その19 立ち塞がるフェンベルク家の四天王
ボクたちの前には、フェンベルク家の執事さんが立ち塞がっている。
「私の力を推し量れるとは、さすがあなたも冒険者という事ですかな。さよう、我が名はバルバロス! かつて伝説とも言われた冒険者、今はフェンベルク家四天王が一人、オペレーションバルバロスとは私の事です!」
ボクとカレンとタンポポはズサッと後ずさる。
何だって! で、伝説の!
「カレン知ってるのかな?」
「知らなーい」
なんですか二人とも、驚いたボクが馬鹿みたいじゃないですか。
「フ、これだから若者は困りますな、年寄りをすぐに干物扱いです。年寄りだって甘いパフェを頼んだっていいじゃないですか。あ、青い髪のあなた、あなたは合格です」
なんか合格したみたいだ。
変な事を愚痴りながら、執事さんが上着の内側から二つの刀を出して構える。そんな物を入れて仕事してたんですか危ないですね。
「全く、私もかっこよく名乗ったのですから、あなた方もかっこよく名乗りなさい」
「ボクの名はみのりん! この世界随一の希少種族にして、レベルマイナス1! やがてレベルゼロに上がる者! です」
「タンポポです」
「カレンです」
『コケー』
なんですか二人とも、ドヤ顔で自己紹介したボクが馬鹿みたいじゃないですか。
マンクは頭の上の鶏、連れて来ちゃったんですか、頭の上で玉子産んじゃってますけど。
「マ、マ……」
マーシャは名乗り損ねて涙目になってる場合じゃないですよ。
「青い髪のあなた、合格です。そうですか、レベルが……さて、気を取り直して私の実力を見せてあげるとしましょう!」
なんかこの人から合格を貰いたくない……あ、ハンカチで涙を拭きましたね?
レベルマイナス1を舐めると痛い目みますよ、これでもダンスカーニバルと武闘大会、両方の頂点に君臨した覇者なんですからね!
「名前は知らないけど、この人かなりやばいよ、レベルはかなり高い! 伝説級なのは間違いないかも」
カレンがロングソードを構えて執事さんと対峙した。
だ、大丈夫なんですかカレン、いくらなんでも相手が悪すぎるんじゃ……
「わかってる、勝てるとは思えない。けど、やるしかない!」
カレンがそう言いながら執事さんに突撃する!
『ギイイイィィィィン!』
カレンのロングソードと執事さんの二刀流がぶつかり合い火花が散った。
執事さんの攻撃は凄まじく、二つの刀がまるで手の一部みたいにカレンに襲い掛かっている。
しかしカレンもその素早さで、刀の動きに対応しているようだ。
二刀流VSカレンの速度だ!
ロングソードの斬撃を一本の刀でいなされ、もう一本で斬りつけてくるのをギリギリでかわすカレン。
すかさず最初の刀が突き出されるのを、身体を回転させて避けると、その遠心力を使ってロングソードを真横にふり抜いた!
だがこれを執事さんは予測していたようで、右の刀で下から上に弾き返した。カレンの身体ががら空きのピンチだ!
回転するカレンの身体が相手の正面に向き、左の刀で串刺しにされるかと思われたその瞬間、遅れて回ってきた彼女のツインテールが執事さんの目を叩く。
一瞬にして間合いをとる両者。
と、とんでもない戦いだ。口をポカーンと開け過ぎて涎垂れてたよ。
タンポポが青い顔でカレンを見つめている。
わかったでしょうタンポポ、カレンの隙をついて仕返しのイタズラなんて絶対無理なんですよ、もう諦めてくださいね。
「あなたとんでもない戦いのセンスの持ち主ですね、きっといい師匠に教えられたのでしょう」
「ありがとう、最高の師匠だよ。あなたもさすが伝説級だけはあるね、必殺剣を使う暇が無いもの」
いつもはスパーンで終わってたカレンの剣が、こんなに凄いものだったなんて。
ますますポンコツ化した時とのギャップを思い出してしまう。
「私がここで少しでも食い止めて時間稼ぎをするから、その間にみのりんたちは先に進んで!」
「フフフ、いいでしょう。私もあなたと真剣に斬り合いたいところです。いつまで足止めできますかな?」
じりじりと相手ににじり寄る両者。
執事さんが先に動いた!
「おりゃああああ!」
「せやあああ!」
『ギイイイィィィィン!』
金属同士がぶつかった音を聞きながら、ボクはタンポポに引っ張られて屋敷の門をくぐった。
「行くよみのりん、後はあいつにまかせるんだもん。これ以上あいつの戦いを見ていると、私の中で何かが死ぬんだもん」
ああ! カレンが! カレンがどんどん遠くなっていく!
「カレン! カレン! カレン!」
「みのりん! 私の屍を超えていけえええええ!」
「カレ――――ン!」
ボクたちは屋敷まで走った、カレンの思いを無駄にはできない。涙を堪えて先に進むしかないのだ!
マンクとマーシャも走ってボクたちに付いてくる。
あ、マーシャがこけた。膝小僧が赤くなって震えてる。
『コケー』
この二人のせいで感動の別れのシーンが台無しなんですけど。
もう一回やり直したいんですけど。
「カレ――――ン!」
『コケー』
とにかく走った。ボクたちは門を越えて屋敷までひたすら走る。
妨害者もなく屋敷に到達すると、入り口から内部に侵入。
玄関はめちゃくちゃ広かった!
両サイドには二階へと登る階段があり、正面には巨大な肖像画が掛けられている。恐らく初代の当主か何かなのだろう。
壁も調度品もきらびやかで目がくらみそうだ。
いきなりこんな攻撃をしてくるとは、貴族恐るべし。
そして今気が付いた。その佇まいに圧倒されて気が付くのが遅れたのだ。
ボクたちの前に人がいるのである。
広い玄関に椅子を出して座っているオジサンがいたのだ。
この人は……
受付のオジサンですかね?
次回 「次々現れる刺客を撃破せよ!」
みのりん、マーシャに目隠しをする