その3 ギルド会議は踊る
近くの村がゴブリンの軍隊に襲われたという話は、あっという間に冒険者の町中に広まった。
町中がパニックである、あたりまえだゴブリンが恐ろしすぎるのだから。
魔王来襲の時よりパニックに見えるのが少しつっこみたい所だけど、まあ仕方が無いのかも。ビキニだもんね。
早速、冒険者ギルド内で冒険者たちが集まって会議が開かれる、今回も議長は受付のお姉さんだ。
ボクは前回同様〝みのりんハウス〟の下のダンボール箱の中で、邪魔にならないように参加。
これまた前回同様〝みのりんハウス〟のテーブルにはカレン、ミーシア、サクサク、セーラー服タンポポが着席していた。
そしてボクはテーブルの下でまたもや八本の太モモに囲まれている。ヤマタノオロチだよ恐ろしい。
この窮地に陥ったのも全てゴブリンのせいだ、とんでもないモンスターだ。
「皆さんも既にご存知だと思いますが、近くのリンリン村が〝みどりのゴブゴブ〟の軍隊に襲われました。逃げてきた村の少女によると数は二百匹はいたそうです」
ギルド内にどよめきが起こる。
当たり前だ、さすがに軍隊と言うだけあって数が多い。
そんなの中隊クラスじゃないか、せめて分隊で来てもらいたいものだ。
「これは魔王軍がいよいよ動き始めた兆候かも知れません。いずれこの町も襲われる事になるでしょうが、ギルドとしてはその前にリンリン村の奪還を考えています」
ざわざわと喧騒に包まれるギルド内、『行けるわけねーだろ!』と怒号なども飛び交っている。さすがに相手が多すぎるのだ。
「そういうのは国の仕事じゃないのかよ」
「今国が軍を動かして魔王軍と正面から対抗するのは、好ましくないという考えらしいですね。なるべく全面戦争を避けたいのでしょう」
「パンティーの森は効果無かったのか?」
一人のオジサン冒険者が聞いた。
「パン……」
言いかけて受付のお姉さんの言葉が一瞬止まる。
そういえばこのお姉さんのパンツも、現在あの森でそよ風にひらひらと踊っているはずだ。
「占い婆によりますと、パンツの森では現在一枚のパンツが〝まじない〟の効果を発揮しているそうです。それはカレンさんのパンツだそうです」
テーブルの上で『ゴン』という音がした。
多分カレンがテーブルにおでこをぶつけた音だろう。
「ですが、相手の数が多すぎました。ゴブリンたちが森を通って来なかったというのも一因でしょう」
「じゃあカレンちゃんの、おパンティーが二百枚くらい必要って事かな?」
オジサン、その言い方やめて下さい。
座っているカレン(の足)を見ると、ぶるぶる震えながらロングソードに手をかけようとしているではないか。カ、カレン落ち着いてください。殿中でござる。
さすがにカレンに申し訳なく思ったのか、受付のお姉さんはゴホンと咳きをしてさっきの質問を無視して続けた。
「もし奪還が無理ならせめて村人たちを救出したいのです。村に侵入して救い出すパーティはいませんか、奪還ほど報酬は出ませんが救出報酬は出ますよ」
受付のお姉さんは、集まった冒険者たちの顔を眺めていく。
「私が行く!」
少女冒険者が立ち上がったようだ、しかもこの〝みのりんハウス〟の席で。
机の下から這い出して、立ち上がったカレンを見つめる。
もちろんボクも行くつもりで出てきたのだ。
「ボク……も行く」
「カレンとみのりんが行くのなら私も」
ミーシアも立ち上がった。
「私も行くかも、ゴ……友達は大切なんだもん」
タンポポも立った、恐らくお姉さんの言葉の最後の部分『救出報酬』だろう。今ゴールドと言いかけましたよね。
そしてサクサクも立ってくれた。
「今回こそは私も参加するね! キラっ」
おおー心強いよサクサク!
「カレンさん、何もこれはあなたの責任じゃないんですよ?」
顔を真っ赤にして立っているカレンに、受付のお姉さんはさすがに心配そうだ。
周りの冒険者たちがザワザワしだした。
一人の女の子に何でもかんでも背負わせていいのかと。
「俺も行く!」
一人の冒険者が立ち上がる。
「俺も!」
「ワシもだ!」
「ハハハ、俺が行かないと話にならんな」
これが引き金になって冒険者の男の人たちが一斉に立ち上がった!
感動的なシーンに涙が落ちた、ボクの頬を伝って涙が止まらない。
カレンが皆を動かしたのだ!
「リンリン村への侵入ですが、冒険者の皆さんには、バレて村人に危害が及ばないように女性用の水着着用で行って頂きます。ビキニです」
男の人たちが全員着席した。
「最近腰が痛くてのう、引退しようかとも思っておったんじゃ」
「俺は腹痛が痛くて」
「そうそう、道の小石の数を数えなきゃいけなかったんだ」
結局冒険者ギルドで立っているのはボクたち四人だ、カレン、ボク、タンポポ、ミーシア……あれ? サクサク?
サクサクはさっきまで『キラっ』とやっていた人とは思えない、神妙な面持ちで座っていた。
ちょっと目が泳いでいる。
「サクサク……?」
思わず声をかけるとサクサクは両手で顔を押さえた。
「ごめんなさいみのりん! 毎日食っちゃ寝食っちゃ寝してたらお腹がとんでもない事になってるのよ! とても水着なんて着られない! そういうのは二、三ヶ月前から言っておいてもらわないと無理なのよ!」
ガチ泣きである。
さすがに本気で泣いてる女の人(二十七歳・自称十七歳)に強要はできなかった、タンポポがぽんぽんと肩を叩いている。
サクサクはこれを機に飲酒を控えてくれるといいんですが。
「おいおい意気地のねえ連中だな! みのりんちゃんが行くのなら俺も参加するぜ!」
遅れてギルドの入り口にやって来たのはマンクだ。
マジですかあなた。
その後ろには『うむ』と頷いたサムライがいた。
あなたもマジですか。
久しぶりに顔を見て生存確認をできたのはいいんだけど。
マジですかあなたたち。
次回 「水着パーティ出撃せよ」
半分は天国、半分は地獄の恐ろしいパーティが生まれてしまう