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その1 魔王ちゃん再来襲


「みーのりーん、あーそーぼー!」


 早朝から叩き起こされた声がこれである。


 眠すぎて目が開かない、フラフラになりながらダンボールベッドから顔を出すとそいつはいた。


「みーのりーん、あーそーぼー!」


 わかりまひたかふぁ、耳元で叫ばないでください魔王ちゃん。


「おふぁよう……ごまいまふ」

「わらわはこっちじゃみのりん、それはただの丸椅子じゃ」


「ふああ」


 あくびを一つして壁の時計を見上げると、針が指しているのはまだ五時じゃないか。早朝もいいところだ、なんと迷惑な……って。


「どうやって……入った……」


「厨房の裏口が開いとったぞ? まあ、羊に頼めば影を通ってどこにでも行けるがな。やはり友達の家に遊びに行くのなら、ちゃんと玄関で遊びの声かけという作法をしてみたかったのじゃ」


 羊? ああ、執事さんの事か。あの人魔族だったんだっけ、どこにでも神出鬼没ははずだ。


 ところで玄関で声かけって言ってますけど、中まで入ってきちゃってるじゃないですか。


「最初はちゃんと正門玄関前で声をかけていたぞ。でもみのりん全然気が付いてくれなくて仕方なく裏から入ったのじゃ。それにこのテーブルのスペースは〝みのりんハウス〟なのじゃろう? なら、わらわが立っておるこの場所が玄関とも言えるのではないか」


 なるほど、そこがボクの聖なる居城の城門とも言えるのか、なるほど。

 大いに納得して、テーブルの脚に呼び鈴でもつけようかと考えながら『ふああ』ともう一回あくびをした。


 なぜこんなに眠いのか。

 実は昨夜は町が滅ぼされずに魔王が撤退した祝賀会で、このギルド内は深夜一時過ぎまで大騒ぎだったのだ。


 当然ボクも巻き込まれて散々酷い目にあった気がするが、出されたモーモーステーキで何もかもキレイサッパリ忘れていた。


 で、数時間寝た所で魔王ちゃんの再来襲である。

 撤退したと見せかけて油断した所を襲う、なんという狡猾な戦術だろう。さすがは魔王である、恐ろしい子。


「納得のいかない事を思われているような気がするんじゃが、わらわはまた遊びに来るって言ったはずだぞ?」

「そうだけど……ふああ」


 まさか半日後に来るとは思ってませんでしたよ。


「何時……だと思って……」

「夜に誘いに来るなって怒ったのはみのりんじゃないか。もう外は明るいぞ? 遊んでもいい時間だよな?」


「五時じゃ夏休みのラジオ体操も始まってませんよ」

「ラジオ? なんじゃそれは。町のお年寄りならさっき公園で体操しとったぞ。魔族の里のお年寄りも、今頃棒を振り回して玉だのモンスターだのを転がしておるわ」


 目をキラキラさせてワクワクしている魔王ちゃんを見ていると、こんな時間からでも遊んでもいいかなという気になってくる。


 魔王ちゃんがボクの手を取った。


「まったく若いんじゃからしっかりせい。なんじゃだらしないな、そんなに眠いのか、ぐったりしおってからに」


 いえ、これは眠気じゃなくて女の子に手を握られて死に掛けているのです。


「次はカレンじゃな、あの娘の家に呼びに行くぞ」


 それはちょっと待とうか。


 ボクは慌てて魔王ちゃんを止めた。

 カレンも昨夜はギルド内のお祭り騒ぎに巻き込まれていたのだ、家に帰ってからすぐに寝たとしてもやはり数時間の睡眠のはず。


 こんな朝早くから彼女の邪魔をするわけにはいかないし、まだ会った事は無いけど家の人にも迷惑だ。


「二人で遊ぶのか? まあそれでもよいぞ、何して遊ぶ? テーブルを高く積む競争でもするか?」


 遊ぶと言ってもここには遊び道具なんかないし、ギルドの備品をおもちゃにしたら受付のお姉さんに怒られそうで怖い。


 受付のお姉さんと言った瞬間に、魔王ちゃんは真っ青になって持ち上げようとしていたテーブルをそっと静かに置いた。


「わらわが今テーブルを動かそうとした事をあの鬼っ娘に内緒にしてくれ! 何でもする、何でもいう事を聞くから!」


 トラウマが発動したのか、涙目になった魔王ちゃんに抱きつかれて再び死にそうになっていると、ボクの後ろのダンボールベッドの中が見えたようで。


「あれはなんじゃ? 人形か? 動物のもあるが、見せてくれ!」


 お人形のおかげで命拾いをした。あと10秒抱きつかれてたらヒットポイントがゼロになっていたに違いないのだ。

 魔王ちゃんを身体から引き離して、命の恩人であるお人形たちを紹介する事にした。


「これは……キャサリン……こっちは……のん太……」


 ………………


 なんだと……! 名前だと!? ボクはいつの間にお人形たちに名前を付けていたんだ――!


 アルクルミに直してもらったウサギの人形がアルクウという名前になっている事から、名付けはその後に遊んだ辺りなのだろうか。


 何回遊んだか見当も付かないので覚えていない、夜はそれだけ暇なのだ。


「こんにちはのん太、こんにちはアルクウ」


 律儀にお人形たちに挨拶をしている魔王ちゃんは、愛おしいほどに可愛く目に映る。


 さっきまでボクと同じくらいの少女だったのが一気に幼く見えたけど、まさか普段のボクがこういう風に他人の目に映っているなんて事は無いよね、あはは、ありえないありえない。


「いいなあ可愛い人形、魔族の里には魔人人形しかなくてなあ、あれは全然可愛くないのじゃ」


 あ、あげませんからね、それは戦闘シミュレーションに欠かせないボクの大切なユニットなんですから。


「おもしろそうじゃの、その銭湯趣味がなんちゃらをわらわらにも教えてくれ」


 シュミレーションではなくシミュレーションから正していくべきだろうか、などと考えながらボクは部隊を配置して行く。


「この子は……主力……」

「ふむふむ」

「こっちの小さい子が……遊撃部隊……」

「ふむふむ」

「このクマが……お父さん」

「ふむふむ、お父さんて誰のじゃ?」

「それは永遠の謎です」


 …………


「お嬢ちゃんたち、相席させてもらってもいいかな?」


 誰かに突然声をかけられて二人揃って我に返った。


 目の前に冒険者のオジサンが立っている。周りを見ると、他のテーブルが冒険者のオジサンたちで溢れているじゃないか。


 ま、またか。またもやお人形たちによる時間泥棒だか、ウラシマ効果だかが発生したのか。

 まさかボクたちは光速で遊んでいたんじゃあるまいな。


 な、何時間経った!?


 次回 「何でソーセージをくれたのじゃ?」


 みのりん、魔王ちゃん、戦利品山盛りゲット

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