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その5 戦闘開始! 冒険者の突撃戦


「たのもう! さっきから言っておるのだから、誰か返事をせい!」


 銀竜の背の少女はちょっとイライラしている様子だ。


 こんなもんに声をかけられて言葉を返せる人なんているわけがない。

 いたら見てみたい。


「いらっしゃい魔王ちゃん、何をしに来たの?」


 一人いました、カレンです。


「おう、この前の人間の小娘か。ようやく話のできるヤツが出てきてくれて助かったわ。この魔王ちゃんが来てやったのじゃ。え? 魔王ちゃん? おいちゃん付けはやめろって!」


 何となく憎めないんだよねこの子。この町を滅ぼすって言ってる危ない子なんだけど。


「昨夜そちらから使いの者に、わらわ直々に出向いて来いと言われたから来たのじゃ」


「誰だそんな無責任な事言ったの」

「とんでもねーやつがいるな」

「魔王に来いとかふざけんなよ?」


 周りの冒険者たちがざわざわしだした。


 ボクはちょっと首を傾げている。

 昨日の夜中に現れた、どこぞの商人だか富豪だかの執事さんとそんな会話を交わしたような、してないような。


「この町を滅ぼすつもりなの? なら私は戦うしかないよ、勝てないのわかってるけど」


 カレンがロングソードに手をかけながら問う。冒険者たちはどうしようか考えあぐねている様子だ。


「ほう、わらわと戦うか、お前たちが束になってもこの銀竜にすら敵わんぞ? 一撃でお前たちごとこの門を吹き飛ばしてくれるわ」


 その言葉に門の外に出ていた人々が、一斉に門の中へと避難した。

 周りにはもう誰もいない、魔王の前に立ち塞がっているのはカレンとボクだけだ。


 皆が逃げたが、カレンだけは一歩前に出た。ボクも一秒遅れて彼女の横に出た。


「私は引かないよ、私は後ろには下がらない! 私の師匠が教えてくれた、冒険者は前に出るものだって!」


 カレンの声が響き渡る。


「おおー! 俺たちは冒険者だ!」


『ザッ』という音が鳴り響いたかと思うと、ボクとカレンの左右に一列になって冒険者たちが並んでいる。


 カレンの声に冒険者たちが奮い立ち、皆一斉に整列したのだ!

 鳥肌が立ついいシーンだ。カレンが皆を動かしたのだ。


 皆がカレンとボクに振り向き笑顔を向けてくれる、親指を立てている人もいる。さっきのグエンさんもうんうんと頷いている。


 あそこで笑ってるのは、ボクがこの町に来た当初ボクにパンツを売ってくれと懇願した冒険者のオジサンだ。

 どこまでがヒゲなのかよくわからない赤ひげさんも、巨大な斧を振り上げて鼓舞している。


 マジックアイテムの鏡のオジサン冒険者の姿も見える。満面の笑みで魔王を鏡に映している。


 ボクの机の下で幸せになったオジサンや、お人形遊びが好きな娘さんの話をしていた冒険者もいる。あ、ボクに転生者お迎えクエストを譲ってくれた人だ。


 ボクが今まで出会ってきた冒険者のみんな、仲間たち総出演じゃないか!

 物語だったらまるでクライマックスや最終回のようじゃないか!


 なんだか感動で胸が一杯になってしまった。


「あははは、中々に良いぞ。わらわも少し感動したわ」


 銀竜の魔王は高らかに笑う、面白い小娘だと。



「野郎ども! 一斉にかかるぞ! この町は俺たちの町だ、魔王なんかに蹂躙はさせん!」

「うおおおおおお!」


 抜刀した冒険者たちが一斉に銀竜めがけて駆けて行く! 総突撃だ!


 カレンもロングソードを抜いて、その剣に光を集めだしている。

 彼女の必殺剣、スパイクトルネードだ!


 すごい! これならいけるんじゃないか!


 カレンの剣技が銀竜を一撃で倒せなくても、ある程度のダメージは負わせられるはずだ。

 一撃後に他の冒険者たちが一斉に攻撃すれば倒せる!


 冒険者の町の総力戦なのだ!


 もちろん、全戦力じゃないのはわかってるけど、こんな圧倒的で壮大な戦闘シーンを見た事が無かったので感動してしまった。


「 野郎ども! 魔王を倒せ!」

「うおおおおおおおおおおおお!」


 銀竜と魔王に向かって急接近する戦士たち。

 勝てる! 絶対勝てる!



 魔王は冷めた目で銀竜に合図を送ると、銀竜が咆えた!


 とてつもない咆哮である。


 その恐ろしい風圧で冒険者たちが吹き飛び、壁の一部が崩れ落ちた。

 カレンは剣技を出すのを中断して、ボクを守って必死に地面に伏せてくれた。



 冒険者軍は一瞬にして壊滅してしまったのだ――!


 こ、こんなのを相手にして勝てるわけが無いじゃないか。

 魔王は戦ってすらいない、怪獣が『ガオー』と咆えただけだ。


 カレンがよろよろと立ち上がった、それでも町を守ろうとしているのだ。

 彼女はまっすぐと銀竜の魔王を見つめている。


「私は、一人でも町を守る」


 その言葉に吹き飛ばされた冒険者たちもふらふらと立ち上がった、みんなボロ雑巾みたいなってるけど幸い誰も死んでないみたいだ。


「それでも戦うか小娘。望むのなら思い通りにお前を銀竜の餌食にしてやろう、この町も滅ぼす。じゃがな小娘、わらわとてこの町を無条件に滅ぼそうというのではないのでな」


「何? 奴隷にするとかならお断りだよ」

「奴隷? そんな胸糞悪いものなどわらわはいらんわ」


 魔王は銀竜の背に立った、風が少女の銀髪をなびかせ神々しい姿だ。

 あれが魔王なんだ……ボクは改めて認識する。


「聞け! 人間共! わらわはこの町に囚われておる、わらわの姫を取り戻しに来た! 大人しく渡せばこのまま帰ろう、さもなくばお前たちは滅亡あるのみ!」


「姫? 誰だ姫って」

「お姫様なんかいたっけ?」

「貴族? 王族? こいつ何言ってんの?」


 ボロボロのふらふらになりながら集まってきた冒険者たちがざわざわするのを聞いて、銀竜の魔王は顔を真っ赤にした。

 口喧嘩なら勝てるんじゃないか、オジサンたち。


「うるさい! 姫って言ってみたかったんじゃ! 囚われの姫を助けるとかロマンチックでかっこいいじゃろが! うー、ロマンがわからんなんて、この町滅ぼすやっぱり滅ぼす」


「落ち着いて魔王ちゃん! 誰か女の子が囚われているの? この町で酷い目に遭っているの?」


 滅ぼすという剣幕に、サーっと散った冒険者の中に残ったカレンが聞いている。


「まったく、ちゃん付けはやめろと言っておるのに人の話を全然聞かんヤツじゃな、まあよいわ好きに呼べ」


 意外に寛容な魔王ちゃんは竜の背から飛び降りた、もしかしたら魔王ちゃんという呼び名が気に入ったのかもしれない、その証拠に頬がちょっと赤いじゃないか。


「少女がこの町に囚われておる」


 魔王ちゃんはカレンとその隣のボクに近づいてきて前に立った。


 彼女の接近にボクは『ひぃ』となる。

 当然だが、近づいてきた相手が恐ろしい魔王だからじゃない、女の子だからだ。


「知らなかった、この町でそんな状況になってるなんて信じられない、ここは悪人がいない平和な町なのに」


 セクハラオヤジの巣窟ですけどね。

 でもそんな目に遭っている女の子がいるのなら救出しないといけない、ボクは女の子が怖いけど女の子の味方の女の子なのだ。


「そんなの絶対に許せない! 教えて魔王ちゃん! 私が救出する!」

「ボク……も助ける」


「わらわもこの目でその姿を確かめたわけではない、占い婆がその様子を教えてくれた」


 占い婆はそっちにもいるんですか。


「その娘は汚い冒険者の男共がひしめき合う場所で、ダンボールみたいな粗末な小さな箱に閉じ込められておるのじゃ。男共の好奇の目線に晒され、いつもお腹を空かせておると。失敗した焦げた肉料理を食わされたり、犬のように扱われたり、おこぼれをあてがわれて何とか餓死を免れておるようでな、もう可哀想で可哀想で……」


 ボクは固まって目を伏せた。

 カレンが何か思い当たる節があるのか気が付いたのか、ボクの方を見ている。


「モンスター討伐に駆り出される時は、モンスターをおびき寄せる役をやらされてな、強盗団の一員にもなっておるらしい。なんとも酷い話じゃろ、許せんじゃろ」


 カレンが目を伏せた。


「どうしたお前たち、お腹でも痛いのか? いい薬あるけど飲むか?」


 カレンが困ったような笑顔で魔王ちゃんを見た。


「そんな子いないんじゃないかなーって思うよ。楽しくやってると思うよ。占い婆の勘違いじゃないかな、あはは」


「うむ、占い婆も最近わらわと銀竜の区別が付かなくなってきておるからな、ありえるかも知れん。それでもこの町におる事だけは確かなのじゃ」


 女の子とドラゴンの区別がつかないなんて相当ですよ。


 魔王ちゃんのグリーンアイが輝いた。


「わらわは、我が同胞に会いに来たのじゃ!」


 次回 「甘いお菓子で接待作戦」


 魔王ちゃん、町の屋台に大興奮

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