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その8 アイドルが勝つかタヌキが勝つか


 止むに止まれぬ事情で偶然並んだ行列が、実はボクたちの目的である相手の列だったなんて、『とりあえず列があったら並ぶ』というのは正解なのかもしれない、さすがタンポポだ。


 でもそのタンポポが、行列に興味を失って離れようとしているのはどういう事だよ。


「ちょっと、どこに行くんですかタンポポ」

「このまま並んでたってお饅頭を貰えないのに、並ぶとかわけがわからないんだもん」


 た、確かに。お饅頭をくれない行列なんて意味がわかりません。

 ボクだって『騙したな! ボクの心をもてあそんだな!』と叫びたいのは山々です、でも並ぶしかないじゃないですか。


「オッサンを拝めるだけのつまらない行列に、並ぶ意味が無いんだもん。あんなオッサン見てもしようがない、ただのオッサンだよ」


「そのただのオッサンがボクたちの今回の目標物なんですよ」

「この先にオッサンがいる、それだけで十分じゃないかな、わざわざ並ばなくても横から入ってしまえばいいんだもん」


 なるほどタンポポのが正論だ、イベント入場やラーメン屋の行列じゃないんだから横入り禁止とかマナーを論じている場合じゃないんだ。ボクたちは救出に来たんだった。


「私もそう思って先に行ってみたんだけど、列に並ばない人を見張る厳重な警備があって、この列に並ばないとダメみたいだよ。私も摘み出されちゃった」


 できる子カレンは既に実践してくれていたようだ。


 というわけで、ボクたち三人はタンポポオジサンを拝むというアホくさい行列の最後尾に並ぶハメになったのである。


「これを持てってさ」


 カレンが高く上げているのは『最後尾』の札だ。その札は新しくやって来た人の手から手へとどんどん渡されていった。


「あんたたちも生き神様を拝みに来たのかい?」

「え、ええ。拝みに来たというかなんというか」


 他の信者が話しかけてきた。人の良さそうなお婆さんである。


「神様を見られるなんて本当にありがたい、あんたたちも初めて見たらびっくりすると思うよ。わしゃ百年くらい寿命が延びたようじゃ」


 いくつまで生きる気ですか。


 でもごめんなさい。初めてどころかそのありがたい神様ですが。

 そこにいるカレンは転生初日にボコボコにしたし、セーラー服の女子高生は蹴ったりエルボー食らわせたり、ボクは顔を踏んだり靴下乗せたりしてました。


 まさか神様だとは思わなかったものですから。



 どのくらい並んだだろうか、お婆さんの『生き神様とわたし』という長大ロマン物語を聞いているうちにいつの間にかお昼近くになっていた。


 生き神様饅頭や生き神様Tシャツの売り子が見える。昔の映像でこういう駅でのお弁当立ち売りのシーンを見た事あるなあと考えていたら、本当にお弁当屋さんが来た。


「あ、オジサン。生き神弁当三つ、生き神茶も三つ貰おうかな」


 カレンがお弁当とお茶を買ってくれた。それにしてもここ数日間で早速商売化するとはたくましい限りである、神様の肖像権とかどうなっているのだろうか。

 しかしお弁当の前ではもはやどうもいい事だ、三人は一心不乱でお弁当を食べた。


 ようやくボクたちの参拝の番になったが、遠くの神殿の上に乗せられたダンボールハウスの中に、ゴザをかけられたオジサンが寝ているのを見るだけ。

 ボクたちの前の信者は涙を流して喜んでたけど、そんな価値がある姿とも思えなかった。どう見てもただのオジサンである。


「ふうーやれやれ、やっと順番がまわってきたかな、それじゃオッサンを起こしに行ってくるんだもん」


 そのままオジサンタンポポに向かって歩き出したタンポポを、一人の少女が止めた。


「ダメですよあなた、いくら近くで拝みたいといっても大切な神様ですからね、近寄ってはいけません」

「なんなのかな、私はあのオッサンの関係者なんだけど」


「関係者を装って近づく人は多いんですよ、貴女も巫女なのですか? 変な格好してますけど」


 あなたも巫女なのか聞くという事は、この少女も巫女なんだろうか、確かに一般人とは違う宗教めいた服装ですね、ミニスカートですけど。


「私たちは冒険者の町からやって来たんだよ、あの人はタンポ男君って言うんだけど友達なんだよね」


 カレンがタンポポの隣に立った。


「あなた方も冒険者の町のお客様ですか。私はネムネム教の巫女カリーナちゃんです。冒険者の町の神殿でアイドルお布施コンサートをやってるんですよ」


 ここで新キャラですか。


 今回はキャラが多すぎて混乱するので、新人は無しでお願いしたいのですが。

 ん、巫女さんアイドルのカリーナちゃん? どこかで聞いた事あるぞ。


「生き神様は冒険者の町に光臨なされたのを、私たちが発見してこちらにお連れしたのです。申し遅れました、私は同じくお布施会の巫女ミシェールちゃんです」


 また増えた!


 えーと確か巫女さんアイドルグループ親衛隊隊長のマーくんがカリーナちゃんの足のファンで、隊員のヨシオがミシェールちゃんの足がお気に入りでしたね、なんだこの情報は、どこでインプットした情報だっけ。


 マーくんとミっちゃん。ああ、マーくんはミっちゃんから無事逃げ切れたのだろうか。


「ねえカリーナちゃん、この子生き神様が従えている精霊に似てないですか」

「えーとどれどれ」


 ミシェールちゃんに言われて、カリーナちゃんが出してきたのは一枚の絵。

 そこにはセーラー服を着た精霊が描かれていたのだが、頭に触覚があって背中には羽が生えていた。


「羽も生えてないしコスプレの子じゃないかなあ」


 その絵は一体なんなのですか。


「これは神官様が、見かけた精霊を絵に描き起こして下さったのです。確かこんなもんじゃろうとか言って」

「どうして……精霊だと……」


「壁をすり抜けて移動していたそうですよ」


 タンポポ、これからは誤解を受けないように、ちゃんと出入り口から出入りして下さいね。


「とにかくあのオッサンを起こしてしまえば早いんだもん、ちょっと顔面でも蹴って叩き起こしてくる」


 タ、タンポポ、顔はやめてあげて下さい、オジサンが可哀想なのでせめてボディでお願いします、というかあなたの顔ですよねあれ。


「そんな恐ろしい事はさせませんよ! 神様への冒涜は絶対に許しません!」


 カリーナちゃんがタンポポの前に立ちはだかる。


 タンポポは右から行くと見せかけてフェイントで左から抜けようとしたが、カリーナちゃんがそれを阻止。

 サッ! サッ! ササッ!


 タンポポのあらゆる動きもカリーナちゃんに封じられていく。

 なんというフットワークの軽さだ。


「私は生半可な気持ちで巫女アイドルのコンサートなんかやっていませんからね、コスプレ一般人の動きなんか軽くついていけますよ。アイドルを舐めないでくださいね」


「私だって田舎でタヌキを捕まえるのに得た、素早い動きには定評があるんだもん。田舎のJKを舐めると痛い目見るんだもん」


 アイドル少女VS田舎の女子高生、これは見ごたえのあるバトルである。

 互いの動きには一切隙がない。こんな白熱した戦いを見るのは初めてだ。


「はあはあ、あなた中々やるわね、アイドルグループに勧誘したいくらいだわ」

「タヌキの会が忙しいからね、そこは報酬次第かな」


 そこにミシェールちゃんも参戦してきた、さすがに二対一では田舎の女子高生に分が悪いか。


「タヌキが増えたんだもん、ずるい! 二狸追うものは一狸も得ず、で毎回これにやられたんだもん」


 二狸一狸ってどう読むんですかね、ニリイチリ? 変なことわざを新作しないで下さい。


「カレン……」

「うーんどうしようみのりん、相手が女の子だから手荒な行動ができないよ、オジサンだったら強行突破するんだけど」


 そうですね、ボクも女の子二人を突破なんて一生かかっても無理なのです。


「あのタヌキーズを突破するのはちょっと厳しいかな、夜にこっそりまた来るんだもん。目標がタヌキじゃなくてあのオッサンだと思うと、私もやる気の十パーセントも出せないし」


 タンポポが諦めて帰ってきた、というかあの人たちタヌキじゃありませんからね。あとやる気も出せ、タヌキ以下ですかあのオジサンは。


 一旦撤収して暗くなってからボクたちは神殿に来たのだが、中はカラッポ。


 どうやら夜はどこかに収納されているみたいだったのである。


「これは盲点だったね、みのりん」


 そうですねカレン。考えてみたら出しっぱなしのわけがなかったんですよね。

 出したら片付ける、当たり前の話でした。


 次回 「お風呂で美少女のお酌だ、ガハハの巻」


 みのりん、サクサクにとっ捕まる

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