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その10 圧倒的な絶望


 その場にいた全員が唖然として、魔王ちゃんが吹っ飛ばされていった方向を見つめていた。


 へし折れた大木から飛び立った無数の小鳥たちが、他の木や村の建物の屋根に止まって行った。


「お、俺は何も言ってねえぞ、あのガキがヒドラを挑発するから。こ、こんな事初めてだよ。どうしたんだよヒドラ」


「団長……」

「あーあ、団長、結構可愛かったのにもったいねえなあ」

「あの銀髪っ娘のツインテール姿も見てみたかったのに」

「女の子を絶対に傷つけるなって、常日頃から言ってるの団長なのにさ」


「ま、待てってお前ら、俺は本当に何も命令してないって」


 可愛い可憐な少女を吹き飛ばした事がショックだったのだろうか、団長も団員も混乱してうろたえているようだ。


「ギリっ」


 食いしばった歯を鳴らしたのはカレンだ、魔王ちゃんのカタキを討とうとロングソードを握り締めている。

 ボクもカレンに続こうと木の棒を握り締めた。


「たぶん絶対勝てないだろうけど、今のは許せない。いくよみのりん」


 うん、この木の棒だって、狙う箇所によっては団長に悲鳴くらいは上げさせられるはず。


 団長が二人の殺気を感じたのか、お尻をおさえてこちらに振り向いた。

 チっ、殺気には敏感ですね、さすがは傭兵ですか。


「あ、悪魔かお前ら」


 魔王ちゃんに悪魔みたいな事をやらかしたのは、あなたですよね?


 しかし、魔王ちゃんは出てきた。

 何事も無く平然とした面持ちでこちらに歩いてくる。


「お、おい生きてんぞ」

「木が柔らかくてクッションになったのか?」

「あ、あれか。高い所から落ちたら、木の枝が衝撃を抑えるクッションになって助かるやつか」

「良かったー」


 大木を二本、根元からへし折ってますけどね、魔王ちゃんは。


「全く、もう少し手加減というものができんのか、全力でぶつかりおってからに」


 魔王ちゃんが再度ヒドラの前に立った。


「び、びっくりさせやがって。おいヒドラ、もう大人しくして――」


 ヒドラがもう一回魔王ちゃんに突撃した!


 驚愕する団長と傭兵たちの目の前で、魔王ちゃんは再度吹っ飛ばされて、分厚い岩の塀を砕き、建物の石の壁に激突して大穴を開け、その向こうの建物の壁にも穴を開けた。


 誰もが無言のままその穴を見つめている、普通なら完全に死んでいる。


 目の前で少女が一人死んだのだ。


 だが、魔王ちゃんは出てきた。

 建物に開けた穴から這い出して歩いてくる、その魔王ちゃんの身体には洗濯物が一杯絡んでいた。


「なんだよあれ……」

「何であの娘は生きてんだよ」

「人間ならとっくに死んでるぞ」

「な、何者だよ」


 さすがに傭兵たちはパニックになりかけているようだ、自慢のヒドラの必殺の一撃が全く効かない相手なのだ。

 こんな敵と遭遇したのは間違いなく初めてなのだろう。


 魔王ちゃんは身体にまとわり付いた洗濯物を剥がして丁寧に畳むと、近くにいた村娘に手渡す。

 そしてぷんぷん怒りながらスタスタとヒドラに三度(みたび)近づいて行った。


「お前! お前だよお前! 里のモンスター共ですら最近は遠慮して一回ぶつかってくるだけなのに二回とか、躾けがなってないぞ! 傭兵の連中も許さんからな!」


 そう言って大空に向かって高く右手を上げる魔王ちゃん。


「銀竜――――――!」 


「な、なんだ? 攻撃スキルか?」

「ま、魔法の発動じゃないのか」

「やばいぞ」

「総員対スキル、対魔法防御!」


 ビビって傭兵たちが身構えている。

 魔王ちゃんが手を高く上げた姿勢のまま十数分が経過。


 どことなく魔王ちゃんの顔に焦りの笑みが見えているような…… 

 あ、ちょっと震えてる。


「なんの冗談だよ、何も起こらないじゃないか」

「ビビらせやがって、ろくな大人になれんぞ」

「まあまあ、少女は夢見がちなんだよ」

「俺も昔は右手をドラゴンハンドって呼んでたしな」


 恥ずかしい過去を晒しつつ、傭兵たちが安心して警戒を解いた時だ。


『ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオン』


 一体の巨大な竜が、魔王ちゃんの真上に落ちてきて彼女を踏み潰したのである。


 衝撃で全員がひっくり返った。

 当然ボクとカレンも尻餅をついたのだが、幸せになった傭兵たちが二人に携行食のパンや飴をくれた。


 魔王ちゃんが銀竜の下から這い出てきて怒る。


「銀竜! キサマ、あれほどわらわの前か横か後ろに降りて来いと何度も何度も注意しとるのに、何で毎回毎回わらわの上に落ちるんじゃ! ホントいい加減にしろ!」


 魔王ちゃんを咥えて背中に乗せた銀竜はすまなそうな様子。


「あと来るのが遅い、ちょっと間が持たなかったぞ! 傭兵どもにいいように言われて泣きそうになったじゃないか」


 もしかしたら銀竜は魔王ちゃんに呼ばれてから、超特急で魔族の里から飛んできたのかも知れない。

 最初隕石が落ちてきたのかと思ったほどだ。


「おいちょっと待て、銀竜? 今、銀竜って呼んだか、いや間違いなく銀竜だこれ」

「おいこれまさか」

「まお――」

「銀竜の魔王――」


 今更ですか、でもさっきまでぷんぷん怒っていた銀髪の少女と、竜の背中に乗った銀髪の少女が、同一人物だとは思えない程の迫力があるのは確かである。


 そう、心して見るがいいさ、今こうやって傭兵団とヒドラを見下ろしているのは銀竜の魔王その人なのだから。

 冒険者が束になったって、軍隊が戦ったって勝てやしない、圧倒的な絶望がそこにいるのだ。


「わらわは銀竜の魔王! いや魔王ちゃんじゃ! 人間共よ、お前ら覚悟はできてるんじゃろうな?」


 次回 「怪獣大戦争と団長の秘密」


 魔王ちゃん、ツインテールになる

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