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その22 アファナシエフスカヤって絶対舌噛むわ


 マーシャのくしゃみで戦いの火蓋が切られた!


「うらあああああ!」

「おりゃああああ!」


「ひい! ごめんさなさい、ごめんなさい、へっくち」

「へっくち」


 どうやらミーシアも呪文を打つ寸前にくしゃみをしたようだ。

 埃で危機に陥って、埃で助かった。

 この町とこの屋敷は埃に救われたのである。


「やめんか! 馬鹿者どもおおおおおお!」


 大声を上げて戦闘を一瞬で止めたのは、そこに新たに登場した人物である。

 それはフェンベルク家の当主その人であった。


 その当主が立つ真横の壁に大穴が開き、四天王の一人が吹っ飛んでいった。

 えーと二番目の人だ、名前なんだっけ。カリーニンだっけクリンだっけ。


 戦闘を止めるのが一瞬遅れて、カレンのスパイクトルネードが炸裂したのだ。

 彼女の速さには誰も太刀打ちできないので、これは仕方の無い事だろう。


 ついでに言うとタンポポの必殺拳もモスカァーに炸裂していたのだが、ボクは見なかった事にした。


 当主はちらっと壁の大穴とモスカァーを見て、こちらに歩いて来た。

 動じないとはさすが貴族である。あ、ちょっと心臓とお尻をおさえてる。


「だ、旦那様」


 二振りの刀を上着の内側に格納して、慌てて駆け寄るのは執事さんだ。


「何をしておるのだバルバロス、当家の執事ともあろう者がはしたないぞ」

「は、坊ちゃまのご命令でして」


「馬鹿息子の命令は解除する。壁とモスカァーに穴が開いた、早速塞ぐよう大工を手配しろ」

「かしこまりました旦那様」


 いえ、モスカァーは大工じゃなくて、お医者に頼んであげて下さい。


「兵たちも下がらせよ!」


 命令を飛ばしながらフェンベルク家当主は、マーシャの前に歩み寄った。


「我が家の者たちが大変失礼をしたね、マーシャ嬢」


 フェンベルク家当主の対応はいたってソフトで丁寧だ。

 考えてみれば、マーシャは花嫁の妹でもある貴族の御令嬢なのだ、当たり前の話だ。


「お連れの方々にも迷惑をかけたな、心より謝罪する。ミーシャ嬢もよく戦いを止めに入られた」


 ミーシアの場合、戦いを止めに入ったという解釈でいいんだろうか。

 むしろこの子が一番に止めなくてはいけない案件だった気がするんだけど。


 カレンがぽけーっと大穴を見つめている。自分のやらかしで、またもや壁に穴を開けたのである。

 そのカレンに執事さんが気が付いて親指を立てた。


「あなたこんな大技を隠し持っていたのですね、中々に侮れないお方ですな。またあなたとは斬り合いたいものです」

「ご、ごめんなさい」


 謝るカレンを見て当主が笑う。


「はっはっは、気にせずともよい。女の子はうっかり壁に穴を開けるものなのでな。私の奥方もうっかり壁に穴を開けておる」


 どんなうっかりなんですか。うっかり手料理を爆発させる系ですか。


 当主はボクたちを屋敷の奥へと案内していく。


 通された部屋は豪華な大広間で、フェンベルク家の人たちが揃っていた。

 中央で正座させられているのはマティヤス君か。何してんのこの人。


「なあみのりんちゃん、あの男も風呂を覗いて正座させられてるのか?」

「あなたと同じなわけがないでしょう」


「えーとマティヤス様?」


 正座をしてうな垂れている婚約者に、思わず駆け寄るのはマーシャだ。今回はこけなかった、そう毎回毎回ドジっ娘道を極められても困りますからね。


「約束を先にしていたのなら仕方無い、貴族がした約束は守りなさいマティヤス。マーシャ嬢、今回は馬鹿息子が済まなかったね」


 当主は話がわかる人で良かった、この町は平和なのだ。殺伐としている隣町だったらどうなってただろうか。


「何故こんな事になったのか説明をしていただけますか? マティヤス様」


 マーシャの問いに俯いた顔をあげ、彼は答え始める。その声は重く沈んだものだった。

 その重々しい響きにさぞかし重大な理由が告げられるのだろうと、マーシャもボクも身構える。


「一ヶ月前僕はマーシャを見て一目惚れをした。マーシャの顔は本当に僕好みの理想だったんだ、だからすぐに結婚を申し込んだ。つい先日の事だ、観光に行った冒険者の町でミーシャを見かけてしまって、僕好みの理想の顔がもう一人現れたんだ、だからすぐに結婚を申し込んだ。姉妹だなんて知らなかった」


 なるほど、マティヤス君は馬鹿なんだね。

 彼の顔の好みはアファナシエフスカひゃ家系列と言う事か。あ、ひまった舌噛んら。心の声で舌を噛むという大技を繰り出したボクに、カレンが慌てて回復薬を投入した。


「同じ顔なら私でいいじゃないですか、どうしてお姉さまなのですか、私の方が若いですよ? お姉さまよりピチピチですよ?」


 十五歳を年寄り扱いするのやめて頂けませんか、ちょっと傷つくんですけど。若いのが羨ましい、ギギギ。


「同じ顔ならおっぱいが大きいほうがいいに決まっている」


 マティアス君を見つめるマーシャの目が虫を見るような目になった。

 怖いのでこれから先は彼女の胸を見るか。ここまで真剣に話を聞いて損したわ。


 それからマティアス君、〝おっぱいが大きいほうがいいに決まっている〟というこだわりはボクも大いに賛同するところですけど、ミーシアは偽パイですから。

 あなたのおっぱいを見る目は節穴ですね、精進してください。ボクなんか三秒で見破りましたからね、えっへん。


「なるほど、馬鹿息子だが言い分は真っ当だな、おっぱいは大きい方がいい、これは人類史が始まって以来のいてててて……」


 何か壮大な事を言いかけていたようですけど、奥さんの前でそんな事言うからお尻をつねられるんですよ、フェンベルクさん。うっかりお尻に大穴を開けられて、大工さんの世話になっても知りませんからね。


「しかしアファナシエフスカヤ家には多大なるご迷惑がかかってしまった、ミーシャ嬢を息子が半ば強引に連れてきてしまったというのに婚約破棄だなどと、大切な御息女を半分傷モノにしてしまったようなものだ。アファナシエフスカヤ家には多額の賠償金をお支払いしましょう」


「父も母も悲しむと思いますわ、私も胸が張り裂けそうな思いです。でもこればっかりはどうする事もできません、可愛い我が妹の為ですもの! 私が涙をこらえて引き下がりましょう! よよよ」


 ミーシア、ちょっと芝居がかってますよ。胸が張り裂けそうと言いながら、これでもかってくらいの笑顔なんですけど。


「残念だけどマティヤス様はあなたに譲るわよマーシャ」

「うーんどうしようお姉さま、ちょっと考えたくなってきた……やめようかな私」


「そんな、マーシャでもいいから結婚しておくれよ!」

「私……でも?」


「ああ、違うんだマーシャがいいんだ、お願いだマドモアゼル。僕はマーシャ一筋なんだ」

「うーん」


「マーシャああ」

「うーん」


 この二人の恋の行方がどうなるかなんてボクにはわからない。

 このまま進んだらマティヤス君がお尻に敷かれる未来しか見えないけど、それはそれで幸せなのかも知れない。


 これでやっとミーシアをボクたちの町、冒険者の町に連れて帰る事ができる。

 冒険者のオジサンや町の人たち皆が待ってる、やっぱりあの町が一番いい。




****




 そして冒険者の町にようやく帰ってきたのは数日後の夜だ。眠くてフラフラである。

 ギルドが閉まる直前になんとか辿り着いて、懐かしのボクのオアシス、ダンボールベッドに片足を突っ込む。


『むぎゅ』


 何か踏んだ。


「みのりん、お前さてはわらわの胸を踏みつけて、へこまそうとしとるじゃろ。わらわの山が高いから嫉妬じゃな、あー嫌じゃ嫌じゃ」


 それ以上どうやってへこませればいいんですか、ボクにそんな技術はありませんからね。人類のテクノロジーで可能なんですかそれ。

 それに何でここで寝てるんですか、酷いじゃないですか魔王ちゃん。


「酷いのはみのりんじゃ! 何でわらわもお祭りに連れて行ってくれないのじゃ、行きたい行きたい、わらわもお祭り行きたい、盆踊りしたい」


「子供ですか」

「魔王ちゃんじゃ!」


 ごめんなさい、魔王ちゃんをのけ者にしたわけじゃなくて、急に決まったものですから。


「みのりんたちがお祭りに行ったと聞いて、探しに行ったんじゃぞ」


 どこに行ってたんですか、気が付きませんでしたけど。


「うむ、カンニバルという恐ろしげな事をやっとる町でな、ちょっと震えるじゃろ」


 うわー、なんですかそれ、そんな恐ろしい町があるんですか、絶対行きたくないですね。

 そんな町、一生行く事は無いでしょう。


 青い髪の少女と、銀髪の少女は互いにぶるぶる震えたのだった。


 第20話 「ミーシア爆発阻止5秒前!」を読んで頂いてありがとうございました。


 4月の半ばから開始して毎日投稿して5ヶ月半、気が付けば175話、約44万文字になってました。

 同時並行してたお肉屋さんを足すと、245話、60万文字超えてます、我ながら書きましたね~。


 まだまだ海に行ったりとやりたいネタは沢山あります。

 一冊分くらいの話を作りたいと思っていますが、どう組もうか思案中です。


 というわけで、一旦毎日投稿をここでお休みして話を作りたいと思います。 その間に書き溜めも進めたい!


 これからも面白い(と思っている)話を書いていきますので、暫らくお待ち下さい!

 進捗状況は活動報告等で行っていきます。


 ブクマ評価ご感想等お待ちしております!

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