その10 オジサンの行方を追跡せよ!
「おんせーん!」
次の朝もサクサクのこの寝言で叩き起こされた、ニワトリですかね。
部屋の鏡を見るとボクの顔にラクガキがされていない。
慌ててカレンの顔を確認したが、綺麗な顔で眠っているので安心しつつ彼女の寝顔にドキドキする。
「どうしたんですタンポポ、昨日寝る前にペン返しましたよね」
「さすがに寝ている女の子の服を脱がすのは、変な気持ちになってやめたんだもん」
ずっと起きていたであろうタンポポは、暇そうにペンを手でクルクル回していた。
それしかする事が無かったのだろう、プロ級の回し技に上達しているのが切ない。
「身体はわかりましたが、いつものようにボクのおでこにも描かなかったんですね」
「描こうとしたよ? おでこに今回は、昨日見た神殿で寝ているオッサンの絵を描く予定だったんだもん」
ボクのおでこを絵日記代わりにするのやめて頂けませんか。
「そしたら寝ているカレンに眠ったまま妨害された。自動防衛システムのスイッチは事前に切っておいて欲しかったかな」
そんなシステムを構築した覚えはありませんけど、そうか、寝ながらでもカレンはボクを守ってくれてたんですね。
「ふああ、おはようみのりん」
カレンが起きたので『ありがと……』とお礼を言うと、彼女は『ほへ?』と首を傾げた。
起きたサクサクがキスチスとアルクルミを温泉に引きずって行ったのを確認後、本日の作戦スタートである。
今日は参拝の後でタンポポオジサンがどこに収納されるのかを、こっそり尾行する計画にした。
収納後にタンポポが自分の身体に入って、無事脱出という算段だ。
昨日と同じように町のレストランに行ってタルトを注文。
あれ? タルトは必要でしたっけ?
ボクがそんなささやかな疑問に気が付いたのは、タルトを食べて放心した一時間後の事である。
「朝はしっかり糖分を脳に送り込まないとね!」
そんなカレンの言葉に納得しつつ、外に出て列を探した。
昨日と同じパターンを踏襲するのも悪くないか、どうせこの後お昼まで並ぶんだし。
しかし昨日と同じではない部分があった。
今日は参拝が無い日との事で、生き神様は神殿に現れなかったのである。
困った事になった、タンポポオジサンがどこにいるのかがわからない。
戻ってきた宿屋の前で、座り込んでしまったボクとカレンとタンポポの三人。
その横には犬小屋があり、今日もマンクは正座中だ。どうやら昨日も女湯を覗こうとしたらしい。
「はあ、困ったねタンポポちゃん、みのりん」
カレンの言うとおり困っているのだ、信者も誰に聞いても居場所は知らない、打開策なしだ。
「こんな時に追跡してくれる犬でもいてくれたら良かったんだもん……」
「え? 今何て言いましたかタンポポ」
よし、今度こそ映画でよくあるセリフごっこが完璧にできたぞ!
「今? みのりんは役立たずだなあって」
「またセリフのラストの『……』にそんな事言ってたんですか!」
タンポポに飛びかかるボクをカレンが慌てて制止する。
「そうじゃなくて! 犬ですよ! 犬ならいるじゃないですか!」
ボクが目をキラキラさせて指差したのは犬小屋だ。
「この筋肉男役に立つのかな」
「いえ、この正座させられている覗き魔は記憶から消していいですよ。ボクが言っているのはシロです!」
ボクの声に犬小屋から颯爽とシロが登場。
「シロ、そっちじゃありません、こっちです」
シロは、串焼きを食べているこの旅館の他のお客さんの方に全力で向いていた。
なんとなく適当に連れて来てしまったけど、シロの出番があったのだ。正座するマンクを監視する役だけじゃなかったのである。
「ワン!」
話は聞かせてもらった、俺にまかせろ『アオ』ですか。
おお! 頼もしいですよシロ! 相変わらず何故シロの言葉がわかるのか謎ですが。
「シロ、これが探して欲しいオジサンの臭いです。『クロ』ですよ知ってますよね、よく嗅いで覚えて下さいね」
「なんだか複雑な気持ちなんだもん、せめて『臭い』じゃなくて『匂い』にして欲しいかな」
タンポポをクンクンしていたシロは、こっちだ! とばかり道に駆け出して行った!
素晴らしい野生の躍動感だ、ようやくの出番にシロが生き生きとしていた!
そしてランニング中のオジサンに跳ね飛ばされた。
「あああシロ!」
慌ててシロの口に回復薬を放り込む。
「お嬢ちゃんのワンちゃんかい? ダメだよ突然道に飛び出しちゃ」
「ご、ごめんなさい」
「クーン」
オジサンに怒られたがシロはめげない、彼には使命があるのだ。
そのまま通りを猛ダッシュで駆け抜けていくシロを、ボクたち三人は必死に追った。
「待ってくれみのりんちゃん、俺も行く! 俺にも活躍の出番をくれ~」
後ろから追いかけてくるのはマンクだ、今回の旅でアレにも何かの役に立つ出番があるのだろうか。
「ワン!」
シロが立ち止まったのはヤキトリ屋台の前。
「ここ?」
カレンが不思議そうに聞く。
「ワン!」
「ドヤ顔で立ってますけど、シロはヤキトリが食べたいだけじゃないですか」
この犬本当に役に立つのだろうか。
ジト目で見つめるボクからシロが視線を外した。
カレンが買ってくれたヤキトリを食べたシロは、今度こそ目的地へと走り出す。
因みにカレンが買った一本のヤキトリは皆で分け合って食べた。
「何で俺は串だけなんだよ!」
走りながらマンクがカレンに文句を言っている。
「仕方無いでしょ、串にお肉四個しか刺さって無かったんだから。それに女の子がお肉をかじった串だよ? 嬉しいでしょ」
「うおおおお! そう言えばそうだった! こいつはお宝ものだぜ! ひゃっほーい! ペロペロペロ!」
最後にかじったのシロですけどね。
「ワン!」
シロがドヤ顔で立ち止まったのは、意外にもネムネム教団の建物だった。
本来ならここで他にも何回か串焼き屋台に行ったり、串カツ屋台に行き、マンクが串をペロペロするドタバタを繰り返すのがお約束なのだろうが、シロもめんどくさくなったのだろう。
こっそり近づくと、窓から巫女のカリーナちゃんとミシェールちゃんがいるのが見える。
ここで間違いない、見つけた、タンポポオジサンはここにいるのだ。
次回 「「キャー! 目が!」阿鼻叫喚になった」
みのりん、女の子にデレデレのマンクにぷんとなる