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その2 げ、芸術の為なら・・・


「なあみのりん、わらわは何故こんな所に立っておったのじゃ?」


 ボクにもわかりません。

 何か人知を超えた現象が起こって、ボクたちの記憶が吹き飛んだみたいですね。お饅頭の後で何が起きたのやらさっぱりです。


「記憶か、一緒にギルドとやらから発進したのは覚えとるのじゃが」


 そこからですか! お菓子を食べた記憶を吹き飛ばすとか、何恐ろしい事をしでかしてるんですか。

 魔王ちゃん、あなたは自分が誰か覚えていますか。


「さすがにそこまでではないわ! ところでこの建物は何じゃ?」


 ボクたちの目の前にあるその建物には見覚えがあった。

 それはこの町の芸術家の人がやっているギャラリーだ。


 以前モンスターに乗った青い髪の少女、つまりボクの絵が飾られていると聞いてやってきた場所だ。

 牛に跨った金太郎みたいな幼女の絵だったので、速やかに撤収したのだ。


 もちろん今もこんな場所には微塵も用事が無いので、さっさと移動である。

 見ればオジサンたちが行列を作り、従業員らしい人が列を整理している。


「なんか行列ができとるが、なんじゃいあれは」


 ボクたちには一切関係のない場所です、向こうへ行きましょう魔王ちゃん。

 呼び込みの声が聞こえますが、あんなの無視していいですからね。耳に入れるだけ無駄なのです。


「この町の偉大な芸術家の新作発表だよー。可愛い女の子には先着順でクッキープレゼント!」


 さて並びますよ魔王ちゃん、世界を揺るがす重大事件が起こっているようです。


「お、おう」


 芸術の真髄を追求する為に、ボクと魔王ちゃんは列に並んだのである。

 オジサンたちはお金を支払って入場しているけど女の子は無料なので、クッキーの袋を握らされたボクたちはそのまま奥へと突き進んでいく。タダならば何も遠慮はいらないのだ。


 奥の壁にはやはりボクを見て閃いたという、牛に跨った幼女の絵がある。


 うーん、またしてもこの絵を見てしまったか。二度と再会することは無いだろうと思っていたのだが、どういう事だろうか?

 ボクはクッキーの袋を握り締めながら、この複雑怪奇な運命を不思議に思うのだった。


「これは金太郎か? なんだかどこかで見た事あるような無いような幼女じゃな」


 き、気のせいですよ。こんな幼女、想像上の生き物に決まっているじゃないですか。

 魔王ちゃんが首を傾げているので慌てていると、作者の芸術家の男の人がボクたちを見つけて寄って来ていたようだ。


「おおー青い髪の少女よ、また来てくれたのであるか。因みに金太郎伝説は想像の類ではないぞ、どこかで起こった本当の話らしいのである。幼女が鬼族を退治した話が伝わってブームが起きた物語なのだよ、うんうん」


「なるほど、恐ろしい幼女もいたもんじゃな、くわばらくわばら。鬼族の連中は鬱陶しいからな、ちょっといい気味じゃな」


「え……いるんですか鬼……」

「普通におるぞ? この町のギルドとやらにも一人おるじゃろうが」


 いえ、受付のお姉さんは人間ですよ、たぶん。


「それにしてもあなたも中々素晴らしい逸材ですぞ、銀髪の少女よ! あなたをこの芸術家の次なる作品のモデルにスカウトしたいのである」


 芸術家のオジサンが魔王ちゃんを見て品定めを始めたようだ。あの、その銀髪の少女は魔王ですからね。あなた気楽に魔王をスカウトしてますからね。


「モデル? くねくねと歩けばよいのか? やってもいいぞ」

「なんと! やってくださるのか!」


 まずいぞ、このオジサンは以前もボクにモデルをやれと声をかけてきたのだが、いきなり脱げという自殺を強要してきたとんでもない人なのだ。


 この前ボクに断わられた腹いせに、魔王ちゃんを脱がせてボクを暗殺しようという計画ですね、そうはいきませんよオジサン。

 さ、魔王ちゃん撤収の時間ですよ、クッキーも貰ったしもう用は無いのです。


「どうしたみのりん、芸術の為じゃ、わらわも一肌脱ごうと思うのじゃが」


 脱ぐとかそんな恐ろしい言葉を軽々しく吐かないで下さい!

 さすが恐怖の大魔王ですね、実に恐ろしい言霊攻撃をしてきます。口から炎を吐くのと何も変わりませんからねそれ。


「なんだか納得のいかない事を言われてる気がするんじゃが気のせいだろうか」


 いいですから、この人の言葉は一切聞く必要が無いのです、行きましょう魔王ちゃん。何を言われても無視ですよ。


「ささ、青い髪の少女もご一緒に、クッキーをもう一袋差し上げますよ。出血大サービスなのである」


 数分後ボクが気がついた時には、ボクと魔王ちゃんはギャラリーでポーズを取っていたのである。

 因みに脱がされてはいなかった。ボクは魔王ちゃんと向かい合って座らされ、互いに微笑むというポーズを取らされていたのだ。


 確か帰ろうとしていたはずなのに、どうしてこうなっているのだろうか?

 ボクはクッキーの袋を二つ握り締めながら、不思議な現象に思いを巡らすのだ。


 それにしてもこのポーズ!

 もしかして草原で美しい少女二人が微笑みながら、お花を摘んだり、冠を作ったりしているようなシーンではないのか。

 そんなシーンも何かで見た事あるぞとワクワクしていると。


「モチーフは世界平和であるな、平坦で平滑、起伏の無い世界こそ真の平和なのである」


 何を見て平滑だの平坦だの言っているのか説明してもらいましょうか。

 場合によってはここにいる魔王ちゃんをけしかけますけどいいですか? こんなギャラリー軽く滅ぼせますよ?


 だがその肝心の魔王ちゃんの口にはクッキーが挟まっていて、もはや使い物にはならない状態だ。くそ、先手を打たれたか。

 ああ、挟んでしまいましたかクッキーを、これは車輪に(くさび)を打ち込まれたようなものなのです。もはや魔王ちゃんは動けない。


 芸術家のオジサンはラフ画だけを描いてボクたちを解放してくれた。後はねっとりじっくりと時間をかけて表現していくのだそうだけど、言い方が気持ち悪い。

 ついでに新作を見ていって欲しいと言われてその作品の前に行く。そういえば新作発表がどうしたこうしたの話だったっけ。


 その新作というのは着色が施された像だ、何かの絵だろうと思っていたので新鮮だった。

 悪者を退治して頭から床に突き刺す、不動明王だか大魔神だかの像である。


「これはこの前、このギャラリーに顕現した少女をモチーフにした大作なのだよ。芸術の為に脱げと言ったらこの現象が起きたのである」


 周りの見学のオジサンたちも口々に素晴らしいと賞賛しているが、少女をモチーフにするのが多いなこの芸術家のオジサンは。

 少女というだけあって、その大魔神はスカートを穿いた女の子のようである。


「ほうほう、なかなかの大作じゃな。スカートの中もしっかりと再現されておる。かわいいクマの絵が描いてあるな」

「それは魂であるからな、紳士の嗜み、いや芸術家の入魂なのであるな」


「ほれみのりんも覗いてみい」


 お断りします。

 いえ決して像のパンツで死に掛ける恐れがあるからではありませんからね、パンツに描いてあるという猛獣のクマが怖いだけですからね。


 それにしてもこんな恐ろしげな像にされた少女も、文句の一つも言いたいだろうと思う。パンツまで再現されちゃって、この赤い髪のポニーテールの女の子も可哀想に……

 赤い髪のポニーテール……? 何だか知り合いにそんな子がいたようないなかったような。


「ふむ、わらわもこの赤い馬の尻尾の毛の娘を知っておるぞ、モンスターをこんな感じでねじ伏せる中々ハイパワーな娘じゃったな」


 な、なんだ、魔王ちゃんのお知り合いでしたか。それじゃ魔族かなんかですよね、まあ、こんな恐ろしげな人に会う事もないでしょう。


「会う度に毎回饅頭をくれるいいヤツでな」


 神族の方でしたか、今度是非紹介してください。お饅頭をくれるなんて神様かカレンくらいじゃないですか、あ、どっちも女神様でした。

 さて、貰うものも貰ったし、見るものも見たしで、そろそろ行きましょうか。クッキーさえ手に入れば、もはやこんな場所には用は無いのだ。


 ギャラリーから撤退すると執事さんが待っていた。


「お時間でございます魔王様」


 次回「危険物体急接近!」


 みのりん、様子がおかしいアルクルミに出会う

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