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その13 危険人物だらけの大会


「み、みのりん、棄権した方がいいよ、後は私が……なんとかできないかもしれないけど」


「いい……行く」


 このままではミーシアは爆発する、そんなのを何もせずに見るくらいならボクは逝く、じゃなかった行く。


 ボクが闘技場に上がるとミーシアが目を丸くした、〝新婦の友人〟第二弾の登場なのだ。


 彼女が慌てて中止を呼びかけようと立ち上がったのを、ボクは目で制した。

 ミーシアは半泣きで隣のマティアスに訴えているようだ。


 カレンの時はすぐに座ったのに、ボクの時は何でそんなにうろたえてるんですか、まったく。

 信用される実力なんて今まで微塵も見せた事ありませんけどね。


 対戦相手がボクをじろりと睨む、ガンゼル大佐だっけ。


「昨日のいいケツのお嬢ちゃんか、出てくる大会間違ってないか」

「ボクもそう思いますけど、これでも冒険者の端くれなのです」


「そうか冒険者か、じゃオジサンも全力でかかるしかないな」


 いえ、そこは手加減して欲しいです、首とかもぎ取らないで下さいね。


「こんな可愛い子を血祭りに上げるなんて、オジサンも本意じゃないんだが」


 だから、く、首とかもぎ取らないで下さいね。


「それでは試合開始です!」


 傭兵隊長がロングソードを構えるのを見て、ボクも腰に差している木の棒を取り出して構えた。

 こいつと一緒に戦うのはこれで最後かもしれない。


「おいおいなんだその武器は、その棒切れがお嬢ちゃんの得物なのか」

「そ、そうですけど」


「あっはっはっは、こりゃいいや。ケーキ作りにクリームかき混ぜるんじゃないんだぞ、そんな木っ端で何する気だ、はっはっはっは」


 戦士の笑いに誘われて観衆たちも笑い始めた。


 くうう、恥ずかしい。でもケーキのクリームをかき混ぜるのにも使えるのかこの木の棒は。

 使い道を一つ発見したぞ。


「仕方が無いのです、ボクはレベルマイナス1なのですから」


 オジサンが固まった。


「レベルがマイナスだ……と」


 な、なんですか、そりゃ珍しいでしょうよマイナスなんて、でもそんなに驚愕の顔しなくてもいいでしょう。

 さあ、さっさと戦闘を始めますよ、かかって来て下さい。


「うう、オジサンが悪かった、オジサンの不戦敗でいいよ。マイナスだなんて、マイナスだなんて、ウウゥ……」


 戦士は剣を落とし、取り出したハンカチで涙を拭きはじめた。あ、『チーン』て鼻噛んだ。


 ちょっとやめてください、その攻撃は地味に心にローキックを入れてくるんですから、そんな可愛いハンカチ取り出さないで下さい。ボクは全然可哀想じゃありませんからね。


「胸も可哀想に……」


 ボクの山は関係無いでしょ! ボクだって二、三十年に一回くらいは本気で怒るんですからね!


 会場の観客も手ぬぐいを出して涙を拭いている、何の大会でしたっけこれ。というかどっちに対しての涙ですかこれ、レベルか、お山か。

 うう、どっちで泣かれてもダメージは似たようなものだったです。


 座り直したミーシアがうんうんと頷いている、こんな形の実力の信用はいらなかった。


「涙なくしては語れない名勝負でした。そしてなんと勝者は青い髪の少女だ! 番狂わせが起きてしまった!」


 そりゃそうでしょうよ。ボクはジト目で司会者を見つめる。

 こんなの誰も納得しないでしょうに。


『うおおおおおおおお!』


 観客たちは大興奮してるけど、いいのかこれで。


 ボクとしては納得がいかないけど、とにかく危険人物をもう一人排除した。これで大会は安泰だろう。

 カレンとボクの二人で、歴史の全く無い大会に、新たな歴史の一ページを刻んだのだ。


「さすが相棒!」


 帰ったらカレンがハイタッチで迎えてくれた。

 釈然としなかった気持ちから、やっと気が晴れた感じだ。



「さて第三試合は! おおっとこれまた優勝候補の一角の登場だ! 隣町の格闘組合理事長! ボンバボンバ選手です!」


 歓声と共に現れたのは鋼のような筋肉の持ち主だ、上半身裸で下は格闘着を着けている。

 歩く度に筋肉がバキバキと鳴っている、ボクなんか小指で潰されるだろう。


「今まで数多くの対戦相手を血祭りに上げてきた格闘家、あらゆる格闘技に精通しそれを制覇してきた覇権者です。この大会でも対戦相手を粉々の血祭りにすると意気込んでおります! この方も特別にお招きしました!」


 なんで余計な人を隣町からポンポン呼んじゃうんですか、排除しても排除しても次から次へと、いい加減にして下さい。


「そして、血祭りになる不幸な対戦相手の発表です!」


 どんだけ血祭りが好きなんですか、祭りの意味が違うって誰かつっこみを入れなかったんですか。


「アルクルミ嬢! なんと彼女は冒険者の町のお肉屋さんの娘さんです、変わった経歴の方の登場です」


 そ、そうですよね、武闘大会にお肉屋さんて。


 アルクルミはポケーっとした表情で闘技場に上がっている。

 わかります。『どうしてこうなった……』と思っているのでしょう。


「さあ! 試合開始です!」


 無常にも試合が始まってしまった、逃げてアルクルミ!

 普通の町の女の子が、こんな怪獣と戦えるわけがない!


 慌てて棄権しようとしたアルクルミだったが、格闘家はそれを許さなかった。

 彼は目の前に出てきた不幸なお姉ちゃんで、目一杯楽しむ気なのだ。とんでもないやつである。


「げっへっへ、なんだこの姉ちゃん。色っぽい体つきしやがって、いいのか触っていいんだな。羽交い絞めにしてあちこちモミモミ……」


 格闘家は最後までセリフを言えなかった。


 アルクルミに対するセクハラ発言をした途端、彼女の対セクハラ自動反撃スキルが発動したのだ。


 彼女の意思とは全く関係なく自動で発動するというそのスキルは、前にも見た事があるけど一瞬で相手を撃沈するものだった。


 アルクルミは格闘家の懐に瞬時に移動すると、アゴを膝で一撃。

 舌を噛んでそれ以上喋れなくした相手を逆さまに抱え上げて、そのまま闘技場に叩きつけた。


 あ、これ知ってる。ブレーンバスターだ、テレビで見たわ。

 そのまま裏返して後頭部に掌底を一発、格闘家は完全にカクンとノビてしまった。


 あっという間の出来事である。

 考えてみれば、トロールをぶっ飛ばすようなスキルにオッサンが勝てるはずがないのだ。


「なんという事でしょう! 番狂わせ三連発だあああああ! 勝者アルクルミ嬢!」


『うおおおおおおおおお!』


 アルクルミは顔を真っ赤にして逃げてきて、カレンの後ろに隠れた。

 カレンはよしよしと彼女の頭を撫でている。


 なんだろう、ボクたち一行は色々と伝説を刻んでいるに違いない。


 とにかくアルクルミが怪物を一人、大会から叩き出したのだ。お疲れ様、そしてありがとうとお礼を言いたい。



「さて! 次の試合は!」


 大会はまだまだ続く。


 次回 「頭がおかしい大会で危うく町が滅ぶ所だった」


 みのりん、仲間の試合につっこみで大忙し



 今回のカーニバルの話は「モンスターはお肉なのです!~」

 の「第12話 どうしてこうなるカーニバル!」と連動していますので、よろしかったらそちらもお楽しみ下さい

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