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その9 ボク立案の村人脱出作戦


 美味しいステーキの話を散々聞かされて涙目になった後。


 作戦内容をタンポポに伝えると、夜中の内に彼女は出発した。


 彼女は建物の裏口から外に出ると、見張りのゴブリンに見つからないように村から脱出、草原の暗闇に消えていく。

 闇夜にスーっと消えていく様子は、さすがオバケといった感じだ。プロの仕事を見た。


 見送る僕は心の中でエールを送る、頑張れタンポポ!


 果たしてタンポポは戻ってこられるのだろうか、夜中なので外は真っ暗だし無理かも知れないが、この作戦の全ては彼女にかかっているのだ。


 もしタンポポがダメだったらもう終わり、その内に国かギルドが部隊を突入させて村の奪還作戦を考えないとも限らない。


 そうなったらこの平和な村は戦場になるのだ。それだけは避けたい。


 ふとビキニの男衆が集う地獄集会所の事を思い出し、滅ぼした方がいいのでは? と考えてしまったがダメだ。


 いろいろと良くしてくれた女の人たちが酷い目に遭うのだけは許せない。

 タオルケットを貸してくれたり、きのこスープを作ってくれたり、いい人たちなのだ。


 頼みましたよタンポポ!


 村がこの先生きのこ――『ぐう』


 いけないつい〝きのこ〟にボクのお腹が反応してしまった。どうなってるんだボクのお腹は。さっきの〝きのこスープ〟が原因か。


 どのくらい時間が経っただろうか、そろそろ夜が明けようかという時にそいつは来た。

 集会所の裏口で小さな鳴き声が聞こえる。


「モー」


 来た!


 半分鼻からちょうちんをぶら下げていたボクは、寝ぼけまなこで扉を開ける。


 ボクによって裏口から中に入れられたのは、一匹の牛型モンスター〝のっぱらモーモー〟だ。

 そしてこの中にはタンポポが入っているはずなのである。入ってるよね?


 建物の中には入れてはみたものの、本当にこれはタンポポなんだろうか。違ってたら大惨事だぞ、取りあえず確認。


「あなたタンポポですよね?」

「モー」


「ただのモンスターじゃないですよね」

「モー」


 うん、さっぱりわからない。


 でもボクを見ても大人しいので、タンポポが掌握しているのは間違いないんだが。

 普通のモンスターならボクを見て興奮するのだ。


「ボクの事わかりますよね」

「モー」

「あそこで寝てるミーシアの事もわかりますよね」

「モー」

「カレンとお友達になりたいですよね」

「……」


「ステーキ大好きですよね」

「モー」

「ボクの事も好きですよね」

「モー」

「実はカレンとお友達になりたいですよね」

「モ……」


 牛はプイッとそっぽを向いた。


 うん、間違いなくタンポポだこれ。


 モンスターの登場に寝ていた村の女の人たちは慌てるが、大人しい様子と村長さんの奥方が喝を入れてくれたお陰で大騒ぎにならずに助かった。


「皆の衆は静まっておれ! 何事かとゴブリンたちが来てしまうわ!」


 その前にあなたの大声でゴブリンが来そうです。

 皆の騒ぎを鎮めた奥方がボクたちの所にやってくる。


「こいつはなんじゃい」

「のっぱらモーモーです。この辺の草原のモンスターですよ、食べるととても美味しいのです」


 奥方の問いにボクはすまして答える。美味しいというのはとても重要な事なのだ。


「そんな事はわかっとるわい、こいつをゴブリン共と戦わせようとしても難しいぞ、相手は二百もの軍隊じゃ。こんな牛モンスターが二千匹おったって無理じゃよ」


「無理ですか」

「無理じゃな。互角に戦ったとしてもこの村がめちゃくちゃになるわ」


 だがボクはガッカリしない、別にこの前遭遇した二千匹の大群や、タンポポ配下の特殊部隊モーモーを突撃させようとは思っていないのだ。


 そんな事をしたらこの村が、牛の暴走によって破壊されてしまいかねない。


 暴走した牛の群れの真ん前に、青い髪の少女が降り立ち暴走を鎮めた、という伝説になるのもちょっと心惹かれるけど、九九パーセントペチャンコになって終了だろう。


 例えその後に村の名物が〝みのりんせんべい〟になろうとも、今ここでボクの作戦によって村を危険に晒すわけにはいかないのだ。

 

「へっくち」


 寝ているミーシアがくしゃみをした。ミーシアらしい随分可愛いくしゃみだ。

 皆でミーシアを見る、タオルケットだけじゃ寒いのかな。もっと着る物があったらいいのに。


「あの、ここに余っている水着はありませんか?」

「余っとる水着は無いのう」


「へっくち」


 またくしゃみをしたミーシアを見て、村長さんの奥方は『じゃがちょっと待っておれ』と言って近くの物陰に入った。

 出て着た時に水着を持っている、それは奥方がさっきまで着ていたチューリップ柄の水着だ。


「うちのジジイがお前さんたちには迷惑をかけたからの、せめてもの詫びじゃ」


 代わりに奥方はダンボール箱から顔と手足を出して登場した。


 新しいモンスターの登場に集会所では小さなパニックが起きた。

 当然ボクも半泣きで逃げ回ったのは言うまでも無い。



 夜が明けると同時にあちこちで雄鶏(おんどり)が鳴き始める。

『コケコッコー』の連奏で、のどかな村の一日が始まったのだ。


 一羽だけ『クックドゥードゥルドゥー』がいるな、でも我慢だ。こんな所で鶏につっこんでる場合じゃない。


『ホーホケキョ』

 が、我慢だ――


 村がゴブリン軍に占領されていなければ、のんびりとした平和な朝だっただろう。


 しかし今朝は違う。

 緊張が走る作戦遂行の時間なのだ。


 モンスター、ではなくて、箱型でもない、奥方によるとゴブリン軍は毎朝村の広場に整列して点呼を行うらしい。

 もちろん見張りまで整列するわけではないので、この時に村人全員で脱出するのは不可能との事。


 だが、全員で脱出する必要はないのだ。

 ゴブリンたちに占領された村から脱出するのは、一人で十分なのである。


 ボクの作戦は果たして成功か! 失敗か!


 次回 「対ゴブリン軍作戦発動!」


 みのりん、またカクンとなる

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