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その7 オバケVS魔王


「あれ、みのりんもう起きてた。しまったもう少し早く来ればよかったんだもん、それではごきげんようかな」


 そう言いながら帰ろうとしたタンポポを取り押さえてペンを没収だ。


「現行犯です」

「私まだ何もしてないかな、未遂なんだもん。情状酌量があってもいいんじゃないかな! ペンだけは許して欲しいんだもん!」


 魔王ちゃんにもオバケの確保を手伝って貰おうと彼女を見ると、その銀髪の少女は大口を開けてポカーンとしている様子。


「い、今、そいつ壁からすり抜けて来なかったか? わらわの目の三角かな」


 それを言うなら目の錯覚です。いえすり抜けてきたのは錯覚じゃないですよ、間違いなく壁と法をすり抜けていますからこの人。


「法はすり抜けてないかな、壁だけだもん。私はモラル正しい少女だと私界隈では有名なんだもん」

「みのりんラクガキ禁止法に抵触しているんですよ。ボクが法案を通して、ボクが可決しました」


「迷惑な法案をぽんぽん通さないで貰えるかな、それで苦しむのは庶民のオバケなんだからね」

「オバケ一個体だけのね、ラクガキしなきゃいいだけじゃないですか」


 口を開けたままの魔王ちゃんがカタカタと可愛く震えだした。

 なんだ、魔王ちゃん目覚まし時計にはこんな可愛い装置も付いてたのか。バイブレーション機能ですね、なかなかやりますね、どこがスイッチだろう。


「オ、オバケって言ったのか? こいつ、まさか……いやいやまさか、わらわの聞き間違いじゃろうな」


「オーバーケーだーぞー」

「ひいいいいいいいいい」


 タンポポの脅かしに、魔王ちゃんが後ろに逃げようとして丸椅子に躓いて盛大にひっくり返る。

 そのまま逃走しようとするが、ギルド食堂の一番奥のコーナーなのでそれ以上は進めない。


 この人何でオバケにそんなに驚いてるんですか、モンスターには一切合切動じないのに。


「だってお前、オバケじゃぞ、オバケがとうとう出てしまったんじゃぞ! 人々の恐怖の対象じゃぞ!」


 人々の恐怖の対象はむしろあなただと思うんですけど。

 このオバケはボクの友達だから大丈夫ですよ、害はありません、ラクガキという悪事を働きますけどね。


「な、なんだみのりんの友達か、それなら良かったのじゃ。オバケを友達にするとか、なかなかに非常識な事をするなお前」


 魔王を友達にしてる方がもっと非常識な気がするけど、つっこんでいいですか。

 それでもなんとか平静を取り戻した様子の魔王ちゃんに一安心である。


「う~ら~め~し~や~」

「ひいいいいいいいいい」


 飛び上がってもう一回盛大にひっくり返る魔王ちゃん、さすがに可愛そうすぎる。あ、机に頭ぶつけた、あれ痛いんですよね。


「だから驚かせないで下さい、何でもう一発キメてきたんですか」

「お約束かなと思って」


 タンポポは一仕事終えた感じで満足気にテカテカしてますけど、迷惑なオバケですね。


「お約束は大事ですけど、やめましょう。トドメを刺すから、ほらとうとう」

「漏らしとらんわ!」


「オバケがよく『うらめしや』って言うけどさ、裏が飯屋とか凄く便利だと思うんだもん。おかずは何かな納豆かな」


 タンポポを放っておいて魔王ちゃんを立たせてあげた。

 ボクと魔王ちゃんが並んで立っているのを見て、不思議そうに首を傾げるタンポポ。


「で、なんなのかなこの銀色のみのりんみたいな子は、みのりんいつの間に分裂したのかな」

「人を単細胞生物みたいに言わないで下さい。そういえばタンポポにはまだ紹介してませんでしたね、この人はこの前冒険者の町にカチコミに来た魔王ちゃんですよ」


「うむ、わらわが魔王ちゃんじゃ」


 タンポポの姿が一瞬で消えた。

 なんだ、できないできないとか言っておいて、すり抜け以外にも人間離れした技が使えるんじゃないですか。


 と思ってたらタンポポは別に消えたわけではなかった。

 光の速さで魔王ちゃんの前にひれ伏していたのだ。あまりの速さにまるで忽然と消えたようになっただけである。


「へへー、あなた様が魔王様だなんて知らずに、とんだご無礼を働いてすみませんでしたー」

「う、うむ、気にしとらんから別にいいぞ。幸い悲しい事故は起きなかったんじゃしな」


「ほ、ほら魔王ちゃんがドン引きしてるじゃないですか、床をすり抜けて体が半分埋まってますから。浮上した潜水艦ですか」

「何言ってるのかな、みのりんも早くひれ伏すんだもん。私たちなんて小指でプチってされるよ? フってやられたら粉々の粉にされるよ?」


 おろおろするタンポポにボクもおろおろしてきた。ボクも『へへー』した方がいいんだろうか……


「だって魔王ってあれでしょ、もしかしたら熊やタヌキの百倍くらい強いよね、百倍だよ? とてつもない数値だよ。私なんて熊一匹にバーンされて粉砕したんだから、その百倍はやばいよ」


 百倍イコール凄いという認識なんですねタンポポは、百倍爆弾はとんでもない破壊力みたいな。


「因みにお聞きしますけど、日本円でとんでもない金額といったら幾らくらいを想像します?」

「百万円じゃないかな。誰に聞いてもそう答えると思うんだもん」


「期待通りの回答ありがとうございます。誰も裏切らない、それがタンポポの長所ですね」

「だって百万円もあったら、私の田舎でとんでもない広さの土地が買えるんだもん。山に川に田んぼに畑、無敵だよ」


 う……百万円すごすぎる……ボクが間違ってました。


「百万円て何じゃ? 開基勝宝(かいきしょうほう)か? 金貨が百万枚もあったら凄いじゃろうな、絶対に重くて持てんな」


 いつの時代の金貨の話ですかね、ゴールドに換算するとお幾らゴールドになるんだろうか……

 タンポポを立たせて魔王ちゃんに紹介する。


「この子はタンポポ……ボクの友達でこの通りオバケです……」


 オッサンの中身という説明は省いた、めんどくさいからである。


「キュートな女子高生の七条タンポポかな」


 おい、さては余裕あるでしょこのオバケ。


「なるほどタンポポか、昔はよく食したもんじゃな。余すことなく全部食べられて無駄の無い食材じゃ、つくしと一緒によくオヤツにしたのう」


 あ、タンポポが涙目になった。


「魔王ちゃんが言ってるのはあなたの事じゃなくて、植物のタンポポの事ですからね。心配しなくてもあなたを食べたりしませんから、たぶん」


「そ、そんなのわかってるんだもん。私もよくオヤツにタンポポを摘んでて、田舎住民のお爺に共食いか? とよくからかわれたのを思い出しただけだもん」


 そっちですか、変なトラウマを起動させないで下さい、紛らわしい。


「クマ吉爺さんもよくクマ獲って食べてるけど、共食いだよね? って反撃したら一週間口きいてくれなかった」


「大人気ないお爺さんですね、口きかなくてもいいんじゃ」

「そうすると他に喋る相手がタヌキくらいしかいなくなるからねえ」


 うん、そういえばそうでした。


 とにかくこれで一つわかった事があります。

 魔王ちゃんもこれから護衛クエストに参加するんですけど、みんなが間違いなくタンポポみたいになるから、なるべく正体は伏せておきましょう。


「う、うむ」

「私みたいになるって、何か起きたのかな?」


 あんたさっきビビって土下座してたでしょうが!


 あ、もちろんオバケという点も伏せときましょう、お漏らしされても困りますからね。


「わらわはしとらんからな!」

「それじゃそろそろ行きましょうか、外でカレンたちが待ってるはずです」


「おい、しとらんからな!」


 いよいよ護衛任務に出動なのだ。


 お仕事お仕事~


 次回「他の冒険者チームと顔合わせ」


 みのりん、男の人たちの冒険者チームの名前を聞いてお腹を空かす

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