その17 ゆけ! 我がしもべ!
キルギルスが地面に大きな穴を開けた。
魔族の電撃攻撃に全員顔面蒼白である、執事さん以外。
パタパタ飛び回るキルギルス。
「もう帰りたい……」
「おうち帰りたい……」
「ママ……無事にこの窮地を脱したら足を洗って帰るから」
盗賊たちの呟きである。自分たちの頭上を、ちょっとした電撃でクレーターを作る恐怖の生物が飛び回っているのだ。
いつ気まぐれで『ビシャーン』とされて、黒焦げになるかわかったものじゃない。
ボクもカミナリ様を食らわないように、おへそを隠して目立たないように大人しくしていよう。
どうかキルギルスに見つかりませんように!
「あ、みのりん発見なのだ! 私の友達! 私も一緒に遊ぶのだー」
決意してるそばから見つかった!
『魔族の友達!!!?』
「歳も近いだろうし、遊び友達なのかな」
「魔族の子の方がお姉さんかな」
いよいよ戦争勃発ですか。
「みのりん遊ぼう! 電撃キャッチボールとかどうかな?」
「黒焦げキャッチボールは許してください! これあげますから」
「くれるのか? うきゃああああああああ!」
さっき貰ったお饅頭を貢物に差し出すと、それは一瞬でキルギルスの口の中に消えた。
なんとお饅頭が消えるマジックショーだ。
命と引き換えに、崖の上から飛び降りるような気持ちで仕方なく差し出したお饅頭だけど、面白いものが見れた。
試しにクッキーも出してみるとそれも瞬時に消えた。面白い、じゃ、きな粉棒だとどうかな、それも消えた。今度はお煎餅を。
「みのりん様餌付けはそのくらいで、晩ご飯が食べられなくなると困りますので。さあ帰りますよキルギルス、遊ぶ前にまだ宿題が残っているでしょう」
執事さんはキルギルスを小脇にかかえる。
抵抗して暴れるかと思われたが、口にきな粉棒や煎餅、ぺろぺろキャンディーに大福餅が挟まったキルギルスは大人しい。
「それでは皆様ごきげんよう」
そう言って三度ポッカリと地面に開いた穴から、魔族コンビは消えていったのである。
残るは沈黙だ。
全員の視線がボクに突き刺さっている。なるほど、ボクが美少女すぎるのがいけなかったのか。残念なのはボク自身がその美少女を鏡等で拝めないという事だけど。
「も、もしかしてあなた様は、魔族ん家の姫とかですかな?」
「いえ、全く無関係のただの冒険者です」
どいつもこいつも、なんだってボクを姫呼ばわりするんですか、ボクはどこかの姫ですか。
因みに魔族さんとこの姫はいませんが、王ならそこの馬車内でフリーズ中ですけどね。
「な、なんだ違うのかよびっくりさせやがって」
「何だか知らんが、魔族のヤツら帰りやがったか」
「何しに来たんだあいつら」
「もう帰ろう」
「いや、あの青い髪のお嬢ちゃんが普通の子ならまだいけるはずだ」
盗賊たちはおろおろ会議を始めたようだが復活した。
「あはは、お、驚かせやがって、こんなので俺たちがビビると思うなよ。さあお宝出しやがれってんだ!」
しぶといですね、さっきまで顔面蒼白だったくせに。お家帰るって言ってましたよね、聞きましたよこの美少女イヤーで。
ボクが一歩動いた、盗賊たちは一歩下がる。
「さっきから七歳児だのペタン娘だの、胸が平原だの、美少女なのに残念だの言いたい事を言ってくれましたね」
「俺たちそこまで言ってねーぞ」
「濡れ衣だ」
「ふふふ、とうとうボクを怒らせてしまいましたね。久しぶりにぷんですよ、ちょっと屋上に顔を貸してもらいましょうか」
「な、何する気だお嬢ちゃん。ただの冒険者とか言っておいて、やっぱりとんでもないラスボスだったりしないだろうな」
実はちょっと言ってみたかっただけで、なんのラスボスプランもありません。さてどうしようか……困ったな。
もうちょっとなのだ、盗賊団はボクにビビっている。彼らの気力は殆ど折れかけているので、あと一押し何かがあればいいのだ。
木の棒を持って突撃しても、鼻の穴に突っ込むくらいしかできないし……
そんな事を思いながら木の棒を取り出すと、盗賊たちがビクンとなった。
「ま、魔法のステッキか!」
「そうですよ! とうとうボクのこの必殺アイテムが火を吹く時が来たのですよ! さあ! 恐怖に打ち震えるがいいです!」
ボクは手に持った木の棒を華麗に振り回す。参考は昔見たアニメの魔女っ娘の変身シーンだ、魔女っ娘みのりんの参上なのだ。
ただし裸はNGで。ボクが死にますから。
そうだ! この謎の木の棒がそろそろその力を発揮してもいいはずなのだ! 奇跡を起こしてもいいはずなのだ!
半分ヤケクソである。
そしてその時奇跡が起きたのである。
アルクルミに仕留められてカクンとなっていたトロールの一体が再起動したのだ。
むっくりと起き上がってこちらに向かってくるトロール。さっきキルギルスにあげたお饅頭が、実はトロールの口に挟まっててゾンビが発生したのだろうか。
こっちもゾンビで対抗したいけど、お饅頭の弾薬切れを起こしている。
それともボクの木の棒が本当にやらかした?
「うわっこのお嬢ちゃん、トロールを復活させやがったぞ!」
「トロールゾンビかよ!」
「そういやこいつ魔獣を操るテイマーだった!」
「何なんだよ次から次へと、俺たち呪われてるんじゃないだろうな!」
ふふふ、ボクに戦争を仕掛けたのが運の尽きなのですよ。
ボクの方に向かってくるトロール、でもボクは動じない。
恐らくこれは、ボクのモンスターを魅了するスキルで近づいているわけではなさそうなのだ。
何故なら向かってくるトロールの真横には使い魔シロが随伴し、トロール本人は両手を合わせて人差し指に力を込めている状態だ。
タンポポ!
彼女の姿が無い。そう、タンポポがトロールの中に入って操縦しているのに違いないのだ。
ただ、そのポーズで彼女だと認識するのはちょっと遠慮したかった。敬礼とか親指を立てるとか他に無かったんですか、盗賊団のお尻は散らせないで下さいね。
「大丈夫ですミーシア。とりあえずクレーターに落ちたドジっ妹を助けてあげて下さい」
色んな事が起こりすぎて脳がフリーズしているであろうミーシアに声を掛けると、ボクはトロールタンポポの肩に乗せられた。
ミーシアはクレーターの方に歩いて行った。あ、ころころ転がって落ちた、さすが姉妹と言わざるを得ない。
「七歳児だと思ってごめんなさい!」
「ホントは十歳くらいのお姉ちゃんなんですよね!」
さて戦争を始めますか!
「はははは! この漆黒のテイマーみのりんを怒らせた者どもよ、我が召還せしボクの使い魔によって滅せられるがよい!」
「やべえ、このお嬢ちゃんやべえ、真っ白な出で立ちなのに漆黒とか言ってるあたりもやべえ」
「大きなお世話ですよ!」
ボクはトロールの肩から指示を出す。腕を真っ直ぐに伸ばした、これめちゃくちゃカッコいい!
「ゆけ! ロボ! 発進!」
タンポポ28号が盗賊たちに襲い掛かった。
カレン、アルクルミ、魔族、電撃クレーターときてトロールロボだ、今までの一連の出来事に心を半分折られていた盗賊たちはひとたまりも無かったのだろう。
泣き叫びながらほうほうの体で散り散りに逃亡していったのである。そのうちの一人なんか、漫画みたいに使い魔シロにお尻を噛まれていた。
「落とされるー!」
ボクも激しく動き回るタンポポトロールの頭にしがみ付いて、泣き叫んでいたのは言うまでもない。
トロールから降りた時には目がぐるぐるで、仲間たちの『やっぱすげーよ姐さんは!』という声を遠くに聞いていた。
「んー? 何かあったのー? そろそろお昼ご飯かな?」
爆酔していた酔っ払いが乗り合い馬車から降りてきた。小脇には何もかも観念した感じのキスチスを抱えている。
あーアルクルミが逃げ後れた原因はこの人を起こしてたからか、すっかり忘れてたよこの酔っ払いの事。
この姐さん、今回仕事してないんですけど。
次回 「お肉は特A」
みのりん、まるで冒険者のように護衛任務をついに成し遂げる