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その6 村の様子は天国だった


 女の人たちは隣の集会所に集められていた。


 そこは天国だった。


 地獄の使者のようなマンクたちは地獄に置いてきた。

 ボクとカレンとミーシアだけが、クモの糸を登ってここまで辿り着いたのだ。


 マンクはそもそもこんな秘密の花園に招待したら、恐怖で硬直してしまうだろう。

 サムライに至っては、ビキニ姿の村の男衆とすっかり意気投合している始末。その姿で語り愛はやめて欲しい。


 それにあの筋肉怪獣を、か弱い女の人の目に晒すのも気が引けたのだ。


 タンポポだけは連れてきてあげたかったけど、サムライにガッチリ肩を組まれて救出できなかった。


 多分肩を組まれてたのがタンポポオジサンだよね、あれだけオジサンだらけだともう見分けがつかないのだ。

 なんというステルス機能だろうか、サムライに捕まってる時点で全く役割を果たしていないのだけど。


 ごめんねタンポポ、後で食べられる草でも毟ってきてあげるからね。どれが食べられるかさっぱりだけど。適当でいいよね。


 死に掛けているミーシアに、カレンと二人で肩を貸してなんとか脱出するのに精一杯だったのだ。


 さっきの地獄のような熱気と違い、こちらはお花の香りがする、爽やかな風さえ吹いてる。


 ボクにとってはある意味恐怖の水着の女の人たちなのだが、先ほどまでの壮絶な世界に危険センサーが麻痺してしまっていた。


「わしが村長の奥さんですじゃ」


 ちょっと爽やかとは言いがたい村長の奥方もビキニ姿だった、こちらもチューリップ柄の水着だ。

 村長さんとお揃いのようだ。


「皆さんは無事なのですか」


 さっきまで無事じゃなかったミーシアの安否を問う声に、女の人たちが目を伏せる。

 あまりいい雰囲気とはいえない様子だ。


 村長の奥方がゆっくりと口を開いた。


「わしは700回ほど触られたかの、爺さんとの若かりし頃の青春の思い出が蘇ったわい」


 それを聞いた他の若い娘さんたちが一層うな垂れている。


 奥方ですら700回なら、うら若い彼女たちは数万回もお尻を揉まれたというのか、とても許せない。

 カレンも隣で怒ってちょっと震えている。


「私0回」

「私も」

「私も」

「私マイナス」


 え、マイナスってどうやってカウントするの?


「私たち、なんだか女性として自信がなくなってきた。私のお尻はそこそこいけてると思ってたのに」


「私だって、村の第三四三回お尻コンテストで優勝した猛者なのに」

「私は第四四回お尻ミュージアム最優秀賞よ」


 何やってんですかこの村。


 そんな彼女たちに村長さんの奥方が渇を入れる。


「落ち着け皆の衆、男どもが我が身を犠牲にしてわしらを守っておるのじゃ。元気を出さんか!」


「ああ、そうでした。あの人たちが私たちの為に身体を張ってくれてるんでした」


 さっきお尻を触られた回数を自慢してケンカしてましたけど。

 ところで、マイナスの件なんですが。


「あの! メイリーは、あの子は無事ですか?」

「ひいい!」


 一人の女の子がボクたちの方にやって来た、かなり誰かを心配している顔だ。

 水着姿の女の子の急接近に、ボクは思わずミーシアの腰にしがみ付いてしまう。


「きゃ、みのりんびっくりした」

「ご、ごめんミーシア」


 ああ、ミーシアの腰、やわらかい、男の子なのにこれは反則だぞ。


 ボクが寒がってるのかと勘違いした女の人が、タオルケットをかけてくれる。


「ありがとうございまふ」


 その人の際どい水着で死にそうになりながらお礼を言うが、舌噛んだ。


「町まで逃げてきた子かな? 無事ギルドが保護したよ。彼女の情報で私たちはやって来たんだ」

「良かった、メイリーは親友なんです。本当に良かった」


 カレンの答えに女の子は安心して泣き出した。


 そこに数匹のゴブリンに連れられて入って来たのは村長さんだ。


「皆様方を外に連れ出せという事ですじゃ」



 外に連行されると、ゴブリンの集団がボクたち六人を取り囲む。

 まさかこのまま侵入者として処刑されたりしないだろうか、不安になる。


 またもやサムライたちが大人気で、お尻を揉まれ始めた。

 カレンとミーシアとボクは相変わらず蚊帳の外だ。


 たまに変わり者のゴブリンが触ろうと寄ってくる程度で、カレンにもの凄く冷たい目で見られてサーっと引き下がっていく。


 カレンにはずっと笑顔でいて欲しいのに、さっきの女の子の涙で彼女は怒っているみたいだ。

 ボクだって女の子を泣かせるヤツは許せない。


「頼むからもうやめてくれ、ケツが割れる」


 向こうでマンクが泣いているが、まあいいかな。お尻はどーせ割れてるものだし。


「やめて欲しいんだもん、オケツが割れるんだもん」


 だけど、タンポポはさすがに可哀想だ。お尻が割れたら大変だ。

 あの中に突っ込んでタンポポだけでも救出するべきだろうか。


 サムライとマンクとタンポポオジサンがあまりに人気な為に、彼らのお尻を触れずに、あぶれたゴブリンがこっちにやって来た。


 しょんぼりと不服そうな顔で、つまんなさそうにボクのお尻を触ろうとする。


 そんなに嫌々触るならやめとけばいいでしょう、お尻を触らないと死ぬんですか。ちょっとボクのガラスのハートが傷つくのでやめて頂けませんか。


 そのゴブリンもカレンの氷のような目にブルブルと震えてくしゃみをすると、何もせずに逃げて行った。


 どうだ! ボクのお尻を触る為にはこのカレンセキュリティを突破しないと無理なんですからね!

 近づく物は皆風邪を引きますよ!


 しかし問題はミーシアだ。

 とうとうこの状況に耐えられなくなったミーシアが、ショックで地面にひざと両手を付いてうな垂れている。


 ブツブツと何かを言っているミーシア。

 ゴブリンたちに文句でも言っているのだろうか、ミーシアを慰めようとしゃがんだ。


 大地より……来たれり――

 天より……来たれり――


 慌てて呪文を唱え始めているミーシアの口を塞ぐ!


「むぐむぐ」

「やめてくださいミーシア、村を吹き飛ばす気ですか」


「こんな物の価値のわからないポンコツコブリンたち、村ごと消し飛ばすわ。私も回復薬飲まない、一緒に滅ぶ」

「落ち着いてくださいミーシア~」


 オロオロしていたら、村長さんがミーシアの後ろに回って彼女のお尻を触った。


「こ、こんな時に何をしているんですか村長さん。今、村の滅亡がかかった非常事態なのがわからないんですか」


「いや~すまんですじゃ、あんまり可愛いお尻じゃったもんじゃから、やっぱり可愛い女の子はええのう」

「奥さんにチクりますよ!」


 ま、まずい、ミーシアをこれ以上追い詰めるのは危険だ。


 だがミーシアは復活した。


「まあまあみのりん、殿方が可愛い女の子のお尻を触りたいと思うのは当然の事よ。いつもなら許さないんだけど今回は特別に許してあげるわ。ねえ村長さん、私そんなに可愛い女の子かしら?」


「おおう、めちゃくちゃ可愛いですじゃ、村の娘っ子たちとは比べもんにならん、やっぱり町の女の子はハイカラでええのう」


「私女の子にみえる?」

「ミーシアちゃんが女の子に見えなかったら、そいつの目は腐っとりますのじゃ」


 ボクはジト目でミーシアを見つめている。

 お尻を触られたのにミーシアは満面の笑顔なので、奥さんにチクるのはやめておこう。


 爺さんのセクハラが、村とミーシアの命を救ったのである。

 人知れず英雄が誕生したのだ!


 しかし続けてボクとカレンのお尻も触って、カレンに空手チョップを食らいこの英雄は倒された。


 栄光と転落。


 人生の縮図がそこにあった。


 次回 「カレン立案の村人脱出作戦開始」


 みのりん、村長危機一髪ゲームをプレイする

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