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その13 最高と最強のサイン


 巫女さん二人はボクたちに警戒している。


「神様……に何か御用ですか」

「どちら様ですかあなた方。だめですよ、神様を拝みたい気持ちはわかりますけど、信者の皆さんにはルールを守って頂かないと、早く帰って下さい」


 カリーナちゃんもミシェールちゃんも、タンポポオジサンの顔をサクっと忘れているようだ。


 さっきこの顔をイケメンとか素敵とか言ってませんでしたっけ。まあ、二秒見なかったら誰だかわからなくなるのでしょうがないんですけどね。


 ボクたちが一礼してそのまま出口に進むと、後ろの部屋から『ひえええ』という悲鳴が聞こえた。


「あああ、神様が縮んで干からびておしまいになられた!」

「大変! お亡くなりになられたの!? 神様しっかり! 私が起こしてさしあげます」


『ギャー』


「ああよかった、生きておられる」

「このお姿も神々しいですね!」


「やっぱりどことなくイケメンですよね、キスしたくなっちゃいます」

「だめですよミシェールちゃん」


『ギャー』


「神様が寝るのを邪魔しちゃだめですよ、叱られたじゃないですか」

「ごめんなさい神様」


 後ろで繰り広げられるマンドラゴラ人形をめぐるポンコツ漫才を聞きながら、ボクたちは無事脱出に成功したのである。




「見てよみのりんちゃんほら! カリーナちゃんとミシェールちゃんのサイン色紙だぜ! 最高のお宝だよ、みのりんちゃんの分もちゃんと貰ってきてあげたぜ!」

「別にいりませんけどね、そ、そんなの」


 外に出たボクを見つけてマンクが寄って来たがボクは不機嫌なのだ、ボクの分もちゃんと貰ってきてくれたのはちょっと嬉しいんだけど。


「何で怒ってるんだみのりんちゃん。そうだ、もう一枚色紙を貰ってきたんだぜ、なあこれにみのりんちゃんもサインしてくれよ。みのりんちゃんのサインもあったら最強の宝物だぜ」


「最強ですか。最高と最強はどっちが強いんですか」


「強さで言ったら最強なんじゃないか」

「ふう、仕方無いですね、色紙を貸してください」


 これではまるでボクが〝ちょろイン〟みたいじゃないですか、おかしいですね。まあボクもサインをする事に憧れのひとつもありますしね。

 えーとなんて書けばいいんでしたっけ、ボクのサインですよね。


「はいこれ」

「うひょー! 大事にするぜ!」


 マンクは『ボク』と書かれたボクのサインを、嬉しそうにその筋肉に抱き締めた。早速そのお宝をへし折ってますけど、大丈夫ですか。

 その笑顔を見てたら怒ってるのも馬鹿馬鹿しくなってきた。そもそも何で不機嫌になってたんだっけボクは。




 ボクたちはサクサクの勧めで、というかその二十七歳の女の人にガチ泣きのダダをこねられて、もう一泊温泉に滞在する事になった。


 タンポポが外に出ている間の外側のオジサンは、シロに頼んで犬小屋に格納してもらった。


「ワン」

「クロの面倒はまかせとけアオ、ですか。よろしくお願いしますねシロ。でもくれぐれも『クロ』の靴だけは取っちゃだめですからね、こんな狭い犬小屋の中では今度は戻ってこれませんから」


 みんなで手羽先を食べて温泉に入った後はお土産コーナーだ。


 ここでタンポポと二人で最後の夜の栄養補給を行うのである。そう目指すはお菓子の試食だ。

 お菓子一種類につき一人一個までというルールを作成して、端から端まで順番に攻めて行く。


 そのお菓子の試食の中でどれが一番大きいか、二人とも真剣である。


「あ、タンポポ今二つ取りましたね? ルール違反ですよ、審判を呼びますよ」

「一個取ったらもう一個がくっ付いてきたんだもん。これは不可抗力だよね、触って外すわけにもいかないし」


 うう、そんな大技を決めてくるとは只者ではないですね。


 ボクたち二人がお菓子の試食でテッカテカになった頃、カレンがどれが美味しいか聞いてきたので二人で別々のお菓子を指差す。

 カレンはその二つのお菓子を持ってお金を払いに行った。


 青い髪の少女とセーラー服の少女が満面の笑みで食べているシーンは、他のお客へのアピールにもなったみたいで、ボクたちが指差したそのお菓子は飛ぶように売れていった。


「ありがとうなお嬢ちゃんたち、これはお礼だよ持って行ってくれ」


 お土産コーナーのオジサンが、お菓子と分厚い本を一冊ずつボクとタンポポにくれた。


「ありがとうございます、でもなんですかこの本。中身〝寝るべし〟しか書かれていませんが」


「ネムネム教の経典だよ、全然売れなくて邪魔で困ってたんだ。さっきも赤いポニーテールの女の子に、もう少しで売りつけられそうだったんだけど、オジサン任務に失敗しちゃった」


 それを押し付けられても迷惑なんですけど。赤いポニテの子って、アルクルミですか。


 あの子に迂闊な売り方をするとオジサンが臨死体験をする羽目になりそうだし、ボクが受け取っておきましょう。

 お菓子のお礼に少女がオジサンを救ったのである。



 その夜はゲームしたりベッドでカレンに抱きつかれて臨死体験をした後で、翌朝無事に冒険者の町へと帰還する馬車に乗ったのであった。

 キスチスはコンパニオンという言葉がトラウマになったようである、何をさせられたんだ彼女は。


 冒険者の町に着いたのは二日後の夜だ、そのまま解散となりボクは懐かしい〝みのりんハウス〟へと帰ってきた。

 やれやれとダンボールベッドに片足を入れる。


『むぎゅ』


 何か踏んだ。


「な、何でそこで寝てるんですか魔王ちゃん……」

「帰ってきたのかみのりん、わらわの山が高いからってそう何度も踏まずともよいわ」


 お山の件は一旦い置いといて、もう一度お聞きします、何でそこで寝てるんですか魔王ちゃん。そこはボクのユートピアなんですよ、酷いじゃないですか。


「酷いのはみのりんじゃ! どうしてわらわも温泉に連れてってくれなかったのじゃ! 行きたい行きたい! わらわもみんなと温泉行きたい!」


 子供ですか。


「子供ではない! 魔王ちゃんじゃ!」

「ごめんなさい……急に決まったから……」


「みのりんたちが温泉に行ったと聞いて、わらわもあちこちの温泉に行って探したんじゃぞ」


 どこを探してたんですか、全然会いませんでしたけど。


「地獄火山じゃろ、それに鬼火山に魔火山。でもどこに行っても溶岩に浸かっておるのは、ドラゴンや火人、ウィルオウィスプだのイフリートだので、みのりんたちがいないのじゃ。お陰でわらわもふやけてしもうたわ」


 いるわけないじゃないですか。

 溶岩に入って極楽極楽できるのは魔王ちゃんくらいですよ。ボクたちだと直で極楽行きです。


 ぷんすか怒ってる魔王ちゃんの話に、ボクは朝まで付き合わされたのだった。

 ね、眠いんですけど……魔王ちゃんも眠くてフラフラになってるじゃないですか。


 朝方ボクは魔王ちゃんに一冊の分厚い本を手渡す。


「なんじゃいこれは」


 魔王ちゃんはそう言いながら、お土産コーナーで貰ったその本を開いて寝た。

 ネムネム教の経典に唯一書かれた文字〝寝るべし〟


 素直な魔王ちゃんには効き目抜群だったのだ。

 少女がオジサンを救う為に貰った本が、今度は少女を救ったのだ。


 まあ、単純に眠くて力尽きただけの気がするけど……


 そこでボクも力尽きた。


 第19話 「田舎の女子高生、神になる」を読んで頂いてありがとうございました

 次回から第20話になります


 もう一人の行方不明中のサブヒロイン、ミーシアの謎に迫ります


 次回 第20話 「ミーシア爆発阻止5秒前!」

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