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与えられた場所で戦いなさい
とはいえ、彼等が勇者を続けるのには一応、それなりの理由があった。
なぜなら農村や漁港から物資を町に届けるには、山や海。そして時には砂漠や洞窟を越えなければならない。
むろん、そこには魔物が跋扈しており、物資はもちろん、時には人の命が奪われることもある。
「踊り子には指一本、触れさせない! 」
旅芸人一座の馬車の中、不安そうに外を眺める可憐な踊り子を前に、勇者の鼻息は人一倍荒い。
それは裏を返せば「俺は正義の勇者だから、指一本どころか全身触れても許されるべき」という下心の表れでもある。そして、そんな彼等を「用心棒」「ゴロツキ」と蔑む者は決して1人や2人ではない。
だが最初から強く、そして名声を獲得した勇者なんて存在しない。どんな勇者にも下積み、あるいは雌伏の時は存在するものである。
「与えられた場所で戦いなさい」
かつて勇者だった者達が、最近の勇者に対して使う常套句であった。
むろん、それが「勇気の搾取」として批判の対象となっていることを彼等は知らない。たとえそれが、時には魔王以上に厄介な存在だとしても、である。