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その14 馬車の旅のお約束!


 ドラゴン以降のお客さんはその日現れなかった。


 そりゃ考えてみればドラゴン氏みたいな大物の後で、自信満々に訪問できるモンスターもいなかったのだろう。


 サイクロプスにゾンビにスライムに赤い牛にドラゴン。毎回毎回そんな連中にピンポンピンポンされたらたまったものではないのだ。

 ま、まあゾンビに関してはなるべく触れないようにしておきたいけど。


 野営した馬車隊の夕食はやはりサイコロステーキだ。サイクロプス三体分のお肉はそう簡単には無くならない、夢のステーキ三昧なのである。

 モーモーステーキと比べると、硬くて味も落ちるけど夢心地なのは変わらない。


「馬車の護衛ってこんなに美味しくて食事が充実してるんですね」

「い、いやお嬢ちゃん、普段はこんなステーキ食えないぞ。この旅は特別だ」


 ボクの呟きに反応してきたのはミルフィーユの冒険者たちだ。


「そうそう、本来はカチカチのパンだの野草スープに芋の粉を溶かしたやつとかでな」

「味もしねーし不味いんだよなあ、肉があったとしても干し肉でこれまた硬い」


 なんだと――!


 カチカチのパンだの野草スープに芋の粉に干し肉だと――!

 なにそれ夢のような食事じゃないですか!


「まったく、贅沢を覚えた連中はこれだから困るんだもん。欠食児童を舐めないでもらえるかな」


 隣で文句を言っているのはタンポポだ、牛を送り届けて無事馬車隊に帰還したのである。

 でもあなたは欠食オジサンですけどね。


「お、俺のパン食うか? 肉もやるよ」

「俺もオヤツに取っておいたお菓子やるよ」

「芋の粉もやる」


 ハンカチで涙を拭きながら食べ物をよこしてくるのやめて貰えませんかね。大の大人が泣きながら少女に食料を差し出してる図は、傍から見るとどう映っているのか気になります。


 でもまあ貰うか貰わないかで言うと、ボクは貰う少女ですけどね。

 そして満面の笑みですけどね。



 夜が明けて馬車隊の旅は二日目に入る。

 その日は午前中は何事も無く、そろそろお昼の休憩と馬車が停止した時だ。


『わんわんわん!』


 警戒システムがアラームを鳴らしたのだ。

 使い魔シロによると、ボクたちはそれなりの戦力に囲まれたようだ。


「な、なんだ!」

「け、警戒!」


 シロよりも遅れて合図と共に馬車隊の周囲に展開する『そよかぜミルフィーユ』のメンバーたち。

 とうとう野良犬にも負けてしまいましたかこの人たち、シロの事も姐さんと呼び始めたらどうしよう。オスですけど。


 ボクたち『お肉強盗団』も馬車から降りる。


 周囲から取り囲むように現れたのは、謎のモンスター集団。

 ぞろぞろ現れたのは二十体くらいいるだろうか、ヒゲもじゃの連中である。


「これドワーフとかコボルドとか?」

「俺たちは人間の強盗だ!」


「おいおい、まさか魔獣を操るテイマーがいるとは思わなかったな、奇襲をかける作戦が台無しだぜ」


 警戒システムのアラームの事ですか。

 もしかしてこの世界では、犬は希少な珍しい生き物なんだろうか……


 そう考えたボクの横を、茶色い野良のわんこがスタスタと通り過ぎて歩き去って行った。


「くそ、今度は盗賊団かよ。次から次へと人気のある忙しい馬車隊だな!」


 モン君が文句を言ってるけど、こ、今回のはボクも魔王ちゃんも無関係ですからね、文句言われても知りませんよ。

 それにしても盗賊団に襲われるイベントがとうとう起きてしまいましたか。


 一体いつになったら海に着くんですかとつっこみの一つも入れたいところで、カレンが慌ててボクたちの方にやってくる。


「みのりん、大丈夫? どうしようコボルドの集団だね」

「平気……」


「俺たちゃ人間の強盗だっつってんだろ!」


 盗賊の親分らしい人物が一歩前に出た。


「へっへっへ、昨日街道を張り付かせていた偵察隊から一日平和に呑気に進んでくる、美少女満載の馬車隊がいると報告を受けて待ち構えてたのさ」

「報告通りお宝の山じゃないっすかお頭」


 丸一日何見てたんですかその偵察隊は、スライムだドラゴンだの肝心な部分をまるっきり見落としてるじゃないですか。


 相手は護衛を六人だと思っているっぽいけど、盗賊二十人に対してこちらは冒険者十二人+使い魔一匹。決して劣る戦力ではない、だけど相手が人間だけに色々とまずいのは確かだ。


「お前たちに勝ち目は無い。大人しく荷物と娘っ子を置いて立ち去れば、命は助けてやろう」


 娘っ子を置いてけって、うわーボクたちは見逃す気なさそうだこの人たち。女の子たちをどうする気なんだろう、も、もしかしてボクたちをお肉に?

 ついにみのりんお肉が完成してしまうのか。


「どうしようか、とりあえず盗賊のボスを私がスパーンと……うわーでも手加減間違えてお肉にしちゃったら嫌だなあ」


 だ、だめですよカレン、お肉はまだまだサイコロステーキの在庫が残ってるんですから。


「私がフレイムオーバーキルで塵に」

「私が必殺の地獄殺しでお尻を散らせるんだもん」


 ミーシアもタンポポも恐ろしい事を言うのはやめて下さい、相手は人間なんですからね。


「どうか皆様、貴族様もいらっしゃるので、どうかお金と荷物だけにして頂けませんかな。貴族の子女にお手を出されると後々面倒な事になりますよ」


 商人のオジサンが交渉してくれるようだ、ガンバレ!


「知るかよ、貴族の娘だ? そりゃ高く売れるってもんだ」


 き、貴族のお肉は高級品って事だろうか、がくがくぶるぶる。


「とにかくここにいる娘っ子は全員俺たちが頂く、ご馳走様ってな!」

『げらげらげら』


 盗賊団が馬鹿笑いしてる中をずんずん進み出た少女がいた、彼女の銀髪が風になびいて神々しい。

 そう、魔王ちゃんである。


 こういう時の魔王ちゃんはめちゃくちゃ頼もしいのだ。なんせ、ヒドラ傭兵団ですら手も足も出せなくてひれ伏した相手だ、こんな盗賊団では何もできないだろう。


「ほう、お前ら、わらわを拉致するというのか、面白い冗談を言うやつだな。やれるならやってみるがいい、そんな事したら地獄の底まで魔族たちにもがもが」


 ボクは余計な事を言い始めた魔王ちゃんの口を押さえてもがもがさせると、そのまま彼女を馬車の中に押し込める。

 とりあえず危ないので魔王ちゃんは馬車の中に仕舞っておこう。


「ねえみのりん、今もがもがちゃんは何て言ったの? まぞくが何とか」

「裸族ですミーシア、もがもがちゃんは裸族が出て地獄になると言ったのです」


「お、恐ろしい……」


 ミーシアはわかるけど、なんで盗賊団まで震えてるんですか。

 単なる裸のオジサンが何人も出てくるだけで……恐ろしい……


「おい、やめた方がいいぞ、この姐さんたちは激やばいから。昨日サイクロプス二体、スライムの群れ、火炎モーモー二十体の後で総仕上げにドラゴンまで簡単に撃退した怪物チームだぞ」


 何言ってるんですかモン君、怪物チームじゃなくてエンジェルチームに訂正してください。変な風評被害が出たらどうしてくれるつもりですか。


「ははは、そんな大嘘に騙されるわけねーだろ! どう見ても普通の少女しかいないじゃねーか。モンスターを簡単に撃退できるならここで見せてみろっての。おら、お前らも笑ってやれ」

『がはははははは』


 くっそ、大口開けて笑って、ちょっと腹立ってきましたね。

 普通の少女? ミーシアやカレンを見て普通の少女? どう見ても美少女でしょうが!


「ま、残念だが、倒せるモンスターがいないがな! がははは!」


『うわああああああ!』

『でたああああああ!』


「な、なんだおい、何事だ!」


 騒ぎが起きたのは馬車隊の後ろ、最後尾の乗り合い馬車の後方の地面が急に盛り上がったかと思ったら、それが巨人に変化したのだ。

 ほら言わんこっちゃない、フラグなんか立てるからモンスターが出ちゃったじゃないですか。フラグは舐めちゃだめなんですからね。


 現れたモンスターは巨大な腕にこん棒を握り締めた巨人、こいつ見た事あるぞ。


 そいつは最悪のモンスター――


 トロールだ!


 次回 「激闘、トロール戦」


 肉屋の娘、セクハラトロールに捕まる

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