その4 ギルド内でゾンビ騒動勃発
ギルドに戻るとカレンが来ていた。
「あ、みのりんおかえりー。タンポポちゃんも一緒だったんだね」
タンポポはささっとギルド食堂の隅に移動して、威嚇しながらこちらを見ている。何の動物ですかね。
「魔王ちゃんと遊びに行ったと聞いたから、一足遅かったかと心配したんだよ。魔王ちゃんは?」
あの銀髪の少女なら、さっきおかしな会議があると言って帰りました。
それはそうと、心配? 町の中はさすがに安全ですよ。まあ、商業地区は危険と言えば危険地帯ですけどね、でもそれは三枚のお札で無事乗り切りました。
「さっきその商業地区で二体のゾンビが目撃されたんだよ、口に饅頭が挟まってる銀髪と青い髪のゾンビらしくてさ、みのりんたちが襲われたりしてないか心配だったんだ」
まさか目撃されてたとは! まあ町の中を徘徊してたんだから当たり前か。
へ、へえそれは恐ろしい。ゾンビなんか出たらショッピングセンターに立て篭もらないとアウトじゃないですか。
「死霊系やゾンビは町の中でも現れるモンちゃんだからね、気をつけないと。特に口に饅頭が挟まったゾンビ〝まんじゅうゾンゾン〟はたまに出現するけど、未だに何が原因で発生するのかわからないんだ。まあ何かするわけでもないので特に退治もされないけどね、ゾンビじゃお肉にもできないし」
危うくお肉にされるところだった。今まで何回か〝みのりんせんべい〟になる危機はあったけど、〝みのりんお肉〟の危機まであったとは、なんと恐ろしい事だろうか。
『ぐう』
お肉だのお煎餅だのの話になったお陰で、お腹がなったじゃないですか。
「お腹が空いたんだね、良かったちょうどクッキーを持ってきてたんだ。午前中はカフェでバイトしてたからね、まかないに貰ってきたんだよ、とびっきり甘いやつを」
なんだカレンは配給、じゃなかったギャラリー特典に並んだわけじゃないんですね。あのカフェの飲食物はとてつもなく甘いですから、覚悟して食べないと。
そこでカレンはボクが握り締めている袋に気が付いたようだ。
「あれ? みのりんもクッキー持ってるんだね、あちゃー被っちゃったかー。じゃこれいらないかな?」
「いる……めちゃくちゃいる……」
クーンクーンってなった、まるで山の中で一人で置き去りにされたような感覚だ。思わずカレンにすがり付いてしまった、クッキーが絡むと人はこんなにも大胆になれるのだ。
「あはは冗談だよ、ほらタンポポちゃんもおいで、チチチチ」
いやいやカレン、タンポポは一応動物じゃなくて、って来ちゃったよタンポポ。
うろうろと警戒しながらも近づいてくる、だから何の野生動物ですか。
食べ物で釣られたクロ(タンポポ)とボクの口にカフェ特製の激甘クッキーを突っ込み、自分も同じくクッキーを齧るカレン。
「あうあああああ」
「ああああうああ」
「ああうああああ」
三体のゾンビが発生した。
口にクッキーが挟まった〝くっきーゾンゾン〟である。
後で受付のお姉さんに聞いた話によると、突然のゾンビ襲撃にギルド食堂内でパニック発生。
酔っ払いの冒険者のオジサンたちが逃げ惑う事態になったそうである。
冒険者なら戦えよ、と思うのだが討伐されなくて良かった。この世界のゾンビは特に人は襲わないので、あんまり討伐されないらしい。
ゾンビごっこはほどほどにとお姉さんに怒られてしまった。ごっこではなくて真剣にゾンビになってたんですけどね。
まあ、幽霊のゾンビって何だろうって話ですが、つっこんだら負けなのです。
「さてみのりん、そろそろ討伐に行こうか、タンポポちゃんも一緒にさ」
「うん……」
「ガルル」
「あの皆さんに相談があるのですが」
今日の討伐の準備をしていたところで、一枚の紙を持った受付のお姉さんがボクたちに声をかけてきた。
ゾンビ騒動の始末書だろうか。オジサンを泣かせた悪い娘たちという事で懲戒処分に? 実際お酒をこぼして泣いた冒険者がいたらしいし、サクサクという名の。
「な……なんですか」
逃げようとしたタンポポの襟を掴みながら聞いてみる。一人だけ逃亡しようったってそうはいきません。
それはこういう内容だった。
「あなた方パーティで依頼を受けてみませんか」
「依頼? そっか、そういえば私たちはギルドのクエスト依頼をあんまり受けてなかったか、たまにはいいのかも」
ギルドの依頼! うわーなんだか冒険者パーティみたいじゃないですか!
凄い凄い! そんなイベント発生も可能だったんですね。
「みのりん、私たち一応冒険者のパーティなんだよ、たまに忘れるけど」
「ここから馬車で四日かかるマリーナンの町までの馬車隊の護衛です。商隊の数台と乗り合い馬車が合同で進む馬車隊ですね」
「護衛任務か、そういえばやった事無かったね」
「護衛パーティは二チーム、一チームは既に依頼を受けているのですが、もう一チームが中々難関でして」
「条件が厳しいんだね、そんなの私たちに務まるかなあ」
カレンは心配そうだけど、彼女に務まらない護衛任務なんて無さそうだ。
「商隊の馬車に貴族のご令嬢が同乗されるとの事で、気を利かせた商人の方が一チームは是非女性パーティをと依頼してきたのです。確かに路地の溝に頭を突っ込んで寝てるような男性冒険者じゃ、むさくて貴族のご令嬢には合わないでしょうし、商人の方も気を使って商機を掴みたいのでしょう」
オジサン冒険者のイメージ随分ですね。
擁護しようと思ったけど、このギルド食堂内で昼間から飲んだくれて歌ってる人たち見てたらどうでもよくなった。きっと溝の中で寝てるんでしょう。
「このギルドを拠点にしている女性チームは何チームかありますけど、他の護衛任務に出ていたりと今動けるパーティはあなた方だけなのです」
「依頼されてる人数は?」
「四~六名、一般的なパーティチームの人数ですね、プラスマイナス一、二名は許容範囲かと」
「うーん、どうしようかみのりん、私は受けてもいいけど」
「いく……やりたい」
「私とみのりんとタンポポちゃんと――」
「どうして私が参加する事になってるのかな、私がカレンと行くわけが無いんだもん。それに馬車でゴトゴトと、あれはお尻を破壊する乗り物だから四日も乗るとか普通にありえないかな」
当然拒否の姿勢を取ったタンポポである。よほどの理由がないと落ちそうに無いのだ。
「え? タンポポちゃんは行かないの? マリーナンの町はちょっとしたリゾート地で海が綺麗で遊ぶの最高なんだよ」
「う……そんなものに釣られて……私の田舎の田んぼの用水路の水だって綺麗だったし……」
比べる対象が違いますよタンポポ。
「サザエのつぼ焼きやイカ焼きがこれまた美味しくてさ、貝や魚はダメだけど、ワカメは採り放題。ワカメスープにワカメサラダがタダでたっくさん食べられるよ」
「是非パーティメンバーに加えて頂きたいと思います」
あっさりタンポポは落ちた。うんわかってましたけどね、カレンの言葉から想像できたのは、どう考えても天国か竜宮城ですから。
「それじゃあ後はミーシアを入れれば四人だね、人数は大丈夫。この依頼、私たちが受けるよ!」
「ありがとうございます。ではこちらから依頼者へはお伝えしておきますね。出発は明日の朝八時になりますのでよろしくお願いします」
やった、護衛クエストだ、これはわくわくが止まらないじゃないか!
まあ、女の子パーティへの依頼という割には、人間の女の子は一人しかいませんけどね。商人さんも些細な事を気にしてたら、商売なんかできないから大丈夫でしょう。
その時ボクは、そわそわで注意力が散漫になり(いつもだけど)、背後から忍び寄る怪しい影が一つあったのに気が付かなかったのである。
次回「海に行くなら水着がいるんだった」
みんりんとカレン、前に着ていた水着の行方で固まる