その8 他の冒険者チームと顔合わせ
「そろそろ行きましょうか」
ギルド食堂の裏口から出て正面にまわると、カレンとミーシアが待っていた。
カレンにそっと魔王ちゃん参加の件と、なるべく彼女の事は伏せるように説明して了承してもらう。
さてミーシアである。
彼女も魔王ちゃん騒動後に行方不明になった子なので、当然魔王ちゃんとは初めてなのだ。魔王ちゃんは魔王ちゃんなのだが、ここは大事を取って魔王ちゃんが魔王ちゃんである事を黙っていたほうが賢明だろう。
うっかり喋りたくならないように、頭の中で嫌になるくらい〝魔王ちゃん〟を繰り返しておいた。
「この子はミーシア……パーティ仲間です」
「うむ、よろしくなミシミシ、わらわはまお、もがもが」
慌てて魔王ちゃんの口を押さえてもがもがさせる。女の子の口に触れるなんて恐ろしい事態だが、ミーシアに魔王だと明かす方が恐ろしい事態になりかねないので仕方無いのだ。必死である。
うろたえた彼女なら、いきなり何もかも吹き飛ばす魔法を唱えかねないのだから。というか断言できる、絶対呪文を唱えるだろう。
ミーシアの最大奥義〝フレイムオーバーキル〟では銀竜は倒せないって言ってたけど、魔王ちゃんはどうなんだろうか。うーむ、倒せない気がする。
そして町が吹き飛ぶのだ、住民からしたら魔王以上に迷惑この上ない話だろう。
「もがもがちゃん? よろしくねもがもがちゃん。私はミーシア、もしかしてミシミシって私の事かな」
「ふう、危ない所じゃったなみのりん」
あなたがそれを言いますか! さっき正体は伏せようって言ったばかりなのに、ホントにうっかりお漏らししますねあなたは。
「おい、なんだか人聞きの悪い事を思っとるなお前」
危機一髪を回避して一息ついていると、目の前にドヤ顔で立つケダモノがいた。
『わん』
『自分も連れてけ、リゾートリゾートわっふるわっふる』ですか。何でシロの言葉がわかるのか、『わん』しか言ってないのに。
「いいんじゃないみのりん、シロも連れて行ってあげようよ。受付のお姉さんもプラス一人や二人は範疇内って言ってたし」
これ一人や二人の範疇に入れていいんですかね、犬ですけど。
まあカレンが良しとするのなら、ボクに異存なんかないですけどね。
「もうそろそろ七時半だね、それじゃ集合場所の中央広場に行こうか、出発三十分前には顔見せしとかないとね」
「おー」
中央広場に着くと、馬車隊が並んでいた。五台の商隊と乗合馬車一台の合計六台からなる馬車隊である。
先に広場に来ていたサクサクと合流して、雇い主の商人に挨拶だ。いよいよ冒険者パーティみたいになってきたぞ。
パーティメンバーは、レベルマイナス一を誇るボク、一撃必殺のカレン、何もかも吹き飛ばす魔法使いミーシア、大人買いができるチート剣士サクサク、オバケのタンポポ、そして魔王の合計六名、ついでにワンコ一匹。
なかなかにとんでもないパーティが出来上がっているのではないだろうか。最後に加算された魔王ちゃんなんて、もはや反則の域じゃなかろうか。
例えば予算百ゴールドに、追加で一億ゴールド加算されたような感じだ。
「あなた方が今回の護衛任務に付いて頂ける女性パーティですか、お話はギルドから伺っております、今回の旅ではよろしくお願いしますね」
「こちらこそよろしく!」
恰幅の良い商人がボクたちに挨拶してきた、人の良さそうなオジサンである。
「おお、あなたはいつぞやの我が愛しき青い髪の姫でないですかな」
う、このオジサン、魔王ちゃん騒動の時にボクに声を掛けてきた商人の人だ。
「やはりあなたとは運命の糸を感じますな、どうですか、うちの姫になりませんか」
言っている意味がわからない。ステーキとか出さないで下さいね、ステーキ出されたらいくらボクでも抗えませんから。
まあ、ステーキ以外ならなんて事はないけどね。
「飴ちゃん食べるかな?」
スーっと商人に引き寄せられるボクを、カレンが何とか引き止めてくれた。
代わりに魔王ちゃんが引き寄せられていく、カレンが寸でのところでそれを引き止める。
危ないところだった、町の中央広場で〝あめちゃんゾンゾン〟によるゾンビ騒動なんて引き起こすわけにはいかないのだ。
商人への挨拶が終ると、向こうから冒険者の男の人たちが歩いてくる、向こうも六名からなるパーティチームのようだ。
「よう、今回のお仲間はあんたたちかい?」
「うひょ、なかなかの美少女揃いじゃないか、俺たち運がいいぜ」
「冒険者の町も悪くねーな」
二十代くらいの若いあんちゃんパーティだ。男の人の胸を凝視してもボクには正確な年齢が掴めない、女の人がいたら一発判明なのに。
そりゃそうだ、胸を見て男の人の年齢を当てるとか、どんな特殊技能だよと言いたい、非常識すぎる。女の人? 当てて当たり前でしょ。
にやにやボクたちを舐めるように見ているこの冒険者たち、あんまり見た事無い人たちだけど、この町の冒険者なのかな。
「俺たちは他の商隊の護衛でこの町に来たチームだ、本拠地はここじゃねえ」
強そうな冒険者の面々の中から、一番強そうな人が前に出てきた。
腕っぷしが強そうな黒髪で、装備も使いこなしているようだ。鎧で見えないけど筋肉もりもりなんだろうな。
「ボクの背骨は折らないで下さいね?」
「お、おう。俺はチーム『火炎のミルフィーユ』のリーダー、モン・ブランだ。チーム名の由来は異国語で〝千枚の刃〟だ」
『ぐう』
『ぐう』
「ん? 何だ今のは出発の合図か? いやまだ早いな」
「お菓子の名前はずるいです、お腹が鳴ったじゃないですか。お腹が空くので即刻チーム名を改名していただけませんか」
「リーダーの名前も変更した方がいいんだもん。何いきなり飯テロを食らわせてくるかなって話だよ」
タンポポと二人で早速抗議行動である。
「な、なんだこの嬢ちゃんたち、俺たちのチーム名にケチつける気か! 〝千枚の刃〟だぞ舐めんなよ!」
千枚の葉ですけどね、ちょっと悲しい間違いが発生してますよ。〝タイフーン〟を日本語でタトゥー入れようとして〝台所〟になっちゃったみたいな。
「ごめんなさい、この子たちまだ朝ご飯食べてないから、欠食児童になっちゃってるのよ。いきなり食べ物の名前を聞いて野生化したのね」
「あ、はい。え? 食べ物?」
ミーシアの言い方にちょっと引っかかるものはあるものの、朝ご飯抜きも欠食児童も事実だから何も言えない。ま、タンポポは欠食オジサンですけどね。
仲裁に入ったミーシアのお陰で、何とか向こうのチームの苛立ちも収まったようだ、美少女効果は凄いものだ。
「で、そっちのリーダーは?」
「え? リーダー?」
慌ててミーシアがボクの所に来る。
「ねえ、うちってリーダー誰だっけ?」
「そもそもそんなの居ましたかね?」
しかし相手のチームリーダーはこちらのリーダーが誰か特定したらしく、その彼女の前に立った。
「まあ普通に考えて、少女チームを率いてる大人の女性がリーダーだわな、よろしくな」
「私はリーダーじゃなくて、少女チーム員サクサク十七歳かな、キラリン」
「え? あ、ごめん」
千枚の葉っぱたちがちょっと動揺している。
『わん』
俺がリーダーやろうかって? いやシロの気持ちはありがたいですが、ここで千枚の葉っぱたちの動揺を広げるのも申し訳ない気がしますね。
「ねえ、とりあえずカレンがリーダーやった方がいいわね」
「うんわかったよミーシア、まかされた」
カレンがスタスタとモン『ぐう』ブランの前に出る。
一切物怖じしないカレンである。友達に頼まれたからやる、それが彼女だ。
「というわけで、私がこのチームのリーダー、カレンだよ! よろしくね!」
「というわけって……」
「よろしくね!」
「お、おう、よろしくな」
可愛くて元気な少女に圧され気味のモン君。
「で、チーム名は?」
カレンは元気に答えた。
「お肉強盗団だよ!」
「なんじゃそりゃあああ」
次回「ざまぁが早すぎなんです!」
みのりん、ふふんする