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その12 恐怖の女の子サンドイッチ


『グオオオオウ!』


 銀竜が再度咆えると後ろの建物ごと傭兵たちがぶっとんだ。


「撤退しろ!」


 副官みたいな人が指揮しだして、呆けている団長ちゃんを数人の傭兵が抱える。


「おやび~ん! 逃げやしょう。ヒドラ取られちゃったらもうダメだ。アレはホンモノの魔王だ、手を出しちゃまずかったんでさ」

「ひー太郎ーー、ひー太郎おぉ」


 涙目の団長ちゃんを抱えて逃げ出す傭兵団に、魔王ちゃんの目が妖しく光った。


「わらわから逃げられると思うのか、あほう共が。銀竜――」


 カレンが慌てて銀竜と魔王ちゃんの前に立ち塞がった、小脇にはボクを抱えているのである。


「ここで戦うのはまずいよ魔王ちゃん、村が壊れちゃう!」


 魔王ちゃんはカレンに言われて周りを見回した。


 ヒドラに吹っ飛ばされて大穴を開けた建物二棟、銀竜の咆哮で吹き飛んだ建物一棟(後で聞いた話によると、全壊した建物は村長さんのコレクションが詰まった個人美術館だそうだ)村の被害は甚大である。


「そ、そうか、すまない事をしたな」

「いいんですよ、細かい事は」


 素直に謝る魔王ちゃんに村人たちは笑って対応してくれた、ただ村長さんだけは号泣である。


「とにかく傭兵団を追うぞ、みのりんとカレンも銀竜に乗れ」


 銀竜がボクたち二人を咥えて背中に乗せてくれた。


 ただボクだけは丸ごと口の中に咥えたのは何故ですか。

 ベチャベチャじゃないですか、こういう愛情表現は困ります。


「うわー、うわー、すごーい! 飛んでる!」


 初めて新幹線や飛行機に乗った子供みたいにはしゃいでいる。違うぞ、ボクではないぞ、はしゃいでいるのはカレンだ。

 その姿がめちゃくちゃ可愛いから困る。


 もちろんボクだってはしゃぎたいのは山々なんだ。

 でも魔王ちゃんの後ろに乗せられ、彼女の銀色の髪のいい匂いに襲われて、更にボクの後ろにはカレンときた。


 女の子二人に挟み込まれるだけでも一大事なのに、カレンはボクが落っこちないように後ろから抱き締めてくるという念の入れようだ。

 ボクはこれを地獄で天国のサンドイッチと名付けようと思う。


 あの……カレンさん、背中に当たってるんですけど……


『フシュウウウウ――』


 ボクにだけ聞こえる、ボクのヒットポイントが落ちる音を聞きながらカクンとなる。


「ああみのりん! フシュウウウって」


 慌ててボクの口に回復薬を放り込むカレンにも、この音は聞こえていたようである。

 さすがはボクの相棒だ。心が通じているのだ。


「なんか変な音がしたようじゃが大丈夫か?」


 あなたにも聞こえているんですね、さすがはボクの同種族。


 銀竜も心配そうに振り向いた。

 どうやら全員に聞こえていましたか。



 傭兵団は草原を逃げる。

 その前方に降りる銀竜、降りるというか隕石が落ちたようなもんだけど。


『ズドオオオオオオオオオオオオオオオオン!』


 という振動で傭兵もボクたちも全員がひっくり返った。

 草原の遠くでは何体かの〝のっぱらモーモー〟もひっくり返っている、迷惑な話である。


「ここならばこの草原ごと、こいつらを消し飛ばしても大丈夫じゃろ?」


 ポカーンと見上げる団長ちゃんを見て、さすがに消し飛ばすのは可哀想な気がしてきた。

 この人お尻が可哀想な子なんだし、穏便に済ませられませんか。


「みのりんはそれでいいのか? まあこいつらの出方によっては穏便に済ませてやってもよいだろう」


 魔王ちゃんが銀竜の背で立ち上がった。風が吹き魔王ちゃんの銀髪とスカートが舞う。


 彼女のお尻はボクの顔の真正面なのである。

 カレンが真後ろから手を伸ばして魔王ちゃんのヒラヒラ舞うスカートを押さえ、パン的な危険物がボクの目を突き刺さないようにしてくれた。


「聞け! 傭兵共! お前ら先ほどわらわに土下座せよと申したな!」

「め、めっそうもございません」


 傭兵たちは完全に戦意を喪失していたようで、全ての武器を投げ出し降伏の一歩手前の様子である。


「むしろお前たちがわらわに土下座して謝罪せよ! わらわの胸に暴言を吐いた事をひれ伏して謝れ! あれだけは絶対に許せんぞ!」


 そこですか、こだわりますね、いいじゃないですかさすがにもう。山だけじゃなくて心も小さいですねあなたは。


「少なくともコイツよりは山が高いわ!」


 ボクを指差した魔王ちゃん。


 暴言吐きましたね! 絶対に許しませんよ! そこはボクはこだわりがありますからね!


 立ちあがって胸を張り合いだしたボクと魔王ちゃんのスカートを慌てて押さえるカレン。


 銀髪と青髪が、そしてスカートが風で絡み合う姿はどう映っているのだろうか、団長ちゃんと傭兵たちはただ見上げるだけだった。


 傭兵たちはひれ伏して魔王ちゃんに謝罪して、何故かボクにも詫びを入れた。

 ちょっと傷ついたんですけど。


 カレンの提案で村に戻り、壊された村の再建を傭兵たちが手伝う事になった。

 村人たちと協議して行くあてが無いのなら、いっそこの村に住んではどうだろうかという事で落ち着いたのだ。


 ヒドラも団長ちゃんに返す事になったので、ヒドラ付きの傭兵団が駐屯すれば、今後ゴブリン軍のウサ晴らしに付き合わされる必要が無くなったのかも知れない。

 それは村としても大いに歓迎する事だったのだ。


 団長ちゃんは感激して、魔王ちゃんとカレンに抱きつきボクを肩車した。


「いいかお前ら! これからはこの村が俺たちの心のアジトだ! 全力で守るぞ!」

『おおー!』


 団長ちゃん、ボクを下ろしてから指揮してくれませんかね。これはお尻の事を言った仕返しですね?

 謝りますので、肩の上でカクンとなった少女をそろそろ許してくれませんか。


 そして魔王ちゃんはもう一つの要求を彼らに突きつけたのである。


「わらわの事はちゃん付けで呼べ! わらわは魔王ちゃんじゃ!」


『ま、魔王ちゃん!』


「もう一回じゃ!」


『魔王ちゃん! 魔王ちゃん!』

『魔王ちゃん! 魔王ちゃん!』


 魔王ちゃんを正面に置き、傭兵団が武器同士をぶつけ合い、盾や槍で地面を叩く。


『ガキガキ!』『ドスドス!』


 声と音が重なって一つの巨大な音になっていった。


 強そうなんだか弱そうなんだか、よくわからない傭兵団が生まれたようである。


「うむ!」


 魔王ちゃんが満足したのでそれでいいか。


 そしてカレンは切り落としたヒドラの首のお肉を入手して、これまた満足そうなのであった。


 いつの間にお肉に解体していましたか、この人。


 第17話 「ヒドラ傭兵団」おしまいです

 読んで頂いてありがとうございました


 次回から18話になります


 次回 「カレンの師匠と復活の山」

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