その19 パーティ解散、ここからリゾートだ!
「皆様本当にありがとうございました。冒険者の皆様方がいらっしゃらなかったら、今回の旅で私どもの商隊は壊滅していたでしょう。次回も是非『無風のミルフィーユ』と『特Aお肉強盗最強軍団』の皆様を指名したいと思います」
「お、おう」
「どういたしまして!」
元気なカレンに対して、ミルフィーユのメンバーは気まずい感じだ。チーム名もなんだかそんな感じのに間違えられちゃってるし。
ボクたちのもちょっと色付いてるし、チーム名を交換した方がしっくりきそう。
「ささ、青い髪の姫、まいりましょう」
どさくさに紛れてボクを連れ去ろうとしないで下さい。事案発生ですよ。
商人さんが商隊を連れて去った後、モン君がボクたちに挨拶してきた。
「本当ならこの後一緒に飯でもどうだい、と言いたい所だが、俺たちこれから修行の旅に出る事にした」
「へーそうなんだね、がんばってね!」
「俺たち姐さん方を見習って、一刻も早く強い冒険者チームにならないと不味いと感じたんだ。まさか六人中五人がハイレベルの冒険者だとは思わなかった」
「普通めちゃくちゃ強いのは一人か二人だもんな、それが一人以外ほぼ全員なんてさ」
「いやーまいったまいった」
そう口々に言いながら『ミルフィーユ』メンバーたちは、ポンポンとタンポポの肩を叩いて去って行った、『がんばれよ』と言い残して。
「な!!」
心外! という顔で固まったタンポポ。
「まるで私一人だけ論外みたいな扱いじゃないかな。むかつくんだもん、そのうちあいつらの家を突き止めて、毎晩顔にうんこの絵を描いてやるんだもん」
新しい目標ができましたね。そうだ、これでカレンから対象をモン君たちに変えたらどうですか。そうだ、そうしましょう。
カレンよりもおでこが広いから、きっとラキガキのし甲斐もありますよ。
端から見たらタンポポだけが活躍してないように見えましたからね。でも大丈夫ですよタンポポ、あなたの活躍は全てみのりんテイマーの糧として光り輝いていましたから。本当にご馳走様でした。
モン君たちを見送った後、マーシャがミーシアの腕を取る。
「それじゃ私たちも行こうかお姉さま。フランドルン家は確かあちらですよね」
「え? 私も行くの? 私はこれからカレンたちと、海でリゾートするつもりなんだけど」
「えー、お姉さまは行かないの?」
ちょっと不服そうなマーシャ。年下の女の子のこういうシーンはちょっと微笑ましいな。ミーシアも困った顔で妹の拗ねる顔を眺めている。
「えーとみんな、それじゃ私もマーシャと一緒にフランドルン家に行って来るわね。妹がお世話になっているのに、姉が領内に来ていて挨拶しないのも何だから。マーシャの事だから、絶対私が来ている事をペロっと喋っちゃうでしょうし」
さすがミーシア、自分の妹のドジっ娘属性の事をよくわかっているのだ。
「えー信用ないのね私。私はそう簡単にポロリしない女の子なのに」
何をポロリする気ですかあなた。
アルクルミも挨拶してきた。乗合馬車の乗客たちも解散して、各々の目的の為に散っていく。
「それじゃ私たちも海の家の手伝いに行くわね、その前にジャガイモを仕入れないとだけどね」
「時間があったらアルの海の家にも遊びに行くよ!」
キスチスがどこか遠い目で立っていた。
わかりますよその気持ち、最初にちょっと喋っただけで、後はずっとサクサクに小脇に抱えられていただけですもんねあなた。
映画のエンドロールで名前を見て、あれ? どこに映ってたんだろうって探すレベルですもんね。
「うう……」
「ほらシャキッとして! キスが大活躍するのはこれからなんだから」
「そ、そうだな、私だって活躍の場があるよな!」
「そうそう! ジャガイモ百個が待ってるよ!」
「そっちかよ!」
皆が散った後、残ったのはボクとカレンとタンポポと魔王ちゃんである、それとシロ。
なんだかさっきから魔王ちゃんが大人しいなと思っていたら、口にクッキーが挟まったままだった。
今朝、また〝もがもがちゃん〟になったので、余計な事を言わないように、クッキーの楔を打ち込んでおいたのだ。クッキーを外すと再起動である。
「あれ、もう町に着いたのか、あっとういう間じゃったな」
そういえばサクサクは? と見ると、焼き鳥屋さんの屋台で早速見ず知らずのオジサンと肩を組んで飲んでいる。屋台で飲むのならリゾート地に来る必要あったのだろうか……
「さあ、まずは宿を見つけるよ!」
テンションの高いカレンに引っ張られてボクたちは町の中に繰り出して行く。
宿屋を探して一応チームメンバーの六人部屋を取った、後でもしもサクサクとミーシアが合流してもいいようにである。もちろん使い魔シロがいるので、ペット同伴可の宿だ。
荷物を置いてゆっくりしたかったけど、カレンと魔王ちゃんがソワソワソワソワ座ってるお尻がベッドに付いていない。
二人とも、早く海に行きたくて仕方無いんですね。
「海? 何の事じゃ? 魔王ともあろうものがはしゃぐわけがなかろう、早くザブーンしたいわけじゃなくて、わらわは空気椅子の特訓をしとるだけじゃが、勘違いするなよ?」
何の特訓ですか!
「私は海に行きたい!」
ほら素直なカレンを見習ってください。ザブーンしたいんですよね?
ボクの追求にこくんと頷く魔王ちゃん。
「タンポポもソワソワしてるけど、どうしたんですかおトイレですか。我慢はよくないですよ、早く行って来て下さい」
おトイレに行きたいオバケというのも意味がまったくわからないんですけど、タンポポなら仕方無いですね。
「何で私だけそうなるのかな、私も一刻も早く海に行きたいに決まっているじゃないかな」
「あなたがはしゃぐなんてなんだか珍しいですね、もしかしてタンポポ……田舎者すぎて今まで海を見た事が無いとか……」
「か、海水浴くらい行った事あるんだもん! 夏休みの村の一大イベントだよ! 波に攫われたオジイがサメ獲って帰って来たとか、楽しい思い出目白押しだよ!」
サメも迷惑な目に遭ったものだ。
「そうじゃなくて、早く海に行ってワカメを――」
「もういいです、みなまで言う必要ありません」
ワカメ食べ放題――
悲しくなって来ちゃったじゃないですか、宿屋で調味料を貰えないか聞いてみます。
ああーなんてこったー! 何でこの世界には酢醤油がないんだあああ、ボクの血の叫びである。
『ぐう』
『ぐう』
「でも色々持って来たよ、スープの元にゴマ油、塩は海で取り放題だから、これでなんとか富豪の生活を維持できるんじゃないかな」
「やる気まんまんですね、でも鍋はどうするんですか」
「やる気無かったらカレンと一緒にこんな所まで来ないんだもん。鍋はね、これ。逃げてった盗賊が落として行った、徹底的に洗って干して消毒してあるかな」
そう言ってタンポポは鉄の兜を取り出して笑った。
うう、なんてキラキラ生命力に溢れた笑顔だろうか。オバケのくせに。
リゾート旅行は夢のような天国になりそうな予感である。
「海に行く前に水着に着替えなくちゃだね!」
カレンの言葉で天国から地獄に変わった。
人生の転落は早いのだ。
次回 「海で遊ぶ水着回!」
みのりん、海回を満喫する