その6 アルクルミが柔らかすぎる、助けて
スライム騒動があった後は馬車隊は何事も無く進み、ムラジルの町に到着したのは三日目の夕方である。
町は既に祭りの真っ最中で人で溢れ、賑やかな事この上ない。
さすがにこの熱気はテンションも上がるけど、薄着の女の人も多いのでテンションが下がり、結局ボクはいつもの状態である。なんだか勿体無い話だ。
「もう始まってるね、カーニバルは何日も続くんだよ。とにかく私たちは滞在する宿を探そう、今夜は様子見て明日ミーシアを訪問すればいい」
カレンの言葉で早速宿探しを始めたが、温泉の時と同じでこれまた難航したのだ。
お祭りであちこちから観光客が押し寄せているので、どこも満室で飛び込み客への余裕が無いのだ。
「三人部屋が一つキャンセルされて空いてますけど、それでいいのでしたら」
数十軒探しまくってようやく発見した宿屋だが、毎度のごとくベッドは三つしか確保できなかった。
「一つのベッドで二人寝ればいいよね、はーやれやれ、やっと宿屋が決まったよ……あ」
言いかけた所でカレンがポカーンと何かに気がついた。
カレンの目線に皆で振り返ると、マンクがポケーっと突っ立っている。
まただ、ボクたちはまだ筋肉問題を解決できていないのだ。
ボクたちだけなら何とでもなる、問題なのは。
「マンクだよねえ」
ボク以外の女の子に触ると干からびてしまうという、めんどくさい職業のマンクを同じ部屋に寝かせるわけにはいかないのである。
「どこか空いてる部屋無いですか」
「空いてませんねえ、鶏小屋ならあるけどさすがにねえ」
「みのりんちゃんと同じ宿に泊まれるのなら、鶏小屋でかまわないぜ俺は」
「それでいいんですか本当にあなたは、泊まる所がどんどんグレードダウンしてますけど。遂に哺乳類ですら無くなりましたけど。鳥類ですけど?」
「みのりんちゃんと同じ宿じゃなかったらだめだ。俺にとっては、どんな高級ホテルよりも同じ宿の鶏小屋の方が百倍豪華だ」
は、恥ずかしいからやめて下さい。ちょっと嬉しくなってるこの気持ちはなんなんですか。
仕方無いなあ、後で肩でも揉んであげようかな、抱きついてこない条件だけど。
「だって宿屋でみのりんちゃんと繋がってるんだぜ、宿屋の建物を通して他の女の子にも触れてるんだぜ、ヒャッホイじゃないか」
嬉しかった気持ちは速攻でゴミ箱に捨てた。肩も揉まない。
「鶏小屋は宿の建物とは隣接しておりませんが」
まあそうでしょうねー。
「そのお客さんがそれでいいのでしたら、うちは構いませんよ、ただし宿代は頂きます」
鬼か。
部屋に案内されるとやはりベッドは三つ、六人では厳しいが温泉で慣れていたから大丈夫かな。
と思っていたらサクサクがとんでもない事を言い出した。
「前回とペアを変えよう! 私は今夜はキスチスちゃんと寝るー」
「うわーマジか、前回と同じでいいだろ。私は人身御供か」
「だーめ! 前回私はタンポポちゃんとベッド一緒だったから、今回はキスチスちゃんだよ」
いやあなた、ベッドを一人で占領してたんですけど。
いや待てよ、今回タンポポが余って且つ前回とペアを変えるという事は、カレンに抱き締められて生死をさ迷いながら寝なくていいという事だ。
ボクにとっては全然とんでもない事じゃなかったよサクサク! 命の危機から救われたよ! サクサクバンザイ!
「じゃ私はみのりんと寝るわねカレン」
「アル、みのりんの事よろしくね、私はタンポポちゃんと一緒だね」
ちょっと待ってください、おかしいですよカレンさん、アルクルミさん。
そこは幼馴染のお二人がペアを組む所でしょう。
「アルとは昔から同じベッドで何回も寝てるからね、新鮮さが全く無いよ」
「ねー」
ま、まさかカーニバルの町初日から、こんな恐ろしい危機が待ち受けていたとは。
女の子女の子してるアルクルミとボクが一緒に寝る……ボクのヒットポイントは耐えられるだろうか。
そうか、いよいよお別れの日が来たのか。
明日からボクは、みのりんオバケとしてこの世界で冒険するのだろう。
静かに自分に合掌である。
オバケの先輩であるタンポポに色々と教えて貰わないといけない。
でもその前に……
一人全く会話に参加せずに悪い顔になっているタンポポに近づき、その肩にポンと手を置く。
「タンポポ、犯罪者の顔になってますよ。寝る前に身体検査をしますからね、ペン、ピーナッツその他全て没収です。カレンに何かしたら、明日から毎晩みのりんオバケが出ますからそのつもりで」
「わ、わかってるんだもん。私オバケが苦手だから、え、遠慮しておくかな。夜な夜なオバケが現れるとかありえないもん」
あなたです。もう一度言いますよ、あなたです。
さっきカレンと一緒と聞いて、ニヤリとしたのは見逃しませんでしたからね。
没収したのはペンと、やはりピーナツは用意していましたか。危ない危ない。
それと折り紙、これは何ですか。
「お祭りと言ったら折り紙じゃないの? 折り紙でちょうちんとかはっぴとか折って、子供の頃よく遊んだんだもん」
「うう、タンポポ……田舎すぎて」
「ちょ、ちょっと待って、お祭りあったよ、ちゃんと夜店もあったもん。手ぬぐいで涙を拭くの禁止だから」
「どんな店が出てました?」
「お、お面屋とか?」
「どーせタヌキのお面でしょ、わかってるんですから」
「失礼な、キツネだよ!」
あんまり変わらないじゃないですか。
その日の夜は軽く食事を取って早めに寝る事になった。
「みのりん、今夜はよろしくお願いします」
アルクルミがベッドの上でぺこりと挨拶してきた。
女の子と一緒のベッドの時ってこんな作法でよかったんだっけ、とボクもお辞儀をする。
き、緊張する。でも相手も女の子だから、取って食われるわけじゃないから。
二人で直線の二本の棒になって眠ればいいだけだ。そうだ何も触れ合う必要なんかこれっぽっちも無いのだ。
「私何かに抱き付いてないと眠れないのよ、だから思いっきり抱きついちゃうと思うけど、許してね」
死刑宣告だった……
次回 「ダンス衣装でカーニバル?」
みのりん、何故かカーニバル衣装を着る羽目になる