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その12 モンスターの突撃キター


 スライム騒動から回復した馬車隊が進んでいく。

 ボクたちは再び馬車の中だ。


「ふうー、いきなり三連発でモンスターに襲われてびっくりしたわね。サイクロプスにゾンビにスライムだもの、スリル満点な旅よね」

「私はお姉さまが燃えてる事にびっくりしたわ」


 ボクはあなたのスカートが燃えた事にびっくりしましたが。

 ミーシアにそっと聞いてみる。


「マーシャはミーシアの魔法の事知らないんですか?」

「家の近所ではぶっ放した事無かったのよね」


 賢明な判断です。


「またモンスターに襲われるなんて事ないわよね? 私そう何発も撃てないわよ、身体も替えの服ももたないし。カレンもサクサクもあの状態だから少し心配よね」


「大丈夫ですよ、いくらボクがモンスターを惹きつけるといっても限度があります。それこそもっと惹きつける、強力な要因が加算でもされない限り――」


 ボクはそう言いかけて動きを止める。そしてゆっくりとある人物を見つめた。


「ん? どうしたんじゃみのりん。それにしてもさっきの饅頭はやばかったな、食べてからちょっと記憶が欠落しとるわ」


 ボク+魔王ちゃん。

 うん、気のせい気のせい。今日はもうモンスターには会いません。


『うわーモンスターの群れだああああ』

『きゃあああああ』

『わんわんわん!』



 ジト目になったボクは馬車隊の先頭へ歩いていく、使い魔シロも付いてきた。ついでにクロも。

 馬車隊の前方に立ち塞がったのは牛の群れだ。


「なんだモーモーじゃないですか、赤い牛なんて初めて見ましたけど」

「おい、下がってろお嬢ちゃん、あいつは火炎モーモーだよ、火を吹く危険な牛だ」


「喧嘩する時は互いに火を吹きあって、ステーキになった方が負けという過酷な戦いをする連中だ」


 なんて美味しそう、いや恐ろしげな喧嘩だろう。是非ここで喧嘩を始めて欲しいものだ。


「火炎モーモーなら同じ火炎同士、『火炎のミルフィーユ』さんたちと話し合いになりませんか?」

「できるか!」


「二十体はいるな、ベテラン冒険者でも手を焼く連中だぞ、襲われて炎で焼かれたヤツいるし」

「手を焼く相手に手を焼かれる、なんちゃって、はっくしょん!」


 寒いおっさんギャグを言った冒険者はその寒さと、青い髪の少女の冷たい目線で風邪をひいたらしかった。

 まだ遠くにいた牛たちがゆっくりと近づいてくる。


「なんとか向こうへ行ってくれるといいんだが……」

「二、三体なら俺たちだけで何とかできるが、二十体なんて無理ゲーもいいところだ」

「突撃されたらもう詰みだな」


「ここはやはり姐さん方の手をお借りして」


「残念ですがカレン姐さんもサクサク姐さんもミーシア姐さんも戦線離脱です。なので、ここはいよいよ残ったボクたちの出番ですね」


 赤い牛を見つめるのは、ボクとタンポポと使い魔シロだ。

 冒険者ギルドの食堂のシゲさんから餌、いやご飯を貰う仲間たちだ。


「何言ってんだよ、あの三人が無理じゃもうどうしようもないぞ、お嬢ちゃんたちは早く馬車へ」


 牛の群れはそのまま立ち去るような、立ち去らないような素振りである。

 立ち去ってくれるまで、刺激せずにこちらに気を引かないようにするのが先決だ。


「よしお前ら、石だ、全員石のふりしろ。俺たちは人畜無害の石なんだ」

「俺たちは石、俺たちは石、硬い石」


 冒険者たちはそれぞれ不思議なポーズで固まっている。

 あなたたちの石のイメージについて、いろいろと問い質したいんですけど。


「俺たちは固い石、石だけに意思も固い、はっくしょん!」


 寒いおっさんギャグとボクの冷たい目線で、また一人風邪をひいた。


 そしてとんでもない事に、そのクシャミで一斉に牛たちがこちらを向いたのだ。

 何体か鼻が垂れている、可愛そうに牛たちも寒いギャグで風邪の被害に遭ったようだ。ホントごめんなさい、ハンカチいりますか?


「ば、馬鹿やろう!」

「すまねえ!」


 赤い牛たちが一斉にこちらに突撃してキター!

 何度見てもモーモー部隊の突撃は圧巻だ、このままだと馬車隊は木っ端微塵に蹂躙されてしまうのだ。


「来たぞ! 戦闘準備!」

「おう!」


 戦うみたいだけど、この人たちでは太刀打ちなんかできないだろう。

 ここはいよいよボクたちがなんとかする番だ!


「クロ、じゃなかった、タンポポいけますか?」

「牛は任せるんだもん、あの先頭の大きいやつがボスかな」


 冒険者たちと赤い牛との激闘が始まったと同時に、その混乱に紛れてタンポポが牛のボスの中に入る。

 速攻でキョトンとしたボス牛、掌握完了である。


 タンポポ牛はボクの横に立ち『モモオオオオオ』と咆えた。

 突然戦闘をやめた牛たちに戸惑う冒険者たち。


 モンスターたちは、ボクとシロとタンポポ牛の周りに『モー』『モー』と集まりだした。


『モー!』


 タンポポ牛の号令で、サッと二列縦隊で整列するモンスター小隊。

 更なる号令『モー!』の後、『モ!』、『モ!』、『モ!』、『モ!』、『モ!』、『モ!』……


 これ点呼ですか?


 そして唖然とする冒険者たちを尻目に、モンスター部隊はそのままタンポポ牛に率いられて去って行った。

 彼らを敬礼で見送るのはボクだ、タンポポの帰還は三十分後の予定である。


「マジかよ……」


 冒険者たちは去って行く一団を見送り、そしてボクとシロを見る。


「すげーな、白い使い魔だけじゃなくて、赤い使い魔も操れるのか! 赤白青じゃねーか!」


 いや、青はボクの髪の色だから関係無いでしょう。


「ガチで驚いた、あんな大量に一度に操れるなんて、二十体だぞ」

「こんなすげーテイマー見た事無え。テイマーってせいぜいモンスター一体にお手を覚えさせるのが関の山だもんな」


 なるほど、それじゃ使い物になりませんね。何の為にその芸を仕込むんですか、テイマー職の意味がわかりません。


「すごいなお嬢ちゃん、いや姐さん!」

「すんませんした姐さん!」

「お勤めご苦労さんです、姐さん!」


 ボクも姐さんになった。

 姐さん! 姐さん! と言われながらみんなの所に戻る。〝ボク〟ではなく〝わて〟と言いたくなってくるのはどういうカラクリだろう。


「みのりんにはあんなむさい弟たちがおったのか、ちっとも知らなんだぞ」


 ボクも初耳ですけどね、どーせならもっと可愛いショタっ子が良かったです。寒いおっさんギャグを言う弟を持った、姉の絶望感がわかりますか。


 ミルフィーユメンバーが集まってボクたちをチロチロと見ている。

 美少女の集まりですもんね、仕方ありません。


「な、なあ、マジでやばくないかあいつら。もしかして超有名パーティなんじゃねーのか」

「でもお肉強盗団なんて聞いた事ねえぞ」


「俺たちの町だと確実にエースクラスだな」

「おいおい、まさか全員がエースなわけないだろうし、今までのも頑張れば中堅クラスでも何とか撃退できるモンスターだ」


「数が少なくて、時間をかければな……」

「……」


 なんだか空気が重くどんよりしてきたんですけど、ここは甘いお饅頭でも食べて脳を一新した方がいいんじゃないですか。


「俺たちってもしかして……ショボい……?」

「あーきこえないきこえない」


「と、とんでもないモンスターを撃退したわけじゃないんだから、俺たちと似たようなもんだろ」

「そうだな、そういう事にしとこうか」


「よかったよかった」

「わはははははは」


 さっきからまる聞こえなんですけど、あなたたちの緊急会議。

 でもまあ、心の平穏を取り戻したみたいでなによりです。


『火炎のミルフィーユ』の人たちがほっと安心した所で、ボクたちはとんでもないモンスターの襲撃を受けるのである。


「それにしても、これでサイクロプス、ゾンビ、スライム、モーモーと四連発でモンスターに遭遇よね。まあ、さすがにこれで打ち止めでしょうけどね」


 それはミーシアがそんなお約束のフラグを立てた直後だった。フラグとは実に恐ろしいものなのだ。


『うわあああああああああああ』

『でたあああああああああああ』

『クーンクーン』


 今回使い魔からの報告は無かった、速攻で馬車の下に潜り込んだのだ。

 使い魔シロは馬車の下に潜って裏返っている、降参の意思表示だ。


 無理も無い。

 それは、野良犬と人間では殆ど勝つ事のできないであろう相手。


 それは、真っ赤な鱗で武装した相手。


 飛来してきたそれは。


 ドラゴン。


『火炎ドラゴンだああああああ』


 それはもう、完全に無理ゲーの相手だった……


 次回 「そして登場した最強のモンスター」


 ミーシアとマーシャ、諦めて合掌する

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