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その4 洗濯場の戦い・スカートの中に幸せはあるのか


「そろそろお昼ごはんにしましょうか」


 帰ってからやることもないので、受付の横に座り、冒険者と受付のお姉さんのやり取りを聞いていたボク。

 ちょっとしたお手伝いでペンを渡したり紙を取ったり、話にうんうん頷いたりしてちょっと受付のお嬢ちゃん気分を楽しんでいた時だ。


 お姉さんはバスケットからパンを取り出すと、それを半分に千切ってボクに差し出した。


「近所のパン屋さんの商品です。このパン美味しくて大好きだけど、大きすぎて困っていたんです。私のダイエットの為にも半分処理していただけないですか」


「あ……ありが……ます」

「はい、私もありがとうございます」


 これは、ボクが朝に自分がパンをチラしながらチラ見していたパンじゃないか。あの危険物が手に入るなんて思ってもみなかった!

 受け取ったパンをかじってみると、これが美味しい!


「それ、〝やんばるトントン〟のハムと、〝のっぱらモーモー〟のチーズが挟んであって美味しいですよね、私も大好きです」


 と、受付助手のお姉さんが飲み物を持ってきてくれる。


 この世界のモンスターは何故こんなにも美味しいのか。

 モンスターにしておくのが勿体無い話である。


「みのりんさんにもう一度おつかいを頼まれて欲しいんですけど、いいですか?」


 ボクがパンを食べ終わるのを待って、受付のお姉さんはきりだした。


 二人の女性に見つめられての食事は、生きた心地がしなかったけれど、美味しくてすぐに食べてしまったのでそんなに待たせてないと思う。

 美味しさで五分くらい呆けて気絶していたけど、それは皆も同じはず、こればかりはどうしようもない事なのだ。


 また脅迫状かな、と思ったけど渡されたのは小さな袋、中には平べったくて丸いものが入っている。

 

「お金ですから落とさないでくださいね、それを届けて欲しいのです。成功報酬として今夜の宿泊代はチャラですよ」


 ボクは青くなった。


 オバケが出るという食堂……

 もちろん、こ、怖くなんかないけど、木の棒を握り締めて寝ていたせいで、手に跡がつくほど痛いのだ。


 木の棒で完全武装していたボクの隙をついて、オバケは顔にイタズラ書きをしていった。

 もう嫌だ、今夜はどこかの路地裏で寝ようと思う。


「晩ご飯に、やんばるトントンハンバーグも付けますよ」

 引き受けましょう!


「それに女の子が路地裏で寝るなんて考えては絶対にダメですからね、みのりんさん。オジサンや男の子なら、路地裏でゴザでも敷いて寝ている途中で、溝に頭を突っ込んでても一向に構わないんですけど」


 オジサンと男の子の扱い随分ですね。


 ところで路地裏って何の話でしたっけ、やんばるトントンハンバーグの話ですよね。

 ボクの思考はお肉の味で占領されていて、他が思い出せないんですが。


 現在のボクの頭の中は、お肉10・その他0だ。



****



 門寄りではあるが、町の中心付近にある冒険者ギルドを出て、くるりと向きなおし、今朝進んだ方角とは反対に向かう。


 商業地区の反対側は歪な楕円形に膨らんだ住宅区らしい。他にもギルドの左右には生産地区だの宿泊地区だの学校、神社やお寺、教会に神殿があると聞いた。


 住宅区も賑やかで、奥さん達の井戸端会議に走り回る子供達、犬にちょっかいを出してお尻に噛み付かれてるオジサン、商業地区の物資と合わせてこの国の豊かさがわかる気がする。


 町には何本かの川が流れている。その川沿いにいくつか設けられた広場が洗濯場になっているみたいで、何人かの女性たちが笑いながら洗い物をしていた。

 洗濯は手洗い、川に洗濯物を付けてモミモミしている、洗剤を使わない環境に優しい洗い方だ。


 そんな様子を橋の上から眺めていると、やってきた女の子が洗濯を始めるのが見えた。

 ミニスカートで屈んだりしゃがんだり、一生懸命洗っている。


 何の気なしに見ていると、その洗濯場にオジサンがやって来て、休憩する様子で女の子の真後ろにあるベンチに座った。

 お昼の、のんびりとほのぼのとした風景である。


 オジサンは目の前の女の子を微動だにせず眺めていたが、疲れているのか頭が重いのか、だんだんと姿勢が低くなってきている。


 女の子は屈んで洗濯物を絞る、オジサンはさらに低くなる。

 身体が辛いのなら帰って寝たほうがいいのに、と思っていたらオジサンが寝た。


 そこでオジサンに気がついた女の子。

〝少女が身体の悪い男性を助ける風景〟を眺めるのもいいけど、ボクも手伝って助けに行かなきゃと、歩き出して止まった。


 ボクが見た風景は土下座しているオジサンだった。


 凄い剣幕で女の子が怒っている、オジサンはひたすら土下座。

 何が起こっているのかさっぱりわからないけど、あの子怖い。


 オジサンは、『かんにんや~かんにんや~、お菓子あげるから許したって~』とでも言っているのか、女の子にお菓子を握らせ、彼女がお菓子に気を取られた隙に土下座したまま逃走していった。手馴れた逃亡劇だ。


 今見た光景に橋の上で固まってしまった、何があの子の逆鱗に触れたのだろうか。さっぱりわからないがボクも気をつけようと心に誓う。


 ボクの事だから、あの子と知り合う事なんてまずないと思うけど、こうやって橋の上から眺めていた事に気が付かれたら一巻の終わりだ。

 目撃者は闇に葬られてしまうのだ。


 早く立ち去ろう……

 歩こうとしたら女の子がこっちに気がついた。


 マズイ完全に見つかったようだ、ボクに向かって手を振ってくる。


 カレンだった。


 次回 「女の子が感じる甘いってこんななの!?」


 みのりん、最後の晩餐をとる。

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