その7 カレン立案の村人脱出作戦開始
そろそろ夕方だ。
外にいるのでさすがに水着姿では寒くなり、ボクたち三人は小さく集まってさっき貸してもらったタオルケットをかけた。
カレンとの間にミーシアを入れたのでボクのヒットポイントは助かっている。
でもミーシアクッションもこれはこれで危険物だ、暖かくてやわらかい。
すると一匹のゴブリンがやってきて『ゴブゴブ』怒っているようだけど、何を言っているのかはさっぱりだ。
「女の子が肌と水着を隠すとは何事だ、女の子への冒涜じゃと言っておりますじゃ。わしもゴブリンたちの意見には全面的に賛同ですじゃ、ハイカラな町の子は肌は隠してはいかんのですじゃ」
倒れた英雄が教えてくれた。
大して女の子扱いしてくれないくせに、めんどくさい連中だな。
それと村長さんは余計な事言わなくていいですよ、またカレンに空手チョップをもらっても知りませんよ。
しかし寒くなってきたなあ、みんなで〝おしくらまんじゅう〟でもやって身体を温めようか。
って、なんで村長さんが準備運動を始めてるんですか、〝おしくらまんじゅう〟に誘いませんよ。
しまった、お饅頭を連想してお腹が『ぐう』となった。
「か弱い年寄りが寒さで震えておるのですじゃ、ここはおしくらまんじゅうで――」
村長さんが何かろくでもない事を言いかけた所で、彼はゴブリンたちに囲まれた。
おしくらまんじゅうしてくれて良かったじゃないですか、暖かそうでなによりです。
寒い事を訴えるとボクたち三人は天国、じゃなかった女の人が集められた集会所に戻る事を許され、マンクたち三人はそのまま村の大きな建物に連れて行かれた。
価値のわからないゴブリンたちは、どこまでもボクたちは無視の無視だ。
自分で言うのもなんだけど、この三人は冒険者の町でもトップクラスの可愛さを誇るんだぞ!
連行されながらタンポポが涙目でボクを見る。
思わず飛び出してタンポポオジサンの手を引っ張ったが、少し大きめのゴブリンに首根っこを掴まれてポイされてしまった。猫かボクは。
カレンが飛び出そうとするのをミーシアが必死に止めた。
まるで悪い事をして逮捕連行される父親に、娘がしがみ付くような図になってしまった。
パパーとか叫んだ方がいいかな。
集会所は暖かかった、ビキニの水着しか着れないので暖房はちゃんとしているようだ。
晩ご飯にパンと、女の人たちが作ってくれた暖かいきのこのスープを飲んだら、身体も温まって心も落ち着いてきた。
素朴な味だけど美味しい、生き返る気持ちだ。
そろそろ夜だ、皆大丈夫だろうか、タンポポの涙を思い出してキュンとなる。
外側がお腹の出たオジサンだけに、アレにキュンとなるのは中々モヤモヤするものがあるな。
カレンがヒソヒソ話をしにボクとミーシアに寄ってくる。ちょっとさすがに近いですって、カレンさん。
耳にカレンの息が! かかか、回復薬どこだ。
「夜になったら私はここを抜け出して、武器を回収後にタンポ男君たちをこっそり救出する。ミーシアは隣の男衆の建物に行って待機して、みのりんはこの建物だよ。合図したら村の人たちを連れて全員で脱出しよう」
ミーシアが泣いた。
隣の地獄に行けと言われたんだから無理も無い。あそこはダメだ。
女の子を泣かせるわけにはいかない、ここは男の子のこのボクが犠牲になろう。
実際は泣いてるのが男の子でボクは女の子なのだが、こまかい事は気にしちゃダメなのである。
地獄の戦場に舞い戻るのはミーシアよりもボクの方が経験済みなのだ、靴を脱いだタンポポオジサンよりは全然マシというものだ。経験者は強いのだ。
「隣にはボクが行く」
「いい、みのりんはここ、私が行くから」
涙を拭いてミーシアが出て行った、ふりむいて『ありがとう』と笑いながら。
「みのりん、私この戦いが終わったら可愛い服を買いに行くんだ」
ストップストップ! なんで変なフラグ立てちゃったんですか。
部屋を出て行くミーシアは絶望でふらついている、大丈夫だろうか、無理しなくていいのに。
「じゃ、私も行ってくるよ、後はよろしくねみのりん」
カレンも出撃して出て行った。この作戦が成功しますように。
さてボクも役割を果たさなきゃいけないんだ。
ボクは村長さんの奥方に、旦那の悪さをチクる、んじゃなくて村からの脱出計画を説明した。
小声で一人ずつ隣から隣へと、村の女衆全員に伝わっていく。
伝言はぐるりと一回りして、村長さんの奥方の隣にいた最後の女の人の所にきた。
「計画は伝わったかの?」
奥方がその女の人に確認する。
「はい、セクハラ村長を裁判にかけて逆さ吊りにする、でいいんですよね」
伝言ゲーム失敗である。
「も、もう一度です……」
ボクの指示で村長さんの奥方から始まり、村の女の人から女の人へと伝言が伝わる。再挑戦の結果はいかに!
「セクハラ村長に紐なしのバンジージャンプをさせる、わかりました」
また失敗した。
思い通りに村長さんの命の危機から脱出できない。
伝言ゲームは五回目でようやく成功し、脱出計画は皆に行き渡ったようだ。
それまで村長さんは埋められたり、顔にケーキを投げられたり、鞭でしばかれたりと、散々な計画の主役になっていたが。
ふう……やっと村長さんを助ける事ができた、無事に村長さん危機一髪ゲームのエンディングを迎えられたよ。
ボクはいつの間にそんなゲームをプレイしていたのだろうか。世の中謎が多いのである。
用意はできた、後はカレンがパーティのバケモノじゃなかった、男の人メンバーを回収して帰還するのを待つだけだ。
皆で息を殺して待つがカレンたちは帰って来ない。
まんじりともせずに時が過ぎる。
どのくらいの時が経っただろうか、その時そーっとここの集会所に侵入してきた者がいた。
カレンとマンクたちが来たのかな、皆に緊張が走る。
と思ったらその影はセーラー服を着ていた。
タンポポが嫌気をさして中身だけ脱出してきたのだ。
彼女の無事な姿にちょっと涙が出たが、心配事が増えた。
カレンが助けに行った時にタンポポオジサンが寝ててもらっては困るのだ。
「カレンがあなたたちを救出に向かっているんですけど、会いませんでしたか」
だが次のタンポポの言葉で愕然となる。
タンポポはこう言ったのだ。
「あいつ捕まったよ」
次回 「こんな水着回があってたまりますか」
みのりん、村長さんに立派に散ってくださいと合掌する