勇者の質が低下してます
だが、その統計学も最近は限界を露呈しつつある。
「最近、勇者は人手不足なんですよ……」
強気な王様と異なり、大臣は現場で消耗させられている勇者を目の当たりにしてか、その声にはどことなく力が込もっていない。
「人手不足?マジで?」
「ハイ、誰も勇者をやりたがらないと」
「何で?」
「先ほども申し上げました通り、褒美が少ないからです」
勇者は正規兵ではない。したがって、その頭数が減るのは一向に構わない。それに、褒美の量が少ないから勇者の質が下がるのは、ある意味で自然の摂理だといえる。
だが街に損害が生ずれば、それは税収が減ることを意味する。
税収減とは、即ち王様の周囲に侍らせる踊り子のリストラを意味するし、また兵士達の給料が削減されることでもある。
そうなれば兵士の質が低下し、王国の基盤が揺らぐことにもなりかねない。
「チッ、しゃーねーな」
「では、褒美を……」
「てゆーかさ、最近の勇者って危機感なくね?」
「いえ、そのような事は……」
「庶民なんて、王様の言葉だけで生きていけるんだよ?」
「(ねーよ! )仰せのとおりでございます」
「もうちょい、マシな奴連れて来いよ」
「はっ、仰せのままに……」
大臣は「困った」と思った。
今や若者の憧れは勇者ではなく、正規兵である。
「安定した収入と、約束された出世」
この先行き不透明な時代、本人はもちろんの事、彼等の親も我が子にそうあって欲しいと考えるのはある意味、仕方のない事なのかもしれない。