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その9 まるでお姫様みたいなミーシア


 午後のボクは完全に意気消沈だ。


 ダンスパレードの優勝商品は白いビキニで、早速着てくれというのを必死に断わったけどダメだった。


 着ていた衣装も大して変わらない物だったけど、踊ってる時は周囲の熱気が伝染してたからいいんだ、熱が冷めた後でこんなの着て群集に手を振る身にもなって欲しい。


 普段着に着替えた後でサクサクたちと別れて、カレンとタンポポとの三人で歩いてる時も、『優勝した良いお尻の女の子』と声をかけられ、サインをねだられ大変な目に遭った。


 沈み込んでいるボクを見て、カレンがあれこれ話しかけてくれる。


「ほらみのりん、武闘大会が明日あるんだって、面白そうだね」


 見ると壁に貼られた張り紙だ。『参加者絶賛募集中』とあるが、締め切り昨日までじゃないか、まあボクが出るわけがないんだけど。


「大会はしばらくいいです……」


 苦笑したカレンは、今度はアクセサリーの屋台を覗こうと言い出した。

 そこにはキラキラがいっぱい、リングにネックレスにヘアピン、見ているだけで心が高揚してきた。


 なに~~これ~~。


「おや、ダンスクイーンのお嬢ちゃんじゃないか、店の奢りでこれを進呈するよ。遠慮すんな、売れ残りで処分するとこだったんだ持ってけ。作った時はこれはいける! って思ったんだけどなあ」


 オジサンがくれたのは青いヘアピンで、白いパンツの形の飾りがついていた。

 なるほど、確かにこれは売れ残るでしょうね。


 生まれて初めてのものなので、カレンにヘアピンを付けて貰った。自分ではどこに付けたらいいかわからないし、当然女の子の顔が映る恐ろしい鏡なんか見られないのだ。


「似合うよみのりん、可愛い!」

「まあ、青と白はみのりんの色なのでいいんじゃないかな」


 二人に褒められてボクは上機嫌だ、鼻歌まで出てた。

 頭にパンツの飾りを付けているという現実は、この際だ置いておこう。


「そっちのお嬢ちゃんはこのリボンが似合いそうだけど、買ってかないかい」

「私はいいよ」


 カレンに似合いそうだけど、ボクにお金があったら買ってあげるのに。


「今してるのはハーブをあげた時に、アルがお礼にとプレゼントしてくれたやつなんだよ。だからお気に入りなんだ」


 そうなんだ。仲良し幼馴染同士の、ほのぼのしたいい話を聞いてしまった。


 ところで。


「タンポポ、そんな水晶玉を買ってどうするつもりですか」

「ハッ!」


 タンポポは慌てて水晶玉を置いた。


「危なかったよ、もう少しで買っちゃうとこだった。修学旅行なんかでお土産に買って家に帰った後で、何でこんなの買っちゃったかなあって後悔するアイテムによく惑わされるんだもん」


「ボクもドクロの水晶買いましたからね、実際にはただのガラスでしたけど、役に立たないもの買っちゃうんですよね」


「でも木刀はタヌキと決戦するのに使ったよ、一発も当たらずに今は肥溜めに沈んでるけど」


 タヌキに嵌められて肥溜めに落ちた時の話ですか、本当にエンガチョです。

 ボクは一人分タンポポから離れた。


「いやーそれにしても、最近は町に可愛い子が増えてオジサン本当に嬉しいよ。特にあのミーシャちゃん。あんな可愛い子がこの町に嫁いでくれるんだもんな」


 屋台のオジサンがデレデレに鼻をのばしている、ミーシャちゃんてミーシアの事なんだろうな。


「その子今どこにいるかわかりますか?」

「領主様のお屋敷じゃないかな、アファナシエフスカヤ家はこの町に別宅を持って無いしな」


 オジサンにお礼を言ってボクたちは歩き始めた。

 目的地はこの町の領主であるフェンベルク家のお屋敷だ。


「ダンスクイーンが身につけているヘアピンが絶賛販売中だよ!」


 後ろで屋台の店主の声が聞こえてきた、商売上手なオジサンだな。


 振り向いたら屋台に女の子たちが群がっていた。

 まあ、頭にパンツの飾りを付けてるのはボクだけじゃなくなりそうだ、とりあえず安心である。




 フェンベルク家のお屋敷には程なくして到着。目の前にそのお屋敷がある。

『ドーン!』とか『バーン!』とか効果音が聞こえてきそうなくらいでっかい。


「まさに貴族の屋敷って感じかな、これ一般庶民が入ったら確実に怒られるやつなんだもん」

「ボクもちょっと臆してきました。対策を練った方がいいかも知れませんね」


 呆然と建物を見るボクとタンポポをよそに、カレンがずんずん進んで行って守衛の兵士に止められている。


「私たちミーシアの友達なんだけど、会いに来たから取り次いでもらえないかな」


「カ、カレン」

「何あいつ、突撃精神凄すぎて、私たちが巻き添えになって捕まったりするのごめんなんだけど」


 しばらくすると六名のガッチリした大柄の重装備の兵士が、門まで隊列を組んでやって来た。

 まずカレンが捕まり、次いでボク、逃げ遅れたタンポポがそれぞれ二人の兵士によって連行されて行く。


 逃げられないように両脇をガッチリ抱えられて、三人とも地面に足すら着いていない状態だ。

 連行される先は地下室か、拷問部屋か、牢獄か、と思っていたらそのまま屋敷の中を通されて、豪華な部屋の前に到着。


 ここが尋問部屋なのかなと思っていると、その部屋から老人が出てきてボクたちの前に立った。

 さてはこの人が拷問官か、ああ貴族って恐ろしい。


「これはこれはミーシャお嬢様のご友人の方々、よくぞお越しになられました、お嬢様共々ご到着を待ちわびておりました。私アファナシエフスカヤ家の執事にございます。この者たちはお嬢様の護衛にございます」


「何でこんな連行の仕方をしたんですか」

「え? 歩かずに済んでラクチンでしたでしょ?」


 紛らわしい! 一気に力が抜けたんですけどどうしてくれるんですか。


「ささっどうぞ中へ。お前たち、お客様をお運び差し上げて」

「歩きますから離してください」


 抵抗むなしくボクたち三人は部屋に運び込まれ、兵士たちによって予め座る格好に固定された後で、用意された椅子にセットされた。

 ボクは心の中で『ウイーン、ガシャーン』と唱えてたら実にしっくりときた。


「引越しの荷物になった気分だったんだもん」

「あなたはこの前、引越しで運ばれたばかりですもんね」


 タンポポが愚痴をこぼしていると、奥の扉が開き女の子が飛び込んできた。


「みのりーん!」


 綺麗なドレスを着たお姫様がボクに抱きついてくる。


 だ、誰? こんな綺麗なお姫様に知り合いなんかいませんよ。


 ドキドキしてしまったが、このボクに当たっている彼女の胸の感じは偽パイだ、つまりこの子はミーシアだ。

 ミーシアとわかってもドキドキは変わらないんだけどね、いい匂いで溶けそうになる。


「カレンもタンポポも来てくれてありがとう。私、本当に不安で仕方なかったのよ」


 ボクから離れて目の前に立った姿を見る。ピンクがかった髪に赤い瞳。

 ミーシアだ、久しぶりのミーシアだよ。


 彼女は美しいドレスを纏いピンクの髪の毛も整えて、女の子っぷりに拍車がかかっていた。

 どこからどう見ても、お姫様である。


「やばいよ、可愛すぎる」


 次回 「ミーシアって凄かったんですね」


 みのりん、タンポポ、椅子からずり落ちる

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