかい? ほーれ二本」


 ボクは満面の笑みで二本のイカ焼きを両手で受け取った。イカ焼き美味しい! 醤油じゃないのが痛いとこだけど、塩味でもいける! 


 あれ? さっきまでボクの手は何を防御していたんだっけ、まあいいやイカ焼きうまー。もちろん三つに分けて、カレンと魔王ちゃんにもお裾分けだ。


 さてボクたちも鬼族たちもみんなが幸せになったところで、取り調べの再開だ。


「色々と勝手にやっちゃだめだよ、決まりなんだから。何でこんな所でお店なんか出してるの?」

「だって……こっちも切羽詰ってるんだよ」


 重要参考人が話し始める。鬼っ娘の名前は摩鬼(まき)、メガネをかけたお爺さんは呑鬼(のんき)というらしい。


「わしらの里は知ってるだろ」

「知りません」


「鬼が島じゃな、ここからかなり離れとるが」


 代わりに魔王ちゃんが答えてくれたが、うわーこれまたべたな名前が出てきたぞ。


「最近、鬼が島でリヴァイアサンが暴れてての。襲われるわ漁の妨害されるわで、海で魚も取れんし売れんし、里がすっかり金欠状態になってしまってのう。わかるかゴールドの無い辛さが」


 ボクと魔王ちゃんは鬼のお爺さんの話を真剣に聞いている。わかりすぎるくらいわかるのだ、ボクたちは同志を発見したのである。


「うむ、ゴールドが無かったら人間の町で饅頭も買えんしな」

「リヴァイアさんですか、悪い人なんですねその人」


 全員が何故かボクの顔を見つめている。やめて下さいボクが美少女なのはわかりますが、女の子が見つめるのはアウトです、お爺さんだけにして下さい。


「みのりん、お前まさかリヴァイアサンを田中さんとか山田さんとかと同じように思っとるんじゃないだろうな」


 失礼な! リヴァイアさんが日本人じゃ無い事くらい知ってますよ!

 き、近所に住んでた外国人がそんな名前だったような。あれはリーヴァさんだった、まあ似たようなもんでしょ。田舎で畑をやりながら英語を教えていたよ。


「リヴァイアサンは魔族でも手を焼いておるからなあ」


 魔族は英語苦手でしたか、ボクもちょっと苦手意識ありますからわかります。


「魔、魔族!?」

「嫌な連中の話しないでよ、爺ちゃんの腰が砕けるでしょ」


 鬼っ娘摩鬼がぷんぷん怒り出したぞ、魔族と鬼族って仲が悪いんだろうか。そういえば魔王ちゃんも鬼族の連中は鬱陶しいと言ってたっけ。


「昔魔族の娘が鬼が島に殴りこみに来たのよ。人間の世界でも金太郎の話知ってるでしょ?」


 実話だったんですか、この世界の金太郎が悪者を退治したって。鬼が島に殴り込みに行くのなら桃太郎にして欲しいところですけど。


「違うぞ、間違っておる。魔族の娘が鬼が島にカチコミになんか行った記録なんて無い、風評被害じゃ迷惑もいいところじゃ」


 何かの行き違いですかね。


「おかしいのう、しっかりこの目で見たんだがのう、確かに魔王の小娘が殴り込みに来たんだが」


 ボクは魔王ちゃんをそっと海の家の外に連れ出す。

 なんだか重要な証言を聞いた気がするんですけど、何か心当たりはありますか?


「そう言えば昔、わらわがちょっと文句を言いに〝たのもう〟した事があったな」


 あなたなんじゃないですか! うわーここに本物の魔王太郎がいましたよ。


「嘘は言っとらんぞ? わらわは魔族ではないので、魔族の娘がカチコミに行ったというのは間違いじゃろ、まったく、酷い言いがかりで迷惑じゃ」


 あなた魔王でしょうが! 魔王がカチコミとかもっとやばいです。

 魔族じゃないけど、魔族んとこの娘さんという意味では間違って無いですしね。


 ボクが魔王ちゃんを連れて海の家に戻ると、鬼族のお爺さんがとうとう相手に気が付いたようだ。


「ま、まさかお前、あの時の金太郎!」


 うわーバレた! 魔王ちゃん、ごめんなさいしときましょう。


「ほ、ホントだ! こいつ金太郎だ!」


 鬼族の二人に指を差されたのは。


 ボクだよ。


 まーなんとなくそうなるんじゃないかなーって思ってたんだけど、やっぱりボクだよ。

 でも一応つっこんでおきましょうか。


「酷い言いがかりで迷惑です!!!」


 次回 「気が付いたらカチコミしてた」


 みのりん、鬼が島を襲撃する

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