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その8 土下座かお嫁さんになるか


 同時に三本落とせなかったヒドラの首。


 カレンは石をぶつけられた肩を押さえてうずくまっていた。


「やあ、すまんすまん。ちょっと投球練習してたら腕がすべっちまったわ」


「卑怯だぞ……!」


 カレンが団長を睨む。

 団長は睨むカレンにおどけるような仕草をして挑発しているが、大人気ないですよあなた。


「おいおいなんて事してくれるんだよ、ヒドラに謝れや。ヒドラちゃん痛い痛いしちゃったじゃないか、お前責任取れよおい」


 ヒドラの方はもう首を再生していた、瞬時に首を全部落とさないと討伐不可能なのは伊達じゃないという事か。


「ヒドラに土下座、団長専属の御側付き、俺のかわいいお嫁さん。三択だ、どれか選べ!」


「親分だけずるいぞ!」

「うるせーな団長と呼べっつってんだろ! お嫁さんにするってのが一番の理想なんだがしょうがねえな、じゃヒドラに土下座で許してやるよ」


「何が土下座だ! 卑怯だぞ! お前ら全員反則だ! 審判を呼べ!」


 建物から出てきた少女が容赦の無い猛抗議を始めた。青い髪の少女、つまりボクである。

 ついでに髪の毛のサイドを纏めてツインテールにしてみた。この場に出ていいのはツインテール少女だけの気がしたからだ。


「おいなんか出てきたぞ」

「こんな娘っ子いたっけ?」


 突然の新キャラ登場に傭兵たちも困惑気味のようである。


「この青い髪のツインテールっ娘もいいよな」

「はん! これはなあ、ツーサイドアップつーんだよ。こんなのもツインテールとしては認めんぞ俺は」


「あーまた団長の原理主義が出たよ」

「引くわー」


 そっちの困惑でしたか、むしろこの展開にボクが困惑中ですよ。

 せっかく可愛くできたと思ってたのに、ぷん。


「ほらほら、団長が大人気ない事言うから、この子ふくれちゃったじゃないですか」

「そうそう、もうこの際可愛い女の子が髪の毛を二つに結んでりゃ、ツインテールでいいんじゃないですか」


「ほう、じゃ聞くけどなお前ら。そこにいるニセモノの三つ編みのおさげのバケモノ。そいつもツインテールという事になるけど、愛でられるのか?」


「申し訳ありませんでした団長」

「我々が間違っていました」


 あんたたち全員、三つ編みのおさげの子に謝るべきじゃないでしょうか。奥方も含めて。


 どうでもいいツインテール論争に勝利を収めた団長がここで改めてボクを見た。

 ようやく放置状態からの解放である。もう帰ろうかと思いましたよ。


「何だお前、卑怯たって仕方がねえだろ、もうすぐ傭兵団対抗の試合があるんだよ、投球練習くらいするだろ」


 そんなのありえない、ボクは木の棒を握り締めた。


「試合なんかしたら、あなたのお尻が爆発するでしょ。身体を大事にしない人はありえないんですよ」


 涙目になった団長。


「おい、偽ツインテールのお嬢ちゃん、病気の事をとやかく言うのはルール違反だぞ全国の人に謝れ」


 その前にあんたがツインテールの子たちに謝れ。


「その木の棒で何する気だ、悪魔みたいな事は考えるなよ? それにそれを言っちゃそっちの娘も可哀想だ」


 それを聞いたカレンが、がばっと立ち上がった。


「みのりんは下がってて! 私が土下座すればいいんだよね! するよ! 土下座だろうが土下寝だろうが、土下立ちだってしてあげるよ!」


 土下立ちって何ですか、それただ立って謝ってるだけじゃないですか。

 でもカレン、ヤケクソになっちゃダメだって。挑発に乗っちゃだめ。


「おう、やってもらおうか、ヒドラが許してくれるかは知らんがな、食われても文句言うなよ? どうなっても俺は知らんぞ? 嫌ならお嫁さんでもいいぞ?」

「あーやるよ! 文句は言うけどね! あんたのお嫁さんなんか絶対やだもんね!」


 まるで子供の喧嘩みたいになってきた。


「絶対やだとか言うなよ、ハートが傷つくだろ。倒れそうになったじゃないか」

「なるのなら、みのりんのお嫁さんになるもん」


 ボクが倒れそうになった。


「おいおい、女同士でお嫁さんだあ? それはないわー」


 団長がやれやれの姿勢をとる。


「ヒドラが食べやすいように服を全部脱がそうぜ」


 他の傭兵たちも悪乗りし始めたようだ。


「そうだな胸当ての鎧くらい取れや、それは硬そうだからヒドラが可哀想だな」


「お、団長は鎧だけを脱がす派か、俺は靴下だけ脱がす派だ」

「団長もわかってねえなあ、鎧の上にエプロンを着せるんだよ、鎧エプロンがトレンドなんだぜ」


「この変態どもが! 鎧の上から水着だろが」

「アホか鎧の上からネクタイだろが」


「あーうるせえよお前ら! 鎧脱ぐだけでいいっつってんだろ!」


「えーと、ねえみのりん、この人たちはさっきから一体何を言い争っているのかな」


 ボクにもサッパリです。


 世の中はいろいろと深いのですよ。ボクたちは深みにはまらないで、浅瀬でキャッキャと戯れていましょう。

 少女二人が波打ち際で戯れる図は、それはそれは絵になるのですよ。


「そうか、このオジサンたちは深みで溺れちゃってるんだね」


 もう手遅れでしょう。


「おい黒髪ツインテール、さっさとやってみろよ、やらなきゃ村人のオッサンでも食わせるからな」


 村人を人質に取られてカレンが動き出す、まず鎧を外してそれを下に落とした。そしてヒドラの前に行こうとする。

 ボクはそれを止めた。


「カレン言った、ボクが傷つくのも穢されるのもダメって。ボクもそう、カレンが傷つくのも穢されるのも嫌」

「みのりん……」


 まっすぐ見つめあう二人の少女、黒い瞳と緑の瞳に互いが吸い込まれそうになる。


「そこの青い髪、お前でもいいぜ、お前が土下座してみせろよ。できるもんならな!」


 思わず変な雰囲気になったところで、団長の言葉の横槍が入った。


 ふふん、ボクは冷静沈着が似合う大人ですからね、そんな子供みたいな挑発には簡単に乗りませんよ。


「いいんですか、こいつ脱がせてもあんまり面白そうじゃないですぜ団長」

「むしろ気の毒になって泣きそうだ俺」


「顔はめちゃくちゃ可愛いんだけどなあ」

「うちの団は全員巨乳派だもんなあ」


「いいですよ! 何だってしてあげますよ、こう見えても脱いだら凄いんですからね! 見たら速攻で倒れますよ、このボクがね! でもボクは土下座はできません!」


 何故なら、近づいた時にヒドラの愛情表現でボクは土下座前に吹き飛ぶからだ! その証拠にヒドラがさっきからボクを見てソワソワしているじゃないか。


 それにしてもヒドラは近くで見ると、とにかく大きくて圧倒されそうだ。

 どうする、こんなヒドラなんてバケモノを倒せる人なんていないでしょ。


 カレンのスキルが失敗した今、ここにこのヒドラに勝てる存在はいない。

 昨日から姿を見ていないタンポポやミーシアがいてくれてたら……


 タンポポならヒドラを掌握できただろうか、ミーシアなら再生能力ごと焼き尽くしてくれただろうか。

 サクサクなら倒せただろうか。



 もし、魔王ちゃんなら――


 村に入る前に別れた、銀髪の少女の笑顔を思い出す。


「魔王ちゃんがいてくれてたら……」


 もうどうしようもないのか。

 絶望して視線を下に落としたボクの足元で、それは突然起こった。


 ポッカリと黒い穴が広がったのだ。

 ボクがその穴に落ちるわけではなかった。ただ、ボクの足元に黒い穴があり、その上にボクが立っている不思議な状態なのだった。


 そして穴の中からそれは現れた。


 スーっという感じでせり上がってきたのは、見覚えのある綺麗な銀髪だ。

 更に、顔、胸、足と上がってきて、黒い穴が消えた時には全身が現れてそこに立っていた。


 魔王ちゃんの登場である。


「呼んだか? みのりん」

「まおちゃん……おろひて……」


 ボクは真下の魔王ちゃんに許しを請うた。


 そうである、ボクの真下から現れた魔王ちゃんはボクを肩車していたのだった。


 次回 「謎の村娘は何人いるんだよ」


 魔王ちゃん、飛ぶ

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