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その4 魔族の里に行ってみた


 結論から言うと、ボクは銀竜に乗せられて魔族の里への飛行中だ。


 町の外に出るまでの間も商業地区や商店街で、興味津々の魔王ちゃんによるドタバタ騒ぎがあったり、呼び寄せた銀竜による一悶着があったりした。

 魔王ちゃん絡みは話がサッパリ進まなくて困るのだ。


 銀竜は素晴らしい速度で大空を飛行している、が、ボクには景色を楽しむ余裕も飛行を楽しむ余裕も無い。

 前回銀竜に乗った時と同じく魔王ちゃんとカレンに挟まれて、くたびれた毛布のように運ばれていたからである。


 カレンはロングソードこそ腰に付けたが、今回はいつもしている簡単な胸当ての鎧を外していたので地獄で天国のサンドイッチが凶悪な破壊力を持っていたのだ。


 そういえば前回のサンドイッチも、カレンは鎧を付けていなかったんだっけ。

 魔族の里に着いて銀竜から下りた頃には、ボクの口からは涎と魂みたいな何かが垂れていただろう。


「すっごく楽しかったね、みのりん! でもちょっと寒かったかな、みのりんが暖かくて助かっちゃった」


 トドメを刺しにくるのはやめて下さい、さっきまでの背中に感じていたカレンの温もりを思い出しちゃうじゃないですか。

 ボクは真っ赤になりながら周囲を見回す。


 そこは初めて見る世界、魔族の里なのだ。

 なんと言うか……拍子抜けだ。


 魔族の里と聞いて、火山が火を噴き、溶岩が流れている暗くて真っ赤な世界を、そしてそこを魔族やモンスターが闊歩している図をイメージしていたのだが。


 実際に目の前にあるのは、実にのどかな風景なのだ。

 目の前では魔族のオジイが、腰を叩きながらクワで畑を耕していた。


「おおう、魔王様。今日もめんこい足じゃのう、すべすべじゃのう、すりすり」

「魔王様ではなく、魔王ちゃんと呼べと回覧板を回したじゃろう」


「あんだって?」

「魔王ちゃん!」


「ああんちゃん? ああすりすり」

「もういい。行くぞ、町はこの先じゃからそこまで歩こう。銀竜はもういいぞ、どこかで遊んでおれ」


「まったねー!」


 カレンが飛び去る銀竜の後姿に手を振っている。

 ボクも振っているが、僕が振っているのは手ではない。


 銀竜が飛び立つ時の衝撃で吹っ飛んで、近くのリンゴの木の枝にぶら下がって身体が揺れているのだ。


「おお、これは可愛い幸せのリンゴが生ってますのじゃ」

「そこの魔族のオジサン、真下から拝むのはやめてもらえませんかね。とりあえず収穫して頂けると助かるのですが」


 カレンと魔王ちゃんに収穫してもらって町を目指す事になった。



 町までは、牧歌的な風景が続いた。

 畑を耕す者、カゴに果物を入れて歩く女の人、木の枝にうんこを刺して友達を追いかける子供、どこにでもある田舎の風景だ。


 歩く先にやがて町が見えてきた。

 町と言っても森の中に家が建っていたり木と家が合体していたり、今まで暮らしていた冒険者の町とは異質で、ここでようやく異文化の地に来たんだと実感できた。


 今住んでる町と同じでは、遥々ここまで死に掛けながら飛んできた甲斐がないというものだ。


「おおー魔王様じゃ。今日もすべすべ足じゃ」

「魔王様ー。この感触たまらんわい」

「魔王様すりすり」

「すりすりすべすべじゃー」


 そして目の前にも異質な光景があって微笑ましく思う、魔族たちが魔王ちゃんの足を触ったり頬ずりしたり……

 ちょっと待ってもらっていいですかね、これって微笑ましい風景で合ってるんでしたっけ。


「ちょっとあなたたち! 魔王ちゃんから離れて! それセクハラ! ダメ!」


 声を上げたのはカレンだ。


「さっきも畑仕事してたお爺さんが、魔王ちゃんの足に頬ずりしたの見ておかしいと思ってたんだよ」


 うん、ボクも気が付いてましたけど、めんどくさいのでスルーしてました。


「魔王ちゃんもおかしいと思わなきゃダメだよ、ちゃんと言ってあげないと」

「うん? ああそうじゃな、そうじゃった。お前ら! 魔王様じゃなくて、魔王ちゃんと呼べって何度も言っておるじゃろう!」


「そこじゃなくって!」

「違ったか? 足? こいつら大体こんなんじゃぞ? 挨拶にわらわの足を触ってくるが」


「なんだなんだ、この人間の娘、ワシらにケチをつけようという気か!」

「とんでもねーヤツだな!」


 近くの魔族も集まってきた、これはまずい雰囲気か。


 異文化には異文化の長年のしきたりがあって、それを否定して戦争とか勃発したらまずいぞ。

 ネギ屋の時だって何が起こるかわからないからボクは従ったんだし。


「お願いですじゃ~、ワシらの生きがいを奪わんでくだされ~」

「俺たちの唯一の楽しみを奪うなああ、見逃してくれ~」

「すべすべが気持ちいいんじゃあ~」

「ワシらに死ねと言うのかあああ」


 なるほど、しきたりとか関係なかったようだ。冒険者の町にでもどこにでもいるただのオッサンだ。


 まるで命乞いでもするかのように、必死にカレンにすがり始めた魔族のオジサンたちをボクはジト目で見ている。


 オッサンはどこの世界でも違和感なくオッサンなのである。


「わ! ちょっと! 泣きながら私の足にすがりつくのはやめて!」


「ええのーええのー、人間の娘っ子の足もすべすべでええのー」

「ホントに生き返るわー」


「こっちの青い髪の子の足もすべすべじゃあ」

「百年生き返るようだわー」


 ちょっとやめて頂けませんか、魔王ちゃんなんとかして。


「ねえ魔王ちゃん、この近くに川あるかな。ちょっと行ってこのオジサンたちを川に捨ててきていいかな?」


 カレンの言葉にオジサンたちはサっと散っていった。

 この逃げ足の速さも、いつもボクが目にしているオジサンたちだ。


「魔王ちゃんも気をつけなきゃダメだよ」

「わらわは別に構わんぞ? 減るもんじゃなし」


 困った顔のカレンに魔王ちゃんはポカンとしている。

 そんな天使みたいな事を言ってるから、オジサンたちが群がって来ちゃうんですね。


「天使? わらわは魔王ちゃんじゃぞ?」


 そんな返しは欲しくないです。



「魔王さまなのだー!」


 その時、通りの向こうから飛んできた少女がいた。

 飛んで来たは比喩ではない、文字通り背中の翼で飛んできたのだ。


 パタパタと飛んできたのならまだ可愛らしい。


 しかしその子は、壁でもぶち抜くのが目的みたいに突入してきたのだ。


 次回 「魔王ちゃんの側近キルギルス」


 みのりん、突撃を食らってカクンとなる

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