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その3 魔王ちゃんとパーティを組んだら事件発生


 早速三人は門まで行きパーティを組む儀式に入る。


「私カレンは、みのりんと魔王ちゃんのお友達です」

「みのりん……カレンまお……お友だち……です」

「魔王ちゃんはみのりんとカレンの、お、お友達じゃ!」


 お友達宣言する時の魔王ちゃんの目がキラキラしすぎて眩しくて直視できない、その下の胸に視線を落として可哀想にとそのまま横にずらした。


「みのりん! キサマ何故哀れみの目を向けた! うお? なんじゃこの青い光は! うわーすげー!」


 恐らく初めてパーティを組んだ魔王ちゃんのテンションはマックスに、ボクもこの青い光に包まれるのは何度やっても好きだ。


 暇人の見物人たちに拍手で送り出された我がパーティは、今までで最強のパーティなのだろう。何しろ一人はLv999の常識の外にいる存在なのだ。

 森までの草原を歩きながらカレンが興奮気味で話しかけた。


「魔王ちゃんってもの凄く強いんだよね!」

「別にわらわは強くは無いぞ、剣も重くて使えんし何かと戦った事も無いわ、みのりんと大して変わらんのじゃないか?」


「そ、そうなんだ」


 カレンがごめんなさい、みたいな雰囲気になってるけど、『ボクと大して変わらない』という部分があるから微妙な空気になるのでやめて下さい。


「じゃが耐久力だけは少しだけ自信があるな」


 溶岩の息を吐きかけられても平然としているLv999の耐久力は、少し自信があるなんて代物じゃないでしょうけどね。溶岩に落ちても無事そうで怖いんですけど。


「溶岩は風呂みたいなもんじゃな、たまに入りに行くぞ。湯に浸かって歌を歌うのは最高じゃな」


 ボクの想像を遥かに越えていたようだ。お湯じゃありませんからねそれ。


「とんでもない耐久力も強さの一つだよ! だって絶対負けないんだもん」


 負けなきゃ勝てる。

 そんな理論はカレンらしいと思わず微笑んだ所で、前方の草原をこちらに向かって歩いてくる一人の人影を見つけた。


 恐らく歩いてくる前は走っていたのだろうか、ふらふらでボクたちパーティの前にへたり込んだのは少女だ。

 しかもこの肩までの黒髪のツインテールには見覚えがあった。


「あなた、ゴブリンに襲われた時に知らせに来たリンリン村の子だよね、名前は……」

「メイリーといいます、良かった。この前ゴブリンから村を救って頂いた人たちに会えた」


「どうしたの? 一人なの?」


 村娘は息を整えるとカレンにすがりついた。

 すがりつかれたのがボクでなくてよかった、命拾いした。


「村が襲われました。助けてください!」


 なんと、リンリン村がまたしても何者かに襲われたのだった。



 少しだけ落ち着いた村娘が、自分がいる理由の説明を始めた。


「昨日の夕方の事です。村に盗賊団というか傭兵団が押し入ってきました。冒険者の町が魔王に襲われたという情報で、町が滅ぼされたどさくさに紛れて一気にこの辺りを掌握しようとしているようです」


「どこの傭兵団だろう、最近戦争が無いから食いっぱぐれて冒険者の集団になったり、盗賊団になったり色々みたいだけど。どんな連中だったの?」


 カレンの問いにメイリーは、村を襲った野党の服装なり武装なりを一生懸命思い出そうとして、それとは別の重要な特徴を思い出したようだ。


「ヒドラです! ヒドラを一匹連れた人たちでした。私が逃げた時はヒドラは村の外にいてこの目では見ていないんですけど」


「ヒドラ傭兵団かな、隣国がよく使ってた部隊だね。国の思惑なんてのが絡んでないといいんだけど」


 ヒドラって首が数本ある竜のパッチもんみたいなやつだよね。


「かなり大きくて強くて厄介なモンちゃんなんだよ、こいつに暴れられると冒険者の集団でも簡単に蹴散らされちゃうんだ。この傭兵団はヒドラのお陰で向かう所敵無しなんだよね」


 ヒドラかあ……〝さんぼんクビクビ〟みたいな名前じゃなくてヒドラってのが既に強そうで困る。


「ホントは〝さんぼんクビクビ〟って言うんだけど、みんなめんどくさいからヒドラって呼んでる」


 まさかの名称大正解である。


「村も彼らも、冒険者の町がもうとっくに滅ぼされたと思っています。私もどこに逃げたらいいのかわからなくて、もしかしたら生き残りの人たちがいるかもしれないと思ってここまで来ました。あなたたちが外にいるって事はやっぱり冒険者の町は……」


 泣きそうに俯いた少女にカレンが笑顔を向ける。


「冒険者の町は滅んでないよ、安心して」

「でも魔王が襲って来たって……」


「やってきたけど帰ったよ」

「帰っちゃったんですか?」


「そしてまたやって来てここにいるよ」

「何を隠そう、わらわがその魔王ちゃんじゃ!」


「また来たの? え? ま、魔王?」


 胸を張る魔王ちゃんを、口をあんぐりと開けたままポカーンと見つめているメイリー。ええ、わかりますともその混乱する気持ち、何で魔王ちゃんがここにいるんだって話ですよね。


 ボクは早朝にワケがわからないまま叩き起こされましたから。


「わらわは遊びに来ると言ったら確実に来るんじゃ。大人は有言実行が基本じゃからな」

「ま、魔王が遊びに来ちゃったの?」


「なんじゃい、遊びに来ちゃいかんのか、泣くぞ」

「いえ、そんなわけじゃ。い、いらっしゃいませ」


 滅ぼしに来るというのは十年後だか百年後だかわからない休火山の噴火みたいな魔王が、遊びだけはガチですか。お子様ですかそうですか。



 ボクたちは緊急でパーティ会議を開いた。草原で座り込んだだけだけど、気持ちだけはカッコイイ。


「どうしよう、一旦町に戻ってギルドに報告しようか?」


 カレンの意見に賛成だけど、こうしている間にも村がどうなっているのか気になっている不安気なメイリーを見ていると、このまま村に直行したい気もする。


 でもやっぱり強くて厄介なモンスター、ヒドラの存在が気になるよね。


「ヒドラが何だって? ヘビかトカゲみたいなもんじゃろ、そんなもんわらわたちだけで十分じゃ」


 全然違います。


「このまま行けばいいじゃろう? わらわを侵略のダシに使いおった連中は中々に見所がありそうじゃし、挨拶しないといかんだろう? 感激のあまり悲鳴をあげさせてくれるわ」


 時々魔王ちゃんが黒いのはやはり魔族の影響か。

『な、みのりん』といって笑う無邪気な笑顔には毒は無いんだけど、その代わりボクをキョドらせるには十分なのである。


 結局魔王ちゃんの意見が通り、ボクたちはリンリン村へと進む事に決定だ。


 メイリーを町まで送り届けた方がいいのかもしれないけど、彼女は村が心配でボクたちにそのまま同行すると聞かないので一緒に行く事になった。


 今回は魔王ちゃんがパーティにいる、これだけで怖いもの無しなのは確かだ。魔王を脅かす存在なんて、勇者くらいしか思いつかないのだ。

 完全に大船に乗った気持ちで草原を進んでいった。


 しかし、その強力なパーティの戦力は突然剥がれる事になる。


 乗った大船が沈没したのだ。


 次回 「突然やってきた魔王ちゃんとのお別れ」


 みのりん、村に向かう決意をする

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